甘いお茶をあなたに
クレアが奴隷の枷を外され、フロイラン王国の第一王子、シルヴァの恋人として、彼と一緒に午後のお喋りを楽しんでいたときだった。
場所はシルヴァの私室だ。クレアがいつもの癖でお茶を淹れようとするのを止め、「僕が淹れるよ」とシルヴァ自ら銀製のポットを手に取った。
「そんな、あなたにお茶を淹れさせるなんて畏れ多いのですけど」
「なにもできない、肩書きだけの王子なんて魅力に乏しいと思うよ。それともなにかな、僕のお茶は飲めない?」
「そんなことありません」
きっと真面目な顔になるクレアが愛おしい。何度身体を重ねても、彼女なりの生真面目さは崩れないようだ。そのことにシルヴァは微笑み、少し濃いめの紅茶に、ある秘密をこっそり溶かし込んで彼女に渡した。
「さあ、どうぞ」
「ありがとうございます。わあ……いい香り。花の香りがします」
「ああ。東の国から取り寄せた逸品なんだ」
シルヴァもお茶を楽しむが、もちろんこちらのカップには紅茶以外なにも入っていない。
「そういえばクレア、いま履いている靴はどうだい。少しきつめかな?」
「爪先が少しだけ。でも、履いているうちに馴染んで革が柔らかくなると思います。シルヴァ様、いつも申し訳なく思うのですけど。こんなにたくさんの素敵な靴を作っていただいて……」
困った顔もまた可愛い。
行儀よく両膝をそろえている足に、明るめのブラウンの革で作られた編み上げ靴がぴったりだ。
以前、これと似たデザインのものをよく履かせていたが、今回はクレアの肌色にかぎりなく近い革を靴職人のアロイスに探させ、作らせた。
「今度は膝上丈の靴を作らせようか。いちいち革紐を編んでいく手間があるけど、きみの美しい足が靴に大切に包まれているところが見たい」
「もう、シルヴァ様ったら……きっとまた、踵は高いんですよね?」
「ああ、きみが嫌じゃなければ」
「踵がどんなに高くても、きつい靴でも、わたし、履いてみせます。そして、ずっとシルヴァ様のおそばにいるとお約束します」
にこりと微笑むクレアの目元がほんのり赤く染まる。
カップの中を見ると、もう空だ。
「お代わりを飲む?」
「いえ、……大丈夫です」
健気にも姿勢をただして座っていようとするクレアだが、両手を腿のうえで固く握り締め、なにかを耐えている様子だ。
静かにしていると、クレアの息遣いがほんの少し乱れていることもわかる。
思いきって彼女の腰を掴み、膝の上に座らせると、びっくりした顔が向けられた。両の瞳があきらかに潤み、身体もじわりと熱い。
「シルヴァ様……っ」
「もう、待てないんじゃないのかな」
「……ぁ……」
向かい合わせに座ったクレアの首筋に軽く噛みつきながら、膝下丈のワンピースを少しだけめくる。
肌の色と近い靴を履いたクレアはシルヴァのいたずらを咎めるように上目づかいに睨んでくるが、その鼻先にくちづけると、くすぐったいのだろう。くすくす笑い、クレアはシルヴァのくちびるをおとなしく受け止めた。
「ん…、っ、ふ…ぅ…ぁ…っ…」
甘い舌を搦め捕り吸いながら、彼女の身体をまさぐった。
ワンピースの下にはコルセットをつけず、柔らかな絹のシュミーズだけつけておいで、という言いつけをクレアは真面目に守ったらしい。
ワンピースの上からまろやかな胸を揉みしだき、布越しにもわかるほど乳首がふっくらと育つと、カリカリと爪先で引っ掻いた。
「ん、ン…っ、ぁ…っ、や、シルヴァ、様…っ」
いやいやとクレアは頭を振るが、押しつけてくる身体が熱い。
「胸、ばかり、いじめないでください……」
「だって、ここを苛めるときみはすぐ熱くなるだろう? 僕の可愛いクレア、下はどうなってるのかな」
肌色の靴を履いたままワンピースをまくり上げ、ドロワーズがじわっと濡れていることを確かめると、あらかじめ切れ込みが入っている場所から指を挿し込んだ。
「あ、あ、っ!」
このドロワーズもクレア専用に特別に作ったものだ。いつでもどこでも彼女が欲しいシルヴァは秘密裏にクレアを愛で、嬲る道具を、器用なアロイスにいくつも作らせている。
ドレスはまたべつの者に作らせているが、彼女の秘密の場所を下着の上からでもいたずらできるこのドロワーズは、シルヴァも気に入りの品だ。
「ほら、見てごらん。きみの蜜でとろとろだ」
蜜を指ですくい取り、目の前でわざと音を立てていやらしく舐めしゃぶると、クレアの頬がこれ以上ないぐらい赤く染まる。
「なん、か……、身体が、熱くて……へん……です、シルヴァ様……」
