恋が僕を壊しても
- 著者:
- 栢野すばる
- イラスト:
- 鈴ノ助
- 発売日:
- 2019年08月03日
- 定価:
- 748円(10%税込)
君のためなら、命も誇りもすべてを捨てる。
悪神の呪いと恐れられる致死率の高い疫病――リゴウ熱。その治療剤の製造者であるイナは、森の奥で王太子リィギスと出会う。過酷な環境で育てられたイナと、生来の容姿ゆえに『呪いの王子』と忌避されているリィギス。孤独な二人は惹かれあい、儚い逢瀬で恋を育んでいく。「可愛い、全部可愛い、僕のイナ……」誠実で優しいリィギスに甘く情熱的に抱かれ、深い愛と快楽に溺れていくイナ。けれど彼女には、リィギスには言えない残酷な秘密があって……!?
清廉潔白な“呪いの王子”×死期が迫る少女、絶望で歪んだ純愛の行方は……?
イナ
治療剤を作るために毒を飲まされ続けている。製造者の役目以外のことはほとんど何も教えられずに育った。
リィギス
実直な王太子。悪神の色である青色の目を持つために忌避されている。イナの秘密を知らず、結婚したいと思っている。
「お帰りなさいませ」
寝台の上に平伏し、やはりすぐ脱げてしまう寝間着の前を?む。
深々と頭を下げるイナを、リィギスが驚いたように見つめた。
「どうした、そんなに震えて」
「見間違いです、震えてはおりません。リィギス様はそこに座ってください」
勇気を振り絞って、イナは平伏したまま傍らを指さす。
「何でだい?」
「そこに座ってください、早く。お願いします」
本の内容を頭に思い浮かべつつ、イナは懇願する。
深く考えては駄目だ。勇気がある今のうちに、書いてあったとおりの手順を踏み、リィギスに『愛して』もらわなければ。
寝室の心得は、イナの想像を絶する内容だった。
子供の種は、大神殿が配っているわけではない。それに口から飲んでもお腹に子供は生えないのだ。
──私の……馬鹿……!
愛しいリィギスをこれ以上悲しませる前に、早くやり直さなくては。
リィギスが笑いながら水の瓶を置き、イナの示す場所に腰を下ろした。
「はい、これでいい?」
優しいリィギスの声に励まされ、イナは必死の形相で顔を上げた。
膝立ちになり、強ばった腕を動かして、何もしなくてもすぐほどける自身の帯を解く。そして、肌にまとわりつく絹の寝間着も脱いだ。
一糸纏わぬ姿になり、最近大きくなる一方の邪魔な胸を隠す。
?然としているリィギスの視線を感じながら、イナは勇気を出して言った。
「リィギス様、昨夜は申し訳ありませんでした。覚えましたので、今から私がします」
イナは震える両手を伸ばして、リィギスの頬に添える。
リィギスは、真っ青な目を大きく開いたまま、何も言わない。
凍ってしまったリィギスの唇に、イナは勇気を振り絞って、自分の唇を押しつけた。
口づけをしながら、本に書かれていたとおりにリィギスの唇を舐め、彼の手を自身の揺れる乳房に導く。
──あとは、あとは……リィギス様の服を脱がせ……て……。
心臓が爆発しそうなくらいに勢いよく脈打つ。
首筋に抱きついていた腕を緩め、彼の帯に手を伸ばした。これを解き、男性の肌を露わにして、身体を押しつけるようにして抱きつくのだ。
──帯……なにこれ……解けない……。
困った。男帯の解き方が分からない。いや、あの本に書いてあったはず。焦りのあまり何も思い出せない。
──解けない……どうしよう……。
途方に暮れ、イナは更に帯をまさぐろうとした。そのときだった。
「やめてくれ、抑えられなくなる」
リィギスが苦しげに言う。必死すぎて気づかなかったが、彼の腕はいつの間にかイナの裸の腰に回っていた。
イナは強くかぶりを振る。
「いいんです。ちゃんとやります、最後まで!」
「良くないよ、君は何も知らないのに」
「……っ……ほ、本で……読んだから……覚えました。私、何も知らなくて、あんな風に、毛布に隠れたりして……ご、ごめんな……さ……」
緊張と申し訳なさと恥ずかしさで、どっと涙が溢れた。だが泣いている場合ではないのだ。イナはしゃくり上げながら、必死に口を開く。
「あ、あとは、本のとおりに、私が、大きくなるまで、手でしま……」
諦めずにもう一度帯に手を伸ばした瞬間、イナの身体は寝台に押し倒された。
「……してくれなくていい、もうなっているから」
リィギスが大きな手でイナの手を?み、下腹部に触れさせた。
