竜王様は愛と首輪をご所望です!
- 著者:
- 八巻にのは
- イラスト:
- 成瀬山吹
- 発売日:
- 2019年09月02日
- 定価:
- 748円(10%税込)
好きな女に飼われるのって、ぞくぞくするだろ?
「俺の姿は気にいったか?」恐ろしいほどの美丈夫(全裸!)を前に、カルディアは唖然としていた。魔女の血を引く彼女は、小さくて不格好な竜のオルテウスと『番の儀式』をした。番になれば絆が強まりずっと一緒にいられるからだ。けれど、初めて人の姿に変身した彼は予想外のイケメン! 「俺はお前だけに触れたいんだ」熱い眼差しを向けられ、優しい愛撫で蕩かされ、彼と甘い一夜を過ごすカルディア。だが彼は、亡くなったはずの前竜王かもしれなくて――!?
オレ様ワンコな(元)竜王×落ちこぼれ魔女、異種間ラブコメディ!
カルディア
魔女としての力はほとんど無く他の魔女から馬鹿にされている。だが薬作りの腕は一流で、それを売って生活している。
オルテウス
カルディアと苦楽を共にしてきた、小さくて不格好な世話焼きの竜。人間の姿はガタイのいいイケメン。
「オルは昔から……そうするのが、好きね……」
キスで乱れた呼吸を整えながら、カルディアもまた竜のオルテウスにしていたように彼の顔の輪郭を指で辿った。
今の彼の顔はシャープで、竜のときの丸みを帯びた顔とはまるで違う。
鱗と人肌では手触りも違うけれど、カルディアの手に頬を寄せる仕草には、かつての名残があった。
「お前と触れあい、お前の熱を感じるのが好きなんだ」
オルテウスの頬に触れていたカルディアの手に、大きくて節くれ立った手が重なる。
「だからお前の竜になった。お前とずっと一緒にいたかったし、いずれこうしてお前と同じ姿で寄り添いたいと思っていた」
熱を帯びた視線を向けられると落ち着かない気持ちになるけれど、カルディアは彼の言葉がとても嬉しかった。
「だが怖くはねえか? 嫌ならいつでも言え」
急ぐつもりはないからと笑うオルテウスに、カルディアは首を横に振る。
「最初は確かに怖かったけど、私もオルとくっつくのは嫌じゃないみたい」
「今の俺でもか?」
「うん……。まだちょっと緊張はするけど」
よくよく考えれば、小さなオルテウスは常にカルディアの身体にくっついていたのだ。姿形は違うけれど、やっていることは同じではないかという気もしてくる。
「オルはよく服の下とかに入ってたし、今更これくらいで緊張するのも変だよね」
「俺が言うのも何だが、お前は俺に気を許しすぎなところがあるよな」
「オルだからだよ」
「それに、俺に甘すぎる。あまりに隙が多すぎて、どんどんつけ込みたくなる」
言いながら、オルテウスがカルディアの喉元に手を触れた。
彼の爪は鋭いから、もし彼が本気で力を入れればあっという間に喉を裂かれてしまうだろう。けれど不思議と爪を立てられても恐怖はなかった。
その思いが顔に出ていたのか、オルテウスが僅かに首をかしげる。
「俺が悪い竜だったらどうするつもりだ? 魔力ごとお前を喰らい尽くすかもしれねえぞ?」
「オルはそんなことしないよ」
「本当に?」
オルテウスの瞳孔が狭まり、竜らしい鋭いものへと変化する。それに少しドキッとしたけれど、不思議と恐怖は感じなかった。
(だって、相手はオルだもの)
目は鋭くても、カルディアに触れる手つきはやっぱり優しい。だから彼が自分を傷つけるわけなどないと、確信できる。
「だってオル、私のこと大好きでしょう? 食べてしまったらもうくっつけないし」
「そうだな、それは困る」
「でも魔力ならいっぱいあげる。私がオルにあげられるものは、他にないから」
自分の一部が少しでも彼の糧になるなら、これほど嬉しいことはない。
そんな想いで微笑むと、オルテウスは少し困った顔で目を細めた。
「前にも、お前は俺に同じことを言ってくれたな」
「そうだっけ?」
「ずいぶんと昔だ。お前は覚えてないと思うが、『自分の魔力で良かったら食べて』なんて言い出して驚いた」
喉元から手を放し、代わりにオルテウスはカルディアの唇を爪で撫でる。
「こんな俺に、何かを与えてくれる人がいるなんて思わなかったんだ。だから俺も、お前に与えてやりたくなった」
穏やかな笑みを浮かべたあと、オルテウスは今までで一番優しい口づけを唇に落とす。
「むしろオルは、私に与えすぎだと思う。いつも優しいし、何でもしてくれるし」
だから少しだけ、不安にもなる。
(彼は私の全てになってくれようとしてるけど、私はオルの全てになれるのかな……)
もし彼が本当に竜王だとしたら、彼の周りには自分よりも優れた人間がいただろう。美しい者も、賢い者も、資産や魔力のある者もきっと数え切れないほどいたはずだ。そんな人たちと比べて、カルディアがオルテウスにできることはきっととても少ない。
(それでも私を選んでほしいって思ってしまうのは、我が儘すぎるかな……)
この腕も、笑顔も、視線も、全てを独占してしまいたい。
カルディアの内に芽生え始めた欲望は日に日に強まり、減っていく気がしない。
そのことに気づいてしまった今、カルディアの胸には不安もまた募るのだ。
「やはり不安か?」
