余命わずかの死に戻り聖女は、騎士の執愛をやめさせたい
- 著者:
- 葉月エリカ
- イラスト:
- のどさわ
- 発売日:
- 2024年03月05日
- 定価:
- 847円(10%税込)
残念。とっくに手遅れなんですよ。
神殿で暮らす聖女のサリエは病に侵され死ぬ間際、最愛の護衛騎士・リュークが自分の後を追う姿を目撃する。彼を道連れにしたくないと願ったその瞬間、二カ月前に時間が巻き戻っていた! リュークの後追いを回避するには潔癖な彼に嫌われるしかない! そう決意したサリエは、少ない閨知識を総動員し聖女らしからぬ破廉恥な女を演じる。だがそれはむしろ男を煽る材料にしかならず、我慢がきかなくなったリュークに囚われ欲望をぶつけられてしまい!?
愛の重すぎる護衛騎士×神殿育ちの無垢な聖女、相思相愛の攻防戦の結末は!?
サリエ
癒しの能力を持つ聖女であり、困っている人の役に立ちたいと願う素直な少女。ただし自分の病は治癒できない。
リューク
サリエの護衛騎士であり、秘密の恋人。神殿に入ったサリエとの再会を願い、努力して神殿騎士になった。
「ちょっ……ちょっと待って! リュークったら、どこに行くの?」
サリエは混乱していた。
一連の事情──置物を落としてしまい、それを拾ったテオドールが妙なことを口走って迫ってきた──を告げるうちに、リュークの眉間には彫刻刀でごりごりと刻んだような皺が生じた。
すべてを聞き終えた彼はサリエの手首を摑むと、宿舎とは逆の方角に歩き出した。一方的に引きずられるサリエは、転ばないようについていくのが精一杯だ。
やがて辿り着いたのは、裏庭の隅にある古い小屋だった。
庭師が、脚立や枝切り鋏などをしまっておく物置だ。リュークに強引に背中を押され、埃っぽい内部に足を踏み入れる。
扉が閉じると途端に暗くなり、明かりといえば、壁の破れ目から射し込む細い光の筋だけになった。
「どうしてこんな場所に……」
「いい加減、釘を刺しておく必要があるからです」
だんっ! と音を立てて、リュークが奥まった壁に両手をついた。
彼の腕の間に閉じ込められたサリエは、どこにも逃げられない格好だ。
「俺の前でなら、ふしだらな本を読むのもいいです。その淫具で夜な夜な一人遊びをしていたところで、俺には止める権利もありません。ですが、それをあんな男に悟らせてはいけなかった。サリエが不埒な目で見られ、欲望の対象にされるだなんて──」
「イング?」
サリエは困惑した。
さっきから握りしめているこの置物のことだろうが、テオドールは「ハリガタ」と言うし、リュークは「イング」と呼ぶしで、正式な名称がわからない。
わかるのは、どうやらこれがただの魔除けではないらしいということだけだ。
「ごめん、リューク。私、何か勘違いしてたか、も……っ──!?」
リュークの顔が至近距離に迫り、サリエはびくっとした。
驚いた拍子に落とした置物が、床の上でごとんと鈍い音を立てた。
「あの王子にどこまで許しましたか?」
「どこまでって?」
「唇を奪われた? 体に触れられて快楽を覚えたんですか?」
高い位置から睨めつけられ、サリエは改めてぞっとした。
怒っている。
不埒な真似をしたテオドールにもだが、もしかするとそれ以上に、リュークはサリエの無防備さに怒っているのだ。
「何もされてないわ。ただ、ちょっと胸を触られただけ……」
「──『だけ』?」
声がいっそう低くなり、サリエは硬直した。
サリエの胸の膨らみに、リュークの指が無遠慮に食い込んだのだ。
「あなたにとっては『触られただけ』なんでしょう。だったら、俺が同じことをしても構わないはずだ」
「っ……やめて……!」
テオドールよりも余裕のない、乱暴な手つきで揉み立てられる。
これは本当に、自分の知る真面目なリュークだろうか。
もしかして自分は、彼の本性など半分もわかっていなかったのかもしれない。
「んあっ……!」
今やリュークの手は、胸の中心を捉えて捏ね回し始めていた。
親指と人差し指できゅっと潰され、糸を撚るように刺激されると、感じたことのない感覚が湧き上がる。
乳房の芯が勝手に凝って、腰のあたりがぞわぞわして──もしかしてこれが、快楽を覚えるということなのか。
「……あっ、ん……、ひぁぁっ……」
「こんなに愛らしい声を、あの王子にも聞かせたんですか?」
想像するだけで耐え難いとばかりに、リュークの表情が歪んだ。
そのまま彼は、サリエの唇に嚙みつくように口づけた。
「んん、っ……!」
【一周目】の最期でも、彼はサリエにキスをした。
けれどこれは、あのときの重ねるだけのものとは違う。
鉄に似た血の味がしない代わりに、唇を割って熱い舌がねじ込まれた。
「う……ふぁ、──……ん……っ」
獰猛な仕種で上顎を撫でられ、鼻にかかった息が洩れる。
逃げる舌に舌を絡められ、貪るように強く吸われた。
「……あなたを大切にしたかった」
激しいキスをしながら、息継ぎの合間にリュークは言った。
「誰にも触れさせないどころか、俺自身の欲望からも遠ざけておきたかったのに……ほんの少し目を離しただけで、あんなことになるくらいなら……」
