楽園の略奪者
- 著者:
- 荷鴣
- イラスト:
- yoco
- 発売日:
- 2022年01月07日
- 定価:
- 814円(10%税込)
おまえと俺は、離れてはいけない。
閉ざされた世界で生きるミースは、ある日、ヨナシュという冷たい目をした男に攫われる。人違いでの誘拐だったが、悪意を知らないミースにとっては、未知と出会う冒険の旅となっていた。一方ヨナシュは、人質の人懐こさを怪訝に思いつつも無下にはできず、逃亡の旅を続けてしまう。特殊な環境で育ったふたりは、芽生えた想いの名を知らぬまま、心を通わせ、次第に離れられなくなってゆく。だが、その旅は許されるものではなく、国を揺るがす事態に発展し……?
女嫌いの略奪者×謎を秘めた無垢な娘、恋を知らぬふたりの不器用な愛の行方は……?
ミース
人違いでヨナシュに誘拐された娘。世間知らずで人の悪意すらも知らず、誘拐犯のヨナシュに懐く。
ヨナシュ
ある任務で宗教国家に潜入するが、人違いでミースを誘拐してしまう。本来なら殺すところを一緒に旅を続け……。
「……ヨナシュ。いま、わたしがどれほどうれしくて幸せか、わかる?」
「おまえの思いは、顔に表れすぎてまるわかりだ。泥がついている。息を吸って止めろ」
指示に従えば、ヨナシュはミースを抱えたままで水にもぐった。頬と鼻と口をこすられたのは、そこが汚れているからだろう。
水面から顔を出し、息を吸いこんだ時には、唇がやわらかな熱に包まれた。全身の血がざあっとざわめき、ミースの肌を、りんごのように染めてゆく。心臓も早鐘を打っていた。胸の奥が甘くうずいて、どうしようもなくせつなくて苦しい。
「……おまえ、赤すぎだろう。好物の色になりやがって」
「せ、接吻……。……したわ。あなたと…………」
「結婚するんだろう、当然だ」
かふ、と口から吐息が漏れる。くちづけは次第に変化をしてゆき、唇の形が変わるほどの激しいものになってゆく。その間、彼は湖の奥へと突き進んだ。
隙間なく彼に口を塞がれて息ができない。それでもミースは幸せだったが、時間が経つにつれて苦しくなる。空気を求めてばたつくと解放されて、ぷはっ、と息を吸いこんだ。
「ミース、息は鼻でしろ。覚えなければ窒息するぞ」
「は、……鼻で息ね。わかったわ」
熱が口から離れたのはわずかな時間だけだった。すぐにぴたりと塞がれて、ミースは教えられたとおりに鼻で息を吸いこんだ。慣れるまでは呼吸するのに忙しかったが、慣れてからは彼の唇に夢中になった。あの美しい口と合わさっているなんて現実だとは思えない。
熱に浮かされたように、「ヨナシュ」と名前をつぶやけば、彼の瞳が細まった。
水は、彼の肩の位置にまで達していた。ミースも浸かりきっている。くちづけをしているせいなのか、それとも濡れているせいなのか、身体がいつも以上に密着している気がする。火照っているのか寒さは感じない。ずっと、彼とのキスに思考は流されていた。
やがて、身体にうずきを感じて、ミースはもぞもぞと足を動かした。
「……ヨナシュ、身体が、むずむずするの。どうしてなのかわからないのだけれど」
「おそらく性欲だ。俺もよく知らないが。結婚し、初夜を完遂するには必要なものだ」
湖のふちまで行き着いて、彼のひざの上に座らされる。ミースは三つ編みをほどかれて、彼の手で服を剝がされた。心なしかていねいに扱われ、これまで裸になることに抵抗がなかったミースは、はじめて恥ずかしいと思った。
胸がふくれているのが恥ずかしい。色づいた乳首が恥ずかしい。おへそも、おなかも、そして薄く毛が生えている脚の間も恥ずかしい。肩も手も、恥ずかしくてたまらない。
「あ……、そんな」
ヨナシュは普段、ミースの身体にみだりに触れることはなかったが、ミースが恥ずかしいと考えている箇所をあますところなく撫で回す。細部まで確認しているかのようだった。ミースは高鳴る鼓動を感じつつ、身体をすべる大きな手を意識していた。
「夫は妻の身体に触れるものだが……怖いか? やめておくか?」
「……やめないで。ぜんぜん怖くないわ。だって、ヨナシュだもの。大好きよ」
両脇に彼の手が差しこまれ、小柄な身体はやすやすと水から持ち上げられた。胸が、彼の目線の高さに近づいて、様子を窺うミースは目を瞠る。彼の唇が薄く開いて、覗いた舌が、薄桃色の乳首を舐めはじめたからだ。
舐められるなどまったく想定していなかったミースは混乱し、はっ、はっ、と浅く息をくり返す。その間も、彼の舌は胸の先をいじくった。
突然吸われて、じく、と刺激が貫いた。彼がもてあそぶのは胸なのに、腰の奥がうずくのはなぜなのか。生々しい感覚に、ミースはぎゅっと目をつむる。乱れる呼吸に苦心した。
「ミース、性交はこんなものではない。焦ることはない。おまえが結婚の意味を知った上で、納得してからするべきだ」
「やめたくない……。だって、ヨナシュといつまで一緒にいられるか、誰にもわからないのだもの。だからわたし……」
恐々と目を開ければ、胸の先が彼の口に隠された。むさぼられ、なにかが背すじを駆けてゆく。肌がじっとり汗ばんだ。もたらされる官能にミースは甘く息をはく。熱い吐息の合間に声が漏れていた。
はじめて襲いくる感覚になすすべもなく流される。吸われてねぶられ甘嚙みされて、なにも考えられなかったが、信じられないほど気持ちがよくて、知らず彼に胸を押しつけた。
彼は、ゆっくりミースの身体を下ろしながら舌を這わせると、鎖骨へ移り、首を舐め上げ、最後に唇にむしゃぶりついた。