咎人の花
- 著者:
- 山野辺りり
- イラスト:
- 天路ゆうつづ
- 発売日:
- 2022年04月30日
- 定価:
- 814円(10%税込)
貴女に憎まれたい。
この世の誰よりも強く、深く。
幼い頃大怪我を負ったせいで屋敷に軟禁されていたアレクシアは、ある夜、家族を殺されてしまう。血濡れの刃を手に殺戮現場に佇む男は、淡い恋心を抱いていたセオドアだった。十年前、彼女の父に濡れ衣を着せられたセオドアの両親は処刑され、彼は生きるために裏社会に身を投じたと知ったアレクシアは愕然とする。セオドアが彼女の家族を殺めたのは依頼された仕事でしかなく彼個人の復讐は果たされていないと、アレクシアの身体を強引に暴いて純潔を奪い――。
冷酷な暗殺者×生き残った令嬢。嵐の夜に引き裂かれた幼い恋は、血塗れ囚われ堕ちていく――。
アレクシア
幼い頃の事故で大怪我を負い身体に傷が残ったため、外聞を気にする家族に軟禁されていたが……。
セオドア
表向きは金持ちの実業家。実態はある組織を束ねる首領。依頼を受けてアレクシアの家族を……。
瞳にかかった黒髪を搔き上げる男は、ひどく妖艶だった。
整った容姿のせいだけではなく、彼の纏う退廃的な空気がセオドアをより危険で妖しく彩る。毒のあるものは美しい。触れれば害になると分かっていても、手を伸ばさずにはいられない。
アレクシアが見入ってしまったとしても、どうして責められよう。だが動きを止めてしまった一瞬で、再び淫猥な責め苦に苛まれることになった。
「……ぁっ、ぁあ……ッ、駄目……っ」
ぐにぐにと蠢く舌に花弁を弄られる。隠れていた肉芽を抉り出され、彼の口内へ迎え入れられた。
「ふ……ぁああッ」
アレクシアの眼前に星が散る。初めて味わう絶大な快感をどう処理すればいいのか分からない。激しく上下する胸は役立たずで、上手く息を吸うこともできなかった。
「……ぁ、あ、ゃぁあ……っ」
「ん、少しだけ綻んできましたね。濡れてきたのが分かりますか?」
じゅるっと淫靡な音と共に啜られ、アレクシアの腰が浮き上がった。経験したことのない喜悦が弾け、苦しくてたまらない。けれど自分の身体の何かが変わり始めたことは、察せられた。
つい先刻までは違和感と痛みばかりだったのに、今は沸々と腹の底から愉悦が生まれている。アレクシアの羞恥を糧にして、それは際限なく成長していった。
「……いつ婚家から戻されたのですか? あまり婚姻生活は長くなかったようですね。初めてではないかと錯覚するほど、ここは狭いです」
「く、ぅ……っ」
答えられるわけがない質問には首を振った。それをどう解釈したのか、セオドアが喉奥で嗤う。改めて開脚させられ、敏感な花芯を舌全体で押し潰された。
「んぁああッ」
弾けた快感が辛い。全力疾走直後に似た疲労感がどっと押し寄せる。しかし休む暇もなく、淫らな責めは続けられた。
「あ……駄目、それ……嫌ぁあ……ッ」
舌先で嬲られて、硬い歯が押しつけられたと思えば口内に吸い上げられた。異なる様々な攻撃に、無垢な身体が抗えるわけがない。たちまち愉悦の水位が上がり、アレクシアは髪を振り乱して身悶えた。
淡い茶色の髪がシーツの上でぱさぱさと踊る。自らの口を押さえて嬌声を我慢しようにも、圧倒的な快楽に押し流された。
息を吸うだけで卑猥な声が漏れる。掠れた悲鳴はアレクシアが感じている悦楽の証明でしかない。いくら『やめて』と繰り返しても、身体はとっくに陥落していた。
全身を駆け巡る血潮が、末端まで快感を運んでゆく。頭が官能に支配され、何も考えられない。獰猛な欲望の力に負け、アレクシアはヒクヒクと四肢を震わせた。
花芽を捏ねられると、体内に嵐が渦巻く。吐き出さなければどんどん大きくなり、やがてそれはアレクシア自身を呑み込む気がした。
気持ちがよくて思考力は鈍麻する。否定を繰り返しながら、腰をくねらせているのがその証拠。敷布から浅ましく浮き上がった尻を掴まれ、一層淫らな体勢に変えられた。
今やアレクシアは身体を二つ折りにされた状態で、蜜口を完全に晒している。ままならない両脚は、すっかり閉じることを忘れていた。
口の周りを透明な滴で濡らしたセオドアが薄く微笑む。その邪悪な笑顔に意識を奪われているうちに、淫道へ彼の指が押し込まれた。
「んぁッ」
含まされた質量に、アレクシアの指先まで反射的に強張る。体内で異物が蠢く感覚は、到底慣れなかった。
