結婚できずにいたら、年下王子に捕まっていました
- 著者:
- 市尾彩佳
- イラスト:
- 笹原亜美
- 発売日:
- 2022年09月05日
- 定価:
- 836円(10%税込)
君には僕だけがいればいいんだ
縁談がなぜか次々と白紙になり、すっかり嫁き遅れ状態の伯爵令嬢ジュディス。社交界では息をひそめて過ごしていたのに、第三王子フレデリックから突然のプロポーズが! 単なる子供時代の遊び相手の私にどうして――? 混乱のまま婚約は進み、気づけば彼の寝室のベッドの上。幼い頃の面影をのぞかせつつ力強くリードしてくれる彼に心惹かれていくジュディスだったが、知らずにいた十三年間のフレデリックの独占欲が次第に明らかになり……。
策士な駄々っ子(?)年下王子×なぜか結婚できない生真面目令嬢、王子の独占欲は想像以上の激しさで……
ジュディス
子供の頃にフレデリックの遊び相手を務めていた伯爵令嬢。彼に対する気持ちは家族愛だと思っていたが……?
フレデリック
第三王子。幼い頃から国内外の問題解決に尽力してきた天才外交官。ジュディスの前ではワガママな一面も見せる。
「そんなにもわたしのことを想ってくださってありがとうございます。ですが」
〝わたしは七歳も年上の、有力でも何でもない貴族の娘。殿下とは釣り合いません〟と続けるつもりだったのに、またもやフレデリックに遮られる。
口を、温かくて柔らかなものに塞がれて。
何が起こったのか、すぐには理解できなかった。頬を両手で包まれ顔を上向きにされて。目の前にあるのはフレデリックの顔。近すぎてよく見えない。フレデリックが顔の角度を変えると、柔らかなものもジュディスの唇の上で動いて。湿った熱いものが柔らかなものの間から出てきて、唇を舐めて──。
「!!!!」
数瞬遅れて驚きを得たジュディスは、とっさに逃げようとした。しかし、伸し掛かられて動けない。頬を包み込む両手が思いのほか強くて、顔を背けることもできない。
(どうして殿下がわたしにキスを? 本当にそういう意味でわたしのことが好きなの? でもダメよ。わたしは殿下に相応しくない。けど……)
思考が霞んできて、ジュディスは考えることを放棄した。
ついばむように。ときに舐めくすぐるように。強引にねじ伏せておきながら、フレデリックは優しくジュディスの唇を愛撫する。じんと甘く痺れた唇から、脳を蕩けさせるような心地よい感覚が広がっていく。
こうしたキスは初めてだったジュディスは、その技巧にあっけなく陥落する。解放されていた両手はフレデリックを押し返すのではなく、いつしか彼のガウンの胸元を握りしめていた。
フレデリックの唇から解放されたとき、ジュディスは息が苦しかったことに気付いた。懸命に呼吸を繰り返していると、フレデリックはゆらりと上体を起こす。
(今だわ。この隙に殿下から離れなくては)
力の抜けた身体で懸命にずり上がろうとする。なおも抵抗を見せるジュディスを見て、彼の口から冷ややかな声が零れた。
「もういいよ。身体から説得することにするから」
(え? どういうこと?)
困惑している隙に、フレデリックはジュディスを跨いで膝立ちになる。そして荒っぽくガウンを脱ぎ捨てると、夜着の上衣に手をかけた。
「──! いけません! 女性の目の前で脱いだりしたら……!」
注意をしながら、ジュディスは慌てて横を向く。けれどほんの少しだけ見えてしまった。捲り上げられた夜着の下から現れた、筋肉で引き締まった腹部。
(わたしとは全然違うお腹……男性のお腹ってああいうものなの? ってやだやだ、なんてはしたないことを考えているの!)
