英雄殺しの軍人は愛し方がわからない
- 著者:
- 蒼磨奏
- イラスト:
- 笹原亜美
- 発売日:
- 2023年09月05日
- 定価:
- 869円(10%税込)
僕は恋人らしく、お前を抱けたか?
ジェノビア帝国の将軍グレンは、罠にはまり敵国の地下牢に囚われていた。痛めつけられた彼の手当てに現れたのは、下働きの女ルネ。自らを犠牲にして献身的に尽くす彼女の真意がわからないまま、協力を得て脱獄に成功する。死を覚悟した目のルネを帝国に連れ帰ったグレンは、所有欲と愛情の区別がつかないなか少しずつ「恋人」としての扱い方を覚えていく。ルネは彼を全身で受け入れ、幸福感に包まれるが、彼女の秘された素性が波乱を呼び………。
愛を知らない男×尽くす女、この想いの行き先は愛か死か……?
ルネ
捕縛され痛めつけられたグレンの世話係として現れた女性。なぜか自分を犠牲にして彼に尽くす。
グレン
帝国の将軍。生きることだけを考え人間への興味も損得感情もなく、仕事として戦場で人を殺める。
湯浴みを終えた彼女は今までとは別人みたいだった。華やかな髪色との対比に肌がより一層白く見える。長かった前髪は眉にかかるあたりで切り揃えられ、しっかり面立ちが分かった。
雨上がりの青葉みたいな色彩の瞳が不安げにグレンをとらえている。
──ああ、やっぱりな。こいつはたぶん『きれい』な女なんだ。
整った眉目をじっくりと眺めたあと、グレンは上機嫌で彼女を担ぎ上げた。肩に乗せても軽いから、もう少し肉を付けさせたほうがよさそうだなと考えながらベッドに向かう。
「グ、グレン……?」
ルネをベッドに投げ落として軋むマットレスに乗った。
華奢な両手首を摑んで組み伏せると、ルネがびくりと身を震わせる。
「僕のものになるってことが、どういう意味か分かっているよな」
「……ええ、たぶん……私を、抱くんでしょう」
「抱く。そのために連れてきた」
グレンは透けるような白い首に顔を寄せてぺろりと舐めた。組み敷いたルネの身体が小刻みに震える。
うぶな反応を横目に、舐めた首筋をがじがじと甘嚙みすると「きゃっ」と悲鳴が上がったので笑みが零れた。
「お前、処女だよな」
断言したら、ルネが真っ赤に染まった顔を背けた。
男に抱かれた経験があるのなら、こんな初々しい反応はしない。
「そう、だけど……もしかして、よくないこと?」
「なんでそう思った」
「やり方を知らないから……もちろん、何をするのかは分かっているわ。実践がないっていう意味で。あなたは慣れていそうだし、私が相手ではつまらないかもしれない」
きっと楽しませることはできないわ。
そう付け加える彼女の声は蚊の鳴くほど小さかった。首まで赤くなり、目を合わせようとしない。
──まぁ、確かに抱くつもりで連れてきたが……。
別につまらなくはない、とグレンは笑い交じりに応える。
「反応を観察するのは面白そうだからな」
「反応?」
「顔を赤くして、そのうち泣き出しそうだ。泣き顔もじっくり見てやる」
「っ……」
意地の悪い言葉をぶつけてワンピースの裾に手を差し入れると、ルネはわずかに身を捩ったが、抵抗はしなかった。
太腿を撫で回しながら鎖骨に口づけ、布越しに胸元へと頬を押しつけたら、ほのかに甘い香りが鼻をつく。
──これは……牢で包まって寝ていた毛布と同じ、ルネの纏う香りだ。こいつに庇われた時も同じ匂いがした。
鼻の利く獣みたいに匂いのもとを辿っていくと、彼女の頭の下にある枕に行き着いた。
もしかしたら香水でも振りかけたのだろうか。それがルネに移ったのかもしれない。
くんくんと嗅いでいたら力が抜け、ルネに体重を乗せたら背中を抱き返された。
「この甘い匂いは、何だ?」
「甘い匂い……香水かしら。アーヴェルから持ってきたものなの。以前、人にもらったもので……枕にかけておくと、よく眠れるから」
「ふうん」
かく言うグレンも虜囚だった頃、この香りがする毛布に包まれて眠っていた。そのせいか目がとろんとしてくる。ほとんど休みなしで馬を走らせてきたため疲労感は拭いようがなく、強烈な睡魔に抗うのは難しい。
しかし、今は睡眠よりも満たしたい欲がある。
グレンはルネのワンピースを剝ぎ取り、女性らしい胸の膨らみに顔を押しつけた。
愛らしく尖った乳頭を舐め、ほっそりとした身体を手のひらで撫で回す。
「もっと食って肉をつけろ。お前、ガリガリすぎる」
肉づきの悪い骨盤のあたりをなぞれば、ルネが「分かった」と細い声で返答した。
痩せた裸体は、これまでのグレンなら全くそそられなかっただろう。
だが、頼りなく背に回された細い腕やもじもじと太腿をこすり合わせる動作を見ていると身体が火照り、煽られるままキスを仕かける。
──まただ。もっと、こいつに触りたい。
川で水浴びをした時も、馬車の中でも、突発的にルネに触れたい衝動に駆られたのだ。
グレンは彼女の顔を両手で固定し、思う存分キスを交わした。
「は……はぁっ……グレン……」
小さな口内に舌を挿しこんで淫らに絡める。クチュクチュと唾液の音がした。
「ふっ、ん……ふぅ……」
ルネが鼻にかかった声を漏らしてグレンの背に爪を立てる。
華奢な身体を押しつけられ、彼女が息を吸って身じろぎするたび柔らかな乳房の先端が胸板にこすれた。
たちまち下穿きの中で雄芯が硬く張りつめる。