聖女は鳥籠に囚われる
- 著者:
- 葛西青磁
- イラスト:
- 芦原モカ
- 発売日:
- 2017年04月05日
- 定価:
- 704円(10%税込)
ようやくお前をつかまえた。
その純白の容姿から、女神の祝福を受けた者“白雪の姫”として崇められているシルヴィア。彼女は、隣国の王で幼馴染みのオスカーに恋心を抱いていた。だが聖女に恋は許されない。その現実に苛まれ、彼女は彼と距離を置こうとする。そんな中、シルヴィアの暮らす大聖堂に火の手があがる。目を覚ました彼女は、なぜかオスカーに囚われていた。酷薄な笑みを浮かべる彼に、無理やり純潔を奪われたシルヴィアは、それから毎夜、繰り返し欲を注がれて――。
一途な王×純白の聖女、王は神から聖女を奪う
シルヴィア
生まれつき肌が白く陽射しに弱いため、1日の大半はヴェールをして目を瞑り、屋内で生活している。
オスカー
隣国の若き王。幼い頃シルヴィアと出会い、今もなお、彼女に好意を持ち続けている。
「……っ!?」
何が起きたのか、シルヴィアはわからなかった。ざらりとした生温かなものが歯列を割り入り、口内を蠢いている。それがオスカーの舌だと気づいたときには、逃げ遅れたシルヴィアの舌は捕らえられてしまっていた。
やわらかなシルヴィアの舌に、オスカーのそれがねっとりと絡められる。そのなんとも言えない生々しい感覚に怯えて逃げようとするも、見透かしたように舌裏へと忍び込んでつけ根から扱かれる。さらには尖らせた舌先でやわらかな粘膜や上顎をくすぐるようになぞられると、ぞくぞくするような痺れと共に、何故かじんとした疼きがお腹の奥から湧き起こり、シルヴィアはその未知の感覚におののいた。
「ん、やぁ……っ!」
こんな口づけを、シルヴィアは知らなかった。
震えながら、精一杯の力でオスカーの胸を押しても、彼はキスをやめてくれない。それどころか、行為はさらに深さを増して、シルヴィアを翻弄する。
息が上手くできない。心臓が狂ったように胸を叩いていて、このまま壊れてしまうのではないかと思った。
苦しくて、気が遠くなる。
シルヴィアの抵抗が弱まるにつれ、口づけから荒々しさが消えていく。そうしてすがるように彼の上着を?むだけになる頃には、シルヴィアは彼の行為を受け入れるばかりになっていた。
やがて銀の糸を引きながら、ゆっくりと彼の唇が離れていく。
「シルヴィア……」
かすれた声に名を呼ばれて、涙の滲んだ目をうっすらと開くと、シルヴィアの知らない男が彼女を見下ろしていた。
──否、そこにいるのは確かにオスカーだ。けれど、こんなオスカーを、これまでシルヴィアは見たことがなかったのだ。
熱を帯びた深青の眸が、まっすぐにシルヴィアをとらえている。その、どこかうっとりとしたような、酔いしれているようなオスカーの表情に、シルヴィアは言いしれぬ不安を感じた。
未だ整わない呼吸のせいで、上手く言葉が出ない。けれどたとえ乱れていなかったとしても、すくみ上がった体では満足な抵抗などできるはずもなく。
「オスカー……やめ、て……」
今にも消え入りそうな弱々しい声で精一杯訴えるも、オスカーの双眸に浮かぶ熱は消えない。それがシルヴィアを求める雄の目だと気づくには、彼女はあまりにも無知すぎた。
欲望を孕んだ眼差しと共に、再びオスカーが身を伏せてくる。
「いや……っん……ぅ、ん」
やわらかく唇を重ねられ、涙が頬に流れていく。
唇の隙間に彼の舌を感じてとっさに閉ざすと、重なる唇越しにオスカーがふっと笑うのがわかった。
熱い舌が、シルヴィアの唇の合わせ目を、そっとなぞっている。そこに先ほどまでの荒々しさはなく、開けて欲しいと優しくお願いしているような触れ方だった。
だからといってそのとおりにできるわけもなく、シルヴィアはますます閉じた唇に力を込める。
そうするうち、不意に下肢にオスカーの手を感じた。薄い夜着越しに彼の手が下肢から腰にかけてのなだらかな曲線をゆっくりとまさぐっている。その、体つきを確かめるような卑猥な動きに呼吸が乱され、たちまち息苦しさが増していく。
「んっ、ん……!」
いや、と喉の奥で叫びながら身を捩って逃れようとしても、脚の間にいつの間にかオスカーの膝を割り入れられていて、腰をわずかに捩らせることしかできない。
