凶王は復讐の踊り子に愛を知る
- 著者:
- 花菱ななみ
- イラスト:
- Shikiri
- 発売日:
- 2023年07月04日
- 定価:
- 847円(10%税込)
おまえのぬくもりで、俺を滅ぼしてくれ
巫女であるラスティンは殺された仲間の復讐のため、踊り子に身をやつし凶王ガスタインの愛妾となる。夜毎寝所で好機を得るも、繰り返し与えられる快感に翻弄されてしまっていた。何度目かの夜、寝物語で王の過去と民を思う胸中を知ったラスティンは、憎悪の念に反し、冷血の字の如く冷たい肌の彼にぬくもりを与えたいという思いを抱く。手を握り身を寄せてくる愛妾に幸福を覚える王。彼はいつしか「彼女に自分を滅ぼして欲しい」と願うようになり――。
死を望む不死身の王×王を救える唯一の巫女、王を愛する巫女が下す審判は――
ラスティン
凶王に滅ぼされた神殿の生き残り。生娘であることを隠し、感度を上げる魔法を施して夜伽に挑むが……。
ガスタイン
異民族の国の略奪を繰り返し、戦を好む無敗の不死身王として知られているが、その胸には民を思う気持ちがあり……?
「さて。……そなたは、どのように俺を喜ばせてくれる?」
その言葉に、ラスティンは自分がされるがままに身体を投げ出しておけばいいのではないのだと悟る。
──どうすればいい?
同室となった踊り子たちを思い出す。自分から積極的に動いてみせたら、男を喜ばせることができるかもしれない。
足がガクガクと震えるのを感じながらも、太腿を開いて凶王の腰をまたいでみる。
普段ならその顔を仰ぎ見ることすら、恐れ多い相手だ。少しでも読み違えたら殺される。
凶王を殺そうとして階上からたたき落とされ、大広間から連れ出された元神官の、床にべったりと残った血の跡を思い出した。
それでも、ラスティンは自分に言い聞かせる。
──やるしか、ない……わ。
ここで引き下がるわけにはいかない。
表情がひどく強ばっているのを感じながら、ラスティンはかつて見た踊り子の仕草を真似てガスタインの手をつかみ、そのひんやりとした指を自分の太腿に押しつけた。
「……っ!」
氷を肌に押し当てたみたいに、身体がすくみ上がる。大広間で頰に触れられたときも思ったが、どうしてガスタイン王の指はこんなにも冷たいのだろう。
──死人みたい。
そんなラスティンの態度を見て、凶王は形のいい唇をほころばせた。
「冷たいか?」
声も冷ややかだったが、心を読まれたようでドキリとした。
その質問にどう答えれば正解になるのかわからずにうなずく。ガスタイン王は冷たい指をラスティンの太腿に這わせた。
「冷たいこの身体が温かくなることがある。人を屠っているときだ」
その言葉の直後に、ガスタイン王がラスティンの太腿を強くつかんで引き寄せた。不意を突かれて、ラスティンは仰向けにひっくり返る。
肩のすぐ横に手をつかれ、下腹部に重みをかけられて、一瞬、息ができなくなった。
「この反応は、生娘か?」
顔を寄せて試すようにささやかれる。どこで見抜かれたのかわからないが、操を散らされたら出血でわかってしまうだろうから、隠しても意味はない。
小さくうなずくと、また頰に凶王の手が伸ばされた。
顔が歪むぐらいに力をこめられ、のぞきこまれる。
「踊り子のくせに、今まで誰にも食われずにきたか。面白い。それが本当か噓か、試してみよう。この身体からは、特別ないい匂いがする。食欲をそそる、不思議な匂いだ。異国のものか?」
──匂い……?
