取り巻き令嬢は腹黒貴公子の溺愛を望まない
- 著者:
- 富樫聖夜
- イラスト:
- らんぷみ
- 発売日:
- 2023年12月05日
- 定価:
- 847円(10%税込)
この求婚、もちろん断ったりしないよね?
ほとんどの貴族令嬢がより良い結婚相手を探すために通う学園で、王宮の女官になるべく励むティファは、身分の高い結婚相手を捕まえろとせっついてくる両親の目を誤魔化すために、公爵家の嫡男・リーファスの取り巻きをしていた。特別良い家柄でもなく地味な自分は、間違っても彼の結婚相手になるはずがない。彼のたくさんの取り巻きに紛れつつ、平和な学園生活を送っていたティファだったが……。ある日突然、リーファスに求婚されて――!?
麗しの公爵令息×結婚したくない令嬢、策士な貴公子の執着からは逃げられない!?
ティファ
伯爵令嬢。幼い頃に出会った男の子に女官になることを勧められて夢が定まる。結婚しろとうるさい両親が悩みの種。
リーファス
王族の血を引く公爵家の嫡男。麗しの貴公子という異名を持ち、ファンが多く、つねに女生徒を侍らせている。
「では調印の代わりに少しつまみ食いさせてもらおうかな」
「え?」
肩をぐいっと抱き寄せられ腕の中に閉じ込められる。その時、なぜか、ティファはリーファスが怒っているような気がした。
どこが、と具体的に説明はできないが、口調や抱き寄せられた時の動作の根底に、どことなく怒りがあったような気がしたのだ。
「公子様? 一体何を……え?」
するつもりなのかと問いかけるために見上げると、息がかかるくらい間近にリーファスの麗しの顔があった。
驚きのあまり薄く開いた状態のティファの唇にリーファスの口が重なる。
──う、噓、私、公子様にキスされている!?
目を見開き固まったままのティファの唇の隙間を縫って、リーファスの舌が咥内に侵入してきた。
「んうっ!?」
我に返ったティファはリーファスの胸を押して離そうとする。だが、思っていた以上に厚い胸板は満身の力を込めてもビクともしない。反対に抵抗するティファを封じるように背中と腰に回されたリーファスの腕の力が強くなった。
「っ、ん、ふ、んんっ」
ぬめった舌が歯列や上あごを這いまわり、我が物顔で蹂躙していく。これ以上の狼藉を押しとどめようとやっきになるティファの舌を易々と捕らえて絡ませると、リーファスは遠慮することなく扱いた。
ざらざらとした舌が絡み合う感触にティファの背筋をゾクゾクとしたものが走る。
「ふ、ぁ、んん、ん」
──おかしい。手足の力が抜けていく……。
背中がぞわぞわするたびに、身体中の力が抜けて弛緩していく。いつの間にか、リーファスを押しとどめようと胸に置いたはずの手が縋るように彼の制服のクラヴァットを摑んでいた。
リーファスが舌を蠢かせるたびに口の中にどちらのものか分からない唾液が溜まっていく。ぴったりとくっつき合った唇の端からツゥーと唾液が零れて落ちていったが、ティファはそのことに気づかなかった。
──頭がぼんやりする。
クラクラするのは満足に息ができていないせいだろうか? それとも……。
リーファスがふと唇を離して囁く。
「鼻で息をするんだ、ティファ」
そのことにティファが返事をする間もなく、再び唇が覆われた。ティファは抵抗することなく、彼の舌を受け入れる。
「……っ、んんっ、ふぁ、ん」
一体、キスが始まってどのくらい経っただろうか。おそらくそれほど時間は経っていないはずなのだが、頭が働かないティファはもうずっと長い間キスをしつづけているように錯覚していた。
「んんっ、ふ、ふぁ、ん」
言われた通りに鼻で息をし、誘われるままリーファスの口の中に自分の舌を入れて絡ませる。その頃にはもう自分が今どこで何をしているのかすら頭の中に残っていなかった。
気が付くと、リーファスはティファの背中をアーモンドの木の幹に押しつけ、覆いかぶさるようにキスをしていた。
顔を上げたリーファスは唾液の跡を拭うように、ティファの口元から顎に舌を走らせ、そのまま首元に唇を押しつけた。ティファは乱れた息の中、ぼんやりとそれを見下ろす。
生まれてはじめて経験した深く激しいキスの余韻のせいで、まったく頭が働かなかった。リボンが外され、リーファスの指がブラウスのボタンにかかっても、呆然としたまま動けなかった。
胸もとに外気が触れて寒さを覚えたことで、ようやくティファは我に返る。そして、自分を見下ろしたティファは絶句した。
「なっ……!」
ブラウスの前のボタンがすべて外され、下に身につけていたシュミーズがむき出しになっていた。それだけではない。スースーすると思ったら、リーファスがシュミーズの胸もとを引き下ろそうとしているではないか。
慣れた手つきでシュミーズを下げたリーファスの手の上で、ティファの乳房がぽろんとまろび出た。
外気に晒されたせいか、膨らみの先端がみるみるうちに色づき、ピンと張りつめていく。
「いやっ!」
慌てて胸を隠そうとしたが、すぐさま手を退けられてしまった。リーファスはティファの両手首を片手で摑んで引き上げると、幹に押しつける。
今やティファはブラウスをはだけられ、乳房を晒しながら頭の上に手首を押さえつけられている状態だ。
──こ、こんなところを誰かに見られたら……!
「やだ! 放して!」
「大丈夫、つまみ食いをするだけだから」
リーファスはくすくす笑いながら言うと、屈んでティファの胸もとにキスをした。
「ひゃ……!」
右の乳房の上側に濡れた唇の感触がしてティファは声を上げる。
──噓よ。こんな場所でこんなことされるなんて!
校舎から見えないとはいえ、誰がいるかも分からない林で、胸が丸見えだなんて。
「は、放してください、公子さ……いたっ!」
キスされている場所がちくりと痛んだ。
──歯を立てられた!?
「公子様じゃなくてリーファス、だろう? ティファ。それにね。僕は腹を立てているんだ。公表をしないことと引き換えに簡単に純潔を与える選択をした君にね」
どうやら怒っているような気がしたのは、正しかったようだ。
「あ、あなたが条件をつけたんじゃないですか!」
カチンときて言い返す。自分が条件をつけて既成事実を作ることを強要したくせに、何を怒っているのか理解に苦しむ。
「そうとも。僕だったからよかったものの、他の男だったらこの場で襲われているところだ」
「こ、この状況が襲われていないとでも!? ちょ、リーファス様、ダメです放してください! 人に見られたらどうするんですか!」
「大丈夫。ディーンがこの周辺に人を寄せないようにしてくれている。君のこんな艶めかしい姿、僕以外に見せたりするわけがない。それに……」
「ひっ……」
すっかり立ち上がり、ティファの乱れた呼吸と同じリズムで揺れる胸の先端をリーファスは口の中にぱくりと咥えた。
「それに、今日はこれ以上のことをするつもりはない。言っただろう? つまみ食いだって」