王弟殿下のナナメな求愛
- 著者:
- 桜井さくや
- イラスト:
- 氷堂れん
- 発売日:
- 2022年03月03日
- 定価:
- 814円(10%税込)
おまえ、俺が気になって仕方ないようだな。
王弟アモンと結婚することになったリリス。婚約者候補ではあったけれど、リリスは子供の頃から彼にずっと“いじわる”をされていて、好意を抱かれているなど思ったこともない。政略的にもメリットの少ないリリスがなぜ選ばれたのか、彼の真意がわからぬまま初夜を迎えることに……。「喜べ、今からこれはおまえのものだ」などと自慢げに言い、愉しそうにリリスを組み敷くアモン。執拗に貪られたリリスは、やっぱり“いじわる”をされているとしか思えなくて――?
ポジティブすぎる王弟殿下×内気な令嬢、噛み合わない新婚生活の行方は……!?
リリス
アモンの婚約者候補で彼と子供の頃から交流があったが“嫌がらせ”をされてばかりいたので苦手意識を持っている。
アモン
国王の歳の離れた弟。兄に溺愛されて育ったためか、自己肯定感が高い。他人に嫌われていると思ったことがない。
怖い、怖すぎる。
ぞわっと背筋が泡立ち、リリスは後ずさりしようとした。
だが、それを見越していたのか、アモンに強く腕を引かれてベッドにうつ伏せに倒れ込んでしまう。すぐに身を起こして逃げようとしたが、振り返ったときにはベッドの前で立ち塞がる彼に見下ろされていた。
きっと、猛獣の檻に放り込まれた子鹿はこんな気分なのだろう。
ぷるぷる震えるだけで、食べられるのを待つしかないのだ。
これから、どんなふうに乱暴されるのか、想像を超える恐ろしさに違いなかった。
「リリス、おまえには特別にいいものを見せてやろう」
「……え」
ところが、アモンは突然おかしなことを言いはじめる。
彼がおかしいのは今にはじまったことではないが、無理やり押し倒されるものと思っていたので理解が追いつかない。
──今度はなんなの……?
警戒気味にアモンを見上げると、彼はリリスの視線を意識しながら、おもむろに自分のシャツのボタンを外しはじめた。
やはり襲いかかるつもりだ。
リリスは危険を感じて再び身構える。
しかし、ボタンを外す動きはやけにゆっくりで、すべてを外したあとも襲いかかってくる気配がない。それどころか、アモンは見せつけるようにシャツを脱いでからベッドに腰掛け、上半身裸でふんぞり返るだけだった。
「どうだ?」
「……ど、どう……だ……?」
彼が何を言いたいのか、まったくわからない。
自慢げに『どうだ』と聞かれても、リリスには何も答えられなかった。
けれど、彼は答えを求めていたわけではないのか、ぎこちなく反応するリリスを見て満足そうに頷いている。
その後もアモンは脚を組んだり、左右の脚を組み替えたりしているだけで、それ以上の動きはない。妙に自信に満ちた顔で見つめられても曖昧に笑い返すことしかできなかったが、やはり彼は大仰に頷いて一人で納得していた。
もしや、今日はこれで終わりなのでは……。
あまりに何もないので、淡い期待がリリスの頭を過る。
だが、次の瞬間、アモンの放った一言でそれが甘い考えだとすぐに気づかされた。
「リリス、おまえも早く脱げ」
「……っ」
「どうした。何をしている。もしや俺に脱がしてほしいのか?」
「え?」
「なんだ、それならそうと言えばいいものを……。しかし、そういうことなら仕方ない。望みどおり、俺がすべて脱がしてやる」
「あっ、あのっ、違います……ッ」
「何が違うと言うのだ。いいから俺に任せろ」
「あぁっ、何を……っ」
誰もそんなことは言っていないのに、アモンはまたも勝手に話を進めていく。
リリスは慌ててベッドの端に移動しようとしたが、途中で腕を摑まれて強引に引き戻されてしまう。
すると、彼の胸に飛び込む格好になって、その逞しい胸板になぜかドキッとさせられた。
リリスはそんな自分に驚いてジタバタと藻搔いたが、そうすると彼の滑らかな肌で頬を擦られて余計に心臓が跳ね上がる。
──これは違う。何かの間違いよ……っ。
リリスはアモンの胸を押し、必死で距離を取ろうとした。
だが、そんな抵抗など物ともせず、彼はリリスのドレスの裾を鷲摑みにして腰まで捲り上げた。
初夜のために用意されたドレスは日中に着るものと違って、とてもシンプルな作りだ。
