堕ちた聖職者は花を手折る
- 著者:
- 山野辺りり
- イラスト:
- 白崎小夜
- 発売日:
- 2020年07月03日
- 定価:
- 770円(10%税込)
どれだけ僕を嫌い憎んでも、君の全てを手に入れる
神殿の下働きをしているユスティネは、幼い頃に王太子の座を追われ聖職者となったレオリウスの世話係に突然任命される。美しく高貴な人に仕えることに最初は臆していたものの、穏やかなレオリウスの人柄に触れ、ユスティネはいつしか心惹かれるようになっていた。だが、あることをきっかけに変貌したレオリウスに純潔を奪われてしまう。レオリウスはユスティネを神殿奥深くに監禁し、子を孕むまで陵辱し続けるつもりだったが……。
王位継承権を簒奪された聖職者×世話係の乙女、逃れられぬ運命に翻弄された想いの行方は──
ユスティネ
神殿の下働き。レオリウスの世話係に任命される。レオリウスを敬愛して側にいることを望んでいたが……。
レオリウス
幼い頃に王太子の座を追われ聖職者となった。世俗を離れ権力と無縁な生活を送っていたがある日を境に変貌する。
ユスティネの背中に覆い被さっていたレオリウスが身を起こし、二人の間に隙間が生まれた。自分の願いが通じたのかと、ユスティネは性懲りもなく希望を抱く。けれど懸命な祈りも虚しく、後ろに座った彼に尻を左右に割られ、より耐え難い恥辱を与えられただけだった。
「嫌ぁっ」
身体の恥ずかしい部分を、全部見られている。たとえ光源の乏しい暗がりであっても、これほど近くで覗きこまれれば、同じことだ。
ユスティネはこれまで以上に暴れて酷い辱めから逃れようとした。だが、直後に膝が崩れるほどの快感に襲われ、艶めかしく喘ぐ。
「ぁぁあ……っ」
指とは違う柔らかく蠢く何かに、秘裂を嬲られている。しかも入り口だけではなく、それは隘路にまで侵入してきた。
ぐねぐねと動くそれに濡れ襞を摩擦され、何も考えられない。圧倒的な淫悦に支配され、ユスティネは背筋を戦慄かせた。
「ひぃ……っ、や、あ、あああっ」
啜られる感覚に、ようやく何をされているのか悟った。レオリウスに不浄の場所を舐められ、あまつさえ味わわれている。
逃げ出したくても、手も足もユスティネの自由にならず、喜悦に踊り、打ち震えるだけ。濡れ髪を振り乱して鳴き喘いでも、抵抗になるはずもない。精々がユスティネの感じている快楽を彼に余すことなく伝えるのみだ。
「あっ……、や、変になっちゃう……っ!」
弾ける予感に下腹が波打った。ユスティネの口の端から唾液が伝い、涙と汗も相まってぐちゃぐちゃになっている。けれどそんなことを気に掛ける余裕もなく、ユスティネは生まれて初めての絶頂に押し上げられた。
「……ぁ、あああっ……」
光が眼前に瞬いた。音が遠ざかり、全身が引き絞られる。数度の痙攣の後虚脱した身体は、レオリウスの服の上にだらしなく倒れこんだ。
「……ぁ、ぁ……」
「───上手にいけたね、ユスティネ。今度は僕を受け入れ認めてくれ」
「認め、る……?」
これ以上何を求められているのか分からず、ユスティネは整わない息の下から彼を見上げた。全身が怠い。重くて自分のものではなくなったみたいだ。
「……手首が赤く擦れてしまったな。───でも謝る気はないよ。どうせこれからもっと酷いことを君に強いるのだから、僕の謝罪なんて自己満足でしかない」
長く拘束されていたせいで感覚の乏しくなった手首を撫でられ、悲しくなったのは何故だろう。コロコロ変わる自分の気持ちが、ユスティネにも理解できなかった。
レオリウスを信じたいと願い、裏切られたと憤り、母親を亡くしたばかりの憐れみも感じている。非情な人だと失望もしたのに、今感じている気持ちの名前が分からない。
ただひとつだけ───どうか泣かないでほしいと思った。
───馬鹿みたい……泣いているのは私で、レオリウス様は冷酷な顔をして私を道具と見なしただけなのに……
仰向けにされた視界に、皮肉なくらい星空が輝いていて、眩暈がする。
ディーブルの丘や両親の思い出の花畑で過ごした時間は、二度と戻らない。遠く隔たれ、ひたすら胸が締め付けられる。縋るものが欲しくて、ユスティネは無意識に両手を彼へ伸ばしていた。
「……可哀想なユスティネ」
レオリウスがユスティネの手を取り、その掌に口づけてきた。
つい先刻、おかしくなりそうな快楽を刻んできた唇が、どこまでも優しく押し当てられる。火傷しそうな熱ではなく、温もりが染み込んだ。
ユスティネの目尻から溢れた涙が、音もなくこめかみを伝い落ちる。もう、川のせせらぎも耳に届かなかった。
「……っぅ」
大きく脚を開かされ、互いの濡れた肌が擦れ合うとゾクゾクと愉悦が走る。汗か、川の水かどちらでもかまわない。どうせ二人、同じ体温になっていた。
