悪人の恋
- 著者:
- 荷鴣
- イラスト:
- 鈴ノ助
- 発売日:
- 2020年03月02日
- 定価:
- 770円(10%税込)
俺からあなたを取り上げないでくれ……
家族を惨殺され、復讐の鬼と化した亡国の王子ルシアノ。悪の限りを尽くし、ついには敵国の女王アラナのもとにたどり着く。だが彼女は命乞いをするどころか、自身の死を願っていた。興を削がれたルシアノは、強引にアラナを抱き、苦しませようとする。しかし、ともに過ごすうち、憎しみは執着へと変わり、彼女との未来を望むようになり……。彼女を生かすのは復讐のため。そう言い訳をしつつアラナに溺れるルシアノだが、彼女は依然として死を望んでいて……。復讐に狂う王子×死にたがりの女王、凄惨な過去に囚われたふたりの行く末は――!?
アラナ
大国の女王。過去のある出来事をきっかけに、死を望むようになる。表情がほとんど変わらず浮世離れしている印象。
ルシアノ
エミリオと名を変え、身分も詐称し、アラナを殺すため城にもぐりこむ。死を怖がらないアラナにある提案をする。
エミリオと結婚してひと月が過ぎていた。彼は眠るアラナの秘部を毎日舐めてくる。アラナが起きしなに果てるのはいつものことだった。身じろぎすらできないほどに固定され、刺激から逃れるすべをつぶされる。何度も官能を刻まれて、どろどろに蕩けさせられる。
息も絶え絶えで苦しくて限界を感じていると、視界に銀色の髪が現れて、情欲を宿したすみれ色の瞳にのぞかれる。それは、肌が粟立つほどの美しさだ。アラナはせつなくて、やるせなくなり、大きくあえぐ。泣きそうになる。けれど、こらえる。
「ほしくてたまらないか? アラナ、ほしければほしいと言え」
唇を引き結ぶ。ふう、ふう、と胸を動かしていると、彼に汗まみれの額を撫でられた。
「あなたは、俺を不浄だと思うか? 穢らわしいか? 憎いか? ……アラナ、言え」
おなかの奥に一気に猛りがねじこまれ、鼻先を上げたアラナは震える。なかは飢えているのか、しきりに蠢き彼に吸いついた。まるで切望していたかのようだった。長く、深く、ぽっかり空いた穴を、彼の熱で必死に塞ぐかのように、身体がいやしくもがくのだ。
「────は。俺をほしがり過ぎだ、あなたは」
すぐさま律動がはじまる。強く叩きつけるように、けれど、奥の奥を的確に突かれる。それは、彼が射精するまで終わらない。毎回容赦がなく、手をゆるめることはなかった。
彼が熱く精を吐けば、アラナのなかはいっそう彼をしぼり取ろうとするかのように、収縮をくり返す。身体が歓喜しているようだった。彼を求めているのだと思い知らされる。
心と身体は別だった。身体は気持ちがいい、気持ちがいいと激しくうずく。けれど心は、やめて、やめて、と拒絶している。快楽を得る資格はないのだと。
しかし、理性はすぐに弾けて消える。この時間がずっと続けばいいと考える。
彼に、ぎゅうと強く抱きしめられれば、ぼやけた景色がさらににじんで見えなくなった。
まなじりからこぼれてゆくものがある。彼に見られてはいけないと思った。
「……なぜ、泣いている?」
やさしくない武骨な手つきで目もとを拭われる。涙を止めようというのか、ぐいぐいとこすられる。そんな強い力で扱われては、止められるものも止められない。女性に慣れている人だと思っていたのに、実際は少しも慣れていないのだ。
彼はアラナを抱えたままで上体を起こした。そして、頭を撫でてきた。それを、アラナは複雑な思いで受け止める。
彼をうかがえばその目が細まった。薄い唇が笑んでいるような気がして混乱してしまう。
アラナは彼の口もとを見ていたが、彼もまた、アラナの口を見つめているのだと気がついた。思わず手で隠せば、その手をにぎられて、ゆっくり横にどけられた。
「俺が、憎いか?」
「あなたを憎む理由がありません」
「そうか。しかし、まだ泣くかあなたは。困った人だ」
しきりにまたたけば、アラナのまつげについていた涙が飛び散った。
「泣きやめばドレスを着せて髪を梳いてやる。邪魔にならないように結んでやる。その後は食事だ。あなたに話したいことがある。その手に試してみたいこともある」
彼の視線は依然としてアラナの唇を捉えていた。伸びてきた指に、ふに、と押されて下の歯をのぞかれる。視線は上にずれてゆき、アラナの瞳の方へ。すぐに目があった。
「早く泣きやめ。泣きやむまで、気持ちの良いことをしてやる」
彼は、アラナの身体を寝台に沈めて組み敷いた。上からのぞきこまれて、息をのむ。
すみれ色の瞳に自分が映っている。彼は、アラナだけを見ていた。
愛人を許可したから、城内の多くの女性と関係するのだと思っていた。少なくとも、隠密の報告のなかでの彼ならばそうだった。けれど、城に来てから彼が今日まで抱いているのはアラナだけ。たちが悪いことに、それをうれしく思う自分がいる。
早く消えなければならないのに。生きる資格も、価値もないのに。
「あ」
胸を甘?みされて身悶える。彼は、すっかりアラナの感じるところを把握しているのだ。
アラナはわななきながら目を閉じた。かつて見た、満天の星を思い出そうと思った。