ワケあり執事の策略愛
- 著者:
- 山田椿
- イラスト:
- 天路ゆうつづ
- 発売日:
- 2021年07月02日
- 定価:
- 814円(10%税込)
これ以上なにもしないと思っているのか?
伯爵令嬢のライラは、森で倒れていた美少年サイラスを拾う。執事として働くことになった彼は、ライラにだけはなぜか横柄で意地悪。けれど嫌みを言いつつも、いつも彼女の支えになってくれていた。だがある日、ライラは第二王子の婚約者選びの審査を受けることに。同行したサイラスはどこか不満げな様子で、二人はあるきっかけで喧嘩をしてしまい……。「時間をかけるつもりでいたのにな」情欲を孕んだ声でそう言うと、彼は突然ライラを押し倒し――!?
謎を秘めた俺様執事×お人好しな令嬢、素直になれない二人の恋の行方は――!?
ライラ
生活力のない家族に代わり、家を切り盛りしている。サイラスからは「お人好しすぎる」とよく嫌みを言われている。
サイラス
地毛は金髪だが黒に染めて伊達眼鏡をかけている。ライラに拾われる前の記憶がないと言うが、何か秘密がある様子。
「わたし、噓つきは嫌いなの」
「………………………………そうか」
長い沈黙のあと、サイラスが濡れたシャツを乱暴に脱ぎ捨てた。
床に叩きつけられた塊はベチャッと不快な音を立てる。
室内にともるわずかな灯りに、男の引き締まった上半身が浮かび上がった。
「な、なにしてるの? 着替えるつもりなら、わたしは向こうに行くから」
見慣れぬ裸に動揺して、頬を赤くしながらベッドを下りようとすると、男の腕に連れ戻された。
「どうやらおれは見誤っていたようだ。てっきりおまえは身分差だけを気にかけているのだと思っていたのに、まさかそれ以前に──」
男はふっと自嘲する。
「はなからおれのことを嫌っていたんだな」
「それは……」
違う。嫌いになれないから困っていた。だからと言ってシェパードのことさえ打ち明けてくれない男を、完全に信頼できるかとなると自信がない。
「おまえに近づく狼どもを遠ざけていたのは、おまえをほかの男に渡すためじゃない」
険を孕んだ昏い眼差しに、ライラははっと息を呑む。
この瞳には見覚えがある。
雪の中で初めて彼と会ったときも、いまとおなじ傷ついた目をしていた。
「サイラス、あの……」
言い過ぎたことを謝ろう。
そう思って口を開きかけるが、サイラスはライラの寝間着に無言で手をかけると、それを一気に引き裂いた。
「や、やめっ」
露わになった胸もとを両腕で隠すが、そのまま強引にキスされる。
「ん……っ」
胸にあった手はベッドに縫い止められ、脚のあいだに彼の体が割り込んできた。
「ふ、っ……ん……」
吐息を奪うように強く吸われ、重なる唇の狭間から熱い舌がねじ込まれる。性急なキスは容赦がない。
「あ……ふ……」
淫らな舌に腔内を搔き乱され、ライラの唇がしどけなく開かれていく。
サイラスはさらに深く舌を差し入れると、ライラの胸を右手で摑んだ。
「んん……っ」
唇を塞がれたまま、大きな手に柔らかな胸を弄られる。
「う、っ」
雨に打たれていたせいか、男の手は酷く冷たかった。
そのせいで過敏になった肌が粟立ち、柔肉の先端は寒さに縮こまる。けれどしつこく指で捏ねられているうちに、その先端が少しずつ硬く尖っていった。
「気づいていたか? おまえを見るハドリー伯爵のいやらしい目つき。あいつがバーネット家の困窮に気づけば、すぐに援助を申し出て、おまえに結婚を迫ったに違いない」
「……それでマイラに気が向くよう、ハドリー伯爵を焚き付けたの?」
男はふわりと微笑んだ。
そこだけ切り取って見れば、慈愛に満ちたやさしい笑みにも見える。
「それで家の問題も片づくなら一石二鳥だろう。ただしマイラが選んだのは、人畜無害なピアース子爵だったがな」
けれど彼の発言は利己的で身勝手極まりない。
妹が言っていたことは本当だったと、これではっきりした。
サイラスは明確な意図をもって、ライラに近づく男たちを排除していたのだ。
「なぜそこまでするの?」
そんなこともわからないのかと、男の目に蔑みがこもる。
「おまえの初めてのキスの相手はおれだったよな」
サイラスが意地悪く冷笑した。
「おまえはおれを役立たず呼ばわりしたが、ここで学ぶことを考えたら、おれ以上の適任者はいないはずだ」
「どういうこと?」
ライラが首を傾けると、胸にあった手が体の曲線をたどるように脚の狭間へ移動して、片足を男の腰に絡ませた。
「男の体が知りたいなら、キス以上のことも教えてやると言っているんだ」
そのまま貪るようにキスされて、ライラは激しく抵抗した。
