復讐するまで帰りません! 健康で文化的な最低限度の執愛
- 著者:
- 鳥下ビニール
- イラスト:
- さばるどろ
- 発売日:
- 2020年10月05日
- 定価:
- 748円(10%税込)
――俺は諦めない。絶望を味わわせてやる
金貸しの両親を亡くして以来、裕福な暮らしから一転貧乏生活のロニエ。そこへ謎の美青年ジャックが「恩返しをさせてくれ」とぐいぐい入り込んできた! 汚部屋をいきなり掃除するジャックにロニエはドン引きしまくり。けれど美味しい食事にほだされ丸め込まれて、ジャックと同居することに。しかし、ジャックの目的は恩返しをすることでも、家政夫をすることでもなく、ロニエを徹底的に誑かし惚れさせてから最下級の奴隷とすることで……?
容姿端麗な謎の貴公子×ものぐさ翻訳家、相互不理解こじらせリベンジラブコメディ。
ロニエ
ものぐさな翻訳家。お嬢様として育ち世間知らず。両親を亡くして以来貧乏生活になったが、意外と適応している。
ジャック
老若男女を惹きつける美貌を持つ青年。ロニエの両親に恩があるらしく、無理やり同居を開始し家政夫をすることに。
心臓の音が、彼に聞こえていないといい。
怖気づいているところを見せれば、このまま離れていってしまうだろうから。
スカートの中に、大きな手が伸びる。
ジャックのおかげでしっかりと丸みを帯びた尻を、ストッキングの上からゆっくりと撫でられた。
こんな場所、大きくなってからは誰にも触れられたことはない。
触れられた場所が順番に熱を持つが、その違和感に声を上げることはしなかった。
嫌がっていると誤解されれば、そこで終わらせられてしまうだろうから。
ジャックはロニエを観察しながらゆっくりと、下肢の布を取り去っていく。
屋敷の冷えて湿った空気が、肌に触れた。
紫の目が、ロニエを見ている。それを意識すると、鼓動が高鳴った。もっと毎日、肌の手入れをするべきだった。美しいジャックと比べれば、自分は見劣りしてしまう。
部屋は文字が読める程度には明るく、それがロニエの緊張を煽った。
明かりを消したいと申し出れば、どう反応されるだろうか。そもそも、閨事というのはどんなシチュエーションでするのが“普通”なのだろう。
本に書いてある限りは、明るかったり暗かったり様々だけれど。
もしかすると、そんな些細なことも意思表示できない関係で、肉体を繋げるべきではないのかもしれない。しかし、ロニエにとってはこれがきっと最初で最後のチャンスだ。
ジャックは特に何を言うわけでもなく、肌を撫でていく。
下着に守られていた秘所をジャックの指先に触れられ、さすがに息が漏れた。
静かな部屋の中で、小さく水音が響く。
「……もう濡れてる」
耳元で、ジャックの声が響いた。それだけで、全身が甘く痺れる。
これから行われることを考えると、もう耐えられなかった。
「ジャック、早く……っ」
彼を想う気持ちは、本物だ。少なくとも、ロニエ自身はそれを断言できる。
しかし、自分のもっとも秘した箇所に触れられるのは恥ずかしくて仕方がない。
世の中の恋人たちは、みんなこんなことをしているのか。にわかには信じがたい。
自分は、どこに目をやっていいかすらわからないのに。
「初めての相手に、そんな性急に進められるわけないだろう」
ジャックが柔らかく笑う。
そういうものなのだろうか。ジャックのやり方に疑問を挟めるほど、ロニエは房事に詳しくはない。せいぜいが、恋愛小説に挟まっているさらりとした描写程度の知識だ。
ロニエが拒否するそぶりを見せないのを確認してから、ジャックは太ももの根元を両手で掴んでその間に頭を埋めた。
「ジャック……何を……!」
そんな場所に、顔を近づけないでほしい。すべて受け入れようと決めていたのに、ロニエは思わず声を上げた。捲り上げたスカートのふもとで、ジャックがロニエを見上げる。
「何って、舐めるんだよ」
「舐め……!?」
完全に予想外だ。ロマンス小説に、そんな描写はあっただろうか。
