偽りの王の想い花
- 著者:
- 春日部こみと
- イラスト:
- yoco
- 発売日:
- 2020年10月03日
- 定価:
- 770円(10%税込)
これでようやく、二人だけの世界だ。
両親を亡くし、修道女見習いとなっていたピオニーは、ある日、国王に見初められ、愛妾となるよう命じられる。国王はピオニーの初恋の人・ザックと瓜二つ。けれど、陽気で傲慢な彼は、寡黙で思慮深かったザックとはまるで違う。
別人であることに落ち込むピオニーだが、次に会った時、彼は自分をザックだと言ってきて!? 「ようやく会えた」情熱的なキスに甘く優しい愛撫。彼は、昔と変わらぬ静かな愛でピオニーを包み込む。けれどザックにはとある秘密が――。
謎めいた美貌の王は、初恋を叶えるためにすべてを壊す。
ピオニー
両親を亡くし、親戚の家で冷遇されて育つ。幼い頃のザックとの思い出が心の支えになっていた。
ザック
若き国王。幼い頃にピオニーと出会い、心を通わせる。ザックという呼び名はピオニーにつけられたもの。
「えっ……ザック?」
頭の上で両手首を拘束された状態になったピオニーは、オロオロしながらザックの顔を見上げる。先ほどドレスを剥ぎ取られたので、ピオニーは今生まれたままの姿だ。その心許ない恰好で更に両手を縛られ、ベッドに仰向けに転がされているという無防備極まりない状況に、妙に不安を覚えてしまう。
「これで逃げられない」
ザックはそんなピオニーを満足げに見下ろすと、自分も着ていた夜着をゆっくりと脱ぎ捨てていく。
露わになった彫刻のような逞しい裸体に、ピオニーは慌てて目を逸らした。男性の裸を直視できるほど、まだ男女の営みに慣れてはいない。
「……あ、あの、私、本当に、今日は……」
正しい愛などないとザックは言うけれど、それでもまだ納得できていなかった。こんな気持ちのまま彼に抱かれたくはない。
だがザックはお構いなしにピオニーに覆い被さると、無言のままキスをしてきた。両手で頭を?まれているので拒むこともできず、ピオニーはただひたすら彼を受け入れるしかない。
「ん、んぅ、む、んんんっ……!」
容赦なく口内を蹂躙されて、ピオニーは身体の芯に欲望の火を灯されていくのを感じた。
悔しいけれど、自分よりもザックの方がこの身体のことを熟知している。
「ん、やぁっ……ザック……!」
息をつく間もなく貪られ、酸素不足に頭がぼうっとしてきてしまう。それでも言いなりになるのが嫌で必死に抗うけれど、ザックは揶揄するように笑うばかりだ。
「ダメだ。私から離れようとすれば、こうして必ず引き戻されるということを、じっくりと身体に教え込んでやる」
唇をわずかに離しただけの至近距離でそう宣言され、ピオニーはくしゃりと顔を歪める。
「ひどい……」
思わず呟いた非難に、ザックが恍惚とした表情で笑った。
「そう、私はひどい人間だ。君が逃げないならばいくらでも甘やかすが、逃げると言うなら容赦はしない。私はいくらでも残酷になれる人間だということを、覚えておくといい」
そう言って、ピオニーの乳房を鷲?みにする。力任せに握られて、痛みに悲鳴を上げると、ザックがクツクツと喉を鳴らして手の力を緩めた。
「痛みと快楽は隣り合わせなんだ。味わってみるといい、ピオニー」
言いながら頭を下ろしていき、?んでいた乳房にガブリと?みついてくる。
硬い歯が自分の柔らかい肉に埋まる感触に、ゾワリと肌が粟立った。痛みが来る、と身構えていたのに、訪れたのは甘く鋭い快感だった。?みつく寸前で力を抜いたザックが、代わりに乳首に強く吸い付いたのだ。
「ひ、あぁあっ」
予期せぬ快感に、パチパチ、と目の前に快楽の火花が飛んだ。頤を反らしたピオニーの反応が気に入ったのか、ザックは執拗に乳首を弄り始める。強く吸い上げたかと思ったら、舌で捏ね繰り回したり、それに飽きたら歯を立てたりと、目まぐるしく変わる彼からの刺激にピオニーは眩暈がしそうだった。
やがてザックの口がまだ触れられていない方の乳房へと移動する。期待と怯えが綯い交ぜになった感情を持て余して次の刺激を待っていると、いきなりまた乳房に?みつかれた。
「キャァッ!」
先ほどの甘?みとは違う、しっかりと痛みの伴う力に、ピオニーは甲高い悲鳴を上げてビクリと身を竦ませる。ザックは歯を当てたままべロリと舌でその場所を舐め、じゅう、と大きな音を立てて肌を吸い上げた。
肌を強く吸われる痛みにまた息を詰めた瞬間、ザックが乳房を解放する。
「……ああ、きれいに付いた」
満足げな声に首を擡げてそちらへ目を遣ると、左の乳房に赤い痕が残されていた。吸われた部分が赤く色づき、その周囲を縁取るように歯型が浮かんでいる。
「私のものだという証だ」
ザックが痕を指でなぞりながら言った。その言葉に嬉しくなってしまうのは、多分自分が愚かだからなのだろう。
「……そんなことをしなくても、私はもうあなたのものだわ」
逆に、ピオニーだけのものではないのは、ザックの方なのに。
言えない不満を押し殺し、涙目でじっと彼を見つめていると、ザックがフッと嘲笑を漏らした。
「逃げようとしているくせに、よく言う」
「それは……!」
逃げることとは別の話だ。そばにいなくとも、この先ピオニーがザックのものであることは変わらない。ザック以外の男性を愛すことはないのだから。
だがザックはピオニーの反論を手を払って遮ると、底冷えのする目をして言った。
「私から逃げられると思うな。決して逃がさない。二度と手放さない。それでも逃げたいというなら、私を殺してから行け」