ソーニャ文庫

歪んだ愛は美しい。

政略結婚した年の差夫は、私を愛しすぎる変態でした

政略結婚した年の差夫は、私を愛しすぎる変態でした

著者:
市尾彩佳
イラスト:
笹原亜美
発売日:
2024年07月03日
定価:
858円(10%税込)
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ずっと、待っていた。もう我慢しない。

十一歳で親子ほども年の離れた次期侯爵トレバーと結婚した男爵令嬢ルイーザ。家族を守るための政略結婚だからと覚悟するも彼は一切手を出さず、幼い彼女を飾り立てては愛妻だと自慢し周囲にドン引かれる始末。ルイーザは悟る。夫はそういう嗜好を持つ変態なのだと。それでも次第に彼の誠実さや包容力に惹かれてしまい、同時に大人になれば捨てられるのではと不安も抱く。そして成人後、思わずその葛藤をぶつけた時、彼が初めてベッドに誘ってきて――?

少女に心を救われた次期侯爵×変態には塩対応の男爵令嬢、超年の差婚ラブコメディ!

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登場人物紹介

ルイーザ

ルイーザ

連座回避のために十一歳でトレバーに嫁いだ男爵令嬢。幼い自分への溺愛ぶりに、夫をロリコンだと思い込む。

トレバー

トレバー

六歳だったルイーザのある言動に心を奪われてしまった。第三王子フレデリックと共に外交官として各国を渡り歩く。

お試し読み

「もう一度考える機会をあげよう。──寝支度を終えて、夫婦の寝室においで。やっぱり怖かったら来なくていいよ。でも、一度でも夫婦の寝室に足を踏み入れたら、私はもう我慢しない」
 欲望を滲ませる声に、ルイーザは顔を真っ赤にしながらこくんと頷く。
「もう少し落ち着いたら私室に戻って。メイドたちには、寝支度の準備を調えて待っているよう伝えておくから」
 トレバーは立ち上がると、ルイーザの頭をぽんと一撫でしてリビングから出ていく。
 閉じられた扉の向こうから、ぼそぼそと何かを言い交わす声が聞こえ、足音が遠ざかって静かになる。
 トレバーの配慮がありがたかった。落ち着かなければとてもじゃないが人前には出られない。ルイーザは口を手で押さえて俯いた。
(す、すごかった……)
 あれが大人のキスというものか。ルイーザは無意識に指先で唇に触れる。
(でも、嫌じゃなかった)
 そう考えた途端、ぼっと顔が熱くなる。
 こんなでは、いつまで経っても落ち着けそうにない。ルイーザは落ち着くのを諦め、できるだけ平静を装って廊下に出た。
 トレバーが言っていたように、廊下を出て隣のルイーザの私室に戻ると、メイドたちはにこやかに「おかえりなさいませ」と挨拶し、夜会用の装いを解いて、湯水で絞った布で身体を拭き清め、夜着を着せてくれた。
 ルイーザの様子がいつもと違うと気付いているだろうに、メイドたちはいつもと変わらず寝支度を調えてくれる。
 お休みの挨拶をしてメイドたちが下がると、ルイーザは自分の寝室に一人になった。
(よし、行こう!)
 心の中で掛け声をかけて自分を奮い立たせると、ルイーザはランプを片手に夫婦の寝室に続く扉を開ける。
 中を見るのは、フレッチャーに邸宅の中を案内してもらったとき以来だった。今まで用がなかったし、夫婦生活を連想させられるせいでドアノブに触れることさえ躊躇われたからだ。
 廊下側の壁にヘッドボードをつけるように置かれた大きなベッド。その脇にある彫刻の施された大理石の暖炉では炎が赤々と燃えていて、室内をほんのり温めてくれている。その暖気を逃がさないよう窓は金銀の刺繍の施された分厚いカーテンで閉め切られていて、暖炉で揺れる赤い光と、ランプのオレンジの光とを映し出していた。
 ランプの光を辿れば、それはベッドから少し離れた場所にあるテーブルに置かれていて、その光の下では眼鏡をかけたトレバーが本を読んでいる。
 照れくささもあり、ルイーザはいつもの可愛くない口調で話しかけてしまう。
「目を悪くするわよ?」
 トレバーは本を閉じ、眼鏡を外して立ち上がった。
「大丈夫だよ。気もそぞろでまともに読めてやしなかったんだから」
 彼の双眸に普段はない熱いものを感じ、ルイーザはその場に縫い止められたかのように立ち竦んだ。そんなルイーザのところへ、トレバーはゆっくりと歩いてくる。けれどぎりぎり手が届きそうにないところで立ち止まって、困ったように首を傾げて言った。
「いつまでそこにいるつもりかな?」
「え……?」
「『夫婦の寝室に足を踏み入れたら』という約束だから、私はまだ君に手を出すことはできない。引き返すなら今だ。でも引き返すつもりがないのなら、あと一歩頑張ってごらん。そうしたらあとは私が引き受けよう」
 そう言われて初めて、ルイーザはまだ夫婦の寝室に入っていないことに気付いた。自分で思っていた以上に怖気づいていたらしい。
 だが、トレバーの気弱げな微笑を見て、勇気を出して尋ねてみた。
「トレバー……あなたも、怖いの?」
 トレバーは茶化さなかった。
