番人の花嫁
- 著者:
- 最賀すみれ
- イラスト:
- 炎かりよ
- 発売日:
- 2021年11月04日
- 定価:
- 792円(10%税込)
君を失うくらいなら、壊してしまおう……。
兄や父を次々に喪い、即位したばかりの女王クレアは、残酷な女王マティルダが支配する隣国との戦に敗れ、囚われてしまう。だが、幽閉された古城で獄吏として現れたのは、かつてクレアの代わりに人質として隣国へ渡った幼なじみウィリアムだった!? ずっと好きだった彼との思いがけない再会を喜ぶクレアだが……。「君は、快楽に弱い普通の女だ」彼は、クレアの女王としての誇りを打ち砕くように、淫らな言葉で貶め、快楽に堕とそうとしてきて……。
敵国の獄吏×囚われの若き女王、凶悪な支配者に歪まされた初恋の行方は……?
クレア
兄や父を喪い、若くして女王となる。隣国との戦に敗れて捕らわれるが、それにはある目論見があって……。
ウィリアム
子供の頃、クレアの代わりに人質として隣国へ渡った。今は隣国の女王マチルダの忠実な臣下と言われている。
「や……っ」
クレアは身をよじり、のしかかってくる身体を、力を込めて押しのけた。
「さわらないで、恥知らず!」
脅迫して結婚に持ち込んだだけでは飽き足らず、なしくずし的にいやらしいことを強行するだなんて。
胸の前で腕を交差させて言うと、彼は虚を衝かれたように目をしばたたいた後、歪んだ笑みを浮かべる。
「そんな初々しい嫌がり方をされても。ますますその気になるだけだ」
「わたしは本気よ。こんなふうにあなたと結ばれるつもりなんか、本当にないから……っ」
「あまり手をかけさせないでくれ」
言葉を封じるように、またしてもくちびるが重ねられてくる。しかし今度はそれだけではなかった。息継ぎを求めて緩んだあわいに、ぬるりとしたものが侵入してくる。
あまりにも予想外な出来事にクレアは目を瞠った。
(何をするの……!?)
首を振って、衝撃的な感触から逃げようとする。
しかし舌は逃げるクレアを追いかけてきた。上顎を舐めまわし、ぬるぬると絡みつき、舌の裏を舐めてくる。あまりにも卑猥な感触に耐えられない。追いまわされるうち、下腹の奥から腰にかけてがひどく甘く疼いた。たまらず左右に身をよじる。
「ん、んー……っ」
経験のないクレアは卑猥な仕打ちに太刀打ちできなかった。恥ずかしさと、身体の芯まで蕩けるような心地よさに、次第に力が失われてしまう。
その頃になってようやく、しばし解放された。しかしホッとする間もなく、再びくちびるを塞がれてしまう。今度は何かが口に注ぎ込まれてきた。
あ、と思った時には、相手の舌にくすぐられて呑み込んでしまう。喉が焼けるように熱くなった。酒だ。それも蒸留酒のように強い酒である。
「な、何を……っ」
もがいて抵抗するクレアを押さえつけ、彼はさらに三回ほどそれをくり返した。
「暴れれば暴れるほど、速くまわる」
「何が……?」
「女王陛下は性交の際、感度を高めるための特別な香薬を使っておられる。酒に混ぜて飲めば、酩酊と相まって格段に快感を得やすくなる媚薬だ。それを今、君にも飲ませた」
「…………」
「どうせ時間はたっぷりある。じっくり愉しませてもらうよ」
「楽しくなんかないわ……」
意味がわからないという気持ちを込めて見つめ返すと、ウィリアムは少しうれしそうな、そして少し同情するような、何とも嗜虐的な目を向けてきた。
実際、クレアは彼の言うことを理解しきれていない。
これまでずっと、勉強と政に人生を捧げてきた。初恋の相手であるウィリアムと結婚すると決めており、他の異性に心を奪われることもなかった。色事とは、まったくと言っていいほど縁がない。さらには嫁ぐ話もなかったため、花嫁になる準備もしていない。
つまり今、この状況に求められる知識が皆無だった。その分野に関しては、おそらく普通の少女よりもはるかに無知だという自覚もある。
懲りずにキスをしようとしたウィリアムを、腕を突っ張って拒む。
「やめて……っ。仕方なく結婚はしたけれど、あなたと夫婦のようなことをするつもりはないわ。少なくとも今は」
「なるほど、これが処女の反応ってやつか。でも予言すると、君は今夜のうちに、夫婦のするいやらしいことが大好きになるよ、クレア」
「────……っっ」
あまりにも無礼な決めつけに顔が真っ赤になった。とっさに言葉が出てこないほどの怒りに震える。何という侮辱!
