愛に蝕まれた獣は、執恋の腕で番を抱く
- 著者:
- 宇奈月香
- イラスト:
- 園見亜季
- 発売日:
- 2023年04月05日
- 定価:
- 836円(10%税込)
お前の罪ごと、貪っていたい。
幼い頃、第一王子ジルベールの婚約者となった公爵令嬢レティシア。光り輝くような彼に気後れしながら遊んでいた森で、レティシアは猛毒を持つ獣に襲われる。彼女を鋭い爪から庇ったジルベールは、獣の毒に侵されたせいで死んだ者として扱われることになってしまう。十一年後、レティシアは離宮で暮らすジルベールの世話をしながら、彼の「獣性」をその身で鎮めることに、切ない喜びを感じていた。ある日、ふたりだけの閉じた世界に変化が投じられて……。
獣性の廃嫡王子×奉仕する公爵令嬢、荒々しい欲望と繊細な恋心が交わる運命。
レティシア
ジルベールの婚約者で公爵令嬢。ジルベールに愛情と負い目があり、彼に奉仕している。
ジルベール
レグティス国第一王子であったが、とある事件によりその身に「獣化」の呪いを受ける。
離宮に戻るなり、レティシアは寝室へと連れ込まれた。
もつれるようにベッドに組み敷かれる。
外套に手をかけると、乱暴に脱がされた。生地が裂ける音が、ジルベールが理性を制御できないでいることを伝えてくる。
「ジルベール、様ッ。お待ちください!」
服の上から弄る手にもみくちゃにされながら、身を捩った。
黒いドレスの裾をたくし上げられる。反対の手で前開きのボタンを引きちぎられた。弾け飛んだボタンの一つが、顔に当たる。
「や……っ、どうして急に!」
「うるさい」
下着をむかれ、胸を押さえていたさらしすら破ってしまう。
あらわになった乳房が零れ出ると、ジルベールの赤い目が食い入るように見ていた。
「なンだ、これ」
「は……っ、ん、んぁ!」
豊かに膨らんだ乳房を両手で鷲摑みにされ、むしゃぶりつかれた。
「やっ、あ!」
乳房の尖頂に牙を立てられると、痛みとそれ以外の感覚が腰骨を震わせた。
「こんなもん、いつから持ってた」
「何……言って」
「でかい」
「──ッ」
それが、育ちすぎた乳房のことだと気づくと、羞恥に顔が熱くなった。
普段は、禁欲的なドレスで隠していたが、レティシアは見た目のわりに女性的な身体に育ってしまっていた。まだ離宮に入った頃は、わずかな膨らみしかなかったが、年を追うごとに豊かになった。
王宮から送られてくるレティシアの服では、どれも胸元が窮屈で、普段は乳房を潰していたのだ。
「でも、ウま、い……」
しゃぶりつくジルベールは、すでに半分理性が飛んでいる。
「イイ匂い、だ」
両手で形が変わるほどもみしだき、痛いほど吸い上げられた。
「駄目……っ、ジルベール様、これ以上はいけませんっ」
のし掛かってきたジルベールの欲望が、下腹に擦りつけられる。彼が今、どれほど興奮しているかを伝えてくる雄々しさに、レティシアは歓喜と恐怖を抱いた。
発情期の熱がぶり返してきたのだ。
けれど、なぜ突然。何がジルベールを刺激したのだろう。
「馬車に……生娘がいた」
疑問は、ジルベールのうわごとで解決した。
ゲルガが生涯で番う相手は一匹だけ。しかも、彼は今発情中だ。本能的に子種を残せる可能性を感じたに違いない。
ならば、この熱は、彼女を想って滾ったものなのだ。
「彼女を……ご所望、です……か……? ぁ、ん」
「ショ……望──。そう、だ」
あぁ、ひどいことを言う。
「国王陛下が……あんっ、お許しになりませ……ん、んぁ」
王家がひた隠しにしている存在を、おいそれと貴族に教えるわけがない。ハルゲリー伯爵がどういう人物で王家にとってどういう立ち位置にあるのかはわからないが、よほどのことがない限り、ジルベールのことは明かさないはずだ。
だが、彼は今、ハルゲリー伯爵令嬢を望むと口にした。
それは、彼女を番う相手と感じたからではないのか。
国王が首を縦に振らずとも、王妃にこのことが知られたら違う結果になるかもしれない。彼女は、ジルベールを愛している。不憫な我が子の願いなら、是が非でも叶えてやりたいと思うのが、親心ではないだろうか。理由をつけて彼女を召し上げることくらいするだろう。そうなれば、自分は用済みになってしまうのだろうか。
(いいえ、違う。私だってジルベール様に望まれたからここにいるんだもの)
でも、あの頃と今では状況が違う。
六年も前の彼の気持ちが、今と同じだなんて思えない。
無意識に身体が強ばった。
どちらを寵愛するかなど、火を見るより明らかなこと。
(そんなのは嫌)
彼の側に別の女性が立つ光景なんて、見たくない。
「あ、アぁ……ッ」
うなり声と共に、ジルベールがレティシアの身体に嚙み痕を付けていく。そそり立つ欲望を衣服越しに、秘部へと押し当てられた。ごりごりと擦られる刺激に、ふるりと身体が期待に震える。
「い……ぁ、ジルベール様、いけません」
さんざん弄ばれた乳房は、ジルベールの唾液で濡れそぼっていた。尖頂は赤く充血し、ぷっくりと硬くなっている。
「は……ぁ、はぁっ!」