「ね……? 僕は、これまでどんな女性に迫られても何も反応しなかったんだ。……でも君に口づけされただけで、こうなった」
呆然としたまま、イナは服の下で存在を主張するそれをそっと握る。
「あ、あの、これも本に、本に載っていました! 興奮すると大……あ、あの……」
言葉尻は口の中で弱々しく消えていく。これまでの人生で一番恥ずかしい時間だった。全身が音を立てて破裂しそうだ。
「そうだよ。色々と覚えてくれてありがとう」
耳まで赤くなり、リィギスが低い声で言う。
のし掛かってきたリィギスの顔がすぐそばに近づいた。
宝石よりもくっきりした青の瞳に、緊張に引きつったイナの顔が映る。
「嬉しい。イナが僕のことを思いやってくれて」
染み入るような優しい声に、再びイナの目から、呆れるほどの涙があふれ出す。
彼は、昨夜無礼な態度を取ったイナをまったく怒っていないのだ。
出会った頃から変わらず、いつもどんなときも優しい。悪いのはイナの方だったのに。
泣いているイナを宥めるように、リィギスが口づけをしてくれた。大きな身体に押し倒され、唇を塞がれて、身体中の力が抜けていく。
「僕はイナを抱きたい。黙っていたけど、本当はずっと前から抱きたかった。イナの中に入ってそこで果てたいんだ。……いい?」
唇を離したリィギスはそう言って半身を起こし、もどかしげに寝間着を脱ぎ捨てた。
イナは息を呑む。
初めて見るリィギスの裸身は、滑らかで、引き締まっていて、魂を奪われるほど美しかった。くっきりとした青い目に見据えられると、動けなくなる。
呪いの青という言葉が、イナの頭に浮かんだ。
確かに、ある意味呪いなのかもしれない。
こんなに青く美しい瞳を見たら、永遠に忘れられないだろうから……。
そう思いながら、イナは、本に書いてあった男性の大切な場所にそっと視線を移した。
とても大きいので、大丈夫だろうかと不安がよぎる。
真っ赤になって遠慮がちに視線を向けるイナに、彼が困ったように微笑みかけた。
「恥ずかしいな、そんなに見られたら」
「あ、ご、ごめんな……さい……」
「見えないようにしてしまおう」
リィギスが秀麗な頬を恥じらいに染め、イナの唇に優しく接吻した。だが、いつものようにはすぐに唇は離れない。
口づけたまま、リィギスの手が遠慮がちにイナの肌の上を這う。
素肌に触れられるのが恥ずかしくて、イナは身じろぎした。だが、初めは遠慮がちだったリィギスの指が、次第に熱を帯び始めた。
指が肩を辿り、乳房の膨らみにさしかかって、戸惑ったように止まる。
──リィギス様?
不思議に思ったとき、リィギスが思い切ったように、手をイナの腿に伸ばす。
同時に、唇が離れた。緊張のあまり、またしても無意識に息を止めていたイナは、涙目になって大きく息を吸った。
だが、次の瞬間凍り付く。
腿の辺りを?まれ、脚を大きく開かされたからだ。
──な……!
絶句したイナは、慌てて本の内容を思い出す。大丈夫だ。こうやって身体を開いて、相手を受け入れるのが作法だと書かれていた。
──う、う、無理……見ないで、見ないでください……!
リィギスの視線を、言葉にできないほど恥ずかしい場所に感じる。手を伸ばして脚の間を隠そうとしたが、駄目だった。やんわりと取り払われ、顔がだんだん熱くなってくる。
イナは、恐る恐るリィギスに言った。
「そんなところ、ご覧になっては駄目です」
だが、リィギスは何も言わず、身を乗り出して、さらけ出された乳嘴に唇を押しつけた。
ずくりという疼きと共に、その場所が硬くとがっていたことに気づく。つんと立った蕾を、リィギスの唇が優しく食んだ。
「あ……っ!」
イナは思わず声を上げ、身体をよじる。二の腕がぶわっと粟立った。身体中の感覚が、口づけられた乳嘴に集中する。
リィギスは、唇にわずかに力を込めた。じんとした疼きが再び身体を駆け抜けた。イナは背を反らし、身をよじって、悪戯な唇を避けようとした。
だが、男の力は無慈悲だった。イナの抵抗では、リィギスの身体はまるで揺らがない。
「何でそんなところ、吸って……あぁぁっ……」
「君の肌は甘いんだな」
「あ、甘くないです、どうして」
「いや、甘いよ、甘くてどうにかなりそうだ」
そう言ったリィギスが、舌を乳房の下に這わせた。
──リィギス様、どうして、肌に味なんて……。
イナの肌が、身体中、羞恥に赤く染まっていく。舌の感触が、徐々に下の方へと移っていく。戸惑っていたイナははっとなって、頭を起こした。