復讐者は花嫁に跪く
- 著者:
- 荷鴣
- イラスト:
- さんば
- 発売日:
- 2018年06月02日
- 定価:
- 726円(10%税込)
きみはばかだ。なぜぼくを憎まない。
侯爵令嬢でありながら身分を隠し、葡萄畑の復興に尽力するカティアは、隣国の伯爵ジルベールと出会う。すぐさま惹かれあうふたり。けれど彼は、カティアがベルキア家の娘と知った途端、姿を消してしまう。以来、ジルベールへの想いを引きずるカティアだが、王太子に見初められ、家のために婚約することに。そんななか、彼女の前に再びジルベールが現れる。ベルキア家を憎む彼は、策を弄してカティアを自分の妻にし、欲望のまま抱きつぶすのだが……。
復讐に生きる伯爵×仇の娘、憎しみを癒やす一途な愛!
カティア
大貴族ベルキア家の娘。だが父も兄も不慮の事故で亡くなってしまう。初恋のジルベールをずっと忘れられずにいる。
ジルベール
隣国の伯爵。カティアと将来の約束をするが、家名を聞いた途端、二度と会わないと言い残して姿を消す。
「こんなこと……おやめください」
「この状態でやめると思う?」
──おめでたい思考だね。
冷淡にささやく彼は、カティアの顔の横に手をついた。つんと張り詰めたカティアの胸が、呼吸に合わせて上下する。桜色の蕾は緊張を強いられて震える。彼は、じっとその淡い色を見ていたけれど、いきなり顔を落として、カティアのそれに吸いついた。
「……っ、う」
胸の先が、唇で挟みこまれてざりざりと舌でこねられる。それは王太子に胸を弄ばれた時とは違い、言い知れない刺激をもたらした。いけない行為であるはずなのに、その官能は心地よく、気持ちいいと思ってしまう。もっと強くしてほしいと身体が望む。
「ん……。あっ」
自身の甘やかな嬌声に驚いたカティアが目を見開くと、彼が突起からわずかに唇を離して言った。
「その声、出し慣れているようだね。何人の男がこれを味わったのだろう」
あまりにもひどい言葉だ。彼はカティアを宮廷にいる放埒な婦人として扱っている。
カティアは悲しくなった。後にも先にも嫁ぎたいと願ったのは、彼だけなのに。
「……、違います。わたしは!」
カティアの思わぬ大きな声に、ぬっと顎を上げたジルベールは、目を細めた。
「声。ぼくはいいけれど、気をつけたほうがいいんじゃないかな。この行為を見られたらどうなると思う? 未来の王妃さま」
からかい混じりの声色だ。カティアは彼に憎まれていることを思い出す。
「どうして」
「さあ、どうしてだろう。……ああ、一応言っておくけれど、いまからきみを抱くよ」
いざ口にされてしまうと、その衝撃に、カティアののどが引きつれた。
カティアは王太子の婚約者だ。たとえ憎んでいたとしても結婚が決まっている者を抱くだなんてどうかしている。この不埒な行為を知られようものなら──。
「……断頭台」
「そうだね。でも、ぼくだけではなくきみも罪に問われる」
彼の影を孕んだ美貌からは感情をはかれない。カティアはひくりとのどを鳴らした。
「いっそ、共に死のうか」
カティアはわななきながら声を絞り出す。
「だめ……いけません」
「さあ、ベルキアの娘。人を呼ぶも、黙ってしのぶもきみの自由だ。いま、選ぶがいい」
呼べるはずがなかった。自分のことよりも、彼が断頭台に立つ姿を想像してしまうともうだめだ。考えた途端、頭のなかが白くなり、胸が張り裂けそうになる。
カティアは唇を?みしめる。彼を断頭台送りになどしたくない。
「へえ、黙るんだね」
「お願いです。こんなこと、やめてください」
けれど、懇願しても剣呑なまなざしの彼は考えを改めるそぶりを見せない。
「ぼくは何があろうともやめる気はない」
話しながらも、彼の指はカティアの胸の先を摘み、円を描くように揉みしだく。いつのまにかカティアの胸はしこり、赤く熟れていた。それをわざと彼は見せつけるのだ。
頬を染めたカティアが視線を横にずらせば、まなじりから涙がつうと伝っていった。
「いや……やめて」
こんな弱々しい声ではだめだと思った。はっきりと拒絶を示して、彼を押し退けなければならない。それなのに、冷たい手による刺激に身体は震え、快楽でしびれる。
「ん。……どうして、こんな」
「裸の女が目の前にいて、抱かない男がいると思う?」
彼は再びふくらみに顔を埋め、頂をぴちゃぴちゃと弾くように舐った。身体の奥が反応し、知らずカティアの腰がはねる。
「……んっ」
「女の身体は男が触れるほど感じやすくなっていく。……きみ、ずいぶん感じやすいね」
「わたしは……、あ」
彼がカティアの胸の先を吸い、甘?みするのでうまく話せない。そればかりか腰の奥がもどかしくなり、脚をもぞもぞ擦り合わせれば、考えられない場所がとろりと濡れているのに気がついた。先ほど彼に指を入れられたあたりだ。
唇を?みしめたカティアは首を振る。
「だめです。わたしは……フロル王太子殿下と」
「そうだね、きみはフロル王太子殿下の婚約者だ」
カティアの胸に舌を這わせ、鎖骨を通って顎まで上ってきた彼は、唇同士が触れ合うほどに顔を寄せた。
「でも、それが何か?」
もう何を言ってもだめだと思った。けれども阻止しなければならない。絶対に。
頭に浮かぶのは黒い頭巾を被った男が待ち構える断頭台だ。
カティアは持てる力をこめて身体をひねった。しかし、張りつく彼の服とのしかかる重みで身動きできない。首を動かすのがやっとだった。まるで、蜘蛛の巣に捉えられている獲物のようだ。
必死にもがくカティアは、彼の長いまつげが伏せられていくさまを見た。そして、ねっとりと唇を貪られた。
濃密なくちづけとともにはじまったのは狂気の沙汰だった。
彼はカティアの口を舌で蹂躙し続け、そのさなかに彼女の脚の間に手をしのばせた。カティアがびくりとこわばるなか、秘めた箇所にしきりに執着する。嵐が音をもみけしていたけれど、合間に淫靡な音を聞く。くちゅ、くちゅ、と彼はあわいに沿って指をすべらせてこすりあげ、カティアを翻弄し続けた。