プロポーズのやり方なんて知らない
アーヴェル王の国葬が行なわれた日、グレンは国境の警備が緩くなった隙をみて無事に国境越えを果たした。
ルネを連れて帝都までひた走り、そのまま屋敷へ直帰するつもりでいたが――またしても帝都の関所でアイザックの待ち伏せに遭う。
アイザックは相変わらずの上から目線で、エルヴィスに帰還の挨拶をしに行けと命じると、ルネを一瞥して付け足した。
「ルネも陛下の御前へ連れて行け。大事な話があるからな」
傲岸な口調でそう言い放ち、アイザックはさっさと馬車に乗りこんでしまう。
「私も陛下にご挨拶はしたいけれど……この格好でも平気かしら」
「構うものか。さっさと挨拶を終えて屋敷へ帰るぞ」
身支度を整えるべきじゃないかと心配するルネを伴い、グレンは城へ向かった。
皇帝エルヴィスはにこやかに二人を出迎えて、帰還を労う言葉をくれたあと、思いがけない通告をしてきた。
「何度か面談をしたあとで正式に決定するが、今後はルネをニキータの側仕えにしようと考えている。アーヴェル王国の名家、ラスビア公爵家の令嬢として育ったのなら、皇后の側付きにするとしても申し分ない生まれだからね。ニキータも乗り気だし、ジェノビア帝国が亡命貴族にも寛容であると知らしめるのにもちょうどいい」
皇帝の言葉を聞き、グレンは顔にこそ出さなかったが内心ひどく不愉快になった。
表向きの理由はともかく、言外に秘められた意図を感じ取ったからだ。
――ルネをニキータの側仕えにすることで、僕に勝手な真似をするなと暗に伝えているんだな。ルネを追いかける許可が出なければ、僕が従うのをやめると言ったから……大方アイザックの提案だろう。
澄まし顔で控える宰相を横目で見やり、グレンは苦々しい想いで唇を噛む。
正直なところ、この申し出は一蹴してやりたかった。ルネが皇后の側仕えとなれば必然的に社交場へ顔を出すことが増えるし、グレンとしては彼女を屋敷に囲い、表に出すのは控えさせようと考えていたところだ。
とはいえ、グレンに皇帝の提案を断る権限は与えられていない。ましてや皇后の側付きとなれば破格の待遇だ。
いずれにせよルネを側に置きつつ変わらぬ生活水準を保つには、皇帝の提示する条件を呑む必要がある。ルネだけ連れ、他のあらゆるものを捨てて別の場所で生活するという案も頭を過ぎったが、アイザックが追手をかけるかもしれない。
そうなるとルネの身に危険が及ぶ可能性がある。
なればこそ彼女に安全で衣食住の困らない生活を与えてやり、なおかつグレンの側に置くためには、やはり皇帝の条件を呑むのがいちばん賢い手段だろう。
冷静にそう結論づけて、グレンは隣で頭を垂れるルネの背を撫でてから拝礼した。
「かしこまりました、皇帝陛下。僕に異論はありません。皇后陛下にもよろしくお伝えください」
従順な応えにエルヴィスは満足そうに頷いたが、不意にルネが口を開く。
「恐れながら、皇帝陛下。私からも一つよろしいでしょうか」
「ああ。言ってみなさい」
「ラスビア公爵家はすでに爵位をはく奪されております。アーヴェル王国では周知の事実ですし、今の私は貴族ではない平民です。それでもよろしいのでしょうか」
「それなら問題ないよ。君がラスビア公爵家の出身であることが重要なんだ。今や公爵位をはく奪したアーヴェル王も亡くなったし、今後の君は『カリファス将軍の妻』として帝国内で周知されるようになるだろう。だから身分については気にする必要がない」
将軍の妻、と。エルヴィスは事もなげに言ってのけた。結婚の許可をくれたも同然の発言で、気難しい宰相の顔がにわかに険しくなったが反論は飛んでこない。
顔を赤らめたルネが黙りこむのを横目に、グレンは下がっていいぞと鷹揚に告げる皇帝に恭しく一礼した。