生地は薄く、おそらくリネンでできているのだろう。着心地がよくて着るのも脱ぐのも簡単だが、誰かが脱がすときも同じことが言える。彼が今したように捲り上げていけばいいだけだった。
「……なかなか扇情的だ」
「アモン…さま……」
ドレスの生地は腰の辺りでたぐまって、リリスの太腿はすっかりむき出しになっていた。
その様子をアモンはギラついた目で見つめている。生地を摑む手に力を込めると、今度は胸元まで捲り、怯えるリリスを素早くベッドに組み敷いた。
「あっ!?」
「もっと見せろ。今のおまえにはドレスなど邪魔なだけだ」
「ま、待ってくださ…──」
アモンは息を乱しながら、一気にドレスを脱がしていく。
余計な装飾はほとんどないため、両腕を上げさせられただけであっという間の出来事だった。
乳房もお腹も、あらゆる部分が空気に晒されて、リリスは顔を真っ赤にして身を捩る。
しかし、羞恥を感じたのも束の間、アモンは動きを止めることなくドロワーズの腰紐を摑んでするりと解いてしまう。
「や…ぁ…ッ!」
それに気づいたリリスは、咄嗟にドロワーズのウエスト部分を握り締める。
そうすることで、少しでも足搔こうとしていたのかもしれなかった。
けれども、アモンはそれさえ難なく乗り越えていく。
彼は唐突に身を屈めると、リリスの腕をベロリと舐め上げた。驚いたリリスがドロワーズから手を放した瞬間、すかさず裾を摑んで思い切り引きずり降ろし、完全に生まれたままの姿にしてしまったのだ。
「……あ…、そんなっ」
「これが、リリスの身体……」
「み…、見ないでください……」
「なんだ、恥じらっているのか? 脱がせろと言ったのはおまえのほうではないか」
「ちっ、違いますっ、私は……っ」
「まぁ、そんなことはどうでもいいのだ。リリス、俺の残りの服はおまえが脱がせろ」
「……え?」
「難しいことは何もない。これを脱がせるだけだ」
言いながら、アモンは自身の下衣を指差してみせる。
リリスは目を丸くして、口をぱくつかせた。
彼のほうは上半身しか脱いでいなかったが、いくらなんでもそんなことを要求してくるとは思わなかったのだ。
「早くしろ。ほら、手を寄越せ」
「あっ、や…っ」
「ここを緩めるのだ。そう、こうやってボタンを外してな。いいか、ちゃんと覚えるのだぞ」
「……っ、〜……ッ!?」
リリスが動けずにいると、アモンはリリスの手を摑んで自身の下腹部まで持っていく。
ちょうど彼のおへその辺りにボタンがついており、指先で器用に外すと腰回りに余裕ができる。そうすると、指で下衣を引っ張っただけで硬そうな腹筋があらわになったが、リリスはその間、手を摑まれていたので自分では何もしていない。アモンのはだけた前部分を、息を呑んで見つめていただけだった。
「……ぁ」
その直後、リリスはびくんと肩を揺らす。
部屋は暗く、僅かな月明かりと床に置かれた燭台の灯りが頼りだったが、彼の屹立したものがはっきり見えてしまったのだ。
脱げば下半身も見えるのは当然だ。
しかし、まだ何もしていないのにどうしてこんなに興奮しているのか。
男性器を見るのははじめてとはいえ、これが普通の状態でないことだけはわかる。
リリスが目を白黒させていると、アモンは誇らしげに笑みを浮かべた。
「どうだ、立派だろう。喜べ、今からこれはおまえのものだ」
「……あ…あ……」
無理、こんなの入らない。
もらっても困る。ちっとも嬉しくない。
頭の中で警笛が鳴り響き、リリスは逃げ腰になってアモンの下から這い出ようと試みる。
だが、その拍子に彼に摑まれたままの自分の手も動き、彼の屹立したものをうっかり触ってしまった。
「……う」
「──ッ」
アモンが眉根を寄せて掠れた声で呻く。
妙に色っぽい声音に、リリスは身を固くした。
違うんです。わざとじゃないんです。
言葉にしようとしたが、唇が小さく震えただけで声にならない。
こうしている間も、リリスの手は彼の熱に触れたままだ。
それだけでなく、緊張で手が震えて無駄に刺激を与えてしまい、彼の熱はさらに質量を増していく。これでは何を言っても言い訳にしかならない。それどころか、自分から誘っていると思われても仕方ない状況だった。
「リリ…ス…、おまえがこんなに積極的だったとは……」
「あ…ぅ……」
「……ならばこちらも相応のお返しをせねばな」