復讐者は純白に溺れる
- 著者:
- 小出みき
- イラスト:
- 篁ふみ
- 発売日:
- 2022年08月03日
- 定価:
- 847円(10%税込)
憎らしくて、愛おしい。
孤児だったビアンカは自分を引き取り育ててくれたノエルに、恋心を抱いていた。ノエルから『妹』へ甘い慈しみを向けられるたび胸が苦しくなってしまう。想いが叶わなくてもそばにいられたら、そう思っていたのにノエルに縁談が。焦ったビアンカが気持ちを告げた途端、憎しみに満ちた眼差しで「忌まわしい姦婦」と罵られ、無慈悲に身体を押し拓かれてしまう。甘やかで平穏な日々は、欲望をぶつけられるものに変貌し――!?
闇を抱えた大富豪×復讐のために買われた少女、ねじれた執着愛は深く堕ちて――。
ビアンカ
十八歳。幼い頃ノエルに引き取られて妹として育てられた。膨らむ恋心を抑えることができず……。
ノエル
三十四歳。勲爵士を叙された実業家。復讐心を滾らせながら、ビアンカを慈しんできたが……。
ピン留めされた蝶の標本さながら、シーツに縫い留められてビアンカは羞恥に身を震わせた。押さえ込まれて腰が浮いているので、上半身を起こすこともできない。
フッと敏感な場所を吐息がかすめた次の瞬間、ぬるりと熱い感触に花芯が包まれた。
「ひッ……!?」
反射的に首をもたげると、ノエルが恥部に顔を埋めていた。カーッと頭に血が上り、恐慌状態に陥ってじたばたとビアンカは暴れた。
「やっ、やだ! やめて、お兄様……っ」
返ってきたのはわざとらしくじゅうっと粘膜を吸い上げる音だけだった。同時にゾクゾクッと背筋を経験したことのない戦慄が駆け上がる。
「んぅッ……!」
舌全体を使って秘裂を舐め上げられ、くすぐったさとぞわぞわするような未知の感覚にビアンカは肩を竦めた。
「やめ、て……そんな、とこ……きたな……っ」
答えはなく、代わりにぺちゃと濡れた音がした。就寝前に湯浴みはしたものの、ビアンカにはそこが排泄をする場所だという感覚しかない。月のものが下りてくる場所でもある。そんなところを舐められるなんて想像を絶していた。
どんなに懇願してもノエルは口淫をやめてくれなかった。緩急をつけて柔肉を舐め上げ、襞に隠された肉芽を舌先で転がしながらちゅくちゅくと吸いねぶる。
何故ノエルがそんなことをするのか理解できないまま、ビアンカは下腹部に不穏な疼きを覚え始めてうろたえた。
(な、なに……これ……?)
ぞくぞくと肌が粟立つようなこの感覚。寒くもないのに鳥肌が立ちそうになる。気がつけば息を荒らげて腰をくねらせていて、ビアンカは羞恥で真っ赤になった。
「……濡れてきた」
ツツッと舌先で花芯を舐め上げ、ノエルは皮肉っぽく囁いた。
「そ、それはお兄様の……」
唾液、と口にすることができずビアンカは口ごもった。ノエルは身を起こし、濡れた唇を見せつけるように指先でたどった。淫猥なしぐさにお腹の奥がぞくぞくしてしまう。
赤面したビアンカに目を細めると、ノエルは濡れた指先を花唇のあわいに滑らせた。くちゅ、と淫靡な水音がして指が沈む。肉芽の付け根をくすぐるように撫で、指はぬぷりと隘路にもぐり込んだ。
「いッ……痛……ぁっ」
びくりと肩を竦め、ビアンカはぎゅっと目をつぶった。生まれて初めて異物を挿入される違和感に、背中が冷たくなる。
「や、やめて、お兄様。痛い……っ」
「指一本で音を上げるのか? それでよく俺を誘惑しようなどと考えたものだ」
「ごめんなさい……っ」
「どうせわかってなかったんだろうが、優しくしてやるつもりはない。おまえはもう俺の妹ではないんだからな」
ぐっと指を押し込まれ、ビアンカは唇を噛んで悲鳴を上げるのを堪えた。
「……っく」
すすり泣きが洩れても無慈悲な動きは止まらない。ビアンカは絶望に呻いた。妹ではなく、ひとりの女性として見てほしいと願っていた。だが、ノエルにとって妹でないビアンカは憎悪の対象でしかなかったのだ。女性どころか人間として尊重する価値すらない忌まわしい存在だった。
そんなこと知りたくなかった。誰よりも愛している人にこれほど憎まれていたなんて。『妹』というお仕着せをまとっていたからこそ、ノエルはビアンカを愛してくれた。亡くなった本当の妹の身代わりに。その贅沢なお仕着せをビアンカは脱ぎ捨ててしまった。それがどれほど貴重なものだったのかも知らず。
