孤独な女王と黒い狼
- 著者:
- 春日部こみと
- イラスト:
- 篁ふみ
- 発売日:
- 2020年03月02日
- 定価:
- 770円(10%税込)
酷いお方だ。俺の想いは必要ないと?
妖精のような可憐な外見とは裏腹に、豪胆で自由奔放な女王シャーロット。彼女は変装をして偽名を使い、城下町である情報を集めていた。そこで辺境伯の嫡子アルバートと出会う。彼は継母に父親殺害未遂の濡れ衣を着せられ、故郷を追放されていた。互いに素性を隠しつつ、惹かれていく二人。やがて、切なくも甘い一夜を共にする。けれど、女王が自由に結婚できるはずもない。シャーロットはアルバートの幸せを願い、身を引こうとするのだが……。不遇の貴公子×孤高の女王、絶対的な身分差に阻まれた恋の行方は――!?
シャーロット
アンという偽名で身分を隠してアルバートと出会う。彼との結婚を望むが立場的に難しいことも理解している。
アルバート
義母に父親殺害未遂の濡れ衣を着せられて故郷を追放される。王都でアンに出会い、恋に落ちるが……。
「──眠っていた獣を起こしましたね、シャーロット」
ニタリ、と口の端を上げるアルバートは、ひどく艶っぽく見えた。美貌の男ではあったが、その性質がまっすぐで純粋なせいか、雰囲気に陰りがなく、年齢よりも若く見えがちだった。それなのに今のアルバートは、ゾクリとするような影のある色気を放っていて、彼が自分よりもずっと年上の男だったのだと、シャーロットは今更ながらに実感させられた。
「眠っていた獣って……」
圧倒され、ボソボソと鸚鵡返しをすると、アルバートは目を細めて少し首を傾げる。
「俺はつい先ほどまで、あなたを手に入れられなくてもいいと思っていました。あなたは女王で、俺はその王配にはなれない末端の貴族でしかない。だから、せめて臣下としてあなたのために生きられればそれでいいのだと──だがそれがおためごかしだったと、今自覚してしまった」
アルバートは言いながら、優しい手つきでシャーロットの頬にかかる髪を払うと、そのまま耳をかすめ、手櫛を通すように髪を梳き下ろした。ただ髪を撫でられているという行為なのに、妙に官能をくすぐられ、シャーロットの背中にゾクゾクとした震えが走る。
「俺はあなたが欲しい、シャーロット。女王以外のあなただけじゃ足りない。あなたの全てを、俺のものにしたい」
シャーロットは目を見開いた。驚きのあまり、言葉が出てこなかった。
?然として見つめていると、アルバートはにこりと笑む。舌舐めずりをする獣のような顔だった。
「お覚悟を、女王陛下。俺は女王としてのあなたも奪いに行きます」
ドクリ、と心臓が音を立て、シャーロットは思わず後退りする。愛する男なのに、何故か逃げなくては、という本能が働いたからだ。
だがすぐに告解用の椅子に足をぶつけ、よろめいて懺悔台の上に俯せに倒れ込んでしまう。幸いにして痛みはなかったが、身を起こそうとした途端、自分の背中にドシリと重みが加わった。
アルバートが自分の背中に覆い被さってきたのだ。
「ア、アルバート!?」
狼狽えるシャーロットに、アルバートは「しぃっ」と耳元で囁いて、彼女の髪を手でかき上げ、露わになった項に口づける。
「──っ!」
ちゅう、と音を立てて首の皮膚を吸われ、ビクンと身体が跳ねた。
ビリビリとした感覚が快感だと、シャーロットはもう知っている。身を竦めてそれに耐えていると、ドレスの裾からアルバートの手が入り込んできて仰天した。温かく乾いた皮膚の感触が、自分の内腿をスルリと撫でる。敏感な柔らかい場所への刺激に、脚がブルリと震えた。
「あ、や、やめ──」
慌てて腕を振り回すと、容易く手首を捕らえられて台の上に押さえつけられる。
「静かに……ユリウス大司教に聞こえてしまいますよ」
その名前を出されてギョッとなり、声も喉の奥で凍りついた。忘れていたが、この告解室にはユリウスがいるはずだったのだ。それが何故かアルバートに代わっていた。つまりはユリウスとアルバートが示し合わせたということだろう。
「……ユ、ユリウスは何をしているの!?」
小声で訊ねると、アルバートはクスリと笑った。
「この礼拝堂に誰も入ってこないように、外で見張ってくださっていますよ。大司教は俺の恋の相談に乗ってくださっているんです。今日も俺の告解を聞いてくださる予定だったのですが……」
なんてことだ、とシャーロットは顔が赤くなるのを感じながら納得する。ユリウスはアルバートの地位奪回に協力していた。社交的に見えて、その実、気難しいあの爺は、気に入った者でなければ骨を折ったりしない。聖職者がそれでいいのかと言いたくなるが、ともかくアルバートのことはあの時から気に入っていたのだろう。
自分とアルバート、両者から恋の相談をされて、「これはこの私が一肌脱いでやろう」とホクホクしているユリウスが容易く想像できて、心の中で脱力してしまう。
「ユ、ユリウスがいるのなら──」
離れてほしい、と言おうとしたシャーロットを遮るように、アルバートが囁いた。
「ええ、ですから、声を上げてはいけませんよ」
笑みを含んだ声に、シャーロットは悲鳴を上げたくなる。
アルバートの手がドロワースの穴を探り当て、そこから秘めた場所を弄り始めた。
「っ……や、やめ……」
「しぃっ」
また耳元で囁かれ、その後耳介を食まれる。敏感な耳を齧られて、飛び出しそうになる高い声を、シャーロットは唇を?んでやり過ごした。
アルバートの手はその間も動いていて、探し当てた薄い下生えを愛でるように撫でている。強引な愛撫でも、好きな男の手で触れられていれば、身体は反応をしてしまうようだ。滲み出た愛蜜を絡めると、にゅるりと指が泥濘に入り込んだ。