脱ぐ動きに合わせて躍動する腹筋が目に焼き付いて、どぎまぎが止まらない。目を固く閉じて動悸を鎮めようとしていると、フレデリックが覆いかぶさってきた。
「んー!」
再び唇を重ねられ、ジュディスは抗議の声を上げる。
(ダメよ殿下にこんなことさせては。殿下は第三王子で優秀な外交官で。そんなお方がわたしのような者に情けをかけていいわけないわ)
そうは思うものの、甘い痺れのせいか腕に力が入らない。フレデリックの腕を押していたジュディスの手は、ずるりと滑って皺の寄ったシーツの上に落ちた。
それを見計らったように、フレデリックの熱い手がジュディスの胸の膨らみを包み込む。暖炉が燃えていても、少し離れたベッドに漂う空気はひんやりとしている。そんな空気にさらされ冷えた胸に、彼の手は焼け付くような感覚と共に体温を分け与えてきた。
(熱い……温かい……気持ちいい……)
凍えていた胸を温められて気持ちよいのか、こねるように揉まれて気持ちよいのか。いけないことだと頭では思うのに、抗う力が湧いてこない。
フレデリックが、不意にキスをやめた。顔が離れていくのを感じ、いつの間にか閉じていた目をジュディスはうっすらと開ける。そして胸を突かれた。
泣きそうに歪む天使の美貌。
「好きなんだっ、愛してるんだよジュディス……! どうか僕を受け入れて──」
切羽詰まったように言ったかと思うと、フレデリックはジュディスの首筋に顔を埋めてくる。痛みが走って、ジュディスは嚙まれたのだと気付いた。
不思議と嫌でも怖くもなかった。
(殿下はこれほどまでにわたしを)
フレデリックの今の様子は、まるで飢えているようだ。ジュディスを得られなければ死んでしまうと言わんばかりに、必死に求めてくる。彼の唇はジュディスの肌をきつく吸いながら下りていき、やがて胸の頂に食らい付いた。力が入らなくなっていたはずの身体が、水から揚げられたばかりの魚のようにびくんと跳ねる。
フレデリックは若さ故に愛と性欲を取り違えているだけなんだと思う。それでも女として求められていることに、ジュディスの心は慰められていた。モラルを考えてフレデリックを拒んできたが、本当はこうして求められることが嬉しいのだ。彼より七歳も年上であることに申し訳なさや後ろめたさは感じるけれど。
国王の許可を得たからといって、実際に結婚できるとは思えない。でも、フレデリックがこんなにも求めてくれるのならば。
(今シーズンが終わったら修道院に入って残りの人生を神に捧げるのだもの。純潔だけは殿下に捧げてもいいかもしれない)
しゃぶりつかれて感じる恥ずかしさと気持ちよさに翻弄されながら、ジュディスはそんなことを考える。
ジュディスの抵抗を感じなくなったからか、フレデリックは伸し掛かっていた身体をずらして添うように寝そべり、一層愛撫を加えてきた。唇での胸の愛撫の傍ら、彼の手はジュディスの薄い腹から豊かな腰、ほっそりした足へと下りていき、夜着の裾を捉えると中に滑り込んでくる。ジュディスは夜着の下に何も身に着けておらず、素足をじっくりと撫で上げてくる大きな手のひらの感触に途方に暮れた。
(恥ずかしい……それに何? むず痒いようなもどかしいような……)
じっとしていられず、ジュディスは膝を立てる。フレデリックはその動きに合わせ、膝頭から太腿へと手のひらを滑らせていった。
夫のみに触れることを許すべき場所。ジュディス自身も滅多に触れないその場所に、フレデリックの手がゆっくりと近付いていく。
「ジュディス、力を抜いて。大丈夫。痛くしないから」
緊張で強張っていたと気付かされるのと同時に、ジュディスは全身を朱に染める。
(何だかいやらしいことを言われた気がする。は、恥ずかしい……)
羞恥に耐え切れず、ジュディスはぎゅっと目を閉じる。すると感覚が鋭くなって、太腿の間に入ってきたフレデリックの指先が、大事な部分をふっくらと包む双丘に辿り着いたのがありありとわかった。
「ひゃ……っ」
おかしな悲鳴を上げかけて、ジュディスは慌てて両手で口を塞ぐ。
「声、聞かせてくれたらいいのに。可愛いんだから」
(今の声のどこが!?)
動揺するジュディスに構わず、フレデリックは双丘の間に指を差し込んでくる。
「~~~~~!」
ジュディスは必死に声をこらえた。
(何これ? ぴりっとして、でも気持ちいい……)
双丘の合間を指が行き来するたびに快感めいたものがそこから広がり、ジュディスはびくびくと身体を震わせる。
お腹の奥深くが熱い。そこから何かが湧き上がってきているような気がする。
口を塞ぐ指の間から、熱い吐息がほう、と漏れ出た。