夜から始まる恋人契約
- 著者:
- 葛西青磁
- イラスト:
- 旭炬
- 発売日:
- 2016年03月03日
- 定価:
- 682円(10%税込)
さあ、恋人らしいことをしよう。
淑女の鑑として慕われるオーレリアには、誰にも言えない秘密があった。三か月前、酒に酔い意識を失った彼女は、見知らぬ男と一夜をともにしてしまったのだ。全身に燻る快楽の痕跡に愕然としながらも、男が目覚める前に逃げ帰ったオーレリア。だがある日、その男、ヴィクトールと再会してしまい……。貴族でありながら貸金業を営む彼は、伯父の借金のせいで困窮していたオーレリアに、金を貸す代わりに自分の恋人となるよう取引を持ちかけてきて――!?
オーレリア
両親亡き後、たった一人の家族である弟を溺愛している。伯父の借金のせいで屋敷が奪われそうになり……。
ヴィクトール
元々は商家の生まれだが、金で爵位を買う。貴族ながら貸金業を営んでおり、オーレリアに金を貸すと言うが……。
「かわいいね。真っ赤になってる。もっと食べてほしいってねだっているみたいだね」
「そんなこと……っ、ふあっ」
唾液を纏って卑猥な艶を帯びたそこを再び深く咥え込まれ、彼の舌に弄ばれる。硬くしこる果実は彼の愛撫を受けるほどに感度を増していく。執拗に愛されるそこが次第にじくじくと疼くような痛み帯び始めると、それは快感となって子宮に伝わり、雄を誘う甘い蜜を溢れさせてしまう。それが淫らな身体なのだと証明しているようでいたたまれず、オーレリアは無意識のうちに太腿をすり合わせていた。
けれどそのせいで、オーレリアの身体の昂ぶりをヴィクトールに知られてしまう。
「ああごめん、そっちが寂しかったんだね」
「ちが……っ、あぁんっ」
止める間もなく、彼の指がしとどに濡れた秘所へと沈み込む。
「すごいね、漏らしたみたいになってる。そんなに気持ちよかったの?」
「いやぁっ、ああっ、それ……だめぇっ」
ぬるぬると亀裂を上下にまさぐられながら同時に胸を刺激されると、オーレリアはたまらずに甘ったるい嬌声をあげた。
「本当に君は、かわいい顔をしていやらしいね。こんなにはしたなく乱れる君が、つい最近まで処女だったなんて、きっと誰も信じないよ」
からかうように囁く声に、羞恥心を煽られる。せめてもの抵抗にとヴィクトールの手を挟み込むようにして震える下肢を強く閉じるが、「何、それで抵抗してるつもり?」と楽しそうな声が返ってきた。
「……こんなの、ひどすぎる……」
「酷いのは君だろう? あんなに求めてきたくせに、翌朝にはあっさり僕を忘れているんだから」
「だから、そんなこと知らな──、っんぅ」
それ以上の拒絶を遮るように、唇が塞がれる。唇を割って侵入した彼の舌に、身体同様に熱を帯びた粘膜が蹂躙され、逃げ遅れた舌が捕らえられてしまう。
「んっ、ん、んんぅっ、ふ、ぁあ……っ」
ほどこされる愛撫はあまりにも巧みで、オーレリアは懸命に抗うも、快楽に不慣れな身体からはたちまち力が抜けていく。
やがてされるがままになってしまうと、ヴィクトールの指が秘所への愛撫を再開した。長い指をぬかるみの中へと埋め、内部を探るように蠢かせる。抜き出しては押し込むたび、ぐちゅりとはしたない蜜音が立ち、そのたびに容赦なくオーレリアを辱める。
「やだ、ゃ……っ」
顔を背けようとしても、すぐに追いかけられて塞がれてしまう。身を捩って逃れようとしても、脚の間に膝を割り入れられてまた大きく開かれてしまい、却って彼を受け入れやすくされてしまう。
