健やかなる時も病める時も、あなたのために何度でも
- 著者:
- 榎木ユウ
- イラスト:
- 柾木見月
- 発売日:
- 2022年10月05日
- 定価:
- 847円(10%税込)
「俺のものになって、愛してるから愛して」
生業は呪術師、昼間はカモフラージュでパート社員として働いている烏丸臨。呪術師の仕事をこなした帰り道、路地裏で絡まれていたイケメン営業社員・塔ノ木昂をつい力を使って助けてしまう。その翌日から、なぜか昂はキラキラな笑顔で臨に全力で求愛を開始し、どん引きするほどぐいぐい迫ってくる。全身全霊で愛を捧げる彼から逃れられず、心も身体も甘く解され絆されてしまう臨だったが……。昂には絶対に臨でなくてはならない理由があった──。
綺麗系イケメンリーマン×地味系モブ顔女子、
呪い呪われ恋乞われ、戒めを破るその先にあるものは──
烏丸臨(からすま・のぞむ)
23歳。少しばかり口が悪い呪術師。自分では地味系モブ顔だと思っている。
塔ノ木昂(とうのぎ・こう)
28歳。営業部のエース。綺麗系イケメンだが異能オタク。ある事情で……。
塔ノ木はネクタイをぐっと緩めると、ワイシャツのボタンを一つだけ外した。
(めちゃくちゃエロい……)
普段、爽やかな姿しか見せない塔ノ木の、雄を感じさせる所作は、それだけで最終兵器のような威力だった。
塔ノ木から目を離せない臨にゆっくりと顔を近づけると、ちゅっと五回目のキスをした。そして臨の顎に手を当てて「口、開けて」と命令する。
恐る恐る口を開けると舌を突っ込んで口内をいきなり蹂躙してくる。塔ノ木の舌からは臨の作った水割りの味がした。
「んっ……うぅ……」
ちゅうっと吸われたり、べろっと舐められたり忙しない。そのうち、胸の先がなぜかじんじんとしてくる。
(なんで……?)
キスの合間に自分の胸に視線を向けて、臨は愕然とした。
確かにキスをする前は服を着ていたはずなのに、いつの間にかブラウスがはだけて、インナーのキャミソールは肩からすべり落とされ腹のあたりでたぐまっているし、ブラジャーにいたっては行方不明になっていた。
「ど、ど、どうやったの?」
臨はぐっと塔ノ木の顎を押してキスをやめさせる。胸元を隠しながら顔を真っ赤にして尋ねると、塔ノ木はプハッと吹き出す。
「まさか質問されるとは思わなかった」
「いや、だって、どうやったの、これ? ええええ?」
下半身も下着だけになっていた。スカーチョが行方不明だ。自分で脱いだ覚えはまったくないので、塔ノ木の早業に驚きしか覚えない。
「キスでいっぱいいっぱいな臨ちゃん、本当に可愛い」
そう言いながら、塔ノ木は臨の裸の胸に直接触れてくる。
「ひゃっ……」
胸の先をじゅるっといやらしい音をたててしゃぶる。ゾクリと身体が震えた。
(え、絵面ぁ……!)
臨の胸を美味しそうに食む塔ノ木の姿は刺激が強すぎた。しかも容赦なく卑猥だった。
乳輪を全部くわえ込まれて、舌先が乳首をぐりぐりと押し込んでくる。大きく開いた口にしっかりと吸い込まれた胸が形を変える様はいやらしい以外の何物でもない。
臨の視界には見えない塔ノ木の口内でされていることなのに、どうされているのか触感だけでわかる。
「まっ……や、なに、これっ……」
ピリピリと弱い電気を身体中に流されているみたいだった。異性に胸を触られることも、舐められることももちろん初めてだったが、こんなに強い刺激がずっと続くものだなんて、知らなかった。
「塔ノ木さっ……」
「コウ」
「ふえ?」
「俺、昂だから。もう名前で呼んで」
塔ノ木はそう言ったあと、また胸にむしゃぶりつく。
「や、駄目……!」
「呼んでくれないとずっと咥えるよ」
「こ、昂くん?」
名を呼ぶと、ようやく口を離してくれた。けれど、さんざん舐められた胸の先は彼の唾液でべたべたで、ツンと赤く尖っているようにさえ見える。お風呂に入ったときもそんなによく見たことはないが、こんなにツンとしたことはなかった。臨は自分の胸の卑猥さに啞然としてしまう。
「先に謝っとくと、ちなみにこっちは名前呼ばれてもやめないから」
「はい?」
昂はずるりと臨の下着を一気に下ろした。
「ひゃああああ」
いきなり全裸にされて、悲鳴を上げてしまった。昂はまだ脱いでいないのに、臨だけが服を着ていないことがひどく恥ずかしい。
「しょ、初心者にこれはどうかと思います!」
「だけど、脱がないとHできない」
「ほ、本当にするの?」
「ここまでして、まさかしないと思っている?」
「しないわけがないですね……」
二重否定で肯定してしまった。
昂の視線はすっかりギラギラとした雄の目だ。息だって普段よりずっと荒い。
「ちなみに、私の気持ちとか尊重してくれる気は……?」
「自分のものにしないと気がすまない」
キッパリと自分本位な宣言をされて、臨は何も言い返せなかった。ふーふーと荒い息を吐く昂はいつもと全然違って、そして同時になんだか泣いているようにも思えた。
「何が……嫌だったの……?」
気づいたら昂の頬に手を伸ばし、尋ねていた。昂は荒い息のまま、ずっと臨を見下ろしている。
「何が、怖かったの?」
今度はそう尋ねると、一瞬だけ昂が目を細めた。
臨より四つ年上の男の人。けれど、今、臨をめちゃくちゃに勢いだけで抱こうとしているこの人は、臨よりずっと幼い子供のように見えた。
「お願い……」
掠れた声で昂が言う。
「俺のものになって。俺を愛して……」
願うように、乞うように、呟かれた言葉は、想像していたよりもずっと真摯な響きで。
「俺だけを──」
最後に囁かれた言葉を聞いたとき、臨はなんだか泣きたくなった。
「それは無理かなあ……?」
その願いは臨の仕事上難しいことを告げると、ぐずっと昂は鼻をすすってから「抱かせて」と言った。
「いいよ」
臨は気がついたら、そう返事をしていた。
ここまで必死に求められて、乞われて、断るにはとうに遅く、臨は昂を好きになっていた。同時に、抱かれたら、もっと昂を好きになると確信した。