「んぅ……ッ!?」
痛みの中にぞわりと快楽が混じる。ぐちぐちと未熟な花筒に指を抜き差ししながら、ノエルがふたたび花芯に吸いついた。この小さな突起を刺激されると否応なく下腹部が疼き、快感が込み上げる。指の滑りがぐんとよくなり、ビアンカは自分が濡れていることをいやでも自覚させられた。
ノエルに舐められたせいとばかりは言えない。自分の身体が刺激によって何かぬめるものを分泌しているのだ。もしや月経ではないかと焦ったが、ノエルの端整な顔に汚れはついていない。ホッとすると、彼は不機嫌そうにビアンカを睨んだ。
「何をにやついている。気持ち悪い」
「にやついてなんか……っ」
気持ち悪いと言われてショックを受けていると、身を起こしたノエルはビアンカの腰を膝に引き上げた。そのときになってビアンカは初めて彼の男性自身を目撃し、ぎょっとした。大理石の彫像では見たことがあっても、生身の男性の持ち物を見るのはもちろん初めてのことだ。
白く冷たい大理石の彫像とは違って、それは赤黒いような生々しい色彩をおびているうえに、天を衝くかのごとく猛々しくそそり立っている。にわかに恐怖心が芽生え、青ざめたビアンカは無意識に逃れようとシーツを掴んで身を捩った。
即座に腿を押さえつけられ、さらにノエルが膝立ちになったせいで腰が持ち上がってしまう。恥部が真上を向いて開かれる格好を取らされ、ビアンカはうろたえて空中で脚をばたつかせた。
「やっ……やだ、やめてっ」
恐怖と混乱で、ぶわりと涙があふれる。曖昧な性知識しか持たないビアンカにも、彼が何をしようとしているのか想像はついた。あの恐ろしい凶器のようなものでビアンカを貫くつもりなのだ。狭くて繊細な肉洞を執拗に指で探り、舌でねぶりさえしたのはこのためだったのだ。
「お願い。やめて、お兄様」
「妹でなくなったおまえの願いを聞いてやる義理などない」
にべもなく言い捨てると彼は怒張した剛直を花弁の中心に押し当てた。丸くなめらかな先端が処女襞にぬくりと沈む。ひときわ張り出した雁首で隘路をいっぱいにふさがれ、ビアンカは悲鳴を上げた。
「いやぁっ、痛い!」
「力を抜け」
苛立ったように命じられたが、言われたとおりにしたくてもとても無理だ。荒々しい侵入に未熟な粘膜はぎちぎちと引き攣り、無体な蹂躙を食い止めようと必死だった。
チッと舌打ちしたノエルが、身を乗り出してビアンカの唇をふさぐ。ぬるりと舌が入り込んできて、驚きに目を見開いたビアンカは、口中を淫靡に這い回る舌の動きにゾクゾクと戦慄いた。思わぬ心地よさに恍惚として目が裏返りそうになる。
次の瞬間、身体の中心に激痛が走り、さっと舌が引っ込む。それでも唇はふさがれたままで、ビアンカは苦悶の呻きを洩らしながらボロボロと涙をこぼした。
あれが入ってきた。ノエルの憤怒を体現したかのような、あの恐ろしく猛々しい凶器。あれがビアンカの純潔を無惨に切り裂いたのだ。
ようやく唇を離し、ノエルは囁いた。どこまでも冷たく無慈悲な声音で。
「わかったか。これが男に抱かれるということ。おまえが望んだのはこういうことだ」
唇を噛みしめ、ビアンカはふるふると首を振った。溜まった涙がこめかみを伝う。
違う。望んだのはこんなことじゃない。ノエルと愛し合いたかった。今までしてくれたように優しく抱きしめ、頬ではなく唇に甘いキスをしてほしかった。
こんな痛くてつらい思いをするなんて想像もしなかった。身体も心も踏みにじられ、惨めさと苦痛とに咽び泣いている。
愛を望んだのに、与えられたのは憎悪だった。ノエルが愛していたのは『妹』としてのビアンカであって、ひとりの女性、ひとりの人間としてのビアンカは嫌悪と憎悪の対象でしかなかったのだ。会ったこともない母親のせいで。
(……わたしのお母様が、お兄様を不幸にしたせいで……)
そうとも知らず彼に甘えていた自分はなんと愚かだったのだろう。ビアンカの存在自体が、ノエルにとって苦痛を呼び覚ますものだったのに……。
壊れた人形のように、ビアンカは放心していた。こぼれ落ちた涙が幾筋もこめかみを伝う。ぼやけた視界に、無表情に見下ろすノエルの顔が映っていた。