銀の髪から滴った水滴が、ユスティネの肌を滑る。その際、また『泣かないでほしい』と願った自分には、失笑しかない。きっともう、頭がおかしくなり始めているのかもしれなかった。
おそらくレオリウスの狂気に呑まれたのだ。それとも悪夢に囚われたのか。
濡れそぼった花弁に、硬いものが押し当てられる。溢れた蜜を馴染ませるように数度上下し、やがて彼の楔がユスティネの陰唇を抉じ開けた。
「……っぃ、ぁ……ッ」
「力を、抜いてくれ……っ」
無垢な隘路が容赦なく引き裂かれる。とても大きさが合わないと感じる質量が体内に入って来る感覚は、恐怖でしかない。壊れると本能が怯え、上へ逃げようとしても引き戻された。
「……逃がさない」
「ぐ……ぅあ、やぁっ……」
激痛に苛まれ、息も忘れた。呼吸する余裕が失われ、歯を食いしばること以外何もできない。ユスティネの全身が強張って、レオリウスも苦しいのか、大きく肩で息をした。
「ユスティネ、こっちを見なさい」
「無、理……です……っ」
何かに焦点を合わせることすら今の自分には難しい。思い切り閉じた瞼が痙攣し、持ち上げる方法など忘れてしまった。けれど額や頬、目尻にもキスをされ、ガチガチになっていたユスティネの身体が僅かに綻ぶ。
彼の掠める唇が、優しく柔らかな記憶を呼び覚ましてくれたからかもしれない。
以前の彼と口づけなどしたことはないけれど、いつだって言葉や態度で慰められてきた。励まされたと言ってもいい。レオリウスのような人がまだいるのだと思えば、アルバルトリア国で生きることにも希望が持てた。自分だっていつかは、両親が望んでくれたような『普通の幸せ』を手に入れられるのではないかと───
───全部幻……
煌めいていた過去が幻想だったのなら、今夜のことも偽物であればいい。彼と過ごした宝物の時間など、最初からなかったと思えば救われる。夢見たユスティネが、愚かだっただけ。
「ぅ、あ……っ」
ほんの僅か開いた視界の中に、仄かな想いを寄せた男がいた。だがその恋心は、花開く前に踏みにじられた。もう二度と、芽吹くことはないだろう。
諦念の中、ユスティネはレオリウスから口づけを受けた。
粘膜を擦り合わせ唾液を交換すれば、凍える胸とは逆に身体が熱を帯びる。縺れたユスティネの髪を梳いてくれる彼の指も、発熱していた。
「ふ……ん、ぁ……」
「もっと舌を伸ばして。───君を無駄に痛めつけたくはない」
いったい何を信じればいいのか、見えなくなる。
レオリウスの声も言葉も態度も行為も、全部が統一性を欠いていた。
乳房の飾りを摘まれ、一番敏感な肉芽も転がされる。指の腹で擦られ強めに押し込まれると、遠のいていたはずの喜悦がユスティネに灯された。
「ぁ、……んっ……」
相変わらず貫かれた蜜口も、埋め尽くされた肉洞も痛い。微かに身じろぎするだけで、傷口を抉られるようにジクジクと鈍痛を訴えてくる。
けれどレオリウスがユスティネの過敏になった花芯を捏ね回すうちに、愉悦の比率が大きくなった。
「あッ……」
「息を吸って」
言われた通り素直に従ってしまったのは、少しでも楽になりたかったからだ。人は苦痛よりも心地いいことの方へ簡単に流される。
「いい子だ、ユスティネ」
額にキスされ、いっそう身体の強張りが解けたのは、自分でも愚かしいと感じる。しかも彼が上体を倒したせいで、結合が深くなった。
聖職者のネックレスの飾りが、ユスティネの肌に触れる。その揺れ方が妙にいやらしい。
ユスティネの体内に収められたままの屹立が、最奥を目指して押し込まれる。腹の中を支配する圧迫感に慄けば、レオリウスに秘豆の表面を撫で回され、淫悦が膨れた。
「ぅ、く……っ、や、ぁ……っ」
「……は……、君の中は狭くて……とても温かい。抱きしめられていると、勘違いしそうになる……」
二人の腰が隙間なく重なり、彼の剛直を全て呑み込んだのだと悟った。純潔を失った瞬間は、悲鳴も上げられないほど辛く、今だって、涙が止まらない。ユスティネはもう元の岸辺には帰れないし、対岸は遠く、永遠に明けない夜に沈んでしまった。
「……貴方が嫌いです……っ」
「知っている」
何度も瞬いて、涙で滲んだ視界を振り払った。それでもユスティネにはレオリウスの顔がよく見えない。雲に月が隠され、闇が深く凝っていた。
「───どれだけ僕を嫌い憎んでも、君の全てを僕は手に入れる」
その『全て』に心が含まれていないことはハッキリしていた。求められたのは身体だけ。さもなければ『共にいる』という事実だけ。何て虚しく無意味な?がりだろう。
緩やかに動き出した彼に穿たれ、ユスティネの身体が揺れる。勝手に乱れる呼吸が淫靡で、混じる声は段々甘い吐息に変わった。