クレアはつかんだ枕を相手に投げつける。
「そんなことあるはずないじゃない! この恥知らず! 近づかないで!」
ウィリアムは面倒くさそうに受け止め、二個目の枕をつかんだクレアの手を取って、寝台に押さえつけてきた。そして深い深いキスをしてくる。
傍若無人な舌が口蓋や歯列を舐めまわし、たまらなく淫靡な気持ちを搔き立ててくる。逃げまわるクレアの舌を捕らえて絡みつき、誘うように舐り、柔らかく吸い上げてくる。
「ふ……ん、んぅっ……ん、ぅぅ……っ」
押さえつけられた後も、なお暴れていたクレアの身体から次第に力が抜けていく。すると甘い責め苦にはますます熱がこもっていった。
永遠にも感じる長い時間、眩暈がするほど熱くて情熱的なキスが延々と続く。腰の奥から湧き上がる淫蕩な心地よさに溺れそうになりながら、無我夢中で抗う。
しかし、そうするうちに自分の鼓動がやけに速まっていることに気づいた。おまけに気がつけば全身が熱い。まるで酒に酔ったような心地だが、それだけではない。彼の舌がひらめくたび、何やら身体の内側からモヤモヤした、どうにも収まりのつかない、未知の衝動が湧き起こってくる。
先ほどまでとはちがう深い愉悦に、鼻にかかったような声が漏れ、身体が大きく波打った。
「んっ、んんっ、んー……っ」
反応を引き出すように、ウィリアムはクレアがじっとしていられなくなる場所ばかりをねっとりと舐めてくる。淫らな熱は次第に身の内で膨らんでいき、耐えがたいほどになった。
一体どうしたことだろう。身体がじっとしていられないほどに熱い。
(もしかしてさっきの……毒……!?)
困惑するこちらを見透かすように、ウィリアムが再び夜着の上から胸をさわってきた。いやらしいことをされているというのに、柔肉をやんわりとまさぐられる感触に、震えるほどの歓びを感じてしまう。
(どうして……?)
制止しなければと思うのに手が動かない。力が入らないのもある。しかしそれだけではない。彼の手の動きを、気持ちいいと感じてしまうのだ。もっとさわってほしいと。
(そんな……!?)
クレアは混乱した。不埒な真似を毅然と拒めないなど、あってはならないことだ。
(わたしはどうしてしまったの……?)
「ん、ふぅ……」
理性の声に反して、クレアはキスをされたまま、喉の奥で甘く蕩けた声を出す。
ぎゅっと、指が食い込むほどに膨らみをつかまれ、にじみ出した心地よさに思わず大きく身悶える。頭が沸騰しそうに熱くてぼんやりする。とろんとした視線の先で、柔らかいはずの膨らみの先端が硬くなっていった。と、すかさず指先がそこを転がしてくる。
「……ぁっ……」
ジンジンと痺れ、背筋が震えた。悩ましい刺激を追いかけるように、クレアは我知らず胸を突き出してしまう。
そんな時、悪魔の声が響いた。
「直接さわってあげようか?」
涙にうるんだ目で見上げれば、菫色の瞳が冷ややかに見下ろしてきている。
(直接……?)
彼の手がじかに胸にふれるということか。
クレアは必死に頭を振った。そんなことは絶対にだめだ。しかしこぼれたのは、儚く甘い声でしかなかった。
「……だめ……」
「どうして? 布越しよりも、そのほうが気持ちいいよ」
意地の悪い悪魔は、淫欲に掠れた声を耳朶に注ぎ込んでくる。
「ね? ここ、直接いじられたいだろう?」
先端をきゅっと強くつままれ、クレアは「はン……っ」と上体を震わせた。あぁ、もう一度。もう一度そうされたい。淫らな欲求だと思いながらも、どうしても退けることができない。
耳に、首に、鎖骨に、小さなキスを落とされながら、胸を揉みしだかれ、先端の尖りにいたずらをされるのは、それほど甘美な心地だった。