今夜の興奮度合いは一段とひどい。血走った目に、口端からは涎が零れていた。綺麗な造形を歪め、玉のように浮かんだ汗の雫が、彼の流す涙に見えた。
(苦しいんだわ)
辛いのは、獣性に理性を奪われていくことなのか、それとも、望んだ相手ではない者を組み敷いていることなのか。
「逃げ、ろ──」
内股に嚙みつかれたかと思えば、そのまま顔が下へと下がっていく。秘部に熱い息がかかった。
理性が戻ってきたのだ。
だが、まだまだ普段のジルベールとは違う。
行為に苦悶の表情を浮かべるのは、レティシアで初めての発情を覚えたとき以来だ。
口では、レティシアに離れるように言い、身体はレティシアを求めてくる。
理性と欲望がせめぎ合っている姿が痛々しい。
どうして放り出せるだろう。
「ク、ソ。なんて……香り、だっ。なんでお前、だけ──っ」
苦しげに呻き、鼻先を媚肉に押し当てられる。
「あぁっ……、駄目。やめ、て」
「だったら──。発情した雌の匂いを、させる、な。俺を、誘うな」
「ひぃ……あぁ!」
舌で割れ目を舐め上げられ、強烈な快感が腰骨から脳天へと抜けていく。五年ぶりの感覚に、腰がおかしいくらい悦びにうち震えていた。痺れるような、それでいて蕩けてしまいそうなほど甘ったるい刺激だ。身体の内側からジルベールを求める熱が広がってくる。
「あぁ、滲んできた」
喜悦が混じった声で囁き、ジルベールがべろり、べろりと舐めてくる。布越しに伝わる生温かい肉感が、気持ちいいのにもどかしかった。
「は……ぁ、あぁっ、あ……ん」
ジルベールに奉仕するたびに疼いていた場所が、蜜を滴らせて彼を待ちわびている。
「駄目と言うわりに、悦んでる。腰が揺れてる……じゃない、か」
「そ、れは……ぁ、ん!」
布越しに蜜穴を指で押された。舌とは違う硬さがもたらす圧に、ぶるりと胴震いした。
「これでも、違うと?」
かすれた声が、ジルベールの興奮の度合いを伝えてきた。
彼が抱きたいのは、レティシアではないのに、求めてくれることが嬉しくてたまらない。
噓でも、彼の言葉を否定しなければ、淫乱だと思われてしまう。
「わかる……か? ぐっしょり、だ。──なぁ? ここに入るとどんな気持ちに、なるんだろうな」
「──っ、いけま、せん! ジルベール様、それだけは」
「お前は誰のものだ」
「それとこれとは話が違いますっ」
「異端は恐ろしい、か」
蜜穴を弄りながら吐き捨てられた言葉に、心臓がえぐり取られるかと思った。
──異端。
その言葉を口にする彼が、どれほどの孤独を抱えているかを感じてしまう。
しかし、現状がそう思わせている。
人の目から隠され、存在自体を消され、彼はこの世に生きていない者とされてしまった。存在意義すら持たず、とは言え死ぬことすら許されない。何一つ生み出すこともない、死を待つだけの人生は、どれほど寂しいだろう。
わかりたくても、訳知り顔で彼の気持ちを代弁するのは傲慢というもの。
レティシアは、ただ彼に付き従うことしかできない。
ジルベールの側にいて、彼の望みを叶え、欲望を満たす。
「怖くなど、ありません」
どれだけ彼の側にいたと思うのか。
恐ろしいのなら、とっくに心を壊しているだろう。
手を伸ばし、銀色に輝く髪を梳く。絹糸よりも手触りのいい柔らかさは、いつまでだって触っていたい。
たとえ、ジルベールが誰かの代わりにレティシアを求めているとしてもだ。
「いつまでもお側におります」
心を込めた誓いに、ジルベールが上目遣いで見つめていた。
「くだらない。お前は噓つきだ」
一笑に付すと、下着を剝ぎ取られた。蜜穴に長い指がひと息で根元まで入ってくる。
「ひ──ぁ、あ!」
「……狭い、な」
「あっ、待って……ジルベールさま」
「中が蠢いて、絡みついてくる。まるで待ちわびていたようだな」
「ちが──ぅ、の……あぁん、んっんぁ」
「何が違う? お前にはこの音が聞こえないのか?」
ジルベールが指を動かすたびに、ぐちゅ、ぐちゅと淫猥な音がする。溢れた蜜が立てる水音は次第に大きくなっていく。まるでこうされることを待ちわびていたかのように、止めどなく蜜は溢れた。
「手首まで濡れたぞ。どうしてくれる」
「ごめ……んな、さ……いっ。でも……ぁ、は……んぁ!」
「ここだな?」
指が上壁を撫でた。緩い圧に摩擦とは違う刺激が子を孕む場所を震わせる。切羽詰まったようにひりつくこの感覚は何?
「いけな……い、ジルベールさ、ま……。そこ、だめ」
「お前の駄目は聞き飽きた」
「そ、んな──っ。ひぁあ……あ、ん」
身体を起こし、レティシアが乱れる様子を真上からのぞき込んでいる。
「俺は他の言葉が聞きたい」
「他、の……? ぅん、んっあ」
「そうだ。あるだろ?」
ジルベールが言わんとすることがわからなかった。
彼はレティシアからどんな言葉を引き出したいのだろう。
六年間、決して触れなかった場所に手を伸ばした理由とは、何?
「わから、なぁ、あっ」
「レティシア」
「んん……ッ」
行為の最中に名前を呼ばれたことで、一気に快感が膨らんだ。