妄想紳士の愛しの奥様
- 著者:
- 桜井さくや
- イラスト:
- 天路ゆうつづ
- 発売日:
- 2020年05月01日
- 定価:
- 770円(10%税込)
どんな出会い方をしても、僕は君を好きになる。
生まれたときからの婚約者で初恋の相手、ユーリと結婚したサーシャ。緊張しつつ迎えた初夜は、花嫁姿で愛されて幸せいっぱい。けれど次第にユーリのおかしな性癖が明らかに!? 彼は毎夜サーシャに特殊な服を着せ、妄想ストーリーの中で行為に及ぶのだ。「君は本当にかわいいね」甘い囁きに優しい愛撫。確かに彼の愛は感じるけれど、サーシャの姿はなぜか王女や修道女や町娘……。困惑するサーシャだが、彼の性癖の裏には深い苦悩が隠されていて――。
妄想プレイで愛を深める貴公子×純朴で一途な令嬢、普通でない新婚生活の行方は……!?
サーシャ
ユーリと結婚できて幸せいっぱい。行為のたびに特殊な服を着せられるが、おかしいと思いながらも受け入れている。
ユーリ
伯爵家の跡取り。サーシャを溺愛しているが、夜の生活についてはやや特殊な嗜好を持っている。
──それはそうと、どうして私は修道女の恰好をしているのかしら……。
困惑するサーシャをよそに、ユーリは満足げに頷いている。
ややあって、彼は眩しそうに目を細めながらサーシャの頬にそっと触れた。
「こうしていると、改めて実感するよ。君がどこの誰でも関係ない。どんな出会い方をしたとしても、僕はきっと君を好きになるって……」
「……私がどこの誰でも?」
「そう、たとえば偶然足を踏み入れた教会……、僕はそこで君を見つける。君は神に身を捧げた修道女なんだ」
「私が修道女……」
「それなのに、僕は君に一目惚れしてしまった。なんとか話をしたくて、裏庭の花に水をあげているところをたまたま通りかかったふりをして声をかけるんだ。そのうちに少しずつ仲良くなって、ついに我慢できずに好きだと告白してしまう。……けれど君は…、驚きながらも躊躇いがちに断るんだ。それでも、僕はどうしても諦めきれなくて……。何度断られてもしつこく教会に通ってしまうんだ」
「私が…、ユーリの告白を断るの……?」
「そうだよ。困りきった顔でね」
「そんな…っ」
サーシャは思わず声を上げた。
作り話なのはわかっているのにどうしてだろう。
聞いているうちに、段々とその情景が頭に浮かんで妙な感覚が芽生えてくる。ユーリに告白されて嬉しいに決まっているのに、断らなければならないなんて想像するだけで哀しかった。
「……私たち、どうしたら結ばれるの?」
「簡単だよ。サーシャが受け入れてくれれば、それでいいんだ」
「それだけでいいの? 周りは許してくれる?」
「周りは反対するだろうね。どんなに説得しても許してもらえないかもしれない。世の中、自分の望みどおりにならないことはいくらでもあるから……」
「ならどうすれば……」
「それでも、僕はサーシャがいい。他の誰かと一緒になるなんてまっぴらだ。……だから君は一言、僕を好きだと言ってくれるだけでいい。そうしたら今すぐ君を攫って、誰も追いつけない場所まで連れていく」
「ユーリ……」
迷いなく言われて、サーシャは息を呑んだ。
どうしよう。なんて答えたらいいのだろう。
生まれる場所が違えば、ユーリと結ばれることはなかったかもしれない。
もしもなんて考えても意味はないのに胸が苦しかった。
たとえ運良く出会えたとしても、身分が違う相手との結婚をそう簡単に許してもらえるわけがない。
貴族の結婚とは家と家との契約でもあるのだ。
ユーリ自身がいくら望んだところで、名家の跡取りとしての重責からは逃れられない。
それでも自分の気持ちを優先するというなら、家を捨てて駆け落ちするくらいしか道はなかった。
