冥闇の花嫁
- 著者:
- 山野辺りり
- イラスト:
- なま
- 発売日:
- 2021年03月03日
- 定価:
- 770円(10%税込)
もう逃がしてはあげられない――
呉服店に奉公している雪子は、同じ奉公人の蓮治に切ない恋心を抱いていた。蓮治は雪子を妹のように可愛がってくれるが、彼の目に大人の女性として映らないことがもどかしく恋心は募っていくばかり。毎夜、悍ましい夢に悩まされるようになった雪子は不眠で体調を崩してしまう。日中も夢に似た不穏な気配を感じて怯える雪子を支えてくれたのは蓮治だった。あるきっかけから共寝するようになった二人は、淫らなふれあいを求めるようになり……。
陰のある青年×純真な少女、深く重い恋情を秘めた大正ロマンス。
雪子
呉服店に奉公している純真な少女。蓮治に恋心を抱いている。女癖の悪い跡取り息子総一郎につき纏われている。
蓮治
次期番頭と噂されるほど優秀で、社交的な職場の先輩。優しく端正な顔立ちのため女性からは人気があるが……。
「あ……っ」
乳房を弄っていた彼の片手が、腹から臍を辿り、下へ降りていく。その先にあるのは、淡い繁み。そして自分ですらろくに触れたことがない秘められた場所だった。
「脚、開けますか?」
選択肢は幾つかある。このまま膝を緩めず首を左右に振ること。立ちあがって浴衣を羽織り、納戸を飛び出してもいい。これで終わりだと雪子が宣言すれば、蓮治が無理強いするとは考えられなかった。
どちらにしても決めるのは雪子の方。
だが雪子が選んだのは、おずおずと踵を左右に滑らせることだった。
ゆっくり離れていく己の立てた膝。白い脚が暗がりで開かれていく。鼠径部に空気の流れを感じ、雪子の胸の間を珠の汗が伝った。
「……もっと」
「……っ」
耳元に注がれる劇薬めいた美声が、雪子の脳を焦げつかせる。
忙しく呼吸を繰り返したせいで、大きく肩が跳ねた。
見下ろせば、掴まれた己の右乳房が卑猥に形を変えている。彼の人差し指と中指の間から飛び出した頂は、酷く淫蕩な色に染まっていた。
「で、でも……」
「強引にするのは好きじゃない。僕が見たいのは嫌がる雪子さんではなく、僕の手で気持ちよさそうに乱れる貴女だ」
耳朶を齧られながら言われ、雪子の常識や慎みは完全に壊された。
蓮治がくれる甘い毒を飲み干すことしか考えられなくなる。涙の膜が張った視界に捉えられるのは、ふしだらに脚を開いた自分の姿だけ。
向かい合っていないため、彼が今どんな表情でいるのかが窺い知れない。けれども蓮治の声と雪子の身体を弄る手に急かされた。
「雪子さん、これは安眠を得るために必要なことですよ」
そんなものは雪子が作り出した建前だ。本音は、ただ蓮治と共にいたかっただけ。触れてもらえる理由があれば、何だってかまわなかった。
だがもうそんな説明を並べ立てる余裕はない。
奇妙な理に支配された狭い納戸と言う箱の中、雪子は大胆に開脚した。
彼の指先が、焦らす速度でゆっくり下りていく。淡い下生えを掠めただけで、得も言われぬ法悦と掻痒感を呼んだ。
「……っふ」
「しぃ……静かに。誰か起こしてしまうかもしれない」
散々しゃべっておいて、今になって声を咎めるのは、おそらくわざとだ。その証拠に、蓮治は雪子の耳穴へ舌を捻じ込んできた。本気で声を我慢させるつもりなら、そんなことはしないだろう。
「んっ……、ぁ、っく……」
直接注ぎ込まれる濡れた音に、背筋が戦慄く。
耳の中がこんなにも敏感だなんて知らなかった。ねっとりと舌先が蠢くたび、艶声が溢れそうになる。直に響く水音が淫猥で、雪子の目尻に涙が滲んだ。
嫌悪感からではない。ひたすらに気持ちよくて、あちこちがだらしなくなってしまったらしい。しかし相反するようにあらゆる五感が感度を増す。
彼の呼気がうなじを湿らせ、首筋に舌を這わせられているのが分かった。
「は、ぅ……っ」
雪子の不浄の場所へ到達した蓮治の指先が妖しく蠢く。ピッタリと閉じたままの淫裂を上下になぞり、蜜口でくるりと丸く円を描いた。それだけでヒクヒクと内腿が引き攣れる。
「……雪子さんらしい、慎ましい入り口だ。清楚で、小振りなのも可愛い」
褒められたのは、恥ずかしい場所。だが同時に雪子自身を『可愛い』と言ってもらえた心地になれた。
何度も彼の指に秘裂を往復されるうちに、ムズムズとしたものが下腹で膨らんでいく。体内で何かが蕩ける感覚もある。
分からないなりに、雪子は淫靡な息を漏らした。
「ぁ、あ……」
「少し、蜜が滲んできました」
「み、つ……?」
最初に頭に浮かんだのは、同い年で友人の女中の名前。しかしすぐに彼女のことではないと思い至った。
雪子の陰唇をじっくり撫で摩っていた彼の指先の滑りが変わる。乾いた肌に触れられていた感触が、いつしか湿り気を帯びたものに変化した。
「んぁ……っ」
「雪子さんの身体が、悦んでいる証明です」
「は、恥ずかし……っ」
「恥ずかしくありません。むしろ僕は嬉しい。だからもっと感じてください」
ずっと肉のあわいを擦っていただけの蓮治の指が、花弁の内側に潜り込んだ。泥濘を探られる違和感に、雪子は身を強張らせる。
