魔性の彼は愛を知る
- 著者:
- 荷鴣
- イラスト:
- KRN
- 発売日:
- 2017年01月07日
- 定価:
- 704円(10%税込)
怖くないよ、やさしくするから。
幻想的な美貌を持つ男娼、ルキーノ。女たちは競うように彼との時間を買っていた。しかし愛を一切信じない彼は、女たちを嫌悪し、自ら昂ることはない。だがそんな彼が唯一、心を動かす存在があった。四年前、彼が気まぐれに救いの手を差しのべた、没落貴族の娘ジゼラだ。彼は彼女を囲い、束縛し、“清め”と称して、その無垢な身体を淫らに弄ぶ。無知なジゼラは彼の歪んだ欲望を知らず、ひたすら彼を慕う。けれど彼には、ある黒い思惑があって……。
ジゼラ
幼少期から軟禁状態で育ったため、年のわりに無知で幼いところがある。ヴィクトルをおにいさまと慕っているが……。
ルキーノ
ルキーノという名で男娼をしているが、ジゼラにはヴィクトルという本名しか告げていない。何か思惑がある様子……。
「おにいさま!」
毛布にくるまっていた彼は、ジゼラの声に身を起こし、両手でその身体を受け止めた。
「ん、元気だね」
彼は胸にぴたりとくっつくジゼラに鼻先を近づけた。
「太陽のにおいがする」
「あのね、おにいさま。とってもいいことを思いついたの」
ジゼラはみどりの瞳をきらめかせ、彼を見上げて口にした。
「わたし、働きたい。働こうと思うの」
とたんに彼の眉間にしわが寄ったが、興奮しきったジゼラは気づけずにいた。
「前に聞いたのだけど、マレーラはね、おばさまの家を手伝っているのに、果物屋さんでも働いているんですって。それでね、思ったの。わたしもマレーラみたいに働きたいわ。すこしのあいだだけでも外に出て、おにいさまの助けに」
「だめだ」
ぴしりと言われた言葉に、ジゼラは目を見開いた。
「ぼくが働いているからね、必要ない。きみは働かなくていい。お金がほしいなら、ぼくがあげる。ぼくがきみの時間をもらう。きみのすべての時を買ってあげる。ぼくの目が届かないところに行くのは反対だ。こればかりはぜったいに」
「おにいさま……」
「ひどい怪我を忘れたの?」
「でも……」
「きみは家にいて」
眉根を寄せたジゼラは顔をくもらせて、しぼり出すように言った。
「……おにいさま。でも、わたしもなにかしたい。ジゼラはなにも、していないから……役に立ちたい。わたしも、役に立って……すこしでもおにいさまの」
ぎゅうとジゼラを抱く腕が強まり、より彼の胸に押しつけられる。
「きみは毎日食事を作っているし、掃除もしてくれている。十分役に立っている。これ以上、なにもする必要はない」
「でも」
「でもじゃない。ジゼラ」
「……あっ」
性急な手つきでジゼラは服を脱がされた。なかば引きちぎられるようだった。
けれどジゼラに抵抗するつもりはなく、そのまま彼のまさぐる手を受けた。彼の手が好きだから。
ベッドで彼に組み敷かれ、鎖骨からあごまでべろりと舐められる。舌は耳に到達し、なかをぐちゅりとむさぼられる。みだらな音が直接頭にひびいて、ジゼラは追いつめられていく。
そればかりか、ふたりの肌が触れ合う箇所から熱が生まれて、身体の奥がぐねりぐねりとうねりはじめる。
「んっ……おにいさま……」
すでに互いの肌は重なっているのに、彼はふたりのすきまをきらうように、いっそう肌をつけていく。その硬く白い胸板に、ジゼラの胸が押しつぶされた。
「二度と、働くなんて言っちゃだめだ」
「……おにいさま、わたし」
「脚を開いて」
「ごめんなさい」
「いいから開くんだ」
ジゼラの返事を待たずに、彼の顔が脚のあいだに寄せられた。
「家から出るのは、ゆるさない」
「あ、……あっ!」
口から出るのは己のものとは思えないほど、甘くつやめいたあえぎ声。ジゼラは激情のうずにのみこまれ、なにも考えられなくなっていく。
──おにいさま。
ジゼラは身をふるわせながら、床に置いたシタビラメの袋に目を向けた。
……ハーブをのせて、焼かなくちゃ。
おにいさまとふたりきり。この家が、ジゼラの世界だ。