貫くような眼差しに、サリエは立っていられないほどぞくぞくした。
今のリュークを支配しているのは、怒りだけではない。嫉妬だ。
サリエが自分以外の男に体を触れさせたことに、騎士としてあるまじき行為に及ぶほど激昂している。
それは彼が自分を愛しているからで──怯える反面、サリエは嬉しかった。
リュークに嫌われなければいけないのに、泣きたいほど嬉しいと思ってしまった。
(私に触れたいとか、キスしたいとか、リュークも思ってくれてたんだ……──)
とはいえ、感動していられたのはそこまでだった。
「これ以上、もう我慢はしません」
宣言したリュークの手がスカートをたくし上げ、内腿をざらりと撫で上げる。
「っ、待って!?」
テオドールにだってそこまでのことはされていない。
狼狽するうちに、リュークの手は腰骨に到達した。色気ゼロの腹巻をしていなかったのは幸いだが、例の「ほぼ紐」な下着を着けていることが、誤魔化しようもなくばれてしまった。
「なるほど、これは脱がしやすいですね」
皮肉っぽく笑ったリュークが、結び目をするりと解く。逆側も同様にされて、あられもない紫の布切れがふぁさっ──と儚く舞い落ちた。
隠すもののなくなった場所を、リュークの掌が這い回る。
薄く生えた和毛をくすぐったかと思ったら、ふっくらとした恥丘をまさぐり、その中心にまで指を伸ばしてきた。
「だ……だめぇっ……!」
秘口の際に触れられて、サリエは情けない悲鳴をあげた。
「何が駄目なんです? あんな本を熱心に読み耽るくらいなのだから、本当はこういうことに興味があったんでしょう?」
言いながら、媚肉の狭間を指先でくちくちと弄られる。
「俺だって、ずっとこうしたかった──サリエは純真で何も知らないと思っていたから、欲望を抑えていただけだ」
「っ……!?」
狙いが完全に外れたことをサリエは知った。
サリエが官能小説を熟読していたのは、ふしだらになった自分に、リュークが幻滅するだろうと思ったからだ。
まさかそれが逆効果で、彼の劣情を煽ってしまっていたなんて。
「ん、やぁっ……!?」
リュークの指が、体内につぷりと浅く埋まった。
異物感で強張る隘路に、リュークはゆっくりと指を抜き差しした。
ひどくされるかと思ったのに、意外にも優しい手つきで、だからこそ困惑してしまう。ひと撫でごとに蜜路がさざめき、下腹部にじりじりと熱が溜まった。
「んっ……はぁぅっ……」
「濡れてきましたね」
びくびくと体を震わせるサリエに、リュークが唇を吊り上げた。
「あなたのここから蜜が湧いてる。気持ちいい、もっと弄ってほしい……と俺の指を歓迎してくれてるんですよ」
「か、歓迎だなんて──……ぁあんっ!」
お腹側の媚壁をぐりっと抉られ、サリエは高い声を放った。
そこを執拗に刺激されると、切羽詰まった衝動が込み上がる。
体の内側がきゅっと締まる感覚と、すべてがだらしなく緩んでしまう真逆の感覚が、交互に押し寄せてくる。
「あっ、あっ、ああ……やだぁ……!」
喘ぎながら反らした喉にも、リュークはキスした。
軽く嚙まれ、歯型の残った場所をねっとりと舐められ、くすぐったさの中から立ち上がる快感に肌が粟立つ。
未知の変化が怖くて、サリエはリュークの肩を摑んだ。すがりついているのか押し返そうとしているのか、自分でもわからなかった。
「も、だめ……だめ……あっ……」
もはや立っていられず、サリエはずるずると床にしゃがみ込んでしまった。
涙目で息をつくサリエの肩を、リュークが摑んで押し倒す。埃と砂利でざらつく床に、長い銀髪が広がった。
「初めてがこんな場所で申し訳ありません」
口ではそう謝りながら、やめる気は一切ないらしい。
のしかかってきたリュークが、サリエの膝を割った。スカートは臍の上までめくられ、哀れに剝かれた下半身が晒される格好になってしまう。
「見ないで……!」
暴れる両脚は腿の裏を押し上げられて固定された。
自分でもどんな構造になっているのか確かめたことのない場所に、リュークの視線がまじまじと注がれるのを感じた。
「ああ……やっぱり濡れてます」
安堵したようにリュークは言った。
「こうしてる今も、綺麗な場所から蜜が滲んで……ほら、こんなに垂れてきた」
会陰をとろりと伝う愛液を、リュークの中指がすくい取った。
直後、サリエは驚愕に目を瞠った。
あろうことかリュークは濡れた指の匂いを嗅ぎ、躊躇いもなく口に含んでみせたのだ。
「何してるの!? そんな、汚い……っ」
「サリエはどこも汚くない。汚れているのは俺のほうです」
リュークの指と舌の間に、つぅっ──と透明な糸が引かれた。
「無邪気に笑うあなたの顔を、快楽に歪ませたい。大事な場所の奥の奥まで、俺の精をどろどろにぶちまけて穢したい……毎晩そんなことばかり考えて、自分を慰めていたんです。知らなかったでしょう?」
「っ……」
動揺に襲われるサリエを、リュークの黒い目が見つめている。
それはまるで、果ての見えない暗い洞のようだった。
「知ってください、本当の俺を。俺も、あなたの全部を知りたい──五感のすべてで感じたい」