リラ祭りの夜に
「もうすぐ花火の上がる時間よね」
ティレナは声を弾ませて、後ろに立つラーシュを振り返った。
教会の鐘楼から見下ろせる街路には大勢の人々がひしめいて、祭りの大締めとなる花火が打ち上げられるのを今か今かと待っている。
見物客の熱気や喧噪も、王都中に植えられたリラの花の香りがここまで伝わってくるのも、ラーシュと初めて会った夜とまったく同じだった。
「それにしても、よかったの? もうあの頃の神父さんはいないのに、勝手にこんなところに入り込んで……」
「ばれたときは謝るさ」
ラーシュは悪びれず、掌で小さな鍵を弾ませた。
捨てることなく持っていた古い合い鍵は、教会の裏口を今も難なく開けられた。自分たちがしていることは、厳密に言えば不法侵入だ。
「これからこの国の将軍になるっていうのに、褒められたことじゃないと思うけど」
「咎められて出世の件がなかったことになれば、それはそれでありがたい」
昨夜聞かされたばかりの話を持ち出せば、ラーシュはしれっと答えた。
「昨日も言ったとおり、俺にとって大切なのはティレナと過ごす時間だからな。ついでに騎士までやめさせられたとしたら、お前は鍛冶屋の女房になってくれるか?」
「それも楽しそう。私も手伝うから、武器だけじゃなく、女性客向けのアクセサリーをたくさん作るといいと思うわ」
ティレナはくすくす笑い、首から提げた鎖を親指にひっかけてみせた。
五枚弁を持つリラの花のペンダントは、この鐘楼でラーシュにもらったものだ。
「懐かしいな……あの夜、お前にそれを受け取ってもらえて、俺はすいぶん救われたんだ」
ラーシュはティレナの背後に寄り添うと、細い腰に腕を回した。
当時のラーシュは、養子先の家族との間に複雑な想いを抱えていたらしい。
誕生日を迎えた義母に贈るつもりで作ったものの、渡し損ねたペンダント――本来なら捨てられるはずだったそれを、ティレナが喜んでもらってくれたから、どん底だった気持ちが慰められたのだと語っていた。
「私こそ、このペンダントに守ってもらったわ」
ティレナは微笑んでそう告げた。
「困ったときや迷ったときは、これに触れて勇気をもらってた。もしかすると、ラーシュと再会できたのもこのお守りのおかげなのかも」
「どうだろうな……なんにせよ、お前とまた会えたことに、こうして感謝するだけだ」
金色の瞳を細めたラーシュが、ティレナの首をねじらせてキスをした。
軽く触れるだけのうちは笑っていられたが、舌が合わせ目をつつき、口内に侵入してくるに至っては、さすがにたじろいだ。
「ん……ラーシュっ……」
「嫌か?」
嫌なわけじゃない。
大好きな夫とするキスは、いつだって歓迎だ――と言いたいところだけれど。
「ここ、教会なのに……」
「場所が場所だから不謹慎だと? お前がそんなに信心深いとは知らなかったな」
「ふぁっ……!」
耳朶をぺろりと舐められて、ティレナは首をすくめた。さらにラーシュはティレナの胸に手を這わせ、服の上からやわやわと膨らみを揉みしだいてくる。
「試してみるか? 本当に神とやらがいるのなら、どんな罰を下してくれるのか」
「な……なんで硬くなってるの?」
お尻にぐりぐりと押しつけられる熱塊に、ティレナは狼狽した。
昨夜だって、ラーシュは自分を抱いた。ティレナの口とあそこにと、二回も濃いものをたっぷりと出したのに。
「昔の自分に、時を越えて教えてやりたいのかもな。ずっと忘れられなかったあの娘と、お前はこういう仲になったんだぞ――と」
「意味がわからないわ……!」
そんなやりとりの合間にも、ラーシュの指先はドレスごしに乳首をくびり出し、くりくりといやらしくひねりを加えている。
淫らな熱が体内で渦巻くのを止められず、ティレナは壁に手をついて喘ぎを押し殺した。
「ん……んんっ……」
「我慢するなよ、声。あれだけざわざわしてりゃ、誰にも聞こえるわけがない」
窓ごしの人ごみを見下ろして、ラーシュは言い切った。
ドレスのスカートをたくしあげ、下着までを遠慮なく引き下ろす。剥き出しにされた臀部が、ぞくぞくと粟立った。
「そのまま壁に手をついてろ」
ティレナが戸惑っている間に、ラーシュは床に膝をついた。
