ソーニャ文庫

歪んだ愛は美しい。

恋縛婚

恋縛婚

著者:
山野辺りり
イラスト:
篁ふみ
発売日:
2019年02月04日
定価:
726円(10%税込)
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偽りでもいい。愛していると言ってくれ。

亡き姉の想い人で、自分も密かに憧れていた年上の幼なじみ、ローレンスに求婚されたブリジット。けれど彼女はその求婚を断ってしまう。姉の遺書ともとれる手紙に、“ローレンスに弄ばれて捨てられた”と書かれていたからだ。しかし、彼に無理やり指輪を嵌められた途端、彼への怒りや不信感が消え、愛おしさばかりが募るようになる。「素晴らしい効き目だな」苦々しく笑うローレンスに激しく抱かれ、純潔を奪われたブリジットは、彼と結婚することになるのだが……。

亡き姉の想い人×想いを封じた令嬢、“呪いの指輪”に縛られた恋。

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登場人物紹介

ブリジット

ブリジット

幼い頃は、貴族令嬢らしからぬ突飛な言動で周囲を困らせていた。姉の死がローレンスのせいではないかと疑うが…。

ローレンス

ローレンス

ブリジットの年上の幼なじみ。昔はブリジットの姉も含めた三人でよく遊んでいた。父から曰く付きの指輪を引き継ぐ。

お試し読み

「君を愛しているんだ、ブリジット」
 ピキリと、ひびが入る音を確かに聞いた。
 何の音なのかは分からない。ただ、今この瞬間、最後の砦はあえなく崩れた。ブリジットを守ってくれていた壁は、粉々に砕けたのだ。
「あぁ……」
 私も愛している。そして憎んでもいる。
 どちらも本当で、同じくらいに強い思いだ。だが見つめ合い手を取られているこの状況では、愛情が勝っていた。苦しいほどに胸が締めつけられ、息ができない。ぼろぼろと溢れる涙の意味さえブリジット本人にも区別し難かった。
 悲しみも喜びも絶望も希望もごっちゃになって、全ては同じところにある。
 囚われる。腕の檻に。鍵がかけられる幻聴が重々しく響いた。そして終わりを告げる鐘の音も。まるでブレンダの葬儀の日に聞いた教会の鐘の音だ。死者を弔う神聖な音が、自分たちの上にも降り注いでいた。
「絶対に逃がさない。君は僕の妻になるんだ。ずっと、ブリジットだけが欲しかった」
「……嬉しい」
 本当に言いたかった台詞は違う。だがブリジットの頭に一瞬浮かんだ言葉はもう、消えてなくなっていた。あるのは甘い砂糖菓子に似た睦言だけ。蕩けてしまった思考は、憎悪を手繰り寄せる労力を放棄していた。
「私も……ローレンス様を……愛、して……います……」
 絞り出すように紡いだ言葉は、その幸福な意味と自身の笑顔とは相反し、苦く耳に届いた。発したブリジットでさえ歪だと感じたのだから、彼が気づかないはずはない。ぎこちなく小首を傾げると、ローレンスは額にキスをしてくれた。
「……偽りの言葉であっても、嬉しいよ」
 自嘲を孕んだ寂しい笑み。
 囁きの意味を考える余裕は、もはやブリジットに残されていなかった。まるで本当に想い合う恋人同士のような甘い口づけの後、喰らわれそうなキスで呼吸を奪われたからだ。
 激しく乱暴な接吻。最初から舌を捻じ込まれ、口内を縦横無尽に蹂躙される。先刻の口づけがどれだけ生易しいものであったか、嫌と言うほど知らしめられた。
「……んっ、ふ、ぁっ」
 しなるほど背を抱かれ、少し苦しい。狭い馬車の中で動ける範囲などたかが知れている。ブリジットは壁側に追い詰められ、今度はベンチに座る自分にローレンスが覆い被さる体勢になっていた。
 両腕を左右の壁につかれて、閉じこめられる。逃げ場のない腕の檻の中で、他者の体温を鮮烈に感じた。更にはブリジットの脚ははしたなく開かれて、その間に彼が身体を滑りこませている状態だ。ドレスの裾が踝まで隠してくれているとは言え、淑女が許される格好ではなかった。
「あっ……」
 頭が煮える。心が書き換えられてゆく。何が本当に自分の感情なのかも分からず、圧倒的な幸福感に酔いしれる。
 ただ一つだけはっきりしているのは、ローレンスに触れられて不快ではないこと。むしろもっと触ってほしい、密着したいと願っていた。身体の内側、腹の底が甘く疼いて先ほどからずっとブリジットを苛んでいる。
 どうしようもない渇望を、この火照りを鎮めてほしい。方法など知らない。けれど彼ならば解消することができるのだと、察していた。他の誰でもない、愛おしくて憎くて堪らないローレンスだけが、きっと自分を救ってくれる。
「愛している、ブリジット」
「んっ……」
 囁き一つで感度が上がった。彼と共にいる時間が長引くほど、ブリジットを戒める鎖が重くなってゆく。言葉で、視線で、匂いと熱で、搦め取られる。
 左手薬指がジンジン痺れる。紫色の石は蠱惑的に輝いていた。
「私……おかしいんです。どんどん変になっている。ローレンス様、私に何かしましたか……?」
「した、と言ったらどうする? たとえばこの指輪で君を操っているのかもしれない。ブリジットがどんなに嫌がっても手に入れるために、君の心を改変しようとしているのかもしれないね」
「……ひどい人……」
 適当な?で言いくるめようとする彼が憎たらしい。自分も一度はそんな馬鹿げたことを夢想したが、現実的に考えてあり得ない原因を持ち出してけむに巻こうとしている。けれど騙されるものかと思う端から、ブリジットの思考は崩れていった。
「どんなに嫌でも、君が僕と結婚しなくてはいけないような理由を作る。純潔を奪われてしまえば、後で正気に返っても手遅れだろう?」
 それなら何故、ブレンダを捨てたのか。
 霞がかった頭では、浮かんだ疑問は泡沫も同じ。ブリジットはローレンスのキスに応えるのに精一杯で、身体から力が抜けてゆく。
 みるみる上がる二人分の体温が馬車の中にこもり、余計に思考は麻痺していった。
 汗ばんだ肌に服が張りつき気持ちが悪い。姉を偲ぶための暗い色味のドレスが少しずつ乱されてゆく。胸元のボタンが外され、コルセットが緩められ、ブリジットの柔らかな双丘が溢れ出た。

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