終わらない奔流
害草は金になる。ラッチランド侯爵領では害草対策に多額の資金をつぎこんでいるが、それを上回って余りあるほどの莫大な利益をもたらしてくれた。
害草由来の商品は高値で取引され、中でも媚薬は人体に悪影響がないゆえに人気を誇っている。いつの世も性的嗜好品は一定の需要があるのだ。
セーネが発見した新種「セーネ草」も性的分野において大いなる可能性を秘めていた。
しかも発見された周辺の未踏地帯を捜索したところ、同じ種がいくつか見つかったのである。
第一発見者の権利としてセーネはこの新種の使い道を考えていた。成分分析は終わっているので、どう加工すればいいのかある程度の方向性は見えている。
就寝前にベッドで分析資料を眺めながらあれやこれや考えていると、夫であるエルダリオンが寝室に入ってきた。侯爵としての仕事もある彼は、就寝前に報告書の確認と決裁書類の押印をしてきたらしい。
「まだ起きていたのか?」
草官は身体が資本だ。睡眠は大事であり、いつもなら夫を待たずに先に寝ている時間である。
しかし、今日は特別だった。
「明日はお休みなので、少しくらい夜更かししてもいいかと思いまして」
「そうか、そうだったな。なにを見ていたんだ?」
エルダリオンはベッドに上がってきて、セーネの手元の資料を覗きこむ。
「セーネ草なんですけど、せっかく新たに見つかりましたし、なにか作れないかと思いまして」
「なるほど、それは悩ましいな。この手の害草は媚薬が妥当だが、いかんせん効能が強すぎる」
身を持ってセーネ草の効果を経験した彼は悩ましげに頷く。あそこまでの催淫効果は毒といっても過言ではないだろう。
「催淫効果を抑えて媚薬にすることも考えたんですけど、わざわざセーネ草を使わなくても栽培が容易な別の種がありますよね。セーネ草が他の種と違う点って、精液の量を増やすことだと思うんです。これって、子供を作りたい夫婦への補助的な薬になりませんかね?」
「そうか、そういう方向性か! さすがだな、いいと思う。よく思いついたね」
彼が感心したように見つめてくる。彼に認めてもらえてセーネは嬉しくなった。
――だから、ついつい口を滑らせてしまったのだ。
「実は、あの日のことが忘れられなくて……。初めてだからなにが普通なのかも知らなかったのですが、注がれても注がれても終わらなくて、ずっとお腹に熱いのを出されつづけるのが、とにかくすごくて……」
初めての日のことを思い出し、セーネは頬を染めながらほうっと息をつく。意図せぬ交わりだったけれど、今となっては大切な思い出だ。
「それで、思いついたんです」
うっとりとした表情を浮かべるセーネを見て、エルダリオンは真顔になる。
「そんなによかったのか? もしかして、今の行為は物足りないのか?」
少し不安げな彼の声にセーネははっとした。もしかしたら、夫婦生活にセーネが満足していないと勘違いさせてしまったかもしれない。
(十分すぎるほど激しくってしつこくって、ねちっこいのに……!)