甘い香りを漂わせながらしがみついてくるクレアの耳元で、「ごめん」とシルヴァは笑い交じりに囁いた。
「きみのお茶にちょっとした催淫剤を仕込んだんだ。大丈夫。一瞬熱くなるだけの薬だから」
「え、……くす、り……? あ、あぁ、シルヴァ様、そこ、だめ…ぁ…っ」
切れ込みは花びらの形に割れ、服を着ながらにして交われる。そのことがシルヴァを興奮させ、クレアを恥ずかしがらせるのだ。
「まだ、お昼、なのに……っ」
「でも、きみのここはもうくちゅくちゅになってるよ。ああ、舐めてあげたいよ……見せてごらん」
「ッん、ん」
真っ赤な顔をするクレアが少しだけテーブルにもたれかかり、ぶるぶる震える片足を持ち上げる。靴を履いているが肌色のせいで、素肌のようにも見えるのが倒錯的だ。
シルヴァはその足首を掴んで横に開き、フリルの奥に濡れきった花弁を見つけて片頬で笑う。
「こんなにびしょびしょにさせて……薬だけでこんなになってしまうの? クレア、僕じゃなくても、薬を盛られたらいつでもこんなふうに蜜を溢れさせてしまう?」
「ち、が……っ、そんなこと、しません、……シルヴァ様だから……相手がシルヴァ樣、だから……っあぁ、なぞったら…っ…ん、あ、や、あっ」
愛蜜で濡れそぼつ花芽を摘んで転がし、指先で花びらを縦に割るように執拗に擦ると、クレアがひときわ高い嬌声を上げてびくびくっと身体を震わせた。
「もしかして、もういった?」
「ん、……は、い……」
涙目になっていても、まだ身体の疼きが収まらないらしいクレアの蜜壺に指を挿れると、きゅうっと柔らかに締め付けられて気持ちいい。
「……だめだ、やっぱりこのまま終われないな。きみの中に挿れさせてほしい、って言ったら怒るかい?」
「……怒り、……」
「クレア?」
心配になって彼女の顔をのぞき込むと、情欲の引かない潤んだ瞳で見つめてくるクレアが、たどたどしくくちづけてきた。
その甘く真面目なくちづけが、シルヴァを虜にしてしまう。
「……怒りません。だって、わたしも、シルヴァ様が欲しいって思ったから……、っッん、あ、っ!」
彼女が言い終わらないうちに、シルヴァは己のものを取りだし、彼女の秘裂にあてがってずくんと挿し貫いた。
「……いつもより、熱いよ……クレアの中が締め付けてくる」
「や、っ、あっ、シ、ルヴァ、さ、ま、…ッお、っきい…っ」
膝に座らせたまま丸い尻を掴み、ずちゅずちゅと突き上げる。出し挿れするたび、濡れた欲望にクレアの襞が淫らにしっとり絡みついてきて、加減しようにもできない。
「クレアも、動いてごらん」
「んっん、は、奥まで、…届いちゃう、っ…」
つたなく腰を揺らすクレアが官能的だ。シルヴァのものを最奥まで受け入れ、じゅくっ、と淫猥な音を響かせるクレアの愛おしくも色香に満ちた姿にたまらず、シルヴァも下から強く突き上げた。
ワンピースの前ボタンを開けてシュミーズを押し下げ、ふっくらと赤く色づく乳首に吸いつきながら何度も激しく穿った。とくに、最奥に亀頭を擦りつけるようにするとクレアは感じてしまうらしい。
「い、シルヴァさ、ま…いっ、いく、いっちゃ、…ッっぅ…っ!」
「いいよ、僕も――きみの中でいきたい」
抱き締め合いながら高みに昇り詰め、絶頂に掠れた声を上げるクレアの中にシルヴァはたっぷりと放った。
どくっと脈打つものを楔にして、ずっと彼女と繋がっていたい。
「不用意に動くと、僕のものが零れてしまうかも。ああ、……すごくよかった。もう一度、したいな」
「……シルヴァ様ったら、……」
怒るだろうか、と少し心配していると、猫のようにしなやかに身体を擦り寄せてくるクレアが、恥ずかしそうに笑う。
「私も……シルヴァ様と同じ気持ちです」
「ほんとうに?」
「はい」
「じゃあ、したいって言ってみて。怒らないで、クレア。きみの生真面目さを僕は心から愛しているけれど、たまにはきみから求めてほしくて、催淫剤を入れたんだ」
「……そこまで言われたら、断れません」
くすりと笑ったクレアが弾みをつけて抱きついてきた。
熱く、香り立つような身体を抱き締めているだけで、――次はどうしようか、と頭の中であれこれ考えてしまう。
「……あなたの好きにしてください、わたしの大好きなシルヴァ様」
「もちろん。僕の愛がどれだけ深いものか、きみにはもっと知ってもらわなくちゃね。――今度はたっぷり時間をかけて舐めてあげるよ、きみの身体の全部を」
窓の外の陽はまだ高いところにあったが、お熱い恋人たちには互いの姿しか目に入らない。
クレアとシルヴァは互いに顔を傾けて微笑み、ゆっくりとくちびるを近づけていった。