復讐者は愛に堕ちる
- 著者:
- 榎木ユウ
- イラスト:
- 氷堂れん
- 発売日:
- 2020年05月01日
- 定価:
- 770円(10%税込)
俺に貴女を殺させないでくれ――。
国を滅ぼす災厄という汚名を着せられ、一族を粛清された辺境伯の息子アーレスト。苛烈な復讐心を滾らせ屈辱の二十年を耐え抜いた彼は、効果的な復讐方法として国にとって最も重要である『祝福の儀式』を担う“聖女”を奪い殺すことを計画する。しかし、聖女として過酷な役目に殉じようとするセーラの健気さに心揺さぶられてしまう。儀式の重要性を忘れ果てた人々がセーラを嘲り蔑むことに苛立ち、憎しみをますます募らせていくアーレストだったが――。
復讐心を滾らす辺境伯×純粋培養の聖女、ふたりの出会いは滅びの始まりだった――。
セーラ
二十年に一度の儀式で『聖女の祝福』を捧げる役目を担う聖女。アーレストに出会い心揺さぶられる。
アーレスト
『聖女の祝福』を見届ける役目を担う辺境伯。汚名を着せられ一族を滅ぼされた復讐のためにセーラに近づくが……。
「大丈夫か……?」
寝台に蹲るセーラにアーレストはこわごわと声をかけた。
まるでセーラが触れれば粉々に砕けてしまう硝子細工であるかのように。
セーラはカタカタと震える身体を抱き締めながら、声のするほうを見上げた。
心配そうな色を湛えた紫の瞳がセーラの顔を覗き込む。その瞳は言葉がなくとも、雄弁にアーレストの気持ちを伝えていた。
きっとこの状態を治めるための何かをしてくれるのだろう。そう思い、礼を言いたいのだが、セーラは荒くなる息を整えることもできない。
すでに舌は呂律が回らなくなっており、身体は燃えているのではないかと思うほどに熱くなっている。きっとこれはホーネン男爵の言っていた媚薬のせいなのだろう。
「くる、しい……」
セーラの唇から漏れた言葉に突き動かされるように、アーレストはセーラの身体を抱き上げる。ふわりとアーレストの匂いが鼻孔をくすぐる。森の中にいるような、落ち着いた優しい香りだ。アーレストはセーラを抱きかかえ、自分も寝台の中に入り込む。
アーレストが助けてくれる――なんの根拠もない信頼が、セーラの身体から力みをなくさせる。くたりとアーレストのたくましい胸に身体をもたれかけさせると、戸惑うような声で名を呼ばれた。
「セーラ」
どこかやさしい声が耳に心地よい。身体は苦しくてならないのに、心配げな声で名を呼ばれる喜びに心が満ちる。
アーレストはセーラの身体をそっと寝台のちょうど中央に横たえた。天窓から綺麗な月が見える位置だ。熱に浮かされぼんやりと見上げると、天窓の月を背にしたアーレストの顔は、とても美しく、その瞳の紫も吸い込まれそうなほど深みのある色をしていた。
セーラの身体がふいに大きく震えた。
「寒い……」
急激に熱が上がったせいか、身体がとても冷えているように感じる。指先の感覚がなくなっていく。カチカチと小さく歯が鳴るのを止めることができない。
眦【まなじり】にたまっていた熱い涙が、滴となって顔から流れていく。仰向けなのでまっすぐに下りていったそれは、耳殻のあたりを濡らした。
身体を侵食していく熱を、早く外に出したい。
これを治せるのはアーレストだけだ。
「はやく からだの ねつを はやく――」
セーラが熱のこもった目で見上げると、アーレストはひどく悩ましげに首を横に振り、意を決したように再びセーラを抱き寄せた。
そして、寝台の背もたれに背を預けると、セーラの身体を自分に引き寄せ、後ろから抱き締めるように支えた。
――あ……。
月光に、まろびやかなセーラの乳房が照らされる。ホーネン男爵に寝衣を破られたため、乳房が晒されていた。
ごくり、とアーレストの喉が鳴る。
しかし、次の瞬間にはセーラの胸元までシーツを掛けた。
「熱を逃がすだけだ、心配するな。貴女の純潔を穢すようなことはしない。……だが、触れねば治してやることができない……触れることを許せ」
苦しげな声にセーラはただこくりと頷く。
何か苦しみ耐えるようなアーレストの表情に、無理をさせているのかもしれないと思ったが、今はアーレストを頼る以外に術はなく、治療の邪魔だけはしないようにとセーラは身体の力を抜いた。
背中にアーレストの温もりを感じ、ほお……と小さく息が漏れた。
「触れるぞ」
掠【かす】れた声に背筋が震えた。ホーネン男爵に感じた気色悪さとは違う何かが、セーラの身体を震わせていることに気づく。
アーレストの両手が脇の下から前に伸び、シーツの上からセーラの胸に触れてくる。
先ほどまでは触られるのがあんなにも気持ち悪く恐ろしかったのに、アーレストに触れられてもそんなことを少しも思わないのが不思議だった。
「んっ……」
ゆっくりと下から胸を揉み込まれ、つま先がピンと伸びる。思わず顎がのけぞるほどに気持ちが良かった。自分でも身体を洗うときに胸を触るのに、他人に触られるのはこんなにも感覚が違うのかと驚いた。
「あっ……」
やさしい強さで胸を揉まれる。息を吐くたびに、小鳥のような小さな声が自分から勝手に漏れてしまう。中央に胸を寄せられたり、ぐっと掴まれたり、緩急をつけて揉み込まれるたびに、身体がとろとろと溶けていくようだった。
「……あつ、い……」
身体に掛けられたシーツがもどかしい。薄い布でしかないのに、アーレストとの間を阻む分厚い布のように感じる。
布越しではなくアーレストの手のひらで、じかに触れてほしい。
アーレストに触れられた瞬間、はしたないという気持ちは消えてしまっていた。
今はただもっと、もっと欲しいとしか考えられない。
セーラは片手をアーレストの手に這わせながら、もう片方の手でシーツを腹の辺りまでずり下げる。すると、シーツの下に隠れていた乳房がこぼれるように外に出た。
「あっ……は……」
そこにアーレストの手を誘導すると、信じられないくらい気持ちが良くなる。微笑さえ浮かべるセーラに、アーレストが小さく舌打ちをした。
「厄介な薬だな……」
アーレストの低い声が背中に響いて気持ちがいい。
ただただ触れてほしい。焦れるような思いで身体を震わせる。
「んふっ……んあっ……」
――気持ちいい。
アーレストに触れられると身体の熱さが増していくのに、それが嬉しい。背中にある温もりが自分をもっとめちゃくちゃにしてくれたらいいのにと思ってしまう。
両胸の中心がピンと尖り始めているのを自分でも感じた。月光に青白く照らされた山の中心で、主張しているそれを突き出すように背をそらすと、アーレストは両胸の先端を同時に摘まんでくれた。
「きゃぁ」
小さな悲鳴が細い喉からこぼれた。
その瞬間、背筋が大きくそり返り、びくびくと身体が跳ねた。