蜜壷を犯しながら、ヴィクトールの舌が逃げ惑うオーレリアを追いつめる。掬い上げて絡めとり、オーレリアが抑えきれずに甘い声を漏らしてしまうところを執拗に責め立てる。キスに意識をとられそうになると、見透かしたように膣内のざらついた部分を擦られて、不意打ちの鋭い快感にオーレリアは腰を跳ね上げた。
「あっ、ん……は……あぁっ……」
熱を帯びた寝室の中、オーレリアの甘ったるい吐息と、蜜をかき混ぜる淫靡な水音が響きわたる。
苦しくてたまらない。幼い頃から女学院という閉鎖的な環境で育ったオーレリアは、キスはおろか恋さえしたことがない。それなのに、一方的に与えられる口づけは、初心なオーレリアには濃厚すぎて、どうすればいいのか分からない。
長すぎる口づけに、息苦しさに堪えかねて口内に溜まる唾液を無意識に飲み下すと、ご褒美のようにほんの少しだけ唇が浮かされた。けれど、空気を取り込む間もなく再び始まる濃厚な口づけに、オーレリアはただただ翻弄される。
もう、どちらから音がしているのかなんて分かるはずもなく──。
「んっ、んぅっ、ん、ん……っ!」
高まる熱は膨らみ続け、やがて限界を迎えてその熱の塊がはじけた瞬間、オーレリアはヴィクトールの口内に悲鳴を呑み込まれながら再び達した。
ようやく腕を縛る拘束が解かれても、もうオーレリアには抗うだけの気力は残っていなかった。身体が自分のものではないようで、ひどくけだるい。立て続けに果てたせいか意識がかすむ。なのに不思議なほど神経は過敏になっていて、彼が身を動かしたときに起きたわずかな空気の揺らぎさえ、肌は敏感に感じとっていた。
耳に届くのは、かすかな衣擦れの音。
その音がどこから聞こえるのかとぼんやりと考えていると、投げ出したままの膝が割り開かれ、未だ絶頂の余韻でひくひくと震えているそこに、何か硬いものが押し当てられるのを感じた。
膣口を覆う程の大きさのそれは、滑らかでありながらひどく熱い。
──何……?
確かめようと目を向けた先にあったもの。それが、今まさにオーレリアの中に押し入らんとしている彼自身だと気づいた瞬間、かすんでいた意識が一気に晴れた。
「ひっ……」
初めて見る、しかも興奮しきって怒張している状態の男性器を目の当たりにして、恐怖で血の気が引いていく。
ここに至るまで、ヴィクトールがオーレリアに対してあからさまな欲望を見せることはなかった。さらに言うなら、端麗な美貌の持ち主であるヴィクトールの身体に、これほど淫猥な存在があること自体、このときまでオーレリアは思い至らなかったのである。
それが今、美しい顔には不釣り合いなほどにあからさまな欲望をたたえてオーレリアを食らわんとしている。そのことに、オーレリアは心から恐怖を感じていた。
「い、いやっ……! 助けて……!」
なりふり構わず脚をばたつかせ、空を?くようにして身を捩ると、震える四肢を叱咤して寝台を這うようにして逃げる。
けれど数歩も行かないうちに柔らかな香りと共に背中からふわりと覆いかぶさられ、オーレリアはびくりと身をこわばらせた。
「自分からお尻を振って誘ってくるなんて、随分積極的だね」
耳元で甘く囁かれる声にぞっとする。
「ち、ちが……」
誘ってなんかいない。そんなことしてない。そう言って否定しようとしても喉がこわばってうまく声が出ない。
「それなら、お望みどおり後ろから入れてあげる」
「ひ……っ」
腰を抱かれ、恥部に再び硬いものが押し当てられる。蜜を絡めるように割れ目をぬるぬると這うそれが何かなど、今さら確かめるまでもなかった。