その傷痕に愛を乞う
- 著者:
- 小出みき
- イラスト:
- 小禄
- 発売日:
- 2023年06月05日
- 定価:
- 847円(10%税込)
きみは誰よりも美しい。
田舎で暮らすセラフィーナは、療養に訪れていた王子・エリオットと物語のような恋をし、デビュタントで踊る約束を交わす。夢心地の日々だったが、ある日二人の逢瀬に猛犬が。彼を庇い醜い傷を負ってしまうセラフィーナ。治療の間に約束の日は過ぎ、傷物と見限ってか彼は姿を見せなくなった。悲しみに暮れていると突然、エリオットに攫われ監禁される。昏い目をした彼から醜い傷への賛美と快楽を何度も教え込まれ、セラフィーナの理性はやがて崩れていき……
手段を選ばぬ知略の王子×健気な令嬢、
歪な世界の愛の行方は――。
セラフィーナ
恋愛小説好きの夢見がちなご令嬢だが、誰かを助けるためなら危険をいとわない勇敢さも持つ。
エリオット
気さくな第二王子。自らを“兄のスペア”と称し捨て鉢になる節も持つが、執愛を知って次第に変化が……?
エリオットが身をかがめ、そっと唇を重ねる。
「きみの魅力は微塵も損なわれてなどいない。信じてくれないかもしれないが……僕は前よりずっときみが好きなんだ。今のきみは以前よりもずっとずっと美しいと本気で思ってる。唯一無二の、かけがえのない存在なんだ。きみと離れて初めてわかった。僕は……きみがいなければ生きていけない、魂の欠落を抱えた人間なんだよ」
彼は妖しい輝きを目に溜めて囁いた。
「信じなくてもいい。だけど僕が本気でそう考えていることだけはわかってほしい。脅してるわけじゃなく、単に事実を述べているだけなんだ。きみを失ったら僕は死ぬ。羽をもがれた鳥は墜落するしかないだろう? そういうことなんだよ。きみは僕の生殺与奪の権を握ってる、残酷な女神。僕はただきみの前にひれ伏して慈悲を請う以外にない」
セラフィーナは絶句した。その言葉が誇張でないことを、彼の目の異様な光が物語っている。
エリオットは間違いなく、どこか根源的な部分で壊れてしまった。あの黒犬はセラフィーナの肩を嚙み裂いただけではなく、彼の魂をもずたずたにしたのだ。
彼の頰にそっと手を伸ばしてセラフィーナは囁いた。
「……いいわ。噓じゃないと証明する。あなたが望む限り側にいるわ」
エリオットはむしゃぶりつくようにセラフィーナを抱きしめ、狂おしげなくちづけを繰り返しながら夜着の胸元を開いた。慌ててその手を摑む。
「ま、待って。灯りを……消してほしいの」
彼はせつなげにセラフィーナを見つめ、溜め息まじりに頷いた。
「わかったよ」
部屋中の蠟燭やランプを消して戻ってくると彼は傍らに身を横たえて囁いた。
「これでいい?」
残った光源は暖炉だけだ。パチパチと薪が爆ぜる小さな音と昏い赤のゆらめきで、エリオットの顔は半分陰に沈んでいる。頷くと彼はセラフィーナに覆い被さり、唇をふさいだ。
ついばむようなくちづけを繰り返しながら夜着の襟をゆるめ、首筋に舌を這わせる。
「んっ……」
くすぐったさと不穏な戦慄を同時に感じてぞくりとする。彼の手が傷痕に触れ、セラフィーナはびくっと肩をすくめた。
なだめるように彼がそっと手を滑らせると、羽毛で撫でられるみたいな感触で下腹部が疼いた。
エリオットはセラフィーナの肩口に愛おしげなキスを繰り返した。そうすることで赦しを請うように。必死に傷を癒やそうとするかのように。
彼の懸命さが伝わって、セラフィーナは彼の背におずおずと腕を回した。
「いいの。それは、もう」
彼のために負った傷。後悔はしていない。一度も後悔したことなどない。
彼は頭をもたげ、真正面からじっとセラフィーナを見つめた。暖炉の火が彼の顔に謎めいた翳を落とし、笑いとも泣き顔ともつかぬ表情を昏く浮かび上がらせる。
瞳にちらちらと瞬く光のせいか、何やら淫靡で魔的なものを宿しているかのような妖美さが漂う。
彼は身を起こすとドレッシングガウンとシャツを脱ぎ捨てた。引き締まったしなやかな肉体があらわになり、思わず頰を染める。
彼はセラフィーナの夜着も引き抜いて床に放った。反射的に胸を隠そうとすると、腕を摑んでシーツに押しつけられてしまう。セラフィーナは顔をそむけ、ぎゅっと目を閉じた。
胸の頂を刺激されてハッと目を開けるとエリオットが乳首に吸いついていた。
「や、だめ……っ」
抗おうとしても手首を押さえつけられていて動けない。荒くなった呼吸で弾む胸の突端を口に含み、限界までじゅうっと強く吸っては放すことを繰り返した。すっかり硬くなった乳首は赤味を増し、唾液で濡れそぼってツンとそばだっている。
