成り上がり陛下に閨の手ほどき
- 著者:
- 秋野真珠
- イラスト:
- 成瀬山吹
- 発売日:
- 2021年12月03日
- 定価:
- 792円(10%税込)
俺の俺はまだ一人前ではない。
“虐殺王"と恐れられる若き国王レオンの、夜の教育係を任されたエゼル。「閨事に関して右に出る者はいない」という噂から白羽の矢が立ったのだが、実際のエゼルは亡き夫と夫婦関係がなく、ただの耳年増なだけであった。困り果てたエゼルは酒の力を借りることに。だが泥酔した結果、女王様のようにレオンを跪かせ、彼のあそこを踏んづけるという暴挙に出てしまう。翌朝青くなるエゼルだが、罰を受けるどころか、引き続き“指南"をお願いされて……?
童貞“虐殺王"×耳年増な純潔未亡人、閨事指南は恋の始まり……!?
エゼル
社交界では男を誘う淫婦と噂されているが、実はまだ処女で真面目な性格。レオンの閨の手ほどきを依頼されるが……。
レオン
前王を打ち倒し、腐敗した貴族を次々と断罪したため、一部から虐殺王と恐れられている。実はまだ女性経験がない。
「──陛下」
「な……、んだ」
この視線には覚えがある。
あの、最初のときに見た、レオンを従わせてしまう、微笑んでいるのにこちらを見透かしているような、落ち着かない気持ちにさせる目だ。
エゼルは腕を組み、右手を上げて人差し指を唇の側に立てた。
「我慢が、できなくなったのですか?」
「……っ」
ごくり、と知らず何かを呑み込んでいた。
彼女の指の側にある唇から目が離せない。
「そんなに、続きをなさりたいんですか……手ほどきの?」
無意識に、手が伸びていた。
彼女の肩を摑もうとしたが、届く前に止められた。エゼルの両手は、いつの間にかレオンの手を握っていた。
ぴくり、と身じろぎをしてしまうのは、細く小さな指がさわさわと動くからだ。
「大きな手ですね、陛下……でも、こんな大きな手で摑まれたら、女性はすぐに壊れてしまいますから……順番に、いたしましょう」
エゼルはそう言ってレオンの手を放し、部屋の各所に置いてあった燭台の火を消していく。
「……何故?」
「あまり明るいと……恥ずかしいでしょう?」
エゼルは寝台から少し離れた場所にある燭台の火をふたつだけ残し、戻って来てレオンに背を向けた。
「どうして……」
「恥ずかしいから、背を向けたのです」
そう言ってエゼルは首の後ろに手を回した。留め具を外したのか、しゅる、と衣擦れの音がして、黒いドレスがはだけ、白い肩が露わになる。
袖から手を抜いてしまってから、エゼルは慣れた手つきでまた背中に手を回し、コルセットの紐に指をかける。
器用なものだ、と感心しながらも、レオンは徐々に露わになる肌に視線が釘付けになっていた。
あっという間にコルセットを取り去り、肩ひもがずれた下着──シュミーズと言うらしいが、それだけになったエゼルは、まだ下半身にドレスが残っていて、その不自然さがレオンの心臓を煩くさせる。
「陛下──」
エゼルは振り向こうとしたが、自分の胸元を見下ろし、何を思ったのかまた背中を向けた。
「エゼル?」
「……正面からは、恥ずかしいでしょうから……後ろから」
「……そ、そう、か」
誘われている、とレオンは感じた。
戸惑いながらも一歩を踏み出すが、レオンの広い歩幅では二歩でエゼルの背中にたどり着く。迷わず手を伸ばして、指の背で触れたのは彼女のうなじだった。
「……っ!?」
びくり、とエゼルの肩が揺れたのに驚いて、レオンも手を離す。
「ど、どうした?」
「びっくり、して……えっと、どうしてそこに?」
肩越しに少し振り返ったエゼルがまるで恥じらっているように見えて、レオンは自分の呼吸が止まるのではないかと思いながらも正直に答えた。
「白くて……綺麗だと思ったから」
「………………そう、ですか」
彼女の沈黙は長かったけれど、レオンの手を取り導いたのは、首筋でも白い肩でもなかった。
「あの……まずは、男性にはない場所から、触れるのがよろしいかと……」
背後からではエゼルの表情は見えないものの、身長差があるので覗き込むだけで彼女の胸元がよく見える。
エゼルの細い手が、レオンの大きな手を胸に近づけて押し当てた。
「ん……っ」
柔らかかった。
女性の身体とは、こんなにも柔らかいものなのか、と改めて思い知るほど柔らかかった。
無意識に手が開いて、薄い下着の上からエゼルの乳房をぎゅっと摑んでいた。
「ん、ん……っへ、いか、優しく……っ」
「わ、悪い」
エゼルの弾むような吐息と掠れた声に、すでにどうにかなりそうだったが、細くて柔らかなエゼルはレオンが本気で力を込めたら壊れてしまいそうでなんとか我慢する。
意識が下半身に集中してしまいそうだが、敵と対峙したときよりも真剣に手に集中した。
優しく、とは……どれくらいだ?
