ソーニャ文庫

歪んだ愛は美しい。

悪魔な夫と恋の魔法

悪魔な夫と恋の魔法

著者:
荷鴣
イラスト:
DUO BRAND.
発売日:
2017年08月03日
定価:
704円(10%税込)
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どうしよう、もっと好きになったよ。

リズベスは、侯爵家の嫡男ロデリックのことが怖くてたまらなかった。自慢の親友だと思っていたのに、“おぞましい仕打ち”をしてきたからだ。彼は悪魔だわ! そう思い、怪しげなおまじないで身を守ろうとする毎日。けれど、彼の策略にまんまとはまり、結婚することに! 恐怖に怯えるリズベスだったが、彼は素敵な笑顔を向けてくる。そして迎えた初夜、淫らなキスと巧みな愛撫で蕩かされていくリズベス。しかしその後、あの“おぞましい仕打ち”が待っていて──!?
完璧な貴公子×ひきこもり令嬢、一途で過保護な独占愛!

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登場人物紹介

リズベス

リズベス

あまりに純粋すぎて突飛な言動をくり返す箱入り令嬢。ロデリックのことを精霊と勘違いしたことから交流が始まる。

ロデリック

ロデリック

完全無欠の貴公子だが、リズベスの言動だけは予測不能で振り回されてばかり。彼女を心から愛し、溺愛するが……。

お試し読み

「リズ、そろそろぼくたちは行こうか。きみを独り占めしたいから」
 リズベスは、何かをささやかれた瞬間、抱き上げられていた。彼は、大股で移動する。
 侯爵邸内は、いたるところが精緻な白い寄せ木細工と木製パネルで装飾されていて、金に糸目をつけない高貴なシャンデリアが、きらびやかに、幻想的に室内を照らしていた。広い階段には大きなステンドグラスが配されていて、色鮮やかな西日をゆったり降らせ、さながらひとつの芸術作品のようだった。その階段を上がるロデリックは、いつかのように光を背負っていて、リズベスは懐かしさとせつなさがないまぜになり、気づけば彼に見惚れていた。しかし、我に返ればかたかた震え、それからまたうっとりしたり、そうかと思えば、怯えたりと忙しく、必要以上に気を張った。そんなリズベスの額に、彼はたまにキスを仕掛けてくるから大変だ。
 彼はリズベスを抱き上げたまま、階段を上りきり、右に進んで西翼へ向かった。やがて大きくとびらを開け放てば、広く、風通しの良い寝室にたどり着く。そこはクリーム色とレモン色を基調としたうつくしい内装の、かわいらしい部屋だった。新しくしつらえたと思わせる匂いがふわりと漂っている。
「ここはリズの寝室。それでね、あのとびら」
 ロデリックは顎で部屋の奥にあるとびらを示した。
「あれはぼくの寝室に続いているんだ。ぼくたちは夫婦だから、行き来は自由だよ」
 リズベスは身を硬くして、緑の目をけわしくした。とびらには、どこにも差し錠がついていない。鍵がないなんて……と、蒼白になっていると、彼はリズベスをベッドに降ろして、となりに座った。
「リズ、ぼくたちは結婚したんだよ。ぼくが夫できみが妻」
 リズベスがぎこちなくうなずくと、彼もまた「よかった」とつぶやきながらうなずいた。
「きみは夫婦って、どういうものか知っているかな?」
 知らないので首を振ると、彼の銀の目がぎらりとした光を帯びた気がした。
「ぼくがよく知っているから、すべて教えてあげるね。だから、ぼくに任せてくれる?」
 彼はリズベスの手を、指を絡めて握りこむ。彼特有のほほえみを前にしては、リズベスは黙って聞く道しか残されていない。
「ねえリズ、この部屋にいまから小間使いが来るから、支度をしようか。ぼくは移動するけど、終わったころにまた来るよ」
 それは、すぐにはじまった。リズベスは、ノックとともに入室した黒き小間使いたちに磨かれて、ドレスを奪われ、化粧着をまとわされてうなだれた。奪われたドレスにサシェをうっかり入れっぱなしにしていたのだ。大切な守護のおまじないを失った。守りは消えて丸腰だ。これでは、闇にはかなわない。
