騎士の殉愛
- 著者:
- 栢野すばる
- イラスト:
- Ciel
- 発売日:
- 2022年01月07日
- 定価:
- 792円(10%税込)
あとどれだけ捧げれば、君を取り返せるだろう。
兄の起こした反乱により領地を追われ、40歳も年上の公爵と政略結婚をしたマリカ。だが夫と夫婦関係はなく、いずれ“仮父”を呼ぶと告げられていた。仮父とは、子供をつくれない夫の代わりに妻に子種を分けてくれる男のこと。嫌悪感を抱くマリカだが、仮父として現れたのは、かつての婚約者で初恋の人アデルだった。愛しい男の熱に溺れ、マリカはつい彼への恋心を漏らしてしまう。そんな彼女にアデルは「一緒に地獄に堕ちよう」と、不穏な言葉を告げてきて……。
最凶騎士×薄幸の公爵夫人、すべてをなげうつ狂愛に翻弄されて……。
マリカ
兄の起こした反乱の結果、公爵と政略結婚をすることに。アデルとの未来が断たれ、心を殺して生きているが……。
アデル
マリカの元婚約者。マリカをずっと想っており、自分の信じる戦の神にマリカを返してくれるよう願掛けをしている。
「俺がそんなに嫌か」
不意に静かな声が響いた。お互い会話を交わさず子種だけ仕込むのが正しい作法のはずなのに、なんと無礼な仮父だろう、馴れ馴れしい。マリカはますます膝頭に力を入れた。
──嫌よ、嫌に決まって……え……?
そのとき、強い違和感を覚える。
声がアデルに似ている。だが気のせいかもしれない。最後に聞いたのは二年前だから、聞き間違いの可能性もある。
マリカはぎゅっと瞑っていた目を薄く開け、己の足元を見た。
寝台に乗り上げた男が、マリカの脚を跨いで、膝に手を掛けている。またこの間のいやらしい格好をさせようとしているのだ。
睨み付けようとしていたマリカの目が、そのまま大きく見開かれた。
蝋燭の灯りに浮かぶ姿が、よく知る男のものだったからだ。
黒い髪、精悍な輪郭、広い肩。美しく整った静穏な顔。
──あ……アデル……? 噓……。
身体から力が抜ける。
そこにいたのは、二年前に生き別れた婚約者だった。
何も考えられない。ゆらゆら揺れる茜色の光の中で見つめ合いながら、マリカは震える唇を開いた。
「アデル?」
「……久しぶり。この前は顔を見せてくれなかったが、今日は気が変わったのか?」
やはり、彼はアデルなのだ。
マリカは信じられない想いで頷き、正直に答えた。
「顔を隠すなと家の人間に叱られたの」
「ふうん……まあいい。俺はどちらでも構わない」
淡々とした声で答えると、アデルがマリカの脚を大きく開かせた。
柔らかい絹の寝間着の裾が、腹に結ばれた帯の下で割れ、夜の冷えた空気に脚と秘部が晒される。
だがマリカは脚を閉じるのも忘れ、アデルに重ねて尋ねた。
「この前来たのも貴方なの?」
「ああ、そうだ。今日もさっさと済ませよう」
まるで作業をこなすかのような口ぶりだった。
マリカは軽い屈辱を覚え、腰を引いて膝をとじ合わせる。そして、寝間着の裾をかき合わせて両手で秘部を覆った。
「どうしてこんなことを引き受けたの?」
「君こそ、なぜ仮父が俺であることを受け入れたんだ?」
「どういうこと? 私は閣下に命じられるままに、閣下の決めた仮父を待っていただけよ。貴方が来るなんて知らなかった」
その答えに、アデルがゆっくりと瞬きをした。
──私……何かおかしなことを言った……?
