鏡張り貴公子は清貧の乙女を淫らに愛したい
- 著者:
- 小山内慧夢
- イラスト:
- 夜咲こん
- 発売日:
- 2024年05月07日
- 定価:
- 847円(10%税込)
「……覚悟して? 私に愛され尽くす覚悟を」
天使のごとく麗しい貴公子エルベルトは、幼い頃に誘拐されたトラウマで鏡を手放せない。寝室や浴室を総鏡張りにしている彼には『変態性癖を持つナルシスト』という不名誉な二つ名があった。ある日、エルベルトは教会で可憐な乙女ジルダと出会い恋に落ちる。実はジルダも彼に好意を抱いていたが、身分差と、ある秘密を抱えているため求婚を受け入れることができない。けれど、エルベルトの情熱に絆されたジルダは一度だけ関係を持ってしまい……。
鏡を手放せない美貌の貴公子×清貧だけど淫魔の少女、身分差かつ種族差(?)ありの両片想いロマンス。
ジルダ
淫魔の血を引く少女。己の力で誰かを惑わすことがないように慎ましくひっそりと暮らしている。
エルベルト
『変態性癖を持つナルシスト』という不名誉な二つ名を持つ貴公子。教会でジルダを見初め……。
「は、……っ」
あまりの衝撃に、中がエルベルトをギチリと食い締めたのがわかった。
痛みよりも驚きのほうが大きく、ジルダを支配している。
(や、……っ、痛いけど……っ)
無理に押し拓かれた隘路に、隙間なく埋まったエルベルトの肉棒がドクドクと脈動するのがわかった。
(嬉しい……っ、わたしの中にエルベルト様が……)
涙で前が見えないジルダは、胸がいっぱいになって声を詰まらせる。
喜びを伝えたくても今口を開いたら泣き声になってしまうことを悟り、エルベルトの腰に絡ませた脚に力を入れた。
「……っ、ジルダ……」
それにすぐさま反応したエルベルトは、俯いていた顔を上げる。
額に汗を浮かべた彼は、ほんの少し非難の混じる視線をジルダに向けた。
「え、あの……、エルベルト様?」
まさか気分を害してしまったのかと及び腰になるジルダが身動ぎすると、エルベルトがまた声を詰まらせる。
「っ、……ジルダ。君はもしかしたら魔性の女なのかな?」
「えっ?」
まさか挿入しただけで淫魔の血を引くとわかってしまうのか? と身体を強張らせたジルダだったが、エルベルトが小さく呻いた。
「君がつらくないようにと細心の注意を払っているつもりなのだが……こうも煽られては我慢が利かない……っ」
奥歯を嚙みしめていると思われるエルベルトの低い声に、迂闊にもときめいてしまったジルダは、またしても中のエルベルトを締めつけてしまう。
「うっ……、ジルダ……」
「だって、今のはエルベルト様がわたしをときめかせるようなことを言うから……っ」
言っている傍から、キュンキュンと蜜洞が収縮してエルベルトを刺激する。
それはあたかもエルベルトをこの先の行為へと誘うようだった。
「……つらくはないか、ジルダ」
ふうう、と長く息を吐いたエルベルトがそう尋ねる。
言われてみれば会話に意識が引っ張られたせいか、当初感じていた強い痛みは遠くなったように感じる。
痛くないわけではないが、我慢できないほどではない。
そう正直に伝えると、エルベルトは眉間のしわを深くし、しかし口角を上げた。
そうすると優雅な彼の中に雄の顔が浮かび上がるようで、ジルダはさらに胸が高鳴った。
「じゃあ、少しずつ動くから……覚悟して?」
「か、……覚悟?」
まさか、ボロボロになるまで犯される覚悟なのかと生唾を呑んだジルダだったが、そうではなかった。
「そう……私に愛され尽くす覚悟を」
そのときの壮絶なまでの笑顔を、ジルダは一生涯忘れないだろう。
優しさと激しさは共存するのだと納得するような、あまりの美しさにポーっとしたところを、ゆっくりとエルベルトの腰がゆるゆると引かれ、また奥を突く。
緩慢なようだが確実に快楽のツボを押してくるエルベルトに、ジルダは翻弄される。
「あ……っ、やぁ……っ! エルベルト様……っ」
すぐに痛みなどという感覚は消し飛び、受け止めきれない快楽の波が押し寄せてくる。
「ジルダ……、ああ、たまらない……っ」
徐々にエルベルトの律動が速く深くなっていく。
それは痛みや我慢を強いるものでは決してなく、ジルダは深い官能に思考が蕩けていくように感じていた。
「あ、あ、……っひぁん! エル……、エルベル、ト……っ、んむ、ん、んあぁ!」
唇を塞がれ、吐息を感じ時折漏れるエルベルトの呻き声に身体の芯をゾクゾクと震わせたジルダは、忘我の中でこれが淫魔を虜にする精気かと理解した。
確かにこの行為はよくわからない無敵感を増幅させる。
多幸感で宙に浮くような感覚は、なんでもできる気がしてしまう。特に肌を合わせることで相手の気持ちが伝わるようで、境界がなくなっていくようだった。
(気持ちいい……っ、中も外も、全部……っ)
