変人作曲家の強引な求婚
- 著者:
- 八巻にのは
- イラスト:
- 氷堂れん
- 発売日:
- 2017年05月02日
- 定価:
- 704円(10%税込)
お前の声はゾクゾクするな。
天才作曲家ジーノの屋敷でメイドとして働くことになったセレナ。精悍な顔つきに逞しい体躯の彼は、作曲家というより舞台役者のよう。けれどその中身は声フェチの変人だった!? 病で目が見えない彼は、セレナの声を聞くなりひどく興奮! 強引に婚約者にしてしまう。巧みな愛撫に蕩かされ、情熱を注がれる日々。彼のひたむきな愛情に包まれて、自身の恋心に気づくセレナだが……。「彼が好きなのはこの声だけ」その思い込みが波乱を巻き起こし――!?
盲目の天才作曲家×地味なメイド、まっすぐ過ぎて危険な愛情!?
セレナ
声が汚いと言われ、家族に虐げられて育つ。変人のジーノに振り回されながらも、彼の優しさに癒やされて……。
ジーノ
盲目の天才作曲家。セレナの声を気に入って以来彼女に執着。目の病は治療で良くなるようだが……。
「また熱が上がったな。顔も赤くなっているだろう」
「ほ、本当に見えていないのですか?」
「見えずとも、セレナが今どんな格好をしているかはわかるし、脱がせ方もわかる」
言いながら、ジーノはセレナの肩に顔を近づけ、その首筋に舌を這わせた。
舌先で優しく舐め上げられると、甘い刺激が広がるのと共にセレナの心は揺さぶられ、熱を帯びた声が口からこぼれ出す。
「あぅ……ンッ」
「これがお前の望みだよセレナ。俺の手に触れられ、淫らな声を上げたがっているのが本当のお前だ」
「ち、違います……」
「嘘を言うな。俺はお前より、お前のことを知っている」
お前の身体の形は昨日じっくり覚えたからと、得意げな声と共に始まった愛撫に、セレナは身を捩る。
「ンッ、そこ……だめ……です」
そのままゆっくりと鎖骨を舐め上げられると、セレナの声は艶を帯びていく。
ピチャピチャと音を立てながら長いこと首筋と鎖骨を舐めたジーノは、セレナの声が掠れ始めたタイミングで、ゆっくりと顔を上げた。
「触れてほしくてたまらないという声だ」
「そんな、はしたないこと……」
「気づいていないだけで、お前は俺との行為を望んでいる。それも昨日より、もっと激しくされたいと思っているはずだ」
否定する声は、ジーノの唇に吐息ごと奪われる。
戸惑う心と舌を絡め取られ、ベッドに縫い付けられたセレナの身体はジーノの与える刺激に従順だった。
セレナ自身が驚くほど抵抗は弱く、彼との淫らな行為を期待するように震える身体に、彼女は戸惑いを隠せない。
「お前の気持ちも、望む快楽も、俺が教えてやる」
キスに溺れるセレナのドレスに手をかけ、ジーノはあっという間に彼女の衣服を全て取り去ってしまう。
恥ずかしさのあまり、震える手で慌てて毛布をたぐり寄せるが、ジーノはその腕を不満そうな顔で?んだ。
「何故隠そうとする? 俺に触れられるのは嫌なのか?」
「ち、違います……! ただ、恥ずかしくて……」
ジーノと触れ合うと、自分でさえも知らなかった一面を引きずり出されてしまうことを、セレナは昨日嫌というほど思い知った。
だからそれを再びさらしてしまうのが怖くて、逃れるように毛布を手に取ってしまったのだ。
「そんなもので隠そうとしなくても、見えないのだからいいじゃないか」
「見える以上に、ジーノ様にわかってしまうじゃないですか……」
「俺たちは婚約者だ、わかり合おうとするのは当然だろう?」
ジーノの言葉に、セレナは何と言葉を返せばいいかわからない。
確かに一理あるが、それを言うならセレナはジーノのことを何も知らない。
昨日だって乱れていたのは自分ばかりで、彼は服さえ脱いでいないのだ。
「もしかして、自分だけ乱されたのが不服か?」
セレナの心を読んだかのように、ジーノは彼女の側に腕をつきながら自分のシャツのボタンに手をかける。
「そ、そういうわけでは……」
「だが、物足りない気持ちもあるだろう?」
言いながら素早くシャツを脱ぎ捨てて、ジーノは潔くセレナの前に肌をさらす。
彼の身体は、朝に彼を起こすときに何度か見たけれど、燭台の明かりの下で見るとまた雰囲気が違う。
炎の光が揺れるたび、鍛えられた肉体の上に影が落ち、それが彼の身体をより美しく見せている。
力強さとしなやかさを有した動きで彼がセレナに近づいてくると、彼女の身体の熱が不思議と上がっていくようだった。
「俺の身体は、嫌いか?」
「そ、そうではないのですが、見ると緊張してしまって……」
「緊張ではなく、それはきっと期待だ」
そのまま折り重なるようにして強く抱きしめられると、肌が触れ合いジーノの熱が直接伝わってくる。
セレナをつぶさないよう、うまくバランスを取ろうとジーノが動くたび、セレナの胸の先端と彼の筋肉が擦れ、甘い疼きが先端から乳房へと広がっていく。
快楽を引きずり出す動きではないし、何よりも彼の動きはあまりに小さなものだ。
にもかかわらず、甘い吐息すらこぼしてしまう自分に、セレナは思わず赤面した。
「お前の身体は、温かくて柔らかいな」
「そ、そういうことは、あまり口にしないでください」
「照れた声もかわいいな。それに鼓動が速くなっていくのも、かわいくて実に素晴らしい」