押し黙ったカルディアを、オルテウスがじっと見つめる。
「ううん、大丈夫」
気を遣わせてしまったことが申し訳なくて、カルディアは首を横に振った。
(今は、くよくよ悩むのはやめよう。私は私の……オルにできることをしよう……)
そう決めると、心がすっと軽くなる。
「オルの好きにして。魔力だって、欲しいだけあげる」
「……なら、もっと深く?がりたい。番としてもっと強く、深く」
声の端々から感じ取れる熱情に、カルディアは戸惑う。
魔力を与える行為は今まで何度も行ってきたけれど、きっと彼が望んでいるのはいつもの方法ではないのだ。
どんな方法かはわからないけれど、頷いたら最後、魔力どころか自分の全てを貪られるような気がする。
(でもそれでもいい……。オルになら全部あげたい……)
そんな気持ちで頷くと、カルディアの細い首筋をオルテウスが舐める。竜のときにも同様のことをされたが、そのときとは違い身体がびくりと震えてしまう。
「あっ……オル……。なにか……んっ、変……かも……」
「それが、正常な反応だ」
「でも……アッ……」
「それにこうしておけば、?がりやすくなる」
首筋を舌先で舐り、オルテウスの手がカルディアの背中をゆっくりと撫でる。
鎖骨のあたりを唇で吸い上げられ、指先で背骨を撫で上げられると、ゾクゾクとした感覚が芽生えて声も身体も震えてしまう。
「からだ……が……やぁッ……だめ……」
自分のものではないような声がこぼれ、恥ずかしさのあまり口を手で塞ごうとした。
だがその直後、二人を?いでいた鎖がカルディアの手首に絡まり動きを封じられる。
「声は我慢するな」
「でもっ……」
「魔力の宿った魔女の声は、竜にとっちゃ甘い餌だ。だから何も我慢しなくていい、全部俺が喰らってやる」
宣言通り、オルテウスは嬌声ごとカルディアの唇を奪った。荒々しい口づけはまさしく喰らいつくようで、角度を変えながら何度も唇や舌を吸い上げられ、カルディアの喉からは甘くくぐもった声だけがこぼれる。
とても恥ずかしいけれど、この声すらも欲してくれるなら我慢する必要はないのかもしれない。
「あっ……オル……ッ」
「良い声だ。お前はキスをすると、身体も声も蕩けるな」
「だって……息も苦しくて……」
「苦しいだけか?」
質問と共に優しく唇を啄まれると、答えは否だとすぐわかる。でもそれを口にするのはなんだか恥ずかしくて、カルディアは目を伏せ、小さく首を横に振った。
「返事は声に出してほしな」
「お、オル……なんだかいつもより意地悪……」
「意地悪な俺は嫌いか?」
「オルのこと……嫌いになんてなれるわけない」
恥ずかしいけれど、キスだって本当はすごく気持ちが良かったのだ。
(キスだけじゃない……私……オルに触られたり舐められたりするの……嫌じゃない)
むしろもっとしてほしいと思ってしまうことに戸惑い、それが拒絶の言葉に?がるのだ。
そんなカルディアの心を見透かしているかのように、オルテウスがふっと笑みをこぼす。
「そうか。だが嫌われないよう、今夜は優しくしておこう」
キスをしながら、オルテウスは首輪を指先で撫でる。すると二人の間の鎖が消え、手首も自由になる。
「あとこれも必要ない」
指先で示したのはカルディアが身に纏っている服で、さすがに少したじろぐ。
「さっき言ったよな、今更緊張することもないって」
「だけど……」
「お互いの裸なんて、いつも見てただろう」
「でもあなたは鱗に覆われてたし、それに……」
祭壇で見た彼の裸体を思い出した瞬間、顔がカッと熱くなる。
「わ、私は脱いでもいいけど、オルは……そのままでいてくれる?」
「自分が脱ぐのはいいのに、俺が脱ぐのは嫌なのか?」
「オルは私を見慣れてるかもしれないけど……、私はあなたの胸とか腹筋とか慣れてないし、その……」
「怖いのか?」
怖いとは少し違うが、ただでさえ初めての行為の前で緊張している今、彼の身体を直視したら気が変になってしまいそうだった。
「わかった。窮屈だが我慢しよう」
「ありがとう」
「でも譲るのはここまでだぞ」
言いながら、オルテウスの指がドレスのリボンへと伸びていく。
戸惑いはあったが、彼が譲歩してくれているならここは素直に受け入れようと決めて、自ら袖を抜く。そのまま肌着も取り払われ身ひとつになると、震えるほど恥ずかしかったが、オルテウスはひどく満足そうだった。
「ああ、やっぱり綺麗だ」
「そんなことないわ、貧相でしょう」
「確かに少し細いが、お前の身体の線は好きだ。それに白い肌も、銀色の髪も、星色の瞳も、全部綺麗だ」
まっすぐすぎる賛辞に顔が火照り、居たたまれない気持ちになる。今すぐにでも頭から毛布をかぶってしまいたかったが、それよりも早く、オルテウスに抱き寄せられて毛布の上に押し倒されてしまった。
覆い被さるようにオルテウスの巨体が近づいてきても、最初のときに感じた恐怖はもうなかった。
むしろ彼が自分に口づけたがっているのだとわかると、自然と目を閉じ彼を受け入れてしまう。
唇を何度か啄んだあと、オルテウスの口づけは頬を辿り喉へと下りていく。だがそこで止まらず、彼の唇はカルディアの胸元へと寄せられた。