野獣騎士の運命の恋人
- 著者:
- 八巻にのは
- イラスト:
- 白崎小夜
- 発売日:
- 2020年04月03日
- 定価:
- 770円(10%税込)
ティナの白い足を愛でていいのは俺だけだ!
『野獣騎士』と恐れられる騎士隊長クレドは女性が大の苦手。副官ティナはそんなクレドに想いを寄せていた。しかし“ある夜”をきっかけに彼を諦めて騎士団を去り、結婚相手を探すことを決意する。男だと思っていた副官が実は女性だったと知りクレドはパニックに陥るが、『隠れてティナの絵を描き散らす癖』は彼女への恋心によるものだと自覚する。ティナの妹ルルの手助けで、なんとかティナと二人で出掛けるようになれたものの、初心すぎてキスすらできない有様で――。
女性が苦手な騎士隊長×小柄で凛々しい(元)女騎士、純情こじらせ体格差ラブコメディ!
ティナ
クレドの副官を務める騎士。訳あってティボルトと男の名をつけられたせいもあり、クレドには男と思われている。
クレド
気が昂ぶると荒々しい性格に変貌するという悪癖があり、野獣騎士と恐れられる騎士隊長。女性が大の苦手。
「……俺が……欲しいのか?」
だがその腕を、クレドの大きな手のひらが掴んだ。
眠っていると思っていたのに、彼は目を開けてティナを見つめていた。
「い、いつから起きて……」
答えの代わりに腕を強く引かれ、ティナはクレドの身体の上に倒れ込む。
唇に柔らかいものが押し当てられたのは、その直後のことだった。
それが口づけであるとティナが気づくより早く、肉厚な舌が歯列をこじ開け彼女の中へと入っていく。
「……んぅ……ンッ!」
驚き身を引こうとしたが、身体と頭を押さえつけられ逃れることは叶わなかった。
酔った勢いで、クレドからキスされたことは何度もある。
でもそれは頭や頬に軽くされる程度で、こんなに荒々しくて深いキスは初めてだった。
そもそも、誰かと唇を合わせることすらティナには初めての経験である。そしてその初めてはもっと優しくて甘いものだという少女らしい考えを、ティナは心に抱いていた。
(息……できなくて、クラクラ……する……)
ティナの口を蹂躙する舌は見知らぬ生き物のように蠢き、交わった唾液は媚薬のように彼女を酔わせていく。
想像よりずっと激しく淫らな口づけを受けながら、いかに自分の考えが幼かったかをティナは痛感する。抵抗の方法すら、彼女にはわからないのだ。
「……ぅんっ……隊長……だめ、です……」
僅かに唇が離れた隙に、ティナはクレドの身体を押しのけようとした。
けれど彼は、すぐさまティナを抱き締め直すと今度はティナの首筋に唇を寄せた。
「ッ……いた……」
柔らかな肌を強く吸われ、僅かな痛みを感じたかと思えば、今度は優しく舌で嘗められ甘い愉悦を呼び起こされる。それに合わせてクレドの熱い吐息が首筋を撫で、ゾクゾクとした快感がティナの全身を駆け上る。
シーツをぎゅっと握り締めて、未知の感覚から逃れようとティナは身体を震わせるが、巧みな舌使いに、なすすべもなく快楽に落とされてしまう。
(止めないと、いけないのに……)
本気で彼を殴れば、逃げる隙くらいはできるだろう。
ティナだって騎士で、自分より何倍も大きな相手を素手で倒し、組み伏せたことだって何度もある。しかし、クレド相手だと抵抗できない。いやできないのではなく、たぶん抵抗したくないのだ。
「ふぁ……あぅ、ンッ……」
クレドが再びティナの唇を奪い始めると、彼女も自然と彼の舌を受け入れてしまう。
キスの合間に甘い吐息をこぼしながら、ティナは厚い胸板にそっと触れる。唇を奪われて、上手く呼吸ができない。
苦しくて、怖いのに、それ以上に心地よさを感じてしまう。
酒のせいかクレドの肌は熱を持ち汗ばんでいた。でも気持ち悪いとは思わない。
むしろもっと、もっと触れ合い彼の熱を感じたかった。
「あっ……!」
そんなとき、ティナの乱れたシャツをクレドの手がたくし上げた。外気に晒された肌がビクンと震えたが、寒さを感じる間もなく大きな手のひらに撫でられる。
「だめ……クレド……たいちょ……ぅ」
唇を離して訴えるが、クレドの手は止まらなかった。脇腹を優しく撫で擦り、さらしの巻かれた胸元へと指が這い上がる。
ティナの胸はさほど大きくないが、普通の下着を着けていると動くのに邪魔なので彼女はいつもさらしを巻いていた。
だが身体を重ねているうちにそれは緩んでしまったようで、クレドの太い指が布を器用にかき分けささやかな乳房を持ち上げる。
