俺様騎士の不埒な求婚
- 著者:
- 秋野真珠
- イラスト:
- 氷堂れん
- 発売日:
- 2019年12月02日
- 定価:
- 748円(10%税込)
満月の夜だぞ。夜這いするのは当然だろう?
恋愛関係になかったとはいえ、二度も婚約破棄をされたヴィクトーリア。元婚約者の結婚式でやけ酒をし、厄介な男と情熱的すぎる一夜を共にしてしまう。常に女性たちに囲まれている女たらしの騎士・レオナルトだ。一夜の過ちで忘れるつもりだったのに、彼は翌日屋敷に押しかけ、結婚を迫ってくる。彼の執拗かつ奇抜なアプローチに振り回されつつも、その想いの強さにほだされていくヴィクトーリアだが……。彼が彼女に近づいたのはある理由があって――!?傍若無人な俺様騎士×恋を知らない令嬢、運命の“プリンセス”は絶対に逃がさない!!
ヴィクトーリア
悪い噂を立てられているため、人づきあいは苦手。強引すぎるレオナルトに振り回されている。
レオナルト
優秀な騎士で女性の扱いも慣れている。…はずなのに、ヴィクトーリアが相手だと猪突猛進すぎる。
「どうして帰らなければならない?」
「──私の言ったことちゃんと聞いてた!?」
どうして同じ言語を話しているのに通じないのか、ヴィクトーリアはついに苛々が最高潮に達し、怒鳴り返してしまった。
「少し声を落としたほうがいい。外に声が漏れないとも限らないからな」
「……っ貴方が帰ってくれたら、私は喜んで黙ってベッドに入るわ!」
感情を必死に抑えながらも、できるだけ小さな声で怒鳴ったヴィクトーリアに、レオナルトの目が面白そうに輝いた。
「そうだな。君がそんな格好のままでは風邪を引くかもしれない。ベッドに入るとしよう」
「ちょ──っと!」
レオナルトはさっとヴィクトーリアの手を取って、ベッドに押し倒した。
そんな格好、と言われて、ヴィクトーリアは自分が今どんな格好をレオナルトに見せているのか思い出した。もう寝るだけだったので、ガウンも羽織っていない。着ているのは薄く柔らかく、着心地のよいさらりとした素材の寝間着だけだ。
一気に顔に熱を集めながらも、ヴィクトーリアはレオナルトの下から逃げ出そうと彼の身体を押し返す。これと同じようなことを前にもしたような──と思いながらも、抵抗する術がそれしかないのだから仕方ない。
「ひとりで! 寝る予定なの! 貴方は帰るのよ! どうしてこんなことを──」
「どうして?」
どうにか理解してほしいと思いながら、ヴィクトーリアは押し返す手に力を込めて抵抗するが、レオナルトはものともせずにヴィクトーリアに触れてくる。
薄い生地では、大きな手が腰から上に動くだけで直接肌に触れられているように感じ、身体が震えた。
その震えの意味を、ヴィクトーリアはもう知っていた。
どうしてあの日、この手を許してしまったのか。ヴィクトーリアはずっと悔やんでいたのだから。
これから何が起こるのか理解しているから、ますます顔が熱くなる。
「君に夜這いを仕掛ける理由など、ひとつしかない。君が欲しいからだ、プリンセス」
「────」
「もう記憶の中の君を思い出すだけでは物足りなくなったからだ。君をもう一度抱いて、確かめて、夢ではなかったと、この身に刻み込みたい」
こっちの身にもなってほしい。ヴィクトーリアは赤い顔を背けたまま、レオナルトを見ることができなかった。
こんな状況、嬉しいはずがないのに、これ以上抵抗ができない自分を知っている。
さすがに、ここで力の限り大声で叫べば、父でなくとも使用人の誰かは気づいて助けてくれるだろう。恥ずかしいところを見られてしまうかもしれないが、今の状態で見られるほうがましなはずだった。
「プリンセス、もう一度、俺に確かめさせろ──君の身体が、どれほど甘いのかを」
味なんてしない──
そう言いたかったのに、ヴィクトーリアは近づいてくるレオナルトの顔を避けられなかった。突っぱっていた手は、そのまま彼のシャツを握りしめることしかできない。
この人、夜なのにまだこんな薄着で──
ヴィクトーリアはそんなどうでもいいことを思いながら、レオナルトの唇を受けた。
「ん────」
レオナルトのキスは執拗だ。
他の人のキスなど知らないが、彼は触れるだけではなく、何度も角度を変えて口腔を貪ろうとするし、まさにヴィクトーリアの唇は食べられているような感覚を抱く。
「ん、は、ぁ」
鼻で息をしたところで、苦しさがなくなるわけではない。
舌の絡まりをほどくと、はしたない音が耳に響くが、唇が少しでも解放された瞬間に荒い息を吐き出すことに必死だった。
ヴィクトーリアはレオナルトのキスに夢中になってしまっていた。
甘い、なんて──味なんてわからない。でも頭の奥が、熱くなってしまうのだけは、わかる。
ヴィクトーリアは彼からのキスを夢中で返すあまり、彼の手が慣れた手つきで薄い寝間着を乱し、肌を露わにしていることにまで気が回らなかった。
大きな手がヴィクトーリアのすべてに触れて、もっとヴィクトーリアをおかしくさせる。
「ん、ぁ、あ」
「プリンセス──雨だ」
「────?」
唇を離し、お互い瞳しか見えないような距離で、レオナルトが囁く。
最初はなんのことかわからなかった。
彼の視線が少し動いたことで、ヴィクトーリアもカーテンを閉めていないままの窓を見る。
さっきまでの月明かりはもうなかった。
いつの間に、と思ったが、一気に雲が広がり、ぽつぽつとガラスに雨が当たる。
「──嵐になるな」
秋の嵐だ。
冬の到来を告げる嵐が来た。それはいつも突然で、ついさっきまで晴れていても、急な雷雨に見舞われる。それが秋の嵐の特徴だった。
ひとつ、ふたつと数えることのできていた雨音は、ぽつりと呟いたレオナルトの言葉に従うように、次第に勢いを増し、瞬く間に外の世界と隔離されるような大雨が降ってきた。
雷が王都中に鳴り響き、さらにゴウ、と風も唸り、雨は勢いを増していく。
「──これで、問題なくなったな」
「──え?」
囁くような声だったが、唇がまた触れそうな距離にいるのだから、レオナルトの声もよく聞こえた。訊き返したのは、どういう意味かわからなかったからだ。
レオナルトは笑った。いつもの、人をからかって面白がるような、こちらの神経を逆なでするだけの余裕の笑みだ。
「思うまま、声を上げて構わないぞ」
「───っ声なんて!!」
上げるものか、とヴィクトーリアはムキになって言い返したかったが、レオナルトはまた楽しそうに目を細める。
「違うな、俺が声を上げさせたいんだ」
「────」
それに、どう返すのが正解なのか。
ヴィクトーリアは一瞬、反応に困り動きを止めたが、それを見逃すレオナルトではなかった。
もう話は終わった、とばかりにヴィクトーリアの首筋に顔を埋め、肌を舐めていく。
「ん、んん……っ」
舌を蠢かされて、擽ったさを感じ、肩を竦める。それが腰の奥に痺れるように響くから、耐えるしかなかった。