セーネは慌てて否定する。
「いいえ、別にそんなわけでは! 印象的だっただけで、特別にあれが好きというわけではありません」
「……そうか、わかった。覚えておこう」
彼はそう答えたものの、どこか納得していない表情をしている。
――ちなみにその後、やはり気にしていたのか一度も抜かれないまま中に出されつづけて、最終的にはあの日のようにセーネの中が彼の精で満たされた。
◆ ◆ ◆ ◆
――エルダリオン・ラッチランドはやると決めたらやる男である。
そもそもセーネを娶ると決めた彼は断られても簡単には諦めず、最終的に結婚した。
そんな彼の最愛の妻には「忘れられない行為」があるというのだ。自分の技量で再現できるものならしているが、生憎外的要因がなければ不可能な行為である。
そうなれば彼が取るべき手段はひとつ。エルダリオンはセーネの研究を全力で補助し、案を出し、実験を繰り返し――とうとう三ヶ月で試薬を作り上げてしまったのである。
ある休日の昼下がり、「例の試薬が完成した」とエルダリオンに瓶を渡されたセーネはしみじみと呟いた。
「まさか、こんなに早く完成するなんて……」
人命に関わる薬ならともかく、緊急性のない性的分野向けの薬の優先順位は低いので、完成まで最低でも一年はかかる。それにもかかわらず短期間で試薬が完成してしまい、天才が本気を出すとはこういうことなのかと舌を巻いた。
「君が優秀だったからだよ。精液の量を増やすなんて思いつきは俺にはなかった。その性質を引き出すのは初めてのことだから、他の皆も協力的だったしね」
セーネとて若くして国試に合格し、ラッチランド研究所に異動してきた優秀な草官だ。決して謙遜するわけではないけれど、それでもエルダリオンの分析力と指示は自分よりもはるかに的確で、研究所内の各専門家に作業を配分し、ほぼ迷うことなく試薬を完成させたのである。
この試薬は例のキツネ草の村で何度も実験済みだそうだ。
セーネにとっては嫌な思い出の残る村だが、どのような様子かこの目で見てみたいと申し出ても断られてしまった。かなり過激な治験まで行われているはずなので、もしかしたら人の姿を保っていない者がいるのかもしれない。草官である以上は凄惨な光景も見慣れているけれど、エルダリオンが止めるからにはよほどのものなのだろう。
村全体が治験場になってしまったあの場所が今どうなっているか気になるけれど、エルダリオンが時折足を運んで様子を見ているようだし、セーネは我が儘を言わないことにした。
その代わりに近場の治験施設の見学には行かせてもらっている。報酬が高額な治験ほど危険なので、こちらもこちらでなかなか壮絶な現場に遭遇することもたまにあった。あんな生き地獄を経験してもなお、賭け事を止められずに借金を作る者がいるのだから恐れ入る。
――ともかく、幾度にもわたる治験で精液を増やす試薬の安全性は証明された。あとは試すだけである。
「じゃあ、さっそく飲んでみてもいいかい?」
エルダリオンは小瓶の蓋を開けた。
「え? この試薬、即効性ですよね? まだ日が高いですよ?」
「なにを言っている。こういうのは明るいうちに試したほうがいいだろう」
「それはそうですが……!」
確かに実験は明るい時間にするべきだ。しかしこの実験には性行為が伴うし、それには明るすぎる気がする。
セーネが戸惑っているうちにエルダリオンが試薬を飲み干した。彼はセーネを抱き上げてベッドへと向かう。その足取りは軽い。
「初めての時のように、忘れられない経験をさせてあげよう」
この時のために尽力してきたのだと言わんばかりの誇らしげな表情だ。
(こ、これは覚悟しなければ……)
これから始まる濃密な時間を察知して、セーネは喉を鳴らした。
◆ ◆ ◆ ◆
セーネ草から作った試薬は精液の量を増やすことに特化し、催淫効果はほとんど抜いている。それなのにエルダリオンの雄は最初から大きく昂ぶっていた。かなり興奮しているようだ。
セーネもセーネで、最初の時のようにたっぷり注がれてしまうのかと想像しただけで身体が熱くなり、いつもより感じてしまう。
「ほら、もうこんなに濡れている。やはり君はこういう性的嗜好があったのか」
そんなことを言いながら彼はセーネを責め立てた。いつもよりは少しだけ早急な、それでも丁寧すぎる前戯だ。
ようやく繋がる瞬間、彼は目を細める。
「ははっ……。あの時の俺は催淫効果のせいで素面ではなかった。君が虜になったという経験を今度はしっかりと経験できるのかと思うと胸が躍る……!」
「あっ、あぁ……!」
熱杭がゆっくりとセーネの中に侵入してきた。媚肉が左右に割られ、浮き立った太い筋が内側をなぞってくる。美しい顔に似合わず彼のものは猛々しかった。
腰が密着した瞬間、臀部に陰嚢が当たる。気のせいでなければ、いつもよりも強く陰嚢の感触が伝わってきた。あの日みたいに陰嚢も大きくなっているのだろう。
「旦那様……っ」
口づけをねだれば唇を深く吸われた。腰を軽く揺らされると、中を動く肉茎よりも外側の陰嚢のほうが気になってしまう。
(この中のものが、これから私に――)
セーネも昂ぶってしまい、自ら彼の舌の根まで強く吸い上げた。広い背中にしがみつくと、とたんに彼の腰遣いが激しくなる。
「んうっ! んっ!」
唇をしっかり合わせたまま彼は腰を穿った。彼のおかげで一番感じる場所になってしまった最奥を容赦なく小突かれる。
「あんっ、はぁ……」
催促するみたいにセーネの内側が彼をきゅっとしめつけた。答えるように優しく頭を撫でられる。
彼の指先がセーネの髪を梳いた後、強く抱きしめられた。腰が密着して深い場所を押しつぶされる。熱杭の質量が増し、ぶるりと震えた。
(くる……!)