 ひざを抱えてわなないていると、奥の寝室のとびらから、ガウンを着たロデリックが悪びれる様子もなく現れた。彼も湯を使ったのだろう、黒い髪が濡れていて、それが色気となってにじみ出ている。
 リズベスの震えはより一層激しくなった。泣きたくなるのは怖さからか、それともせつなさからなのか。しかし、黒き彼は待ってはくれない。謎の笑みを浮かべて歩み寄ってくる。すくみあがったリズベスののどが、きゅうと縮まっているあいだに、さらに彼は距離をつめてきて、おもむろにひざまずき、リズベスの目と鼻の先でささやいた。
「リズ、初夜だよ。ぼくたちのはじまり」
 伏せられた黒いまつげが自分のまつげと触れ合いそうだ。熱い吐息が吹きかかる。
「やっと一緒にいられるね。これから、ずっと」
 くすぐる声はやさしい。でも、怖い。
「ぼくはこの先、うんと努力して、一生、きみを幸せにしていくよ」
 彼の手が近づいて、金茶色の頭にのせられる。さも、子どもに言い聞かせるみたいに。
「でも、夜は……努力のご褒美がほしいんだ。夜ごとぼくに身をゆだねて。……いい?」
 リズベスが答えられずにまごついていると、脇に手を入れられて、その場にすっくと立たされた。熱をもつ銀の瞳にとらわれる。
「三年、長かった。成長したきみを見せて? 全部見たい」
 逃げなければ。早く、早く。
 でも、どうしていいのかわからない。心臓は、いまにも身体から飛び出しそうだ。
 顎に手がかかり、引き上げられたと同時に、屈んだ彼が近づいてきて、唇同士が重なった。少し長めのキスだった。けれどいつもと──過去と、どこかが違うくちづけだ。薄く口を開けた彼にぺろりと舐められ、もぐもぐされて、咄嗟に首をすくめれば、彼の唇が追ってきた。強引さを感じさせないやさしさで、舌で口を割られて、ゆっくり彼が侵入する。リズベスの緑の瞳がこぼれんばかりに開かれた。
 そこにあるはずのない、あってはならない彼の舌が、リズベスの口内を這いまわった。歯の位置をひとつずつ確かめるようになぞり、上顎や、下顎を舐めまわし、ついには舌に絡められ、じゅっと吸われてさらわれる。いま初めて、舌がこんなにも肉厚なのだと気がついた。彼が近い。近すぎる。水音を立て、彼がリズベスの唾液も息も食べている。
 むさぼられ、キスが深まりをみせるなか、リズベスは身体に風を感じてこわばった。彼が薄い化粧着に手をかけ、リボンをゆっくり解いていたのだ。わずかな衣ずれとともに、軽やかに、床に何かが落ちる音。声を出そうにも、くちゅくちゅと音を立ててキスをしているいまは不可能だ。それに、深いくちづけは、リズベスの奥底に火を灯す。疼きが広がり、抵抗するどころか、すべてを彼に任せてしまう。これが、魔というものなのだろう。守護の力を失ったいま、リズベスは悪魔への供物と化している。
 やがて、かつてのように胸に彼の手が置かれて、リズベスの毛が逆立った。どんなに怖いと思っても、どきどきしても、彼による官能が身体に染みついている。無意識に刺激を期待している。
「リズ、覚えている? きみは前に胸を気にして言ったんだ。自分は男じゃないかって。でも、ぼくはうんと大きくなるって言ったよ」
 彼は胸の曲線をすうとなぞって、頂につく突起をふにふにいじくった。リズベスの好きな場所だ。
「ここ、触れられるのが好きだったよね。きみは、もっと触ってって言ってた。どう? 大きくなったいまでも好きかな? 感じる?」
 爪を立て、先端をこりこり引っ?かれて、すぐにそれは淫らにしこっていく。
「あ」
「かわいい声。もっと聞きたい。久しぶりに気持ちよくなろうか」
 彼に抱き上げられたとき、リズベスはすでに一糸まとわぬ姿になっていて、思わず顔が赤くなる。そのままベッドに寝かされ、シーツの冷たさが肌を焼く。
 ガウンを手早く脱いだ彼が覆い被さった。裸だ。
 悲鳴をあげそうになったが、すかさず彼がくちづけで蓋をした。
「やわらかい。リズ、ぼくはきみをずっと夢見ていたんだ。夢見ていたから耐えられた」

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