エルヴィスが数日の休暇をくれたため、丸一日の休みを挟んで、ルネを行きつけのレストランへ連れて行った。彼女が所望したチキンをたらふく食べさせてから意気揚々と屋敷へ帰り、自室に連れこむ。
昼夜を忘れて交合に耽り、グレンはぐったりするルネを抱きかかえて零した。
「気乗りしないな」
「……ん……何が?」
「ルネをニキータ付きにさせること。お前はただ僕の側にいればいいだけなのに、余計な手間と面倒が増える」
口を尖らせて愚痴ったら、ルネの手が伸びてきて宥めるように髪を撫でられる。
「言いたいことはよく分かるわ。正直、私も驚いたけれど……私を皇后様の側仕えにさせたらメリットが多いのかしら。反論も許されない感じだったから。でも、この国で生きていく限りは逆らわないほうがいいんでしょう」
ルネが物憂げに声をひそめる。どうやら彼女も見えない圧を感じ取っていたらしい。
「とにかく皇后様にお仕えしてみる。グレンに迷惑をかけないように気をつけるわ」
「別に気をつけなくていい。もし何かあったら、お前を連れてここを去る。それで追手の届かない、遠く離れた地で暮らすから」
ルネの薔薇色の髪に頬を寄せて呟いたら、彼女が瞠目した。
「そんなふうに考えていてくれたの? 前は、今の生活を手放す必要性を感じないって言っていたのに」
「前はな。もちろん衣食住の整った生活も大事だけど、今はお前のほうが大事だ」
率直に本心を告げると、相好を崩したルネが抱きついてくる。
愛らしいキスの嵐をお見舞いされたので、グレンも負けじと彼女を抱きしめて存分にやり返した。
「――それで、隊長。ルネにはいつプロポーズするんですか?」
休暇を終えてまもなく、隊の実技訓練の休憩中にフランクが「今日はいい天気ですね」と切り出した流れで尋ねてきたので、グレンはまじまじと部下を見つめた。
「なんだって?」
「だからプロポーズですよ。無事に帰国できたし、ルネと結婚するんですよね」
「は? 結婚?」
「えっ、しないんですか?」
いつの間にか休んでいる他の部下たちの距離が近くなっていた。皆、一斉に聞き耳を立てている。上官の結婚話に興味津々らしい。
「ルネは隊長の屋敷で暮らすんですよね。まさか愛人として側に置くつもりですか?」
「いや。ルネ以外の女は興味がないし、恋人として側に置くつもりだけど」
表情を変えずに即答したら、フランクは恋愛話に興じる若い女たちみたいに目を輝かせた。反対側にいたトマスも薄らと笑みを浮かべる。
いつもはグレンと距離をとっている他の部下たちまで、なんだかにやけていた。
――この鬱陶しい反応は、いったいなんなんだ。
思わず眉間に皺を寄せると、フランクが肘でつついてきた。
「上流階級のアレコレはよく分かりませんが、ルネは生まれや育ちもいいし、隊長の妻にしても文句は出ないんじゃないですか」
「……そういえば、今後はルネが僕の妻として周知されるとかなんとか、エルヴィスが言っていた気がする」
「それって、陛下の許可が出ているも同然ですよね。きっとルネも喜びますよ。隊長だって大々的に『ルネは僕の妻だぞ、お前らは指一本触るな』って牽制できますし」
「おい、それは僕の真似か。似てないからやめろ」
口真似をするフランクを睨みつけてから、グレンは腕組みをして考えた。
エルヴィスやアイザックを見ていても、結婚は政略的な繋がりを得るための手段でしかないと認識していた。グレンにしてみればルネと一緒にいられるだけで満足だし、特に結婚する必要性も感じていない。
とはいえ、ルネと関わる中で自分が『恋人』の扱い方に疎いという自覚は出てきた。
――結婚か……帰還の挨拶をした時、エルヴィスはともかく、アイザックも何も言わなかったな。ルネを妻に迎えてもいいってことなのか。
