死に戻ってようやく冷徹フェチ公爵様の溺愛に気づきました
- 著者:
- 花菱ななみ
- イラスト:
- 三廼
- 発売日:
- 2024年08月05日
- 定価:
- 836円(10%税込)
これを着て○○して欲しいんだ
実家で使用人扱いされていた男爵令嬢クロエは公爵のアーロンに求婚され、夢心地で婚姻を結ぶ。けれど初夜にメイド服を渡され、クロエはここでも虐げられるのかと絶望し、離縁することになってしまう。別れの日、クロエを乗せた馬車が谷に転落――気づくと初夜の日に死に戻っていた!? 今度こそ幸せな結婚生活を目指すクロエは、夫の望みを知りメイド服に袖を通す。蕩けるほど甘い眼差しを向けられ愛される悦びを知るも、夫にはまだ秘密があって!?
メイド服フェチな謎多き公爵×薄幸の男爵令嬢、二度目の人生では旦那様の愛がダダ漏れで!?
クロエ
男爵家で虐げられてきた令嬢。凛々しく美しい外見とは裏腹に、性格は控えめでいつも自信がない。
アーロン
救護院で出会ったクロエに惚れ、妻に迎えた公爵。その美貌と実力で社交界では注目の的だが、とある噂もある人物。
クロエを床から見上げるアーロンの肌は、なめらかで美しい。肌の清廉さと含羞が、アーロンを少年のように見せた。
しばらく躊躇を見せた後で、アーロンは振り絞るように言った。
「その、……手を」
「えっ」
「その靴で、私の手をぎゅっと踏んでもらえないだろう……か……」
アーロンの声は、だんだんとかすれて聞き取れなくなる。
──初夜に新妻に望むにしては、斬新すぎる内容よね。
そうは思ったが、アーロンが願っているからにはかなえてあげたい。
アーロンは新妻にメイドの格好をさせるだけではなく、ハイヒールで手を踏んでもらいたいという特殊な性癖の持ち主だった。だが、彼の秘密を共有できることに、こよなき喜びを覚える。
クロエの声が、とろりとした蜜の甘さを増した。
「いい子ね。上手にお願いを口に出せたわ。ご褒美にあなたの手を踏んであげましょう」
アーロンの前まで近づいて立ち止まると、彼はおずおずと手を差し出した。その手の甲に、クロエは慎重にハイヒールのつま先を乗せる。
「こっちがいい? それとも、かかとのほう?」
足を上げたので、寝室の冷えた空気がメイド服の裾から入りこむ。
服の裾は、ひどく短い。しかも、下着を穿いていない。
だが、アーロンは長いまつげを伏せて、床に視線を落としたままだった。
「かかとを」
クロエはアーロンの手の甲に、ハイヒールの尖ったかかとをあてがった。位置がここでいいことをアーロンの表情から読み取ってから、ゆっくりと重みをかけていく。
「……っ」
アーロンが望む痛みと屈辱の強さを探る。
クロエには、他人を痛めつける趣味はない。だから、アーロンが望む分だけを与えたかった。それ以上の痛みを与えたくはない。
アーロンはかすかに眉を寄せてはいたが、痛くて耐えきれないといった様子には見えない。
──まだね。……あと少し。
クロエはさらにそこに、じわじわと体重をかけていく。
すると、ある時点で、アーロンが息を吞んだ。
クロエはそれ以上の重みをかけるのをやめ、様子をうかがった。
だが、彼にとっては痛みよりも快感のほうが勝っているらしいことが、その陶然とした表情から読み取れた。
クロエはその色気漂う表情に誘われて、ますますヒールに身体の重みをかけていく。
不意にアーロンの表情が歪んだ。
──ここだわ……!
