前前前世から私の命を狙っていたストーカー王子が、なぜか今世で溺愛してきます。
- 著者:
- あさぎ千夜春
- イラスト:
- 小島きいち
- 発売日:
- 2023年03月03日
- 定価:
- 847円(10%税込)
どうしたら、僕を愛してくれる…?
士官学校に通うアシュリーは、次期国王で完璧王子様と名高いヴィクトルを恐れている。三つ前の前世まで死に際の記憶がある彼女は、王子と同じ顔の男に三度も殺されたのだ。死を回避するため目立たぬように送る学生生活の中、彼女との距離をどんどんつめようとするヴィクトル。ある日、アシュリーの「神官になる」という発言を聞いた彼は、その意思を変えさせるため体に触れる。抗う気持ちとはうらはらに、アシュリーの全身を甘い陶酔が包み込んで――。
ヤンデレ王子×生贄聖女。生まれ変わるたび、私は貴方に殺される。
アシュリー
美しく才媛ながら社交界と距離を置き士官学校に首席入学。殺された前世の記憶に苛まれている。
ヴィクトル
麗しく精悍で誰をも魅了する存在感を放つ王子。初対面のときからアシュリーに強い関心を示す。
「鍵をかけたの!?」
「アシュリー、悪いが君を神官にするわけにはいかない」
明らかにヴィクトルの雰囲気が変わった。ヴィクトルはアシュリーをひょいと正面から抱き上げると、そのまま天幕の奥のベッドへと移動する。
「ちょっ、ちょっと待って、悪いがって、なに!?」
必死に手足をばたつかせたが、体格差がありすぎて、ヴィクトルの手から逃れることはできない。あっという間にアシュリーは小さなベッドの上に運ばれ、ヴィクトルがのしかかってきた。
「っ……」
慌てて体を起こそうとしたが、上から押さえつけられた体はピクリとも動かない。
「なっ、なにをするの……!」
もしかしてここで殺される?
恐怖でアシュリーの全身がガタガタと震え始める。
こうなったら魔術だ。魔術を使って逃げるしかない。攻撃はあまり得意ではないが、床を焦がしたり窓を割るくらいはできる。大きな音を立てるでもいい。医務室で異変が起きれば誰かが来てくれるはずだ。
だがそんなアシュリーの思惑に気づいたのか、ヴィクトルは片手でアシュリーの両手首をつかんでシーツにまとめて押しつけると、羽織っていたシャツを片手で手早く脱ぎ、アシュリーの両手を縛り、ベッドの手すりに巻きつけてしまった。
そしてアシュリーのブラウスを手にかけ、強引に前をくつろげる。ボタンがはじけ飛び、下着が晒される。
「っ!?」
一連の作業はあまりにも手慣れており、そしてアシュリーには生まれてこのかた予想もしない展開だった。衝撃的すぎて言葉すら出ない。頭は真っ白でもはや魔術どころではない。全身が硬直して動かない。
そんなアシュリーを見て、ヴィクトルは少し困ったように深紅の瞳を細める。
「君を神官なんてくだらないものにするわけにはいかない」
「は、はぁっ!? だからってどうしてこんなこと……理由を言って!」
理由を問いかけるアシュリーに、ヴィクトルはゆっくりと首を振る。
「理由は言いたくない。ただそうさせるわけにはいかないんだ。だから今から君を脅す」
「はぁ!?」
滅茶苦茶すぎて、一国の王子とは思えない発言に目が点になった。
そもそも神の灯火教はヒアロー大陸でもっとも信仰されている古い宗教だ。当然レッドクレイヴも同じである。教会は王家と強く密接していて、彼に王冠を授けるための戴冠の儀式だって聖教会が行う。
王家の人間が、神に仕える神官がくだらないなんて、口に出していいことではない。
「意味がわからないわ……!」
「大声を出さないでくれ、アシュリー。僕はこの状況を見つかってもかまわないと思っているが、君やご家族は困るだろう?」
しぃっとたしなめるように、ヴィクトルはやんわりと目を細める。
「っ……」
人が来ればやめてくれるかもしれないなんて考えが甘かった。逆だ。王子は困らない、むしろ困るのは君だろうとささやいている。
確かに誰がこの品行方正な王子が、女生徒に不埒な真似をすると想像するだろう。逆に、女子に嫌われまくっているアシュリーが誘惑したと言われるのがおちだ。