「なぁ。結婚したら、ルネは喜ぶと思うか?」
「そりゃ、女性は好きな男の奥さんになれたら喜ぶものでしょう」
「そういうものか」
「そういうものです」
「ふうん。じゃあ、ルネと結婚するか」
よくよく考えたら、ルネを『僕の妻』と公言できるのは悪くはない。
皇后の側付きになったら否応なく異性と接する機会もあるだろうから、グレンの妻だと宣言しておけば変な虫がつくことも避けられるだろう。
ただし、深刻な問題が一つある。
嬉々とする部下たちを尻目に、グレンはことりと首を傾げた。
「でも、恋人にプロポーズって、どうやったらいいんだ」
なにげなく呟いた瞬間、耳ざとい部下たちが一斉に口を開いた。
きれいな花束を準備しろ、何か贈り物をするべき、結婚指輪がどうとか……あちこちからアドバイスが飛んできて収拾がつかなくなり、グレンは勢いよく立ち上がって「聞きとれないから一斉に言うな!」と怒鳴りつけることになる。
結局あれやこれやと助言を受けたものの、求婚の仕方については意見が多すぎて辟易としてしまった。
帰り際に廊下を歩いていたら、庭園の散歩をしてきた皇帝夫妻と後ろに控えるアイザックと出会う。グレンは挨拶がてら彼らに話しかけた。
「陛下。実は話したいことがあるんですが」
「うん? どうした、グレン」
「ルネを妻に迎えたいと思っています。近いうちにプロポーズします」
一瞬の沈黙に包まれて、エルヴィスよりも先にニキータが割りこんできた。
「ルネにプロポーズですって! 本気なの、グレン?」
「ええ、まぁ……何か不都合でもありますか?」
皇帝と宰相を順繰りに見つめたら、エルヴィスが悠然とした笑みを浮かべて言う。
「お前にとって、それほどルネが大事ということなんだな。ならば、私は反対するつもりがない。結婚の許可を出そう」
アイザックはというと、露骨に顰め面をしたきり無言を貫いた。反対したいけれど主の意向には従うという意思が伝わってくる。
あっさりとエルヴィスの許可が下り、ニキータが楽しそうに顔を綻ばせた。
「喜ばしい話ね。私も先日ルネと一緒にお茶を飲んだけれど、さすが公爵家の令嬢として育っただけあるわ。礼儀正しくて上品な子だった。受け答えもしっかりしているし、頭の回転も速そうね。私、聡明で上品な子が大好きなの」
グレンにはもったいないくらいよ。
皇后が穏やかな口調で一言付け加える。相変わらず下に見られている気がするが、グレンはいつものように聞き流した。エルヴィスもニコニコしながら聞いている。
――まぁ結婚の許可が下りて、ルネが気に入られているのならそれでいい。
「それで、もうプロポーズはしたの?」
「これからです。やり方が、いまいちよく分かっていなくて……とりあえず薔薇の花束と贈り物をするつもりです。それも、店を探すところから始めないと」
「だったらアイザックに教えてもらえばいい。以前は、アイザックがニキータの衣装や小物の手配もしていたからな。その手のことに詳しいはずだ」
「陛下」
アイザックが咎めるように呼ぶが、エルヴィスは爽やかに笑って「色々と教えてやれ、アイザック」と言い残し、ニキータと腕を組んで廊下の向こうへ去っていく。
グレンは気難しい宰相と二人で取り残され、顔を歪めた。
「露骨に嫌そうな顔をするのはやめろ、グレン。私とて陛下の命でなければ、この場に残ったりはしない」
「はぁ……それじゃ、さっさと店を教えてください」
「待ちたまえ。花屋はともかく、何を贈るのか決めたのか」
「何となくは決まっています」
「指輪は準備したのか」
「それもまだ……そもそも指輪って必要なんですか? 僕は平民育ちですが、指輪を交換するなんて聞いたこともありません。たぶん上流階級だけの習慣ですよ。だから別のものを贈ろうかと」
