ソーニャ文庫

歪んだ愛は美しい。

義弟は私の泣き顔に欲情するヤバい男でした

義弟は私の泣き顔に欲情するヤバい男でした

著者:
秋桜ヒロロ
イラスト:
氷堂れん
発売日:
2024年10月04日
定価:
836円(10%税込)
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君の泣き顔じゃないとイけないんだ

涙腺が弱い侯爵令嬢ルイズは何故か義弟のアランに嫌われている。何しろ彼はルイズが少し泣くだけで喜ぶ素振りを見せるのだ。そんなある日、突然国王よりアランが実は王弟だと明かされ、後継者として王宮に戻るよう命じられる。渋るアランが交換条件として求めたのは、何とルイズとの結婚! 意味が分からず問い詰めれば「僕は義姉さんの泣き顔が大好きなんだ」との謎告白。その上、彼はルイズを性的な意味で泣かせる快楽に目覚めたようで――?

泣き顔フェチの王弟×涙腺が弱い侯爵令嬢、変態でも一途なラブコメディ!

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登場人物紹介

ルイズ

ルイズ

侯爵令嬢。人のために本気で泣いてしまう優しい性格。縁談相手の素行が悪く十六回も破談に。

アラン

アラン

ルイズの腹違いの弟。誰もが振り返るような美丈夫。なぜかルイズに冷たく当たるが……。

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「ごめん、痛かった?」
ルイズの大きな声にアランはそう言って顔を覗き込んでくる。
そして視線が絡んだ瞬間、彼は固まった。
アランの態度に、ルイズは慌てて口を開く。
「大きな声を出しちゃってごめんなさい! あ、あの、全然痛くはなくて! 急に優しく触れられたから、なんというかびっくりしちゃって──!」
「ルイズ、あんまりそんな可愛い顔しないで」
「え? 可愛い顔?」
「涙目にならないでってこと」
そう言われて初めて、自分の目元が濡れていることに気がついた。きっとマッサージが気持ち良かったのと息がうまくできなくて苦しかったのが相まって涙が出てしまったのだろう。
(でも、また涙──)
アランがルイズに告げる言葉によく出てくる単語だ。
それに隠された意味があるかもしれないと、首をひねったそのとき、彼の低い声が耳元をかすめた。
「舞台を見て泣く君で我慢しようと思っていたのに……」
「え?」
ルイズは顔を上げてアランを見た。そしてわずかに目を見開く。
スイッチが入った、というのが正しい表現なのかもしれない。
アランは今までに見たことがないような妖艶な表情をしていた。口角を引き上げた唇には妙な艶めかしさがあるし、こちらを見下ろしてくる瞳には妙な色と隠しきれない熱がある。
(いや──)
見たことがないというのは噓だ。ルイズは一度だけ見た。
ルイズと結婚したいとアランが言ったその日の晩。
屋敷の裏で、アランはルイズにこの熱い視線を向けていた。熱した鉄のような、触れてしまえばすべてが蒸発してしまいそうなほどの熱い視線。男というよりも本能を固めたような雄の視線。
(アランじゃない、みたい……)
これまでアランがルイズに向ける視線はどこまでも冷たかった。温度なんてものを感じることはほとんどなく、だからルイズはアランに嫌われていると思っていたのに──
そんな彼を見つめていると、アランの手が腰の方に回っていた。そのまま抵抗する間もなく抱き上げられ、彼の膝の上に座らされてしまう。
ソファと平行になるような形で横抱きにされているルイズは、咄嗟に身体のバランスを取るため、アランの首へ腕を回した。
「ア、アラン!?」
「何驚いているの? 初めてじゃないんだから」
「それはそう、だけど──んんん」
甘い声が出てしまったのは、首筋にアランが唇を落としたからだ。
「ちょ、ちょっと!」
「僕らはもう結婚するんだから、このぐらいはいいでしょ?」
「私はまだ結婚するなんて──」
「ほら、静かにしないと。みんなの迷惑になっちゃうよ」
その声に周りを見れば、他の観客たちが席に戻り始めていた。もうすぐ第二部が始まるのだと理解した瞬間に、会場内の照明が落とされる。
「それとも、みんなにこんな可愛い声、聞かせる?」
囁くようにそう言われ、ルイズは必死に首を振る。声を出さなかったのは、今口を開けばとんでもない大声が出てしまいそうだったからだ。
「だったら静かにしてようね?」
まるで子供に言い聞かせるようにそう言って、アランは再びルイズの首元に顔を埋めた。ちゅくちゅくという水音と、首筋を這う生温かい感触が、アランが何をしているかをルイズに教えてくれる。
(さ、鎖骨を舐め──)
ゾクゾクと背筋を何かが駆け上がり、脳髄に電気が走る。かっと頭が熱くなり、視界がじわじわとぼやけてくる。
アランの大きな手が、ルイズの腰のあたりをゆっくりと這い、その刺激にまた身体に電気が走って、ルイズは下唇を嚙んだ。
「こんなに見てきたのに、初めて気づいたな」
アランは胸元に唇を寄せて、ルイズにしか聞こえないような声を出す。
「ルイズがこんなふうに僕に泣かされてるの、すごく可愛い」
「え。泣かされ──?」
「今まで、怖がった泣き顔とか、驚いた泣き顔とか、いっぱい見てきたけれど、そういう気持ちがいいって泣き顔もすごくいいよね。……本当に可愛い」
「何、言ってるの? さっきから、泣き顔、泣き顔って……」
「前にも言ったでしょう? 僕は君の泣き顔が好きなんだよ。大好きなんだ」
その言葉に蘇ってきたのは、確かに以前聞いたアランの台詞だった。
『僕は義姉さんの泣き顔がすごくすごく大好きなんだ』
もしあれが、『嫌い』という感情からくるものじゃなかったら。
もしあれが、本当に言葉通りの意味だとしたら。
そのとき、ルイズは太腿あたりに何か硬い感触を感じた。
それはアランの身体の中心にあるもので、ルイズにはないもので、性的に興奮したときにだけ存在感が増すもので……
ルイズの体温がこれ以上ないぐらいに上がる。
そこまで来てようやく、ルイズはすべてを理解した。
「あ、あれって本当だったの!?」
「本当だよ。本当じゃなかったらなんだっていうの?」
すべてが繫がった気がした。
アランはルイズが嫌いだから、彼女の泣き顔が好きなわけじゃない。
本当に、単純に、言葉通りの意味で、ルイズの泣き顔が好きなのだ。
少なくとも身体の中心が硬くなってしまうぐらいには──
「へ、変態!」
「知ってるよ」
事もなげにそう言って、アランはルイズを抱きしめた。
彼はそのままルイズの耳元で、蜂蜜のような甘ったるい声を出す。
「ルイズ、もっと泣いて」
その直後、スカートの裾からアランの骨ばった指が入り込んできた。

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