焦るシルヴィアの気持ちを煽るように、彼の手が腰から徐々に上がっていく。そして、ためらうことなく乳房へと重ねられた瞬間、反射的にシルヴィアは、あっと声を上げてしまった。
直後、待ちかねていたように口内に彼の舌が滑り込んでくる。
「や、ぁ……ふぁ……っ」
全身を巡る血が尋常でなく熱い。心臓が、狂ったように高鳴っていた。その、今にも壊れそうな心臓のすぐ上に、彼の大きな手が重なっている。
「や……いやぁっ……! んぅっ、ん……!」
舌を絡めながら、オスカーの手がシルヴィアの膨らみを薄布越しにやわらかく揉んでいる。下からすくい上げながらゆったりと動く彼の手は、シルヴィアの乳房のやわらかさを楽しんでいるようだった。
膨らみをすくい上げながら、指先が先端に触れる。
「ひぁっ」
刹那、触れられた部分から甘い痺れが走った。それは、シルヴィアが生まれて初めて知る感覚だった。
押し転がすようにそろりと撫で、徐々にそこが硬くしこり始めると、きゅっとつまみ上げる。与えられる刺激に身を固くすればするほど、彼は指先に捕らえた果実を執拗に弄った。
「ふ……っうん、あ……っあぁ……」
いくら身を捩っても、腕を突っ張っても覆い被さる体から逃れられない。
続けられる深い口づけと、胸の先端から走るじんじんとした感覚に体が熱く火照り、次第に頭がくらくらしてくる。
聞いたことのない甘ったるい声が耳をつく。それが、自分が上げている嬌声だと気づいた瞬間、シルヴィアは自分自身が怖くなった。
「ん、ふぁっ……あ、あぁっ、や……!」
彼に愛撫されるたび、抑えようとしても勝手に喉の奥からあふれてくる。
──いや、こんな……!
どうして止められないのかわからない。自分の体が自分のものでないような感じがして、そのことがシルヴィアはたまらなく恐ろしかった。
こんなことを続けられたら、きっとおかしくなってしまう。
キスをされながら、襟元が緩む気配を感じた。夜着の襟部分を絞っているリボンをほどかれたのだ、と気づくよりも先に、彼の手が肩にかかる。
さら、と布が肌を擦る感覚と共に、夜着の左肩部分が引き下ろされ、シルヴィアはとっさに手を伸ばした。
「……っ、や……いやぁ……っ」
布を握りしめながら必死に顔を背け、オスカーに背を向けるように身を捩る。
「お願い、やめて……!」
やめて、と繰り返しながら、シルヴィアは身を丸めた。まるでそうすれば、オスカーがこの行為をやめてくれるのではないかと信じるように。
だが彼の楽しげな声を聞き、それが誤りだと気づく。
「それで俺の手を拒んだつもりか?」
「……え……や、いやあっ!」
その意味を理解するより先に、背後から夜着の襟部分に手をかけられ、薄い夜着がまるで紙でも破るように容易く引き裂かれる。そのまま夜着どころか下着までもはぎ取られてしまい、ろくな抵抗もできないままに、シルヴィアは一糸纏わぬ姿にされてしまっていた。
「いやあっ、見ないで、見ないで……!」
シルヴィアはシーツに体を埋めるように身を縮こまらせながら、両手で体をきつく抱きしめる。
けれどそんなあらがいで、オスカーの目から体を隠すことなどできるはずがなかった。
覆うもののない無防備な体をオスカーに見られている。顔を背けていても、全身に彼の視線を感じた。
恥ずかしすぎて、このまま消えてしまいたかった。なのに、肩に手をかけられたかと思うと、オスカーに強い力で体を仰向けにされてしまう。
「や……っ」
とっさに身を捩ろうとするシルヴィアの脚の間に、オスカーが再び膝を割り入れる。
そうした上で彼は身を起こすと、もはや両手で胸を隠すことしかできないシルヴィアを視界に捉えたまま、おもむろに自らの着衣に手をかけた。
ばさりと音を立てて脱いだ上着が、寝台の隅にうち捨てられる。緩められたタイが無造作に引き抜かれ、白いシャツのボタンが、片手で次々と外されていく。その様を、シルヴィアは震えながら見つめることしかできない。
「男が脱ぐのが興味あるのか?」
シルヴィアの眼差しの意味がわかっているはずなのに、オスカーはからかうように言うと、肌から引きはがすように乱雑にシャツを脱ぎ捨てた。
上半身を覆っていたものをすべて捨て去ると、オスカーは再び緩やかに身を伏せながらシルヴィアへと手を伸ばす。
「お願い、も……やめて……」
「やめてって、まだ何も始まってないだろう」
くすりと小さく笑みを零すと、オスカーは涙ぐんでいるシルヴィアの胸元を覆う手をやんわりと?んだ。