妖精王は愛を喰らう
- 著者:
- 月城うさぎ
- イラスト:
- アオイ冬子
- 発売日:
- 2020年07月03日
- 定価:
- 748円(10%税込)
ああ……、これが愛の味か。
“妖精色”と呼ばれる珍しい色の目を持つ王女シャーリーは、父王に命じられ隣国へ嫁ぐことに。だが途中、迷い込んだ先で妖精王と名乗る美貌の男と出会う。彼は目が合った途端、「不味い!」と言い放ち不機嫌になるが、シャーリーを自分の花嫁だと言い、強引に結婚式をあげてしまう。意地悪な言動でシャーリーを振り回す一方、閨では丁寧に快楽を刻み込む彼。その不器用な優しさに触れ、彼に惹かれていくシャーリーだが、ひとつ気がかりなことがあって……。
オレ様世話焼き妖精王×幽閉王女、異種間溺愛新婚生活!?
シャーリー(シャルロッテ)
長い幽閉生活のせいで感情が薄くなっていたが、妖精王と接するうちに次第に変わっていき……。
ジークヴァルト(妖精王)
シャーリーを花嫁と言い、強引に結婚してしまう。意地悪な言動でシャーリーを翻弄するが……。
「来い、身体を洗ってやろう。妖精王の手を煩わせることができるのは花嫁だけだ。光栄に思え」
「思えません、嫌ですっ」
抵抗も虚しく、シャーリーは浴槽へと運ばれていく。
背後から抱きしめられる体勢で、岩でできた広い浴槽に肩まで浸かった。
──こんなに広いのに、どうしてすぐ後ろに……。近い、近いわ!
素早く離れようとするが、サッと腰に腕を回されてジークヴァルトのもとまで戻された。先ほどよりも密着度が上がり、シャーリーの体温も一気に上昇する。
「こら、暴れるな。溺れたいのか」
「ちが……、もっと離れて……」
「逆効果だぞ。嫌がられるともっとしたくなる」
背後からカプリと耳を食まれた。生ぬるい舌が敏感な耳殻をなぞる。そのはじめての感触に思考が停止する。
ジークヴァルトが舌先で耳の輪郭をスーッとなぞった。ぞわぞわとしたなにかが背中から腰のあたりに這いあがる。
「ひゃ……」
「人間の子の成長は早いな。十三年前はもっと小さくて、同じ浴槽に入れたときはずっと見張っていないと危ないと思っていたが。子供特有のぽっこりした腹はなだらかになり、胸部は豊かに実ったな。色気はまだまだ足りんが」
最後の台詞は余計だ。
浴室は声が反響する。耳元で耳朶に吹き込まれるように囁かれると、身体の中心部がもぞもぞと疼きだす。
ジークヴァルトの手がいたずらに動き始めた。シャーリーの腹をゆっくりと撫で、反対の手が胸に添えられる。形と大きさを確かめるように触れてくる手つきは妙にいやらしく、もどかしさを感じた。
──ダメ、すぐにのぼせそう……。
子供時代に妖精王と湯浴みをした記憶などもちろんない。だから、先ほどジークヴァルトが呟いていたことも嘘だと思いたいが、彼の懐かしそうな口調を否定するだけの材料はなかった。
「そんなに、触らないで」
「触らないとお前を洗うことができないだろう。イヴリンがせっかく薔薇の湯を用意してくれたのだから、堪能したらどうだ。美容効果もあるそうだぞ」
イヴリンの肌を思い出す。白磁のように滑らかで、ほんのりと薄紅に色づく頬が愛らしい。……確かに、美容効果はありそうだ。
ジークヴァルトが湯をすくい、シャーリーの肩にかけた。そのまま肩の丸みを撫でられるとくすぐったくて身をよじりたくなる。
「ん……」
薔薇の湯は香りもいいが、ゆっくり堪能できるほどシャーリーの神経は図太くない。ジークヴァルトの不埒な手が胸のあたりでもぞもぞと動いているからだ。中心部に触れそうで触れないもどかしさがシャーリーの身体を熱くさせる。
──なんか、変な感じだわ……。下腹部も……。
お尻に当たる熱くて硬いものがなんなのか、わからないほど無知ではない。意識を向けないように別のことを考えようとするが、自分とは違う身体の構造がどうなっているのか、興味がないとも言えない。
──ダメよ、そんなの。やっぱり少し離れないと。
シャーリーは肩を揺らした。
何度もジークヴァルトの拘束から抜けようとすると、ようやく彼も許してくれた。身体に回っていた腕の戒めが解ける。
「さすがに溺れ死ぬことはないか」
「当たり前よ。それに、湯浴み中に寝たりもしないわ」
今も意識ははっきりと保たれているので問題ない。
浴槽の反対側まで移動して彼との距離を空けるが、そこで振り返ると、真正面からジークヴァルトの姿を目の当たりにしてしまう。
外は日が落ち始めている。窓から差し込む光の量はそれほどないというのに、薄暗くなってきた浴室内でもジークヴァルトの美貌は陰らない。それどころか、水の滴る姿が扇情的で目に毒だ。
視線を逸らしたいのに逸らせず、顎から首筋に落ちる雫を見つめてしまう。
──男性なのにとても色っぽいのは、妖精だからなの?
シャーリーが見かけた妖精は皆見目が麗しかった。婚姻式の聖堂では奇抜な衣装に身を包んでいる者が多かったが、容姿は社交界の話題を集めるだろうほどの麗しさだった。中でも一番輝いていたのがジークヴァルトだ。
「日が落ちてきたな。のんびり入るのはまた後にするか。人は夜目が利かないのだろう?」
ジークヴァルトが立ち上がった。長身の彼が立つとお湯の量が一気に減る。肩まで浸かっていたのに、胸元近くまで露わになってしまった。
「ロッティ」
つい声をかけられたほうへ視線を向け、すべてを曝け出した彼の姿を直視してしまう。
「──っ!」
身体についた薔薇の花びらを少々鬱陶しそうに剥がす彼の身体の中心には、絵画ですらぼやかして描かれていた男性器がまっすぐ天を向いていた。思わず息を呑んでしまう。
普段がどういうものなのか、人間と同じ構造なのかもシャーリーにはわからない。
──だめだわ。はしたない……!
好奇心に負けてついじっと見つめてしまったが、淑女としてあるまじき行為だ。
「出るぞ」
「待って、自分で……ひゃっ」
──そんな状態で近寄らないでほしい……!
シャーリーの腕は簡単に妖精王に取られて抱き上げられてしまった。シャーリーの身体にもいたるところに花びらがくっついているがお構いなしだ。そのまますたすたと全裸で歩き、運ばれたのは寝台の上だった。