「サーシャ、返事を聞かせて。僕は本気だよ」
「あ……」
胸が押しつぶされそうになっていると、不意にユーリに抱き寄せられた。
間近に顔が迫り、その真剣な眼差しに心臓が跳ねる。彼はサーシャの腰に回した手に力を込め、首筋に唇を押し当ててきた。
「んっ、あ……、でも私……、あなたに相応しくない……」
「……相応しくない?」
「だって身分が……。そ、それに修道女が駆け落ちなんて許されることでは……」
「そうじゃない。そんなことは聞いていない。僕は君の本心が聞きたいんだ。僕を選ぶのか選ばないのか……、そのどちらかだ。僕ではだめだというなら、その覚悟もできている。もう二度と会いに来ない。今すぐ君を解放して…──」
「そんなの嫌……っ!」
瞬間、サーシャは全身の血が引いていくのを感じて彼の言葉を遮っていた。
誤魔化すような返事をしたのは、貴族としての彼の立場を思ってのことだ。
二度と会いに来ないなんて言われては一溜まりもない。ユーリと離ればなれになるなんて、たとえ想像だけであっても堪えられなかった。
「あなたではだめなんて…、そんなこと思うわけないでしょう? そんな酷いこと言わないで……。わ、私だって本当はずっと……」
「サーシャ」
「あなたが好き……、好きです……。はじめて会ったときからずっと……ッ!」
「サーシャ…っ!」
「……ッ、ん…ぅ……」
感情のままに叫んだ直後、サーシャは貪るように口づけられていた。
いきなり舌まで搦め捕られて呼吸もままならない。
けれど、どんなに苦しくても離れたくなかった。
周りを裏切ることになろうとも、ユーリと一緒にいたい。もはや自分がなぜ修道女の恰好をさせられているのかという疑問は完全に忘れ、サーシャはくぐもった声を漏らしながら必死で彼の胸にしがみついていた。
「……君なら、そう言ってくれると信じていたよ」
「ン…、んっ、んんぅ……」
「サーシャ、君が好きだ。たとえ身分が違っていても関係ない。どこに生まれても、必ず君を見つけてみせる。見つけたら、絶対に手放さない……っ」
「あっ、んぅ…、あ…う…ッ!」
ユーリは?みつくようなキスをして、自身のフロックコートのボタンを外していく。
すべてのボタンを外すとサーシャを抱き上げ、耳たぶを甘?みしながら歩きだす。
だが、ベッドまでさほど離れていないのにそれさえ我慢できないようで、彼はすぐ近くのテーブルにフロックコートを敷いてサーシャをその上に横たえる。性急な仕草でスリットを?き分けると、彼は直接サーシャの太股を弄り、ドロワーズの腰紐を引っ張った。
「ん…ッ、あっ」
もしかして、ここでするつもりだろうか。
内心驚きながらも、サーシャは黙って受け入れる。
腰紐が解けてドロワーズが引きずり下ろされる間も、彼が脱がせやすいように自ら腰を上げて協力していた。
場所なんて、どこでもいい。
今は一刻も早く彼と一つになりたかった。
「あぁ…ッ!?」
「……すごく濡れてる。僕の指…、わかる? ナカで動いてるの…、わかる……? こんなに簡単に、サーシャに飲み込まれてしまったよ」
「あぅっ、ン、ああっ」
ドロワーズを脱がすや否や、ユーリはいきなり秘所に触れてきた。
しかし、すでに濡れそぼっていた中心はそれだけでくちゅ…といやらしい音を立て、指を入れられても彼を誘うように締め付けてしまう。
ユーリは蠢く内壁を指の腹で楽しむように刺激しながら、出し入れを繰り返していく。
そのたびに蜜が溢れて恥ずかしいほどの水音が響き、サーシャは慌てて身を捩ろうとしたが、脚の間にはユーリが割り込んでいるからまともに動くことさえできない。それどころか大きく開脚させられ、感じる場所ばかりを的確に擦られて、強烈な快感に呆気なく追い詰められてしまった。