アイザックもなんだかんだで協力してくれるらしく「別のもの?」と尋ねてくる。
グレンはまじめな顔で頷いて、自分なりに考えた贈り物について説明した。
「ルネは姉からもらった香水をすごく大事にしています。あれは僕もかなり好きな香りですけど……ルネには薔薇の香りも似合うと思うんです。髪もきれいな薔薇色だし、あんなふうに大切に持っていてくれるなら……僕も、ルネのために香水を贈りたい」
黙って耳を傾けていたアイザックがまじまじと見つめてくるので、グレンは何故だか分からないが、途中から気恥ずかしくなってくる。ところどころつっかえながら皆まで言い終えたら、アイザックがおもむろに顎に手を添えて唸った。
「これは驚いた。お前がまともな思考を持った人間に見えるぞ」
「僕をいったい何だと思っていたんですか」
「お前は野良犬だ。しっかり首輪を着けておかないと危険極まりない。……だが今のお前を見ていると、陛下の判断は正しかったのだろうなと思う」
アイザックは小声で呟き、口を尖らせて佇むグレンの額を小突いた。
「どうやらルネの存在は、お前に良い影響を与えるらしい。たいした女だ」
「それはルネを褒めているんですか?」
「そうだ。私からの、この上ない賛辞だぞ。そのルネに免じて、女性ものの香水を扱っている店を紹介してやろう。ただし高級店だから紹介なしでは入店できない。私が紹介状を書けば、お前のような不躾な男でも購入できるだろう」
「……お気遣い、どうもありがとうございます。宰相閣下」
皮肉たっぷりな口調のアイザックに、グレンも慇懃無礼に頭を下げた。明日には紹介状を用意しておくと言う宰相に見送られながら城を後にする。
なんとなくアイザックの態度が軟化していた気がするが、たぶん気のせいだろう。
後日、グレンはアイザックが紹介してくれた店まで香水を買いに行った。
若い女性客の視線を完全に無視して、実際に香りを嗅ぎながら、ほのかに薔薇の香りがする香水を選んだ。宰相の紹介かつ若き帝国将軍という上客を得たからか、店主は殊のほか喜んで丁寧にラッピングしてくれた。
ルネの髪にそっくりな色彩の薔薇の花束も用意し、香水の紙袋を携えて帰路につく。
――これでプロポーズすれば、ルネは本当に喜ぶのか?
いかんせん男女の機微に疎すぎて、どんな反応をするのか想像がつかない。
――で、なんて言うんだったか……。
部下たちに教えられたプロポーズの台詞を脳内で反芻していると、屋敷が見えてきた。
グレンは馬の速度を落とし、ロータリーを突っ切って玄関に到着する。すぐにマルコスが現れて「おかえりなさいませ」と頭を下げた。
「ああ。ルネはどこだ?」
「厨房にいらっしゃいます」
「庭園に呼んでくれ。あいつにプロポーズしたいんだ」
馬から降りて花束と紙袋を見せたら、マルコスがぴたりと動きを止める。
優秀な執事は驚きを露わにして固まっていたが、ハッと我に返り、珍しく緩みきった顔で礼をして厨房へ向かった。
グレンは使用人に馬の手綱を預けて、庭園へ足を運ぶ。腕のいい庭師も雇っているので広々とした庭園も手入れが行き届いている。
噴水の前で待っていたら、やがてルネが小走りに現れた。エプロン姿に粉まみれで、焼きたてのクッキーの皿を持っている。グレンに食べさせたくて持ってきたのだろう。
「おかえりなさい。今日はクッキーがうまく焼けたのよ」
マルコスから事情を聞いていないらしく、庭園で花束を持って立っているグレンを見るなり、ルネはきょとんとした。
「グレン、その花束はどうしたの?」
「お前のために用意した。プロポーズしようと思って」
ルネが透き通った翡翠の目をパチパチさせた。
「え……今、なんて?」
「お前にプロポーズをしたくて色々と用意したんだ」