「やめて、サイラス!」
一瞬、男の動きが止まる。
本気で嫌がっているとわかり、さすがに冷静になったのだろう。
そう思ったのもつかの間、
「──おまえは誰にも渡さない」
サイラスはきっぱり言い放つと、白い胸に顔を埋めて薄桃色の先端を頬張った。
「う……っ……」
右の蕾を舌で蹂躙され、左の先端を指の腹で嬲られる。
「んぁ……」
舌と指で同時に弄られていると、甘い疼きがさざ波のように広がっていく。
「あ……ぁ……っ」
どうしてサイラスはこんな仕打ちをするのだろう。
こちらに好意があるのなら、まずはその気持ちを告げるのが先ではないだろうか。
けれどサイラスは気持ちを打ち明けるどころか、ライラの知らないところで画策ばかりしていたのだ。
彼がそんな行動を取ったのは、執事と令嬢という立場では結ばれないとわかっているからだろう。
だからライラもサイラスへの想いがそれ以上発展しないよう無意識のうちに制限していたのだ。互いが想いを打ち明けて、心を通わすことができたとしても、ふたりの未来に希望はない。
だから友だち以上、恋人未満の関係に満足することにした。ライラにとってその関係は、思いのほか心地良く、この先もずっと続くものだと錯覚していた。
けれどプレマリアージュを機に、ライラは改めて現実を思い知らされてしまう。
いつかじぶんも貴族のもとへ嫁ぐ日が来る。その相手は絶対に執事などではない。
「やめてっ」
抗う声は、激しい豪雨と雷鳴にかき消されてしまった。
やはり雷は悪いものを呼び込んでしまう。
こんな一時的な感情で関係を結んだところで、妹に聞かされた公爵家の令嬢とピアノ教師の男のように引き裂かれてしまう運命だ。
さすがにライラの父は、サイラスの命まで奪うような真似はしないだろうが、なにか問題を起こせば、彼のほうが社会的に排除されてしまうだろう。
ふたりで逃げても、捕まればライラよりサイラスのほうが酷い目に遭ってしまう。そんなことはさせたくない。
「サイラスお願い、こんなことしないで」
抵抗を止めないライラに冷徹な視線が注がれる。
「そんなにも、おれのことが嫌いなのか」
どこかせつなげな呟きは、ライラの胸を苦しくさせた。
意図せず彼を傷つけたのだと悟ったが、だからといってこのまま彼を受け入れるわけにもいかない。
「いまならまだ引き返せるわ」
サイラスは昏い笑みを浮かべると、翳る瞳に禍々しい光まで宿した。
「いや、だめだ。おまえはもうおれから逃げられない」
男は強引にライラの膝を割り開くと、太腿の翳りに躊躇なく顔を埋める。
「ひっ、あ……っ」
じぶんでさえろくに触れたことのない場所に、男の唇が強く吸いつく。
「ぁうっ……ぁ……」
唾液でぬるついた舌先が蛭のように蠢いて、媚肉や襞を翻弄する。
「やあ……っ」
あまりの刺激に身悶えると、男の両手が腰に添えられて、さらに深く舌を差し込まれた。
「ひ……ん、っ……うぅ……」
無防備な陰核を舌で剝かれ、男の唇が音を立てて吸いつく。
サイラスの唾液で濡れた媚肉は、いつしか淫唇からも蜜を流し、秘部をさらに湿らせた。
「おまえと違って下の口は素直だな。可愛がった分だけ甘く蕩ける」
ふいにサイラスの中指が潜り込んできた。
「あ……っ」
異物が入り込む感触にライラは眉をひそめた。
「安心しろ。すぐに善くしてやる」
サイラスは陰核を舌で転がしながら、中指を浅く深く抽挿する。そうすると熱く濡れた粘膜の狭間で甘い疼きが次々生まれ、ライラは思わずシーツを握り締めた。
「は、ぁん……んっ……あ……ぁあ……」
喉の奥から媚びるような吐息が零れる。
「や、あっ……そこ……へ、ん……ゃあ」
いつの間にか足された指で、膣孔を丹念に拡げられていく。
思わず腰を浮かせると、サイラスが口端をかすかに歪めた。
「思った以上に敏感だな。これならこの修道院であえて学ぶ必要もないんじゃないか」
結婚できない相手と淫らな行為に及んでいる。
それなのに体は熱く火照り、内壁の奧がうねるほどの快感を覚えていた。
そんなじぶんが恥ずかしくて、罪悪感を抱かずにはいられない。
「ここが感じるんだな」
嘲る唇が媚肉を抓むと、濡れた舌が包皮を捲りねっとりと花芯を舐めた。
「あ、ひぃ……っ」
男が与える愛撫と刺激に、ライラの体はますます過敏になっていく。
「見ろ、また蜜が溢れてきた」
わざと聞かせるように、指で粘度のある水音を響かせる。
「う、噓……っ」
「噓なものか。こんなにも涎をたらして、物欲しそうに指を咥え込んでいるくせに」
「や……っ」
羞恥のあまり脚を閉じようとすると、すぐに男に阻まれた。
「遠慮するな。まだ食い足りないだろう」