奥を突かれるたびに生理的な涙があふれるが、そのたびに目ざといエルベルトが目尻に口付けて涙を舐めとった。
それが合図のように何度も口付けを交わした。
中を突く角度が変わって、ジルダは息を呑み、エルベルトを締めつける。 そのうちに蓄積した熱が腰に溜まり、じわじわとジルダを追い詰め始めた。
「……っあ、エルベルト様……っ、や、なにか来ちゃう……っ」
初めての感覚をどう表現したらいいかわからず、不安そうにエルベルトに縋りつくと、彼は息を乱しながらジルダの頬に口付ける。
「ああ、私もそろそろ果てそうだ……っ、ジルダ、君の中で……っ」
耳に直接吹き込まれるように囁かれ、腹側の弱いところを突き上げられたジルダが消え入りそうな嬌声を上げ極まった。
ぎゅうう、と強く収縮した蜜洞がエルベルトを食い締めると低く呻いたエルベルトが滾る飛沫を中で放った。
「く、……っあ……!」
「あ、……っ、あぁ……!」
胎内で弾けた脈動と腹を満たす白濁を感じて、ジルダはビクビクと戦慄き、ぐったりとベッドに身体を沈ませた。
初めての経験は目まぐるしく、そして忙しなくジルダを消耗させた。
荒い息をつくことしかできないジルダの胸に額をつけたエルベルトが、ようやく身体を起こし、彼女を見た。
その視線は蕩けるように甘かったが、息も絶え絶えのジルダは知る由もない。
「ジルダ、大丈夫かい?」
聞こえてはいるが、とてもではないが問いかけに応えられない。そんなジルダを、エルベルトは愛しそうに見つめる。
「このまま抜かずにいたいけれど……初めてでそれは酷だよね」
優しさが感じられる声音なのに、言っていることは恐ろしい。
(初めてでなければ……ということ? え、それは普通のこと?)
血の気が下がるのを感じたジルダは思わず身構えたのとエルベルトが雄芯を蜜洞から引き抜いたのは、ほぼ同時だった。
途端に白濁がゴポリとあふれだし、その感触にジルダが身震いした。
「んんっ!」
自分の意志ではどうにもできないとろとろとしたものをなんとかしようと上体を起こしたジルダは、その様子をじっと見つめるエルベルトの姿にぎょっとする。
「エ、エルベルト様、見ないでください……っ」
羞恥のあまり両手で下腹部を隠し身体を縮めたジルダに対して、エルベルトは毛布で身体を隠してあげながら至極真面目な顔で呟く。
「やはり漏れ出てこないように、しばらく栓をしておくべきだったか……?」
毛布で身体の前面を覆いながら栓、と言われそれがなにか考えてしまったジルダは瞬時に顔を赤くする。
それを幸せそうに見つめるエルベルトは、ふと視線を外す。
その先には壁一面に張り巡らされた鏡が。
そこには胸を大きく上下させて息を整えようとするジルダが映っていた。
「……よかった、ちゃんと映っている」
ジルダのことで頭がいっぱいだったエルベルトは最大の目的である、『ジルダが悪魔ではないことを確認する』ことをすっかり失念していたようだ。
本来であれば、鏡の間に驚いているジルダをじっくり観察して悪魔かそうでないか見極めるつもりだったのに。
(いつもはそうしているのに……できなかった)
お守りである手鏡も、ジルダと抱き合うのに邪魔だとしか思わず、手放すことを躊躇いもしなかった。
自分の想いが思ったよりも深いことを自覚したエルベルトは再び鏡に視線を送る。
ジルダと向かい合っていると絶対に見ることのできない無防備な背中が見えて、背筋がゾクリとするのを感じた。
(鏡の間は魔除けとしての意味合いが強かったが、別の視点から見ると非常によいものなのでは……?)
しかも見えていないと思っているためか、ジルダのまろい臀部がもじもじと恥じらう姿が見えて非常にそそることこの上ない。
「え……?」
そこでようやくエルベルトの呟きを拾い上げたジルダが彼の視線を辿り、引き攣った悲鳴を上げた。
「ひゃあああ!? 映ってる……っ!」
慌てて毛布で全身を包むようにしたジルダは、今度はエルベルトも全裸であることに気付いてあわあわとし始める。
この反応を見て、エルベルトは笑みを深くする。 ジルダも異様な鏡の間が気にならないほど行為に……ひいてはエルベルトに没頭してくれていたことが知ったのだ。
「ああ、ジルダ……本当に、心から好きだよ」
「あのエルベルト様、とりあえず服を着ませんかっ?」 部屋のどこを向いてもエルベルトの鍛えられた美しい身体が見えてしまう状況に、ジルダはとうとう目をつぶってしまう。
頬を、いや首から上をまんべんなく赤くして瞼を閉じたジルダはまるで口付けをねだっているように見えた。
エルベルトはそのサクランボのような唇に自らのそれを重ねた。
「ん、んんっ?」
「ジルダ……そんな可愛いことをされたら、私も我慢ができないよ?」
そう言って笑うと、エルベルトはジルダの華奢な肩を押した。
ベッドに逆戻りしたジルダの頭が疑問符で埋め尽くされる中、エルベルトは蠱惑的な笑みを浮かべた。