そう思った次の瞬間、雄液が放たれる。勢いよく最奥に叩きつけられる熱はとどまるところを知らず、ずっとセーネの中を満たしつづけた。
いつの間にかエルダリオンは唇を離し、セーネの顔を観察するように覗きこんでいる。
「あっ、ああっ! あ――」
内側に熱いものが注がれる感触に、たまらずセーネは達してしまった。びくびくと蜜孔が痙攣するけれど吐精は止まらない。何回かにわけて、ずっと奥を濡らしてくる。
「んっ! はぁ……っ、やぁ……! また……っ」
最奥に先端を押し当てられ、蓋をされたまま精を注がれていく。
これは普通の交わりでは絶対に得られない感覚だ。そして、あの日経験した長い吐精とまったく同じである。
「ああっ!」
セーネは背筋を仰け反らせながら三度目の絶頂を迎えた。それでも精は止まらない。
「んん……っ、あっ。ん……っ、はぁ……っ、あ――!」
四度目に昇りつめたところで、ようやく吐精が終わった。エルダリオンは満足げな表情を浮かべている。
「かわいかったよ、セーネ」
彼は連続で高みに導かれて呆けているセーネの額に唇を落とした。
「そんなによかったのかい?」
「だ……って、お腹……っ、熱くて、いっぱいで……」
息を切らせ、涙目でセーネが呟く。まだ彼のもので栓をされているので、たっぷり注がれた精は内側にすべて留まっていた。
あの時は吐精した後すぐに掻き出してくれたのに、今の彼はこの状況を楽しんでいる。
「すごく乱れているね」
彼が軽く腰を揺らした。精が奥に押しこまれて、セーネは軽く達する。
「んうっ!」
「おや、甘く達したのかい? ……そんなに俺の精が気に入ったのかな?」
「は、はい……」
セーネはこくこくと頷いた。
「じゃあ、このままもっと奥を刺激してあげよう」
「え?……っ、ああっ!」
エルダリオンはセーネの顔を挟むようにして両手をつくと腰の速度を速めた。激しい抽挿で泡立った精が掻き出され臀部の下に大きな染みが拡がっていく。その一方で、さらに深い場所に押しこまれる精もあった。
「はあっ、あ……っ、あ」
「はぁ……。中、ぐちゃぐちゃだ……。ンっ、こら、そんなにしめつけないでくれ。またすぐに出てしまうだろう? それとも、もっとほしいのかな?」
「待って……! これ以上っ、中に出されたら、私……っ! あっ、ああっ!」
「ははっ、そうは言われても……クっ、そんな眼差しで見つめられたら、ン、おねだりされているみたいじゃないか……」
彼はセーネの耳元に唇を寄せた。熱い吐息と共に掠れた声が耳朶に滑りこんでくる。
「どうする? 次は外に出す? はぁ……っ、それとも……このまま中に?」
エルダリオンはセーネに選ばせてくれた。もしセーネが限界を感じていれば無理しないでくれるのだろう。
――それでも。
「あっ、ああっ……お願い……」
セーネは両足を彼の腰に巻きつけた。楔が抜けないくらいに下腹部が密着する。
「ふふっ。わかったよ、セーネ……! 次の吐精で君は何回果てるんだろうね? 俺が数えていてあげるから、好きなだけ達するといい」
耳朶を食まれた瞬間、セーネは高みに上りつめた。
二回目の吐精までは長く、精液と愛液で濡れそぼった蜜壷をさんざん蹂躙された後、ようやく彼が熱を放つ。容赦なく注がれる精がセーネの中を満たしていった。
「あぁ……」
快楽にすすり泣きながら必死になってエルダリオンにしがみつく。終わらない奔流がセーネを乱す。
――その後、月に一度はエルダリオンがこの試薬を使うようになったのは、また別の話である。