或る毒師の求婚
- 著者:
- 荷鴣
- イラスト:
- 鈴ノ助
- 発売日:
- 2018年11月02日
- 定価:
- 726円(10%税込)
これであなたは、ぼくのもの。
隣国へ嫁ぐ直前、原因不明の病に倒れ、昏睡状態に陥った王女アレシア。そこに現れたのは医師で伯爵のジャン・ルカだった。彼によりアレシアの病は少しずつ改善していくが、門外不出という彼の治療はなぜかひどく淫らなものだった。ふたりきりの部屋で組み敷かれ、“毒素を抜く”ための淫靡な行為は繰り返される。無垢なアレシアは彼を信じて治療を受け入れ、やがて恋をするようになるのだが、ジャン・ルカにはある目的があって……。
謎の病に苦しむ王女×得体の知れない妖艶な医師、淫らな治療は執愛の罠!?
アレシア
政略結婚で隣国に嫁ぐ予定だったが、直前に原因不明の病に倒れる。ジャン・ルカの治療により快方に向かうが……。
ジャン・ルカ
アレシアの病を治せる唯一の医師。父の代で没落した伯爵家を立て直したばかりか、巨万の富を築いている。
突如、刺激を感じてアレシアは息をのむ。はっと見開いた緑の瞳に漆黒が映った。
シャンデリア。黒い、いつもの天井だ。城塔の──。
思わず甘い声が口からこぼれて、そんな自分に驚いた。手の甲を押し当てても、艶めかしい声は漏れてしまう。アレシアは、夢うつつの状態で、いや、いや、と首を振る。
胸を触られているのだと思った。ぐっと頭を起こせば、銀の瞳と目があった。
その目がすうと細まって、形の良い唇が胸先に落とされる。ちゅう、と頂が変形するほど激しく吸われ、アレシアは顔をしかめた。
「あっ」
「アレシア、治療をはじめていますよ」
これまで何度も治療が行われているが、ルカが胸に触れてくるのは初めてだった。
その視線はじっとこちらを向いたまま。息づかいを肌で感じる。
鼓動が暴れておさまりがつかず、空気を求めて喘いでいると、彼は胸を解放した。ぷるっと薄薔薇色の先が震える。
「……胸は、関係ないわ。こんなの……治療じゃない」
胸への感覚がやけに生々しく感じられ、ひどく恥ずかしくなっていた。話す間も彼が舌で突起をもてあそぶから余計に。心なしかいつもと形が違うような気もする。
「治療ですよ。あなたが気持ちよくなれる場所ですから毒素がよく出ます」
続いて「そうでしょう?」と、ぴんと頂を弾かれ、刺激が走った。
「あっ! ……でもルカ」
甘?みされて、快感に腰が浮けば、その下にルカの腕が回された。ぎゅうと身体が密着する。彼の服はひんやりしていた。全身でそれを感じ、自分は裸なのだと気づく。
「どうして、また裸……」
「綺麗ですよ」
言葉の途中で彼の手が秘部をまさぐり、くちゅとあわいを撫でさする。膣に指を入れられて、軽くこすったあと抜くと、それを目の前にかざされた。二本の指はろうそくの明かりでぬらぬら光り、彼がぱっくり指を開けば、きらきらした糸でつながった。
以前は彼の小指だけでも痛かったのに、いまは、二本の指が抵抗なく入ってしまっていても気づかなかった。それよりも彼の指にまとわりつく液に視線は釘づけだった。
「やだ……。恥ずかしいから見せないで」
とろりと垂れるしずくに艶めかしく舌を這わせた彼は、蕩けるように笑った。
「あなたが胸で気持ちよくなった証です」
「そんなこと、言わないで。……でも、あの……待って」
「どうかしましたか?」
「ルカ。あなたはわたしの毒を吸い出してくれているでしょう? でも、舐める必要はないと思うわ。だって、毒があなたの身体にさらに入ってしまうから」
言い切る前にルカにくちづけされて、アレシアが咎めるように唇を引き結ぶと、彼はまた角度を変えてキスをした。ただでさえ火照っていたのに、さらに身体がぐつぐつ沸いた。
「ルカ、ちゃんと聞いて。あなたが心配なの。わたしの毒で身体を悪くしたら大変だわ」
ルカは肩を震わせた。笑っているのだ。そんな彼にアレシアの頬は膨らんだ。
「笑いごとではないわ。あなたが病になって倒れてしまってはどうするの? いやよ」
「かわいい人だ」
「話を逸らさないで。……いい? ずっと気になっていたの。あなたが倒れるくらいならわたしが倒れるわ。あなたが悪くなるくらいなら、わたしの治療などしなくていいの」
「ぼくは大丈夫ですよ。あなたの毒はぼくには効かない。それに、ぼくにとってあなたはごちそうですから」
「ごちそう?」と、アレシアは目をまるくする。
「おかしな言い方でしたね。ここだけの話ですが、あなたの体液はとても甘いのです。ぼくはシロップに目がありませんが、同じようなものなので、つい舐めてしまうのですよ」
どう答えていいのかわからずアレシアは唇をまごつかせた。まったくもって信じがたい。
「……本当に甘いの? 汚いはずよ」
「汚いはずがありません。なので、ぼくからあなたを取り上げないでくださいね」
アレシアがぎこちなく頷けば、彼がまた短く笑った。
笑ったわねと拗ねて言おうとしたけれど、一転して彼が真摯に見つめてきたからやめた。
「あなたといると、ぼくのすべての行動は無駄ではなかったと確信できます」
意味がわからなくて首をひねると、アレシアに重なったルカは、ぐったりと力を抜いた。
「……どうです、重いですか?」
なぜこうするのかわからない。胸もおなかも彼に潰されていて重いのは確かだ。けれど、むしろその重みが心地いい。
「そうね。でも不思議。重くても重く感じないの。それに、なんだか気持ちがいいわ」
「それはよかった。しばらくこうしていても?」
「いいわ」とアレシアが両手を彼の頭にのせれば、軽いくちづけのあと、頬ずりされた。まるで大きな猫のようだと思った。