放蕩貴族の結婚
- 著者:
- 秋野真珠
- イラスト:
- アオイ冬子
- 発売日:
- 2018年11月02日
- 定価:
- 726円(10%税込)
僕の評判、その身で確かめてもらおうか。
とある事情から、仮面をつけて人目を避けるように暮らしていたジョアンナ。だが父が亡くなり、遺言に従い結婚することに。相手は、遊び人として有名な公爵家の嫡男ディレストだった。困惑するジョアンナだが、家のために受け入れる。一方ディレストは、結婚式でも仮面を取らず、そっけないジョアンナに苛立ちを覚えていた。式の後、すぐに領地へ戻ろうとする彼女に、初夜を要求する彼。巧みな愛撫でジョアンナを翻弄し、彼女の感情を引きだそうとするが……。
女好きの貴公子×仮面の令嬢、結婚から始まる恋の攻防戦!?
ジョアンナ
ある理由により、仮面をつけて引きこもっている。常に女性を侍らせているディレストには良い印象を持っていない。
ディレスト
自分の容姿に絶対的な自信を持ち、数々の女性と浮名を流す。ジョアンナを振り向かせようと躍起になるが……。
「ま──待って! ま、待って!!」
必死でジョアンナが声を上げたのは、ディレストがのしかかっていた身体をずらし、ジョアンナの身体を隠すものをすべて取り払ってから、右足を持って開こうとしていたからだ。そしてディレストの顔が、ジョアンナさえ見たことのない場所に降りようとしていたからでもある。
強い制止の声に、ディレストはようやくジョアンナの声を聞いたとばかりに動きを止めて顔を上げた。
そんな格好で止められていることのほうが恥ずかしいと思うが、これ以上先に進むことのほうが怖くてジョアンナは黙ってなどいられなかった。
「──なんだ?」
「あの──あの、あの……っこれは、これ……っこれは」
止めてもらえたものの、真正面から問われると、ジョアンナ自身も何が言いたいのか、どう言えばいいのかがわからず、言葉がうまく紡げない。
しかしディレストはジョアンナの混乱を理解してくれたのか、ひとつ頷いた。
「ああ──子供を作るんだろう?」
「──これが!?」
「契約条件のひとつのはずだが」
「──そうですけど!」
「子供は要らないと?」
「要ります!」
勢いで答えてから、ジョアンナは恥ずかしいことを言ったような気がする、と顔を赤く染める。
もしかしたら、全身が赤くなっているかもしれない。
それくらい、身体が火照って仕方がないのだ。
「──で、でも、こんな……こんな、こと、を」
「こんなことで、子供を作るんだ……まぁ突っ込めば終わることではあるが、僕の評判に傷を付けるつもりはないからな。安心しろ。気持ちよくさせる自信はあるし、満足するまで付き合ってやる」
「満足って……!」
目尻に浮かんだ涙が落ちるほど瞬いたジョアンナを見て、ディレストは笑っていた。
からかわれているのではと、一瞬羞恥よりも怒りが勝るが、ディレストは放蕩者と噂されるほど、女性と浮名を流している人だったことを今更のように思い出す。
他の人と、こんなことを──
ジョアンナはふと嫉妬心に似た気持ちが湧き上がったことに、自分でびっくりした。
──いったいどうしてそんな……
改めて、ディレストを見上げた。
蜂蜜色の髪は、湯浴みをした後乾かしたのか、いつもよりふわふわとしていて、指通りが柔らかそうに見える。
榛色の瞳は切れ長の形によく似合っていて、美しいという言葉は彼のためにあるものなのでは、とジョアンナは感心してしまう。
さらに、上気しているのか、少し頬が赤いし、ジョアンナに触れる手や身体は熱いくらいだ。
いつの間にかディレストの服装も乱れていた。
下衣は穿いているものの、上半身のシャツの前ははだけ、その部分もジョアンナに直接触れていたのかと思うとひどく狼狽えてしまう。
ディレストの視線は、まっすぐジョアンナに向けられていた。
仮面をしているから視線はあまり合うことがないはずなのに、ディレストは確かにジョアンナの目を捉えている。
恥ずかしさなのか不安なのか、とにかくジョアンナは狼狽えて、咄嗟に顔を背けてしまう。
「──そ、その、そんな……これ、こんなこと、は、子作りに」
「必要だ。僕は何も知らない君よりは知っているから安心しろ」
「…………」
あっさりと返されたが、その内容に何故か喜ぶことができない。
どうしてこんな気持ちになるんだろう、とジョアンナが自分の感情に不満を持っていると、ディレストの手が急にジョアンナの顎を取って自分へ向けた。
真正面から、ディレストと視線が絡む。
「君のためにこれまで研鑽を積んで来たと言えば満足か、ジョアンナ」
「────」
この人は、ジョアンナの心を止めてしまいたいのかもしれない。
吸い込んだ息を吐き出す先が見つけられなかった。
そんなことを言われて、ジョアンナが喜ぶと思っているのだろうか。
ディレストは息を止めたジョアンナに、呼吸の仕方を思い出させるように止めていた行為を再開する。
ジョアンナの脚に手を絡め、そのまま開いた中心に顔を埋めてしまったのだ。
「あ、あ……っ!?」
いったいどうして、と考える暇もなく、ディレストの手に、熱い吐息と舌に、ジョアンナは内側から翻弄される。
「そんな──そん、な、ことを……っん!」
「──ここを、使うんだ。もっと柔らかくしないと……君を傷つけるわけには、いかないからな」
「んん……っき、きず? あ、あっ」
ディレストの言葉は聞こえているのに、その合間に濡れた音を感じ、いったいそこで何が行われているのか知りたくなくて耳を塞いでしまいたかった。