内腿をぐいと開き、腰を後ろに突き出させると、剥き出しになった秘処に舌を伸ばした。
「ぁああっ……!?」
熱い舌が秘裂を割り、すくい取った愛液を敏感な花芽に纏わせる。
ちろちろと巧みに動かされ、体の芯を貫く快感に、ティレナの膝は生まれたての小鹿のようにがくがくした。
「いっ、や……ぁあ、舐めちゃっ……」
勝手に快感を拾ってしまう体を持て余し、ティレナは腰をよじった。
けれど、淫虐から逃げようと左右に揺れるお尻は、ラーシュを余計に煽り立ててしまったようだ。
「その動き、誘ってるようにしか見えないんだよ」
「違っ……ぁあんっ!」
太腿の間に頭を挟み込んだラーシュが、陰部にむしゃぶりついた。溢れっぱなしの蜜を舐めとるだけでは足りないのか、唇でじゅるじゅると啜り、喉を鳴らして飲み下す。
「あ、あぁ、んんっ、はぁあ……」
ずっと愛液を漏らし続けている感覚が、恥ずかしくて仕方がない。
高まる喜悦で指に力がこもり、石壁の窪みに爪先が引っかかった瞬間、ラーシュがふいに立ち上がり、ティレナの手首を摑んだ。
「やめろ。爪が剥がれるぞ」
「……っ」
ティレナは潤む瞳でラーシュを睨んだ。
唐突に刺激を絶たれた体が切なくて、脚の奥がずきずき疼く。どうしてほしいかなんてお見通しだろうに、ラーシュはティレナの肩を抱き、窓の外に顔を向けさせた。
「そろそろ花火も始まるだろうな。……ああ、ほら」
どぉんっ――と空気が震え、夜空が色とりどりの光で染まった。
人々が歓声をあげる中、赤や緑の輝きがきらきらと流れ落ちていく。
「これが見たかったんだろう?」
「そうだけど……っ」
ティレナは地団駄を踏みたくなった。
こんな中途半端な状態で放っておかれるなんてつらすぎる。ラーシュの胸倉を引き寄せて、頬を染めながら小声で訴えた。
「最後まで、責任とって……っ」
「仰せのままに」
したり顔のラーシュがティレナに向き直り、立ったまま腰を抱き寄せた。
手早くくつろげられた脚衣から、準備の整ったものが弾み出る。その先端が濡れて光っているのに、彼もそう余裕があるわけではないのだと気づいた。
「行くぞ」
ティレナの片脚を抱えたラーシュが腰を落とし、収まるべき蜜路に向けて、一気に剛直をせり上げた。
「ああっ、やぁぁ……!」
狭い場所を割り開いて、ずぶずぶと根本まで挿入される。
押し入れたものを馴染ませるように揺すったラーシュは、一度ゆったりと引き抜くと、間を置かずまた思い切り突き入れた。
「はぁぁんっ……!」
ティレナは場所も忘れ、最奥を抉られる快感に酔わされた。
服を着たまま抱かれているせいで、体が火照る。互いの局部だけを露わにし、立位で交わる背徳感がいっそう愉悦を高めていく。
ティレナの乳首を摘んで捏ね上げながら、ラーシュが問いかけた。
「見ないのか、花火?」
「そんな余裕、あるわけ……ぁあっ、ん!」
突き上げられるたびに嬌声が弾け、空に散る光に視界がちかちかした。
火薬の匂いが流れてくるが、発情しきった雄と雌の匂いのほうが、それよりももっと濃厚だった。
ラーシュの律動が大きくなり、掻き出された蜜液が足元にぼたぼた垂れる。
屹立を押し込められるたびに秘玉をぐりぐりと擦られて、押し留めようのない喜悦のうねりが迫ってきた。
「いっ、ああ――ぅ、もうっ……!」
達く――と叫んだ高い声は、花火の爆発音に掻き消された。
恍惚の表情がありありと照らされ、どん、どんっ――! という重低音とともに、圧縮された快感が鮮烈に弾けた。
「ぁあ、あ、まって……ひあああぁっ――!」
「いいからもう、俺だけ見てろ」
ティレナが達していることはわかるだろうに、ラーシュは抽挿を止めず、耳元で意地悪く囁いた。
「正直、妬けるんだよ。祭りだろうと花火だろうと、俺といるときより夢中になってるあんたを見るのはな」
「な、何それ、どういう焼きもち……ぁぁんっ!」
毎年二人で花火を見ようと決めたのに、愛情も嫉妬も深すぎるラーシュ相手では、約束が守られることは永遠にないのかもしれない――と。
ティレナはそう観念し、きりもなく押し寄せる快楽に揉まれながら、甘い溜息をついたのだった。