グレンはルネのもとへ歩み寄り、フランクに教えられたとおり仰々しく片膝を突く。彼女の目の前に薔薇の花束を差し出した。
突然の出来事に狼狽するルネに向かって、脳内で練習した口上を告げる。
「愛するルーネット。お前と一生をともに生きていきたい。僕と結婚してくれ」
完全に棒読みではあったけれども教えられたとおりに言いきった。
いつの間にかルネの背後にはリンダとマルコスが立っていて、求婚を見守っている。
しばし沈黙が落ちて、硬直していたルネの顔が柔らかく綻んだ。彼女はすばやく近寄ってきたリンダにクッキーの皿を預けると、花束を受け取ってはにかむ。
「はい、喜んで!」
グレンはすっくと立ち上がり、満面の笑みで応じてくれたルネを抱きしめた。熱烈なキスをしてから、涙ぐむ彼女に贈り物の香水を差し出す。
「これは?」
「薔薇の香りがする香水」
「もしかして、あなたが選んでくれたの?」
「そうだよ。……アイザックに、店を教えてもらった」
紙袋を渡しながらぎこちなく言うと、ルネが輝くような笑顔で抱きついてくる。
「ありがとう、グレン!」
「ああ、うん。嬉しいか?」
「とっても嬉しいわ。まさか、こんなすてきなプロポーズをしてくれるなんて……幼い頃に読んだ絵本の王子様みたいだったわ」
――絵本の王子様? このやり方が一般的じゃないのか。
グレンはわずかな引っかかりを覚えたが、ルネが喜んでいるようなので「まぁいいか」と考えるのをやめた。紙袋を開けて香水を取り出し、はしゃぐ彼女を見ているだけで胸が熱くなる。
「いい香りね。薔薇の匂いだけど甘さは控えめで、普段使いができそう」
「城へ行く時は、必ずそれをつけて行け。指輪も勧められたんだが、高価な『物』よりも『香り』を纏っていたほうが、お前が僕のものって感じがする。だから香水にした」
「ありがとう。私はグレンがくれるものなら、なんだって嬉しいわ」
ルネが改めてお礼を言い、背伸びをしてキスをしてくる。
グレンも喜んで受け入れて、思うがまま口づけながらきつく抱きしめた。
――ルネが喜ぶならいいと思っていたが、プロポーズしてよかったな。フランクや他の連中にも、あとで礼を言うか。
いつの間にか見守っていたリンダが涙ぐみ、マルコスまで目元を赤くしていた。
ルネが試しに香水をワンプッシュすると、彼女のために選んだ甘い香りが鼻腔をかすめて、グレンは今までにない充足感に満たされる。ルネを抱き寄せて頬ずりをした。
のちほど正式な手続きは必要になるけれど、今後ルネはグレンの妻となる。
今まで結婚なんて興味がなかったが、彼女は自分にとって唯一無二の存在だと主張するには最もいい手段だったのかもしれない。
――これから、ルネは僕が選んだ香りを纏って生きていく。ああ、いいな……これで、ルネは僕のものだと公言しているも同然だ。
グレンは満足げに笑んだ。
――あとは、そうだな……いずれ直面しそうな問題といえば……。
毎夜のごとく抱いているから、近いうちに子供ができるかもしれない。
正式に結婚していれば、子供が何人できようが誰も文句は言わないだろう。
血の繋がりにはさほど興味はないけれど、ルネの血を引く子なら、グレンなりに可愛がるつもりでいた。
――正直、子供の扱い方なんてさっぱり分からないが、今のうちから考えておけと部下たちが口を揃えて言っていたからな。一応、頭の片隅にでも入れておこう。
ひとまず結婚式でも挙げるか……なんて、過去の自分だったら考えもしないことに思いを馳せながら、グレンは最愛の恋人を抱擁した。
翌日「教えられたとおりにやったら、うまくいった」と部下たちに報告したら、大きな歓声が上がった。
やや笑い声が混じっていた気がするけれど、グレンは気にも留めずに、次は結婚式の許可をもらうべく皇帝の執務室へ向かうのであった。