しかし、アデルの表情は読めない。昔と変わらず、飄々としていて心の奥を覗かせてくれない。晴れた夜空のような黒い目には静かな光が浮かんでいるだけだ。
マリカの脚が、アデルの大きな手で再び無情に開かれる。
「あ……っ……」
蟹のように脚を曲げ、秘部を余すところなくアデルに晒す姿勢を取らされた。帯で結んで閉じただけの寝間着がどんどん脱げてくる。
アデルは上着を脱ぎ、寝台の隅に置くと、ズボンに手を掛けた。
躊躇いもなく前釦を外し、下着と共にズボンをずり下げる。ぶるんと音がしそうな勢いで男性器が屹立し、マリカは慌てて目を逸らした。
かすかに下腹部が火照り始めた。身体はまだ性交の快感を生々しく覚えている。
今夜もまたあの愉悦に溺れるのだろうか。もっと犯してと、身体が叫ぶのだろうか。
──嫌、もう快感を覚えるのは嫌です……神様……。
マリカは心の中で祈ると、アデルに尋ねた。
「ねえ、アデル……仮父としてここに来た理由を教えて」
身体を近づけてきたアデルが静かな声で答えた。
「正教会を通して閣下から頼まれたからだ」
「それだけ? 貴方にこんなことを頼んだ理由は聞いた?」
「さあ、知らない。説明されなかった」
「そうなの」
冷めた声が出た。昔の婚約者に引き合わせ、子種を仕込ませようだなんて、ロレンシオは何を考えているのだろう。
手駒として利用し尽くす詫びのつもりなのだろうか。『せめて、かつて愛した男に抱かれて孕め』と……だとしたら悪趣味すぎる。
「ずいぶん変わった依頼を受けたのね。断ってもよかったのよ」
マリカの乾いた声に、アデルが不思議そうに顔を覗き込んできた。
昔よりも更に精悍さが増した顔つきに、一瞬だけ心が揺れた。
だが開きかけた心はすぐに閉じる。今のマリカには何もない。身体を道具として差し出す以外何もできないのだ。心なんて存在する意味がない……。
「元気がないな。もしかして具合が悪いのか?」
アデルの優しい声に、マリカは顔を上げて笑みを浮かべようとした。
だが、うまく顔が動かない。『公爵夫人』を演じるとき以外は、作り笑いは難しいようだ。笑顔を作るのを諦め、マリカは小さな声で答えた。
「大丈夫、少し疲れているだけなの。気にしないで」
切れ長の黒い目が、戸惑ったようにマリカを見下ろしている。
「どうしたの?」
「君のそんな元気のない顔は、初めて見る気がして」
乾いた笑いが込み上げてくる。アデルの記憶の中の自分は、お転婆で元気いっぱいの女の子なのだろう。
幸せだった頃の自分に教えてあげたい。貴女は偉大なる公爵閣下の道具になる、そんなふうに笑ったりはしゃいだりすることはもう二度とできなくなるのだと。
──アデルからしたら、今の私は別人なんでしょうね。
黙りこくっているマリカに、アデルがいぶかしげな視線を注いでくる。
「そんなことより早く抱いて、早く帰って。蝋燭が尽きるまでに戻らなければいけないのでしょう。仮父が長居することは禁じられているはずよ」
「だが、君の様子があまりに……」
言いかけるアデルの言葉を、マリカは強い口調で遮った。
「大丈夫だから、気にしないで」
「……分かった」
アデルが納得しかねる表情で頷いた。大きな手がマリカの腰に掛かる。脚が更に大きく開かれた。反り返る性器の先端を宛てがわれ、マリカは小さく息を呑む。
「軟膏を塗ったほうがいいか?」
この前の夜の異様な快楽を思い出し、マリカは慌てて首を横に振った。
「要らないわ」
「分かった、ではこのまま……痛かったらあれを塗るから言ってくれ」
柔肉の裂け目を硬い肉杭の先で押され、きゅんと蜜口が収縮した。お腹の奥が熱い。
身体の火照りが止まらなくなる。
先ほどまで強く感じていた『知らない男に体液を注がれる嫌悪』が、心の中から綺麗に消え去っている。
──どうして……? 嫌じゃないのは『知り合い』のアデルだから……?
戸惑いつつも、マリカは低い声で続けた。
「痛くてもいい」
アデルは反り返りそうになる性器を手で押さえたまま、マリカの裂け目を先端で繰り返し擦った。
刺激に誘われ、たちまち裂け目が濡れ始めた。
弾力のある切っ先の感触に、どろりと蜜が溢れ出す。
──アデルのあれが入ってくるんだ、私の中に、お腹の奥に……。
そう思った刹那、呼吸が熱を帯びた。
彼の姿を見まいと、脚を開いて秘部を晒したまま天井を見上げる。
アデルの杭の先端が茂みを擦り、蜜孔に沈み込もうとしては、また滑って裂け目沿いに通り過ぎていく。
「濡れてきたら挿れる」
杭の先が孔に触れるたび、お腹の奥がひくひくと蠢く。マリカの身体は間違いなく『気持ちいい』と言っていた。
マリカはそっと唇を嚙んだ。
次から次に蜜が溢れてくる場所に、アデルがひたと杭の先端を当てる。そして、マリカの右脚を持ち上げ、身体に添うように屈曲させた。
脚を曲げられたことで、秘裂が一層開かれたのが分かる。きっとアデルの目には蜜にまみれて赤く充血した粘膜が映っているのだろう。
──こんなふうに恥ずかしくなるのは久しぶり……かも……。
マリカの呼吸が速くなった。
強い抵抗感と共に、長大な肉杭が、粘着質な音を立てて身体の中に沈み込んでいく。
男性器の生々しい質感を己の襞で感じる。怪しげな軟膏を塗っていない今宵は、ひときわアデルの形をはっきりと感じた。
狭い路を強引に開かれるのはきつくて痛い。苦しさで声が漏れそうになる。
──アデルのが……中に……。
そう思った刹那、身もだえするほどの悦びがマリカの腹の奥に走った。
「……っ……あぁ……」
禁忌だと分かっているのに腰が揺れ、甘い声が唇からこぼれた。
──だ……駄目……声なんて出しては駄目……。
己の身体の反応に驚き、ますます息が乱れる。
一番奥まで杭の先が届いた。下生え同士が擦れ合った瞬間、マリカは我慢できずに身をよじり、寝間着の襟元を摑んでしまった。