「やぁ、触らない……で……」
乳首をキュッとつままれると甘い痺れが全身に広がり、ティナはこらえきれず腰をむずむずと震わせた。ふいに身体をくるりと入れ替えるように組み敷かれてしまう。
男のように育ったとはいえ、甘い痺れが性感であることはティナも知っていた。むしろ男所帯にいたからこそ、聞きたくもない性のあれこれを吹き込まれ、女が感じる様についての知識だけは豊富だった。
(私……隊長に触られて……すごく感じてる……)
初めての感覚に覚えたのは恐怖と、えも言われぬ幸福感だった。
自分が自分でなくなっていく感覚は恐ろしいのに、愉悦に溺れいっそ自分自身を手放したいようなそんな気になる。
(でもだめだ、だって私は……隊長の恋人じゃない……)
愉悦に震えながら、ティナはクレドの顔を見つめた。そこにあったのは、いつもの彼ではなかった。虚ろな瞳に欲望の炎を宿し、険しい顔でティナを見つめる相貌は、野獣騎士と呼ばれた頃の彼によく似ていた。
もともと不安定になる日に酒を飲んだのがきっとまずかったのだろう。そこに理性はなく、本能だけが彼を突き動かしているように思えた。
そして、それを元に戻せるのはティナだけに違いないとわかっているのに、彼女の身体が言うことがきかない。
「ああっ……ダメ……ッ!」
ダメと言いながら、自分の声がその先を望んでいるのは明らかだった。
止めるべきなのに、彼女の身体はクレドに貪られることを望んでいる。その証拠に、ささやかな乳房を扱かれ、頂きを刺激されると、声も身体も甘く震えてしまう。
そしてクレドもまた、その声につられるように胸への愛撫を強めていく。
「ふぁ……んっ、やぁ……」
再び唇を奪われ、ティナは思わず目を閉じる。そうしているうちに、気がつけばクレドの手が乳房を離れ、ティナのズボンの中へと差し入れられる。
「ンんッ……!!」
下着の上からではあったが、クレドの指先がティナの秘部へと触れた。
「もう、濡れているな……」
低く甘い声でティナの官能を刺激しながら、クレドは濡れた割れ目を強く撫であげる。
そこが既にぐちょぐちょに濡れていることにはティナも気づいていた。気づいているからこそ、抵抗ができなかったのだ。
クレドはずっと好きな相手で、女の性はずっとこうされたいと思っていたのだろう。
(でもそれは、こんな……こんな隊長にじゃない……)
心ではそう思っても、身体は今すぐにでも彼が欲しいと訴え、はしたなく震える。
「あっ……やぁ……そこ、だめ……」
秘裂を擦る指をもっと強く感じたくて、ティナは僅かに腰まで浮かせてしまっている。
ティナの期待を感じ取ったのか、クレドの指先が下着の間にゆっくりと差し入れられる。
(ああ、すごい……)
クレドの無骨な指先が肌に触れただけで、花弁はしとどに濡れ、男を誘う色香が全身から漂い始める。それにつられるように、クレドがゆっくりと花弁を擦り、蜜をかき出し始めた。
「ああっ……やぁ……いやぁ」
淫らな水音を立てながら激しく陰唇を刺激され、ティナは涙をこぼしながら喘いだ。
クレドの手によって官能を開かれ、少年のようだった相貌は艶やかに崩れる。
「だめ……だめ、なの……」
途切れなく喘ぎながら、小さな胸の先端を尖らせる様に、クレドがゴクリと喉を鳴らす。ティナの持つ女の顔が、男の本能を強く刺激しているのだ。
(私、こんな……こんなはしたない女だったんだ……)
ろくに色気もないし、女らしさの欠片もない自分は男に近いと思っていた。でもクレドを前にすると、まるで淫らな獣のようだった。
そしてそんな自分が、ティナはたまらなく恐ろしかった。
クレドはまともではないのに、こうしているのだって、彼の本意ではないとわかっているのに、自分の身体を求めてくれているのを喜ぶ自分はあまりに浅ましいとも思う。
(でももし、このまま抱かれたら……、隊長は私を女性として見てくれるかな……)
身分は低いがティナだって貴族の娘だ。結婚前に処女を散らすなんてあってはならないことだし、そうなれば相手が責任を取ることになる。
たぶんクレドの性格なら、自分のしたことから逃げたりはしない。死んでも責任を取ると言い、ティナと結婚してくれるかもしれないと、そんな考えが不意によぎってしまう。
(そうしたら、いつかは……私のことを好きになってくれる……かな……)
クレドを求めるように、ティナは彼の頬にそっと触れる。
凜々しい顔を指でなぞると、クレドもまたどこか幸せそうに笑った。