そうなれば責任を取らされるのは父や兄だ。兄は近衛騎士を辞めさせられるかもしれないし、男爵領が没収ということになれば家族はどうなる。
「あ、あなた、普段の王子様はどこに行ったの!?」
するとヴィクトルはにっこりと笑い、それから黄金色の前髪を手のひらでかき上げた。
「僕は普段、巨大な猫をかぶっているんだ。本当の僕は性格も悪いし、根性もひねくれている」
「ね、ねこ……」
まさか自ら性格が悪い、根性がひねくれていると打ち明けてくるとは思わなかった。
茫然としながらヴィクトルを見上げる。だがそんなことを口にしても相変わらず彼はキラキラしていて、王子様にしか見えないのが腹が立って仕方ない。
ひどい。ひどすぎる。
悔しさのあまり、アシュリーはギリギリと奥歯を嚙みしめた。
「アシュリー、もう一度言う。僕は見つかったってかまわないんだ。正式な妻にするのは難しくなるが、君を孤立させる大義名分になる。君の居場所はどこにもなくなる」
「そんなっ……」
「そしてそんな形で君を手に入れたら、僕はもう自分を止められる自信がないな」
ヴィクトルは、ふっと表情を和らげ、どこか皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「ど……どういうこと……?」
問いかけると同時に、絵に描いたような美しい王子の深紅の眼差しに、一瞬、はけで塗ったように影がよぎる。
「僕の領地に小さな家を建てて監禁する。周囲に高い高い壁を作って、君をそこに縛りつける。そしてこの細い首に金の鎖をつけるだろう。不自由な生活をさせるつもりはないが、会える人間は僕だけだ。家族にも会わせないし、誰とも会話させたりしない」
「──」
彼の言葉はあまりにも現実離れしていて、監禁すると言われていることに気づくのに、数秒かかった。
「だがそうすれば君はきっと、僕を嫌いになってしまうだろうから、監禁は最終手段だと思っている。本当は誰が許さなくてもそうしたいんだが」
ヴィクトルは意味深に、深紅の瞳を三日月のように細めた。
(嫌いになる、ですって……?)
こんなことをする時点で好かれるはずがないのに、アシュリーに嫌われたくないから監禁しないというヴィクトルの考えがよくわからない。
これは監禁よりはマシだから受け入れろとでもいうのだろうか。
(そんな自分勝手な……!)
怒りでわなわなと細かく震えるアシュリーだが、ヴィクトルはそれ以上なにも言わなかった。そしてゆっくりと、アシュリーの白い胸を覆う下着に指をひっかけ、上にずらす。白い乳房があらわになって、アシュリーはヒッと息をのんだ。
「やっ……」
思わず目を逸らしたが、
「あぁ……想像していた以上に、かわいい」
ヴィクトルはふっと微笑んで、そのまま胸に顔を寄せ、なんと胸の先端を口に含んでしまった。乳首を這う舌の感覚に全身が震える。
想像していたと言われて、背筋がゾッとした。
この美しい男は誰からも好かれる完璧王子の顔の裏で、アシュリーの裸を妄想していたということになる。
「あっ……! や、いやっ、そんなことしないで、やめてっ……!」
驚き身じろぎしたが、次の瞬間、全身を甘い痛みに似た陶酔が包み込んで、アシュリーは体を震わせた。
「やめるはずないだろ、アシュリー。僕はずっとこうしたいと思っていたんだ」
ヴィクトルは甘い声で名前を呼びながら、アシュリーの胸の先を舌で包み込み、ぴちゃぴちゃと音を立てながら唇で食む。
「んっ、あっ、やぁっ……」
じゅるじゅると聞こえるのは唾液だろうか。あんな美しい男がなぜアシュリーの胸を熱心に吸っているのか、意味がわからない。
「ま、まって、やぁっ……」
胸の先を舌で押しつぶされて、それから転がされる。両手は縛られ動かない。いやいやと首を振ることしかできないアシュリーに、ヴィクトルはなだめるようにささやいた。
「僕に舐められてすっかり尖ってしまったな。素直な体だ」
そして両手の指を使って、くりくりと乳首をこね始める。
「あんっ……」
弄ばれた刺激に、足がビクッと震えて跳ね上がった。と同時に、腹の奥がきゅうっと締まってなにかが溢れてくる感覚がある。
(な、なに……? 私の体、どうなっているの?)