両方がぷっくりと尖っても彼は執拗に乳首を舐めしゃぶった。薔薇の花びらのようにやわらかな乳輪ごと口に含み、舌で弄びながら強く吸ったり軽く歯を立てたりする。
下腹部の疼痛がどんどん強まるのを感じ、羞恥で睫毛が重く湿った。
知らぬ間にセラフィーナは甘い喘ぎを洩らし始めていた。ようやく気が済んだのかエリオットは身を起こし、唾液で濡れた唇をぬぐって目を細めた。
「……綺麗だよ。胸に小さな薔薇がふたつ花開いたみたいだ」
甘やかすように囁かれ、頰が熱くなる。恥ずかしくて顔を合わせられないけれど、称賛されれば歓喜が湧き上がり、ぞくぞくと痺れるように身体がわなないた。
彼は忍び笑いをするとふたたび屈み込み、掌で乳房を包み込むと優しく捏ね回し始めた。
性的なことにまるで無知だったセラフィーナには彼の意図がよくわからない。かつて読みふけった恋愛小説は主人公たちが数々の障害を乗り越えて結ばれ、めでたしめでたしで終わるのが常だった。
結婚式の後のことには触れられていないし、そういうことを知りたがるのははしたないことだとされていたから、実際に結婚すれば自然とわかるのだろうと漠然と考えていた。
それがまさか、結婚式も挙げずにこんなことになるなんて……。
恨めしいわけではないけれど、表情が曇ったことに気付いたのかエリオットがふと手を止めた。
「……やっぱり厭?」
目を瞠り、慌てて首を振る。
「違うの。ただ……」
「婚礼前に求めたことは謝るよ。でも、とても待ってはいられない。きみをしっかり捕まえていないと不安でたまらないんだ」
彼はセラフィーナの手を取ってくちづけた。
「狡いってことは自分でもわかってる。卑怯だと詰られても反論はできない。それでもきみの心が僕にあることを確かめたくて──」
彼の背に腕を回して微笑む。
「わたしの心はあなたのものよ。最初からそうだった。これからも、ずっと」
「セラフィーナ」
呻くように囁いて彼は唇を重ねた。荒々しいくちづけに翻弄され、息苦しさに喘ぐと歯列の隙間から舌が滑り込んだ。
「んんッ!?」
反射的に押し戻そうとすればよりいっそう強く抱きしめられ、有無を言わさず口腔をなぶられてくらくらと眩暈がした。
思う存分舐め尽くすと彼は軽く息を荒らげて身を起こした。くたりとなって喘いでいるセラフィーナの腿を摑み、ぐいと脚を開く。
「ひ……っ」
あられもない恰好をさせられてセラフィーナは真っ赤になった。ぱくりと割れた秘処を、エリオットがまじまじと覗き込む。暖炉の明かりだけではよく見えないはずだが、それでも恥ずかしいことに変わりはない。
彼の指が羞恥に縮こまっている花芽に触れる。思いも寄らぬ強い刺激が走り、セラフィーナはびくっと身体を揺らした。
指先でそっと撫でさするように彼は慎ましい突起に触れてくる。今まで感じたことのない鋭い刺激にセラフィーナは混乱し、シーツを握りしめて喘いだ。
(な、何……これ……!?)
優しく撫でられるたび、びくびくと勝手に身体が跳ねてしまう。何やら熱いものがとろりと滴り、指の滑りがよくなって、まさか漏らしてしまったのかと羞恥に身を縮めた。
「ご、ごめんなさい……っ」
「何を謝るんだ?」
「だ、だって……」
ああ、と彼は得心したように苦笑した。
「大丈夫。ここは女性がとても感じる場所だから、濡れるのは気持ちがいいからだよ」
そう言われて初めてセラフィーナは自分が感じているこの未知の感覚が肉体的な心地よさなのだと気付いた。とたんに産毛が逆立つような快感にぞくんと身体が震える。
「あ……」
「気持ちいい?」
優しく問われ、おずおずと頷いた。第一関節まで指がとぷりと沈み、くちゅくちゅと浅い出入りを繰り返すたびに新たな蜜が誘い出される。
「……とろとろになってきた。感じてるんだね、セラフィーナ」
エリオットは昂奮をにじませる声音で囁き、さらに抽挿を大胆にした。にゅぷっ、くちゅっと淫靡な水音が高くなり、いつしかセラフィーナは頰を紅潮させ、喘ぎながらぎこちなく腰を振っていた。
ぬめりをまとった指は少しずつ奥処へと分け入ってゆく。やがて、ぐっと掌を押しつけて彼は囁いた。
「付け根まで入った」
思わず視線を向けると、彼は見せびらかすようにゆっくりと指を抜き、またずぷずぷと隘路に押し戻した。
セラフィーナは魅入られたようにその様を凝視した。エリオットの優美な長い指が自分の中に埋め込まれている。今までただ排泄と月経のための場所としか考えていなかった、秘すべき場所に。
そうされて快感を覚えている。今まで知らなかった感覚が彼の指によって掘り起こされてゆく。そのことに驚きと羞恥、そして喜びを感じていた。
彼は反応を確かめながらゆっくりと指を動かした。初めて異物の侵入を受けた隘路はまだ硬く、狭く、ぴったりと押し包むように指に巻きついた。