されど、騎士は愛にふれたい。
- 著者:
- 犬咲
- イラスト:
- 森原八鹿
- 発売日:
- 2022年07月05日
- 定価:
- 814円(10%税込)
貴女のすべてが、あまりにも尊すぎる。
王妃の治療係として離宮に幽閉されている王女エレナは、近衛騎士のリュシアンに恋心を抱いていた。けれど聖女の務めがある限り、それは叶わぬ願い。せめて、幼い頃のトラウマで女性にふれられないという彼の役に立ちたいと、エレナは自らの身体に毛布をまとい、ふれてもらうことによる克服を提案するが……。布越しのふれあいにより二人の距離が縮まっていた矢先、エレナが国王から実兄と番えと命じられてしまい――?
潔癖症の不能(?)騎士×鳥籠聖女、布の下で育まれる穢れなき初恋。
エレナ
治癒能力を持つ聖女。とらわれた生活の中で、優しく接してくれるリュシアンにほのかな恋心を抱いている。
リュシアン
麗しい美貌を持つ近衛騎士。エレナからの提案に応じ、布の上から彼女にふれようと試みるが……。
「……大丈夫ですか、エレナ様」
やさしく問う声が耳に届いていたが、エレナは、すぐに言葉を返すことができなかった。
絶頂の余韻の甘い痺れが、残り火のように下腹部にくすぶり、既に彼の指も舌も離れているのに、ふれられていた場所が、ずくんずくんと疼いている。
いや、ふれられていた場所とは少し違う。
もっと奥、彼の舌がふれていない場所が熱をもっているのだ。
エレナは渇く喉を潤すように、こくんと喉をならして唾液を呑みこむと、リュシアンに微笑みかけた。
「……大丈夫です。大丈夫、ですから……その……」
この先へ進みたい。口に出して願わずとも、彼は感じとってくれた。
「……はい。……失礼いたします」
骨ばった指がエレナを覆うシフォンの裾を摘まみ、ゆっくりと持ちあげる。
ここから先は、布を被ったままでは行えない。
あふれる蜜と唾液に濡れた布はじっとりと肌に貼りつき、そっと引きはがされるときには、ぬちゃりと湿った音が響いた。
両脚にかかる布はそのままに、その部分だけ。
遮るものなくさらけ出された場所に彼の視線が刺さる。
見つめるまなざしの熱さに、リュシアンも興奮してくれているのだと思うと、ずくりとした痛みにも似た疼きが走り、ひくりと蠢いたそこが新たな蜜を吐くのがわかった。
それに気付いたのか、リュシアンの喉がゴクリと動く。
エレナは、ふるりと羞恥に身を震わせ、ギュッと目をつむった。
閉じた視界の中、ベルトがこすれる音、衣擦れの音が響く。
ふ、と小さく息をついた彼が立ち上がる気配がして、それから、とん、とエレナの頭上で振動が響いた。彼が椅子の背に手をついたのだろう。
次いで、リュシアンは座面の端に右膝をついた。頑丈な造りとはいえ、二人分の体重を受けとめた椅子の足がミシリと軋んだ音を立てる。
──目をあけても、いいのかしら……。
こういうときはどうするべきなのだろう。
ドキドキと迷うエレナの耳に、荒い男の息遣いが届く。
シフォンで包むように太ももを抱えこまれ、広げた脚の間に近付く熱を感じて、エレナはコクリと喉を鳴らす。
そして、雌雄がふれあおうとした瞬間──ピタリとリュシアンの動きがとまった。
しばしの間彼の呼吸に耳をすまし、少し迷ってから、そっとエレナは目をひらいた。
シフォンの向こう、ジッとこちらを見つめる彼と目があい、あ、と眉を下げる。
アメジストの瞳には滾るような熱と、色濃い恐怖の色が揺れていた。
目を凝らせば、彼の頬は強ばり、額には、びっしりと汗の粒が浮かんでいる。
──ああ、やはり、無理なのかしら……。
頼りない薄布一枚であっても、彼にとっては鎧にも等しいものだったのだろう。
それがなくなった今、彼が感じている苦痛を思うと、エレナは胸が締めつけられた。
「リュシアン、あの……」
辛いのならば無理をしないでほしい。
口にしようとした言葉は、シフォンごしの口付けに阻まれた。
「……ええ、辛いです。ですが、あなたを抱きたい」
呻くように言われて、エレナは息を呑む。
「あなたを抱きたいのに、あなただと思うとふれるのが恐ろしいのです」
「……私だと思うと?」
どういう意味なのだろう。生身の女だと思うと怖くなるということだろうか。