レオンは不安に思いながらも、先ほどとは違い、乳房を包み込むように手を丸めてみた。そこから指に力を入れるのではなく、手のひらで押す様に触れてみる。
「ん……っふ、」
エゼルの呼吸が乱れていることが何故か嬉しくて、レオンはそのまま上下に揺する。
「……っん」
エゼルの顔が俯き、白く細いうなじがレオンの眼下に晒された。そして、手のひらの中で、小さく硬いものがレオンを刺激し始める。
これは、と気づき、レオンはもう片方の手も前に伸ばしていた。
乳房はふたつあり、レオンの手もふたつある。ならば使わなければ公平ではないだろう。
「ぁ……っん」
俯いたままのエゼルが、自分の声を抑えるように自分の指で口を覆ったのが見えた。
エゼルの胸は、どこまでも柔らかかった。
手のひらだけではなく、レオンは少しずつ指にも力を込めて、乳房を揉みしだく。エゼルが止めないとわかると、その動きも徐々に大胆になって、大きく撫で回していた。
「ん、ん、ん……っ」
「……エゼル? こう、か?」
「あ……っそ、その……、自分、の、手と、ちが……っん」
「…………?」
どういう意味だ? とレオンは一瞬思考が止まったものの、エゼルの手とレオンの手は確かに違う。
彼女の手よりもずいぶん大きいレオンの手は、すっぽりと乳房を包み込めている。
ちょうど、いい。
レオンはそう気づいてますます大胆に揉みしだいていた。レオンの手を刺激する小さな突起は、彼女の乳首だとわかっている。それが気になり、無視できなくなり、つい指で摘まむようにして触れた。
「ぁんっ!」
「……!!」
はっきりとした嬌声に、レオンの身体が思わずびくりと跳ねる。
俯いた彼女のうなじが、少ない燭台の明かりの中でもうっすらと赤く染まっているのがわかる。レオンの顔はそこに吸い込まれるように近づいて、とうとう、先ほど指で触れた場所に鼻を押し当てていた。
「ひぁ……っ!? へ、陛下?」
「……どうしてか、ここが、すごく、いい匂いがするんだが」
すんすん、とまるで犬のようだと自分で思いながらも、レオンを誘う香りがここから出ているようで気になって仕方がない。
「あ、あ、そ、んな……っ」
乱れたエゼルの声を聞いて、レオンはそこにむしゃぶりつきたくなった。そしてレオンはその欲求を止める術を持っていなかった。
じゅく、と吸ったのは、彼女の匂いか自分の唾液かはわからないが、舐めれば舐めるだけそこから甘い匂いが漂ってくる気がした。
「ん、んぅ……っ」
エゼルが自分よりも本当に小さいことに改めて気づく。
だが、その小さな身体をもっと強く抱きしめたいと思った。
「……っあ!」
それまで、右手は右胸、左手は左胸、と決められたように揉んでいたのだが、もっと腕に閉じ込めたくて、エゼルの前で腕を交差するように回し、摑んでいた乳房を交代させた。
屈みこむような体勢になったが、エゼルを自分の中に閉じ込めたような気になって、とても気分が良かった。
「あ、あっ、あの……っ」
「……こうしたほうが、具合が良かったんだが……違ったか?」
戸惑った様子のエゼルの声に、間違えたか、と一瞬動きを止めたものの、エゼルも動きを止めた後で、小さく首を横に振った。
「ち、違うわけでは……少し驚いてしまって」
「悪い……優しく、だったな……女の身体は、予想以上に柔いようだ」
「で、す……っ」
手を替えても、乳房の柔らかさは変わらなかった。
柔らかい胸の上で、乳首だけがつんと尖っているのが下着を押し上げているのでよくわかる。指の先でくるり、と回すように突いてみると、それはレオンの思うままに動いた。
「ん……っん、そ、こは……っ」
「……だ、駄目なのか?」
触っては駄目な場所があったのか、と残念に思っていると、エゼルは少し間を空けて答えた。
「……だ、だめでは、ないですが……敏感なので、強くされると……こ」
困ります、と小さな声が確かに聞こえて、レオンは堪らず首筋にしゃぶりついた。
「んん……っ!」
びちゃり、と濡れているのは、やはり自分の唾液かもしれない。
うなじから首筋、肩のほうまで舐めてしまっているからだ。腕の中にぎゅうぎゅうに抱きしめて、柔らかな胸を揉みしだいて甘さを確かめる。
これはなんと甘美な行為か。レオンはこれまで知らなかった自分を罵りたかった。
いったい何を恥じらっていたのか。
獲物を狙うような目つきでしなだれかかってくる女体を気持ち悪いと避けていたが、その先にはこんなに陶酔するような時間が待っていたのだ。
しかし、これまで出会ったどの女性にも、今のように期待したり心臓が煩くなったり、甘い匂いがしたことはない。
誘われても、それに引き寄せられたことがないのだ。
それがどういうことなのか、考えようとしたもののレオンの思考は霞がかかったようになっていた。腕の中にある柔らかなものに夢中だった。意識は本格的に下肢に集中して、頭でものを考えられなくなってきていた。
レオンがもっとこれを感じたい、と前のめりになると、その重さに押されたのかエゼルがよろけた。エゼルよりはるかに大きい自分の身体がのしかかったら動けなくなるのはわかっていたが、止めることができなかった。
そのまま彼女の身体ごと前に進むと、すぐに寝台にたどり着く。
ここに倒れ込んでもいいだろうか、とレオンが視線を向けたところで、「陛下!」というはっきりしたエゼルの声にびくりと身体が硬直した。
「な……」
「陛下、一度、離れてください」