寡黙な庭師の一途な眼差し
- 著者:
- 水月青
- イラスト:
- 芦原モカ
- 発売日:
- 2021年03月03日
- 定価:
- 748円(10%税込)
あなたを幸せにしたい、そのためだけに生きている。
数年前、最愛の母を火事で亡くしたレーアは、義母や義妹に蔑まれながらも、屋敷の離れでひとり慎ましく暮らしていた。そんなレーアの心の支えは庭師見習いのシーグ。口数は少ないが、いつも優しく見守ってくれている彼に淡い恋心を抱いていた。だが突然、レーアの結婚が決まってしまう。貴族と庭師、どうせ叶わぬ恋だったのだと諦めようとするレーアだが……。「あなたを誰にも渡したくない」深夜、寝室に忍んできたシーグに熱い眼差しを向けられて――!?
一途な天然ストーカー×植物好きの純朴な令嬢、寡黙な庭師の裏の顔は隠密貴族!?
レーア
過去の火事で負った傷により、結婚相手が見つからずにいたが、突然、年の離れた隣国の貴族と結婚することに。
シーグ(エイナル)
本名はエイナルだが、訳あってシーグと名乗り、庭師としてレーアの屋敷で働いている。
「傷痕を見せてほしい」
「でも……」
レーアには頷く勇気がなかった。
鏡越しに自分で見ても目を背けたくなるくらいなのだ。そんなものをエイナルに見せたくはない。
「お願いだ。僕はあなたのすべてが見たい。すべてを知りたい」
エイナルは真剣な顔で懇願してくる。
見せたくはない。けれど、この懇願を拒否するような強い意志もなかった。
レーアが目線だけで頷くと、エイナルは目を細めて微笑み、ゆっくりとレーアの身体を横向きにした。
「…………!」
醜い部分を見られていると思うと、身体が勝手に縮こまる。
エイナルには綺麗な身体を見てもらいたかった。
そう思うのに、当のエイナルは気にする様子もなく傷痕を丁寧になぞり、そっと口づけを落としてくる。
「この傷痕は、あなたがあなたである証だ。誇るべきものだ」
「……誇るべきもの?」
「この傷は、あなたが母君を助けようとしたためにできた傷。あなたの心の在り様そのものだ」
確かに、今でもあの時母を庇ったことは後悔していない。母の身体に傷がつくより、自分に傷痕が残るほうが我慢できた。
母は綺麗な身体で逝った。それだけは本当に良かったと思っている。エイナルは、そんなレーアの気持ちを分かってくれているのだろうか。
「綺麗だ……」
熱を帯びた声で囁きながら、エイナルはチュッチュッと音を立てて傷痕全体に口づけた。
エイナルが口づけてくれる度、そこが治っていくような気がする。もちろん傷痕が消えることはないが、次第に気にならなくなり、彼が言うように、誇らしいものにも思えてきた。
「僕はあなたに噓はつかない。約束する」
「え……?」
突然何を言い出すのかと、レーアはきょとんとしてしまう。
「あなたは綺麗だ。誰が何と言おうと、僕にとってはこの世で一番美しい」
噓はつかないという約束をしたうえで、嬉しい言葉をくれた。エイナルがそう言ってくれるなら、自分が綺麗な存在になれたように思える。
この世にレーアより綺麗な人は数えきれないほどいる。けれど、レーアにとってエイナルが一番輝いて見えているのと同じように、エイナルにとってもレーアは輝いて見えているのかもしれない。
特別な存在とは、きっとそういうものなのだ。
レーアは滲んだ涙を指で拭うと、振り向いてエイナルを見つめた。
「ありがとうございます」
出逢ってくれたこと、助けてくれたこと、美しいと言ってくれたこと、そしてこうして愛しい気持ちをくれたことすべてに対する感謝だ。
エイナルは微笑むと、レーアの身体をそっと仰向けに戻し、顔を近づけてきた。
こうしてレーアのことを見下ろしてくるエイナルは、〝男の顔〟と言えばいいのだろうか、普段とは違う官能的な表情をしていてドキドキする。
ずっとその顔を見ていたいと思うけれど、そんな表情を向けられることに慣れていなくて、レーアはつい瞼を閉じてしまった。
ついばむように重ねられた唇は、先ほどよりも熱くなっていた。視界が暗くなったことで、彼の吐息や唇の感触がより鮮明に感じられる。
柔らかなそれがレーアの下唇を挟み、甘嚙みして離れていく。そして顎から首筋に下りていった。
首筋を食まれて舌でなぞられると、くすぐったさと同時に襲ってくる甘い感覚に、エイナルの腕を摑んでいた手に力がこもる。
「……くすぐったい?」
食んだままで尋ねられて、レーアは何度も頷いた。くすぐったいだけではないけれど、この感覚を言葉にできない。
するとエイナルは、首筋から鎖骨、そして胸に唇を滑らせていった。先ほど翻弄された刺激を思い出し、レーアは僅かに身体を震わせる。
エイナルは胸を持ち上げるように優しく揉み、唇を押しつけるようにして突起の周りに口づけていく。
「ん……」
唇が先端を掠めると、鼻から甘い吐息が漏れた。するとエイナルは、ぱくりと先端を口に含んで舌で押し潰す。
「……んん……」
そのままぐりぐりと刺激されると、背筋にぞくぞくとした何かが走り抜ける。
同時に反対の胸の先端も指の腹で優しく撫でられ、レーアの口からは自分でも聞いたことのない艶めいた声が漏れ出ていた。
「……あぁ……ん、ん……」
エイナルの舌や指が動く度、その甘い刺激で下腹部にどんどん熱が溜まっていく。それをどうにかしたくて、レーアはもじもじと脚を擦り合わせ、腰を動かした。
どうしていいか分からない熱の存在に戸惑い、助けを求め、エイナルの髪に手を差し入れてくしゃりと摑んでしまう。
顔を上げたエイナルと目が合った。彼の濡れたような瞳にどきりとする。
エイナルは舌で胸の先端を刺激しながら、するりと太ももを撫でた。思わず脚に力が入ってしまったが、優しく撫でられ続けているうちに、自然と緊張が解けていく。
太ももから徐々に脚の付け根に移動した手は、そのままゆっくりと花弁を撫でる。初めて他人に触られたそこは、エイナルが指を軽く動かしただけで、ぐちゅり……と水音がした。
レーアはその音に驚いてしまったが、エイナルは嬉しそうに微笑んだ。
「ちゃんと濡れているね。良かった」
エイナルが喜んでいるのなら、これは良いことなのだろう。自分の身体の変化に戸惑いつつも、レーアは彼に身を任せる。
指が上下に動く度に、ぬるぬるとした感覚が伝わってきた。じわじわとした刺激が全身を包んでいく。
その刺激に意識が集中し、レーアの脚は自然と開いていった。すると、その隙間にエイナルが身体を滑り込ませてくる。
「……え……?」
驚いたのは、エイナルがレーアの股の間に陣取った後、すぐに屈み込んだからだ。思わず脚を閉じようとするが、彼の身体がそれを邪魔する。
「レーアのすべてが見たいんだ。隠されたこの場所も」
レーアの瞳をまっすぐに見つめ、エイナルは言った。
無理強いするような言い方ではない。けれど逆にそれがずるいと思った。そんなふうに言われたら、拒否することなどできないではないか。
「……はい」
本当は逃げ出したいほど恥ずかしいが、それをぐっと我慢して恐る恐る脚を開く。
エイナルの視線がそこに向けられるのを見ていられなくて、レーアは慌てて瞼を閉じた。
自分でも見たことのない場所がエイナルの目に晒されているのだ。そう思うだけですぐにでもそこを隠したくなった。
「ああ……綺麗だ」
うっとりとした声音に、レーアは薄く目を開けてちらりとエイナルの顔を盗み見る。彼は有名な絵画でも鑑賞しているような、好奇心や探究心に溢れた表情をしていた。