「あなたと目を合わせて、声を聞いて……抱きあいたいのに……!」
悔しげに告げる彼の表情はひどく苦しそうで、胸が痛くなる。
その一方で、それでもエレナから離れようとしないことを嬉しいと思ってしまう。
エレナはシフォンの下で微笑み、やさしくリュシアンに語りかけた。
「リュシアン、クラヴァットを外してください」
「……クラヴァットを?」
「はい。それで、あなたの目を塞いで。見えなければ、少しは楽になるでしょう?」
ただ目をつむるよりも、うっかり目をひらいても見えないほうが安心だろう。
「私だと思わないで、ここにあるのは……人形だと思って抱いてください。……声も出さないようにしますし、動かないようにもしますから」
「そんな……っ」
「お願いです。私も、あなたに抱かれたいのです……どんな形でもいい。あなたと結ばれたい。ですから、どうか……!」
すがるように願えば、リュシアンは唇を嚙みしめ、俯いた。
けれど、一呼吸の間を置くと覚悟を決めたように顔を上げ、クラヴァットに手をかけた。
しゅるりと外して目を覆い、頭の後ろに回して、キュッと結ぶ。
そうして、ホッと息をついた彼が手探りでふれてくるのに、エレナは微笑を浮かべて、そっと目蓋を閉じた。
間違えて彼にふれてしまわないように、声がもれないように両手で口を覆うと、脚を抱えあげられ、逞しい身体が覆いかぶさってくる。
「……っ」
くちゅりと押しあてられたものは焼けるように熱く、硬かった。
濡れた肉がふれあう生々しい感覚に、エレナが小さく身を震わせてしまった瞬間。
は、と彼が息を吐き、グッと腰を押しつけてきた。
「──っ」
ぴりりと裂けるような痛みが走り、思わずこぼれそうになった悲鳴を、エレナはきつく奥歯を嚙みしめて堪えた。
硬くそりかえった灼熱の杭が、みちみちと入り口を押しひろげ、柔い肉を割りひらいて何者もふれたことのない場所へと入りこんでくる。
ズキズキとした痛みと途方もない幸福感と共に。
やがて彼の切先が奥に突き当たり、とちゅんと胎に軽い衝撃が響いた。
「……エレナ様、お痛みはございませんか?」
かすれた問いかけに、エレナは答えなかった。
エレナの脚を抱える彼の指が、腕が、緊張を帯びて強ばり、微かに震えていたから。
彼が「自分が何を抱いているのか」を思いださないですむように、ジッと黙って動かずにいた。
たっぷりの間を置いてから、リュシアンは大きく息をつくと、ゆっくりと動きはじめた。
張りだした切先がごりごりと隘路をこすり、薔薇色の粘膜をまくり上げ、あふれる蜜をかきだしていく。
そして、抜け落ちる寸前で踏みとどまり、戻ってくる。
ゆるい抜き差しが繰り返される内に身体が馴染んだのか、ズキズキとした痛みは薄れ、種火のような快感が灯る。
これならどうにか堪えられそうだと安堵したところで、不意に脚の付け根に走った快感に、エレナは目をみひらいた。
「っ、──っ」
パチパチとまたたきをして見れば、リュシアンの手がシフォンごしに散々可愛がられた花芽にふれていた。
そろりと指の腹で撫でられ、きゅんと快感に締めつければ、ビクリと彼が身を震わせる。
──忘れていいと言ったのに……。
人形相手なら、このようなことをする必要はない。
──大丈夫かしら……?
彼の息づかいが荒々しさを増すのに、エレナは眉をひそめる。
けれど、心は喜びに高鳴っていた。
リュシアンのほうこそ苦しいだろうに、少しでもエレナに悦びを与えようとしてくれることが嬉しい。
愛しさが痛みを忘れさせ、強ばっていた身体から力が抜ける。
それを彼も感じとったのか、少しずつ律動が激しくなっていった。
「っ、ふ、……っ、〜〜っ」
そりかえった物で奥を穿ちながら花芽をくすぐられ、ぐちりと押し潰されて、痺れるような快感に身悶えしたくなるのを、エレナは必死に堪える。
彼女の身体が蕩けるにつれて、抜き差しのたびに聞こえる水音が粘り気を増していく。
ふくれた熱杭を大きく引きぬき、ずんと突きいれられれば、隙間から押しだされた蜜が、ぶちゅりとあふれ、エレナの尻を伝ってシフォンを濡らした。
「……はぁ、はっ、はぁ」
月明かりに満ちた部屋に、ぎしぎしと椅子が軋む音と濡れた水音、荒々しい男の息づかいが響く。