これが限界だ。
そう悟ったクロエは、足を上げてかかとを彼の手から外した。
ヒールが硬質の床でカツッと鳴る。ヒールで圧迫したアーロンの手の甲は、少しだけ赤くなっていた。だが、血が滲んだり、あざが残るほどではない。
アーロンはクロエの靴が外れても、ひざまずいた姿勢を崩さなかった。
それから、礼儀正しく言ってくる。
「あり……がとう、……ございます」
その彼の姿が、少年のころを想像させた。
アーロンは幼いころ、メイド長に礼儀作法を教わっていたという。間違ったことをしたら、こんなふうにひざまずかされ、手をヒールで踏まれたのだろうか。
貴族の子息は厳しい教育を受け、ミスをしたら、手の甲を鞭で打たれることもあるらしい。ヒールで踏む、というのはその亜流だろうか。
──可哀想に。
クロエの胸に、同情心が湧き上がる。
アーロンをそんな痛みの呪縛から解き放ってあげたい。痛めつけられることに興奮するなんて、尋常なありかたとは思えない。
だけど、クロエはアーロンの欲望を満たすために娶られた。まずは彼の欲望を充足させなければ愛してもらえないし、呪縛を解くこともかなわないはずだ。
「これだけでいいの?」
アーロンは憑きものが落ちたような顔をして、クロエを見上げた。
「ああ。長年の夢がかなった。あなたは素晴らしい、クロエ」
頰を紅潮させながら、アーロンは言葉を重ねる。
「私の願望をかなえてくれたお礼に、あなたの願いを何でもかなえてあげたい」
その言葉に、クロエはどきっとしてすくみ上がった。
「私は、……その……」
「何でもいい。言ってくれ」
アーロンは純粋に、そんなふうに言ってくれる。
どう答えるのが正解なのかと、クロエは混乱しながら考える。もしかして、これは自分の願望をかなえるチャンスではないのか。
──私は、アーロンさまに愛されたいの。結ばれたいの。
このままでは、メイド服を着て手を踏んで終わり、になりかねない。
そう思ってしまいそうなほど、アーロンはすがすがしい顔を見せている。
──そんなことは、ない……わよね?
一度目の人生では、初夜で失敗した。クロエは処女のまま、生涯を終えた。
──だから、……私の一番の夢は、アーロンさまに抱かれること……なんだけど。
メイド服さえ着たら、最後までスムーズに進むと思っていた。だが、さらにここで踏ん張らないといけないのだろうか。
女性から情事を望むのは、はしたないと思われるかもしれない。だが、手を踏んだだけでアーロンに満足されては困る。クロエは大好きな人と、身も心も結ばれたいのだ。
「言ったら、かなえてくださるの?」
高慢な演技を続けたのは、普通の状態でおねだりをするのは、恥ずかしくてたまらなかったからだ。
クロエは耳まで真っ赤になりながら、すぐそばにあった大きな天蓋付きのベッドに腰掛けた。
裾が短すぎたから、自然と足を組む格好になった。
まだ床でひざまずいたままのアーロンを見下ろしながら、どうやって言葉にしようかと考えた。
だが心は正直で、気づけば蚊の鳴くような声で哀願していた。
「アーロンさまに、……愛してほしい……です」
高慢も何もない。
ずっとクロエが望んできたのは、それだ。
アーロンはその言葉に、ハッとしたような顔をした。クロエが座るベッドまでやってきて、屈みこんでまじまじと見つめてくる。
その大好きな顔が自分のすぐそばにあるというだけで、クロエはひどくドキドキした。その唇が、吐息がかかる距離にあるのも。
「……大好き、なんです……」
小さくつぶやいた途端、強く抱きしめられ、クロエはベッドに押し倒された。
アーロンの手がメイド服と太腿の間にそっと忍びこむ。ストッキング上部の、伸縮性のある部分をなぞられた。
「あなたを、このまま抱いても?」
「ええ。……だって、妻ですもの」
ずっとその務めを果たせずにいた。一度目の人生の苦い痛みが、胸を突き刺す。
その言葉に、アーロンはひどく興奮したらしい。
クロエの身体を抱き直し、ベッドの中央まで移動させると、あらためてそのすんなりとした長い両足を両手で抱えこんだ。
「この足……っ、あなたがここまで素敵な足をしていたとは、……思わなかった」
その言葉に、クロエはようやくホッとする。
足が露出する衣装だからこそ、その太さや形などが気になっていた。アーロンにとって、クロエの足はとても好みだったらしい。
ガーターベルトの留め具だけ外されはしたが、ストッキングは下ろされないまま、太腿を何度もなぞられる。
足を開かれ、ついにその内側にまでアーロンの手が忍びこんだ。
何もかも初めてのクロエだ。足を閉じようにも、アーロンの身体がいつの間にかその間に入りこんで、閉じられなくされていた。
メイド服の裾がまくれ上がり、どこまで恥ずかしいところが見えてしまっているのかもわからない。
──ダメよ、……こんなの……っ。
身体が熱くなり、息が乱れる。
ただ足を触れられているだけなのに、アーロンの大きな手のひらによる刺激が身体を芯まで昂らせていく。
アーロンの指が、さらにクロエの身体の中心まで伸びた。クロエの無垢な花弁をそっとなぞる。
「……っ!」
そこがぬめっていることに、クロエは内心でひどく動揺した。
だがそれは、アーロンにとっては嬉しい誤算だったらしい。花弁を指で淫らに開きながら、尋ねられた。
「驚いたな。……こんなにも濡れているなんて。あなたは私を踏むことで、感じてたのか?」