契約夫は待てができない
- 著者:
- 秋野真珠
- イラスト:
- 大橋キッカ
- 発売日:
- 2017年12月28日
- 定価:
- 682円(10%税込)
もう、我慢しなくていい?
4人姉妹の長女で唯一独身の詩子。家族からの心配が辛くて、バーでひとり飲みに逃げた翌朝、目を覚ますと隣に見知らぬイケメンの姿が! 男は逞しい身体(全裸!)で詩子を抱きしめ「貴女の夫ですよ」と、にこにこ微笑む。どうやら酔っ払っている間、詩子は彼――寺嶋政喜と契約結婚してしまったらしい。契約結婚に身体の関係は必要ないのでは!? と訝しむ詩子だが、これも契約のうちだと押し切られ、毎夜激しく、執拗に求められ……。
謎めいたワンコ系エリート×真面目なお局様OL、契約結婚は愛の罠!?
町田詩子(まちだ・うたこ)
いつの間にか政喜と契約結婚することになったが、約束はきちんと守ろうとする真面目な性格。
寺嶋政喜(てらしま・まさき)
本社営業部のエリート…らしい。詩子になつく姿は主人を慕う犬のよう。なにやら秘密がある様子。
「詩子さん、やめないでって、言わせてあげましょうか」
──くちびるのうえで、いわないで。
詩子の声も呼吸も、次の瞬間には政喜の口の中に消えていた。
「──んっ」
それは優しい口づけだった。
詩子の唇を甘く食みながら、舌で擽るように、口腔を探る。
あまりに優しすぎて戸惑う詩子の身体を、政喜の腕はしっかりと抱きしめている。その強い抱擁は、どこにも逃がさないという意志が込められているように感じた。
詩子はその力強さに、安堵していた。
とても逃げられない。だから逃げなくていいんだと、力強い腕とは対照的なキスに翻弄されながら、安心してしまったのだ。
「ん、ん、ん……っ」
政喜は腕の力を少しだけ緩め、詩子をゆっくりベッドへと押し倒した。大きな手が詩子の胸を包み、パジャマのボタンをひとつずつ外して、その肌を晒していく。
ゆっくりとした手つきなのに、どこか羞恥心を煽る淫靡な動きに堪らなくなって、詩子は優しい口づけから逃れるように顔を背けた。
「ん、や……」
「詩子さんの胸、むちゃくちゃ気持ちいい……」
「あ、んっ」
政喜の手のひらにちょうど包まれる詩子の胸は、小さくはない。けれど、大きすぎるわけでもない。
自分の手にぴったりな胸のサイズとその柔らかさを堪能するように揉み続ける彼の手が恥ずかしくて、詩子は何も答えることができない。
「詩子さん、キス、好きですよね」
「ん……っ」
政喜は唇を触れ合わせたまま、そこで囁くように笑う。
返事を欲してはいないようで、そのままもう一度キスをされた。しかし唇はそれで大人しくなるわけでもなく、頬や首筋に移動し、手で弄っている胸元まで下がっていく。
「……ここも、いっぱいキスしたい」
「あ、や、だめ……っ」
詩子の抵抗など、何の意味もないのだろう。
そもそも、本気で抵抗する力などすでにない。
キスが好き、と言った政喜の言葉は正しい。正確には、詩子は政喜のキスに弱いようなのだ。
このキスは、覚えている。最初にこれに参ってしまったのだ。酔いを抜きにしても、最初のキスで身体が彼を許してしまっていたのは詩子も覚えている。
キスが、こんなに、気持ちいいって……
詩子は、ただそれだけで、刃向かう気持ちをすべて奪われていた。
流されてはだめだ、という理性など一瞬で忘れ、詩子は政喜を受け入れる。
しかしそれでも、羞恥心がすべてなくなったわけではない。
「あ、あ……っ」
詩子の肌を何度も啄み、柔らかな胸を食み、すでに尖っていた先端を口に含んだ政喜は、いちいち反応する詩子が楽しいのか、甘い声で詩子の反応をすべて教えようとしてくる。
「詩子さん、ここ、すごく甘い……咬み付かないようにするの、大変だ」
「ん……っあ、や」
「ああ、めちゃくちゃにしたい……全部、全部食べたい。食い尽くしたい」
「やぁ……っ」
恐ろしいことを囁きながらも、政喜の手は優しい。唇も舌も、器用に詩子の身体を味見しながら、愛撫を繰り返すだけだ。
こんな──こんなの、だったっけ……?
詩子は遠い記憶を探る。
抱きあう行為は、こんなにも甘かっただろうか。
これまで、詩子にとってのセックスは、あまりよいものではなかった。
政喜以外ではひとりしか知らないが、あんな辛い思いをするならひとりで充分だと思っていた。
詩子の知るキスは、苦しいくらいのものだったし、愛撫も痣が残るような痛みを伴うものだった。身体を貫かれた時は、本当に痛くて何度も泣いた。
けれどその痛みにもいつしか慣れて、セックスはこんなものなのだろう、と思っていた。
そう思っていたのに、これはいったいなんなのだろう。
詩子のしてきたことがセックスなら、政喜のこの行為は、何と呼べばいいのだろう。
詩子から身を隠すものをすべて剥ぎ取った政喜の指が、するりと脚の間に潜り込む。
秘所が充分濡れてしまっていることは、詩子自身がよくわかっている。
それでも、それを知られるのは恥ずかしくて堪らない。
「ん──……っ」
ぬるり、と政喜の長い指が容赦なくそこを探り、襞を開くように円を描いた。
詩子の隠したいものすべてを探るように動きまわり、詩子を暴いてしまう。
「ん、あ、あぁっ」
秘所を弄る指の腹が、隠された花芽を探り当て、強く刺激する。
「……詩子さん」
甘く優しかった声に切なさが宿るのを感じる。
「ん、あ、あん……っ」
「詩子、さん……っやばい、苦しい」
「ん、ん……っ?」
政喜の声が本当に苦しそうで、詩子は翻弄される波に逆らい、政喜の顔を確認した。
綺麗な顔が、焦りを含み、歪んでいる。
けれどその目に欲望が溢れているのがわかって、詩子はほっとしていた。
詩子が欲しいのだと、確かに思われていることに、安心してしまったのだ。