それでも先ほどより痛みはない。違和感は変わらないが、もっと別の感覚が生まれ出していた。
「な、何……?」
「貴女が僕を受け入れ始めた証拠ですよ」
どこか陶然とした面持ちで、セオドアが嘯く。その上アレクシアの内側から引き抜いた指を、思わせぶりに見せつけてきた。
粘度のある液体に塗れた彼の指は、筆舌に尽くし難いほどいやらしい。
人差し指と中指の間に透明の橋が架かる。アレクシアの視線を釘付けにしたまま、セオドアは自身の指に舌を這わせた。
「や……っ」
「元使用人の息子に、こんなに溢れさせて恥ずかしくありませんか? それとも、久しぶりで期待していますか?」
「お、おかしなことを言わないで……!」
おそらくわざと辱めるための台詞だと分かっている。けれど聞き流せるほどアレクシアは世慣れていない。彼の目論見通り赤面し、瞳には涙が滲んだ。
それが、男の劣情をひどく搔き立てるものだとも知らず。
「計算しているなら、見事ですね。今回は僕がのせられて差し上げます」
「え……ぁ、待って……!」
蜜路を探る指が二本に増やされ、圧迫感が一段と増した。
肉壁を押し広げられ、媚肉が疼く。粘膜を擦られると、花芯を責められたときとはまた違う刺激に体内が騒めいた。
「ぁあ……っ、や、変になる……ッ」
「いいですよ、なっても。───壊れてしまったら、僕が最後まで可愛がってあげます」
ぐちぐちと濡れた淫音が奏でられる。それがアレクシア自身の身体から発せられていると思うと、より愉悦の波が大きくなった。
蜜路を前後する指が、段々奥へ進んでゆく。誰も触れたことがない場所を弄られ、同時に淫芽を摩擦されて、アレクシアは艶声を迸らせた。
「ぁ……ぁあああッ」
世界が真っ白に染まる。ビクンッと痙攣した手足がベッドに落ち、完全に弛緩した。
肺が忙しく動き、チカチカと光が明滅する。その瞬きを打ち消したのは、アレクシアを覗き込んでくる男の深淵を宿した瞳だった。
「お嬢様、まさかこれで終わりだとは思っていませんよね?」
落ちかかる瞼をせき止めたのは、セオドアの不穏な言葉。濡れそぼったあわいに、硬いものが押し当てられている。
アレクシアが緩慢な仕草で息を継ぐと、落ちてきたのは場違いに優しい口づけだった。舌先で軽く舐められて、再びしっとりと重ねられる。
思えば、唇へキスされたのはこれが初めて。驚きで、茫洋としていた思考が鮮明になった。
幼い頃、誰にも言えず抱えていた憧れが叶えられた瞬間。だがどうしてこんなにも悲しく、虚しいのだろう。
彼の瞳の中に答えを探す。けれど映っていたのは、泣きそうな顔で戸惑いを浮かべた女だけだった。
「可哀想なお嬢様。貴女に罪はないけれど、僕らはどこまでいっても対立する運命のようです。でしたら、とことん憎み合いましょう。被害者であり、加害者として」
睦言に似た甘さで囁かれ、心臓が大きく脈打った。
憎しみを真っすぐぶつけられ、思いの外衝撃を受ける。決して越えられない川を挟み、対岸で向かい合っている感覚が胸に痛い。
現実はこんなにも近くにいるのに、自分たちの距離が縮まる日は永久に来やしないと断言された。愚かな期待は抱くなと、たった今突き放されたのだ。
「……ぁ、あッ」
「力を抜いていてください」
「無理……っ」
狭隘な入り口に、到底質量が見合わないものが無理やり押し込まれた。
さながら焼けた熱杭で貫かれたよう。身体を引き裂かれる感覚に恐れ戦く。彼も苦しいのか息を荒げており、顎を伝って滴り落ちた汗がアレクシアの肌を濡らした。
「痛……っ」
「……っ、随分狭い……ゴードン家に戻ってから、一度も男を咥えこまなかったのですか?」
「そんなこと……っ、したことがない……ッ、ゃあ……」
引き攣れた肉襞が激痛を訴え、もうやめてと叫びたくても、上手く言葉が出てこない。小刻みに震えることしかできないアレクシアに、宥めるキスが落ちてきた。先ほどよりも濃密なそれは、深く舌を絡ませられる。逃げ惑う舌を誘い出され、歯列を辿られた。
初めてのはずの行為に、どこか覚えがあるのは何故だろう。
は、と息を吐くと更に深く貪られ、呼吸も喰らわれた。
「ん……っ、ぅあ……ッ」
物慣れない口づけへ意識の大半を奪われている間に、セオドアがゆっくり、けれど確実に腰を押し進めてくる。じりじりと内壁を摩擦され、隘路が軋んだ。