「……怖いよ。嫌われるようなことをして、君に本気で逃げられてしまったらと思うと、死にそうなほど怖い」
 痛みをこらえるような笑みを浮かべる。
 トレバーも同じだったと悟り、ルイーザの気は楽になった。
「約束して。わたしがどんな失敗をしても嫌わないって。そうしたら、トレバーがわたしに何をしても嫌ったりしないわ」
 トレバーはぽかんと口を開け、それから慌てて言った。
「嫌ったりしない! どんな失敗をしたって、君は私の最愛の人だよ!」
 ルイーザは景気づけに、にかっと笑った。
「じゃあ約束は守ってね!」
 その言葉の勢いに乗って、夫婦の寝室にぽんと足を踏み入れる。そしてトレバーを見上げた。
「あとは引き受けてくれるんでしょ? わたしは何もわからないから、任せたわ」
 トレバーはぷっと噴き出した。
「やっぱり君は最高だ!」
 そう叫ぶと、ランプを持ったままのルイーザをぎゅっと抱き締める。
「ちょ! ちょっと待って! ランプが危ない!」
 トレバーは慌ててルイーザを離す。ランプの火がどこにも燃え移っていないのを確認して、二人同時に溜息をついた。
「もらうよ」
 差し出されたトレバーの手に、言われるがままランプの取っ手をかける。
 それからトレバーはもう一方の手も差し出してきた。
 ルイーザはどきどきしながら、その手に自分の手を重ねる。
 恭しくエスコートされてふわふわと不思議な気持ちになったけれど、ベッドに近付くほどにまた緊張が高まってきて、足の動きがぎこちなくなった。トレバーはくすりと小さく笑うと、ルイーザをベッドの端に腰掛けさせる。
「先にベッドに入っていて。ああ、夜着は着たままでいいから」
 ルイーザの迷いを察し、トレバーは答えをくれる。
 彼が背を向けている間に、ルイーザはガウンを脱いでベッドの足元に置き、シーツの間に滑り込んだ。
 トレバーがルイーザのランプを持ってテーブルへ行くと、室内がふっと暗くなった。読書用の大きなランプを消したのだろう。さっきまでオレンジ色の照り返しがあった領域まで、暖炉の赤い光に包まれる。
 それからゆっくり間を置いて、トレバーは振り返った。ルイーザが余裕を持ってベッドに入れるよう時間をくれたのだと思う。振り返った彼の手には、まだ灯っているルイーザの小さなランプがあった。
「すまないが、このランプをヘッドボード脇の燭台の下に吊り下げてもいいだろうか? 何か問題が起きたとき、真っ暗だと困るから」
「……わかったわ」
 暖炉の火だけでは確かに暗い。恥ずかしいから本当は何も見えないほうが良かったが、トレバーがそう言うのであれば点けておいたほうがいいのだろう。
 承諾すると、トレバーは申し訳なさそうに微笑んでヘッドボードのほうへ歩いていき、燭台の下の金具にランプをかけた。それから端で横たわるルイーザの逆側に回ってガウンを脱ぎ、ベッドに入ってくる。
 その間、ルイーザはトレバーの言った『問題』のことを考えていた。
 夫婦の営みについて、夫が大きく妻が小さい場合は妻の負担が増すことがあると教わった。血がたくさん出るかもしれないと教師は言葉を濁したが、夫のアレが大きすぎて妻のアソコを傷付けてしまう可能性があるということだろう。トレバーはそんな酷いことはしないと豪語していたが、明かりを確保するということは、かなり危ないのかもしれない。
 勇気を振り絞ったことをちょっぴり後悔し始めたとき、トレバーがルイーザに寄り添い、肘を支えに半身を起こした体勢で顔を覗き込んできた。
「ごめん。不安にさせてしまった? 問題が起きたとき、なんて噓だよ。──君と初めて結ばれるのに、顔が見られないなんて嫌だったんだ」
 視線を少し泳がせ気まずげに告白するトレバーを見て、ルイーザは納得してしまった。
 初めて見る、トレバーの余裕なさげな少年のような表情。自分を見られるのは恥ずかしいけれど、ルイーザだって、初めての夜の、彼の表情を一つたりとも見逃したくない。
 ルイーザはしょうがないなと微笑んで言った。
「いいわ、許してあげる」
 すると、トレバーは嬉しそうに目を細めて、ルイーザに顔を近付けてくる。とっさに目を閉じると、頬に大きな手が添えられて、額に柔らかなものが押し付けられた。予想外のことに、ルイーザはぱちっと目を開けた。
 額から唇を離したトレバーは、申し訳なさそうな笑みを浮かべる。
「ごめん。君があまりに可愛くてつい」
 ルイーザはかあっと頬を火照らせ、そっぽを向いて憎まれ口を叩く。
「謝る必要なんてないでしょ。それともいちいち許可を取らなきゃダメなわけ?」
(唇にされると思い込むなんて、わたしってばこんなに破廉恥だったの?)
 恥ずかしすぎて、トレバーのほうを向けない。
 そんなルイーザに何を思ったのか、トレバーは優しい声で答えた。
「そういうわけではないけれど、急ぎすぎてしまったんじゃないかと心配だったんだ。ごめんね?」
 最後の一言は、何に対する謝罪だったのか。
 トレバーは親指で、ルイーザのふっくらした唇をなぞった。
「許してもらえるなら、ここにもいい?」

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