今まで誰からも、匂いについて指摘されたことはなかった。ガスタイン王だけが、ラスティンの身体から感じ取れる匂いがあるというのか。それは、ラスティンだけがガスタイン王の黒い気配を感じ取れるのと同じような何かなのだろうか。
筋肉質の身体に組み敷かれると身動きもままならない。みしりとした重みに息が詰まる。
ラスティンは必死で呼吸を確保しようとのけぞった。どうにか、声を押し出した。
「高貴なかた以外には、奪われまいと決めておりましたから」
「生娘のほうが、価値が高いとでも思っているのか?」
密着した凶王から、ますます冷気が伝わってくる。どれだけ触れていても、その身体は少しも温まらない。
凶王はラスティンの顔から手を離し、無造作に夜着の下にすべりこませてきた。
冷たい手がへそのあたりをなぞり、胸まで這い上がる。剝き出しになったラスティンの胸の片方を包みこまれた。指がとても冷たいからどうしても震え上がってしまう。
だが、ここに来る前にかけた魔法の影響で乳首はピンと尖っている。その尖りをなぞられただけで、大きく全身に痺れが走った。
自分で触れるときや服と擦れたときとは違う、鮮明な生々しい刺激だ。
「……っ!」
小さく息を吞んだ。
冷たさによって、その小さな尖りから広がる甘い感触がことさら強調される。そんなラスティンの反応に、ガスタイン王は気づいたらしい。
「ほお」
ガスタイン王は、興味深そうに目を輝かせた。
「これだけで、感じるのか。俺の指の冷たさに震え上がる者はあったが、こんな顔をした者は初めてだ」
凶王はラスティンの顔に視線を据えて、乳首を指先でなぶってくる。そのたびに身体の芯まで響く快感があって、息を吞まずにはいられない。
きゅっとつまみ上げられ、ねじるようにされて、ラスティンはびくびくと震えた。
そんなふうに乳首をいじりながらも、ガスタイン王のもう片方の手はラスティンの足のつけ根まで移動していく。
そのたくましい身体をこじ入れられていたから、足を閉じることはできない。身につけていたのは、短い丈の夜着一枚だけだ。
彼の目に、ラスティン自身ですらもまともに見たことがないところが露わにされている。
「っぁ!」
無骨な分厚い指先で、足の間の敏感な粘膜を縦になぞられた。その瞬間、ラスティンは弾かれたように、腰を揺らした。
冷たさと同時に、今まで感じたことのない複雑な痺れが腰から広がる。
もう一度確かめるように狭間をなぞられて、声が漏れた。
「っう、……っぁ、あ……っ」
その声はラスティン本人でさえも聞いたことがない甘さを孕んでいた。
凶王はラスティンの花弁の温かさを味わうように、指をぬるぬると上下に動かしながら笑った。
「もう濡れているのか。生娘だというのは、まことか」
恥じらう余裕すらないほど、指がもたらす快感にラスティンは翻弄されていた。剝き出しの内臓を、直接いじられているようだ。
耳年増だったから、『濡れる』というのがどういうことかは知っている。感じると濡れるらしい。自分の身体が早くもそんな状態になっているなんて信じられないが、腰を満たす感覚を思えばそうなのかもしれない。
必死で、媚びる言葉を押し出した。
「陛下に……可愛がっていただけると……思っただけで」
『感じる』魔法をかけられていなかったら、身体は凶王への嫌悪を表していたことだろう。
だが、その魔法の効果で、ラスティンの身体は憎い男に触れられてもなお快感を覚えていた。その冷たさにさえ感じている。他人に触れられたことのない花弁に、無造作に指を擦りつけられるたびに、疼くような感覚が生まれる。
「っあ、……んぁ、あ……あ……っ」
声を出したのがよかったのか、花弁を凶王は楽しげにいじってきた。そこのぬくもりを指に移そうとでもするように。
凶王の喉が愉悦にくくっと鳴る。ラスティンの狭間をさらにその太い指先で探った後で手を引き、ベッドの傍らに置かれた香油の瓶を指し示した。
「濡らせ。生娘だというのが本当ならば、俺を受け入れられるように自分でたっぷり奥まで濡らしてみせろ。そうしないと、……ひどく痛いはずだ」
その命令に、ラスティンは震えた。
香油を何に使うのかは知っている。それは肌に艶を出すために塗りこまれるだけではなく、性行為をするためにも利用されていた。濡れないときや、性急に挿入するときには、それを使えばスムーズに受け入れられる。
──自分で、……しろって……。
大きく開かれたままの太腿が震えた。だが、そこに自分で香油を垂らすと考えただけで、腰が重く痺れた。