そういえば、時々舌がどうのという文が、あったような気もする。これか。
驚いた顔のロニエを見て、ジャックが片眉を上げた。
「……やめるか?」
「やめない!」
初心者のロニエにとって自分の脚の間を味わわれるなど、とんでもない行為だった。
しかし、ここで怯めば、ジャックはこれ幸いと中断してしまうだろう――とはロニエの判断で、実際のジャックがここまで来て中断できたかは怪しい。
ともかくロニエはジャックの提案を跳ね除けて、脚の間にいる男から顔を逸らす。
覚悟はしているつもりだが、実際に自分が触れられているのを見るのは恥ずかしい。
思わず両手で顔を覆ったロニエの敏感な部分に、ジャックの舌が触れる。
与えられた刺激に、自分でも信じられないほどの甘い声が零れた。
ぷくりと膨らんだ快楽の芽を柔らかく潰され、下肢が小さく跳ねる。
「い、ひゃ、んん、ジャック……!」
脳髄が痺れる。かけられている力はごく些細なもののはずなのに、どうしてここまで乱れてしまうのだろう。今まででその気配すら知らなかった快楽が、ロニエの思考を侵していく。ありえないほど気持ちいいのに、どうしてか逃げ出したくなる。
ジャックの手がロニエの太ももに触れていなければ、逃げ出して今後永久に彼と交わる機会が失われると確信していなければ、とてもベッドの上で大人しくしていられない。
温かく濡れた舌は容赦なく、ロニエの好い場所を弄んでいく。
箱入り令嬢として育まれた感性に照らし合わせれば、これは間違いなくはしたない行為だった。
ジャックの舌ひとつでこうも乱れる女は、彼にいったいどう映っているのだろう。
男女の交わりとは、ここまで刺激的なものだったのか。
舌でさんざん嬲られ煽り立てられ、ロニエの理性がぐずぐずと蕩かされていく。
部屋の中に響く淫猥な水音が、羞恥心を煽り立てる。決してジャックのものだけではない潤みが、太ももを伝って尻に落ちていった。熱を持った肌が、冷えたシーツに触れる。自分の両親のベッドで、まさかこんなことをするなんて。
脳裏をよぎった彼らの顔は、ジャックに触れられるたびにおぼろになっていく。
気づけば、部屋に響く水音は耳を塞ぎたくなるほどに大きくなっていた。
どれくらいの時間責め立てられていたのか、ロニエにはわからない。
「あ、ジャック……何か、ん、んんっ」
ただ、彼の手管に翻弄されているうち、いまだ覚えたことのない感覚が背筋を這いのぼってきた。自分の中にある何かが、はち切れるのを今か今かと待っている。
「あ、はぁ、んくっ…」
どうにも恥ずかしくてできるだけ抑えていた声も、もう制御する余裕がない。
縋るようにジャックを見下ろすと、紫の目もこちらを見ていた。
熱い舌先が中を抉って、ロニエはとうとう喉を反らして果てる。
一際高い声を漏らし、小さく痙攣した。その動きが、ジャックに伝わっていないはずがない。延々と口での奉仕を続けていたジャックが、やっと離れていく。
ロニエは荒い息に戸惑いながらも、訪れた絶頂の余韻に浸った。
好いた女が快楽に身を委ねる姿を見て、ジャックの理性がぐらぐらと揺れる。
このまま、一気に食らってしまおうか。
ロニエを騙そうとしていた負い目がなければ、さほど迷わずにそうしただろう。
ロニエからの告白を、無邪気に受け取って大切に抱いたに違いない。
しかしロニエが今感じている想いは、彼女を騙すために演じられた男への愛着だ。
身寄りも友人もないロニエに、その感情が偽物であるとはわからないのだ。
まともな人間が一人でも傍にいれば、きっとジャックに騙されることなどなかった。
ただの依存で、ろくでなしと身体を繋げるなんて経験はないほうがいい。
きっと、行為を進めていけば自然と怯むだろう。
彼女の怯えを正確に汲み取って、そこで離れるべきだ。
そうすれば、ロニエは致命的に傷つかずにすむ。
ジャックの中で、そんな思考がぐるぐると回る。もっと早くに手を引くべきだったと囁く理性を、聞き入れるだけの余裕はもうなかった。