だが耳の下から首筋に向け舌で線を描かれ、硬くなっていた身体が綻んだ。
「痛いことはしません。雪子さんがよく眠れるようおまじないをかけるだけです。安心して僕に身を任せてください。僕を信じて」
疑ったこと自体、初めからない。
出会った当初から、この人は信頼のおける人だと子供心にも分かった。
だから彼が言うなら、大丈夫だろう。そもそも仮に痛い思いをさせられても、雪子はかまわないのだ。
蓮治がくれるものなら、何でもいい。記憶は、痛みを伴うものほど忘れにくいと言う。それならば、傷を刻まれたとしても彼からの贈り物だと考えれば、喜びでしかなかった。
「れ、蓮治さんなら、酷くされても平気です……っ」
上手く回らない口で、必死に告げる。
想いが大きすぎて、言葉にしきれない。この恋心を伝えるのに、雪子の語彙力ではとても足りなかった。
「───これ以上、煽らないでもらえますか。僕の我慢にも限度がある」
「我慢しなくても……っ、ん、ふぁ」
雪子はやや苦しい体勢で横を向かせられ、唇を喰らわれた。
舌を啜り上げられて、喜悦が生まれる。眼を白黒させている間に、彼の指先が蜜路に沈められた。
「ん、ぅ……っ」
僅か指一本でも、何物も受け入れたことがない隘路には、異物感が凄まじい。
無垢な肉壁が引き攣れるような痛みもある。けれど粘膜がたっぷりと潤っているおかげか、最初に感じた違和感はすぐに霧散していった。
「……雪子さんの中は、熱くうねっていますね。ここに入ったら、さぞかし極楽を味わえるでしょう……っ」
「ぁ、あ……っ、れ、蓮治……さん……っ」
「……っ、雪子さん、すみませんが今名前を呼ばれるのはまずいです……っ」
掠れた声で彼が呻くように言う。蓮治が大きく深呼吸したのが、密着した背中から伝わってきた。それも二度三度と、繰り返している。まるで自分を落ち着かせ、込み上げる衝動をやりすごすかのように。
「ァあっ」
内壁を掻かれ、雪子の四肢がひくついた。仰け反った拍子に彼の胸板の逞しさを感じ、蓮治の汗の匂いを嗅ぎ取った。
くちくちと微かな水音が聞こえる。
音源が自分の下肢であることが信じられない。常軌を逸しているほど卑猥だ。それなのに羞恥を糧にして、雪子の快楽は瞬く間に大きくなった。
「……ぁ、ァあッ……や、蓮治さん……、んぁアッ」
「呼ばないでほしいと言っているのに……雪子さんは意外に頑固なところがありますね」
「ひ、ぁああっ」
肉洞の浅いところを出入りしていた指先が移動し、上部にある淫芽を捉えた。そこは神経が集中する場所。女の弱点とも言うべき花芯を、彼の蜜に塗れた指が容赦なく転がした。
「やぁ……それ、駄目です……っ」
「雪子さんも僕の言いつけを聞かないでしょう? だからやめてあげません」
「んぁあッ、ぁ、や、変になる……っ」
ぬちぬちと淫らな音が掻き鳴らされる。先ほどより水音が大きくなっているのは、それだけ雪子の中から愛蜜が溢れたせいなのか。
たまらず髪を振り乱して快楽を逃そうとすれば、肉芽を擦る指が二本に増やされた。
「ひぁ……っ」
摘ままれ、摩られ、押し潰される。
それらのどの動きも愉悦になった。
荒くなった蓮治の呼気に炙られた首筋も、揉まれたままの片胸も、弄られる花弁も。
何もかもが快感を生みだした。雪子が身を捩るたびにゴリゴリと尻肉に当たる昂りからも淫悦が刻まれる。
生まれて初めて味わう性的な快楽は、激しすぎて雪子に処理できなかった。
「ひ……っ、ぁああっ、駄目……蓮治さん、も、もう……んぁ、嫌ぁっ……!」
目尻から涙が溢れ、身悶えた。
気持ちがいい。けれど怖い。
彼の姿が視認できないせいもある。抱き締められていても、どこか寂しかった。
けれど追い立てられるように喜悦の水位は際限なく上がる。微かな物悲しさを置き去りにして、身体は勝手に熱を上げた。
「……んぁ、や、変……、何かきちゃう……っ」
「変じゃありませんよ。己を解放すれば、もっとよくなる」
これ以上は無理だ。
本当におかしくなってしまう。そう断りたくても、雪子の口は役立たずだった。
だらしなく半開きになった唇からは、淫蕩な声しか出ない。後は呑み込めなかった唾液だけ。
蓮治の指技に悦んで、上下で涎を垂らしている。
あまりにも淫らすぎる己の姿を、冷静に顧みることもできなかった。
「蓮治さ……っ、ぁ、待って、お願い……っ、ん、ぁアッ」
「……っ、雪子さんのこんないやらしい面を知っているのは、僕だけですよね?」
「あ、当たり前……っ、ふ、ぁああッ」
肉芽を押し潰されながら淫路を指に犯され、雪子の悦楽が飽和した。
眼前が白に染まり、何もかもが遠ざかる。音も聞こえない世界で、手足を痙攣させた。
大きく喘いだ拍子に、胸いっぱいに香りを嗅ぐ。彼の匂いで身体の内も外も染め上げられる妄想に、歓喜が弾けた。
「ん……ぁあああッ」
白魚の如く跳ねた雪子の身体は、背後からきつく蓮治に抱き竦められた。逃がさないと言葉より雄弁に告げる腕の強さに、酔いしれる。
「……ぁ、あ……蓮、治……さん……」
意識が高みに放り出されるのと